平成 年度森林総合研究所四国支所年報 壮齢人工林林床の春期の温度変化 造林研究室 酒井 敦 .はじめに 温帯域に分布する多くの植物の種子は休眠性を持ち,冬期低温にさらされることにより休眠が解除される ことが知られている。森林土壌中の種子の多くは,春期には発芽可能な状態にあると予想されるが,実際に 発芽する種子は限られている。これは,林床の環境がある種の種子の発芽条件を満たしていないことを示し ている。ここでは春期における林床の温度変化を調べ,種子が発芽する温度環境を明らかにする。今回の調 査にあたり調査地を提供して頂いた山本速水氏に厚く御礼申し上げる。 .調査方法 調査地は高知県大豊町民有林 年生スギ ヒノキ混交林(標高約 )で行った。調査林分の林冠はほ ぼ閉鎖している。林内はコガクウツギ,ヒサカキ,シロダモ等の低木が密生し林床の相対照度は約 %であっ た(平成 年 ( 月 日 日 積算日射 計による測定データより)。データーロガー内蔵温度センサー )を林内に設置し地上高 平成 年 の気温と深さ の部位の地温を各 月 日から 月 日まで 分間隔で毎日行った。同林分に 個設置し, 月 点で測定した。測定は の実生調査コドラートを 日までに発生した高木性樹種の当年生実生の種名と数を記録した。 .結果と考察 林内の日平均気温は 月下旬までは 月の下旬以降は 前後で推移していたが, 月に入ると になる日が多くなった(図 変動も気温より少なかった(図 )。地温は気温よりも平均で に達する日が多くなり, 低く,平均温度の日 ) 。 日の最高気温と最低気温の差(日較差)は調査期間中の平均で あり,時間の経過とともに日較差が少なくなり日変動も小さくなる傾向が見られた(図 は気温よりも小さく,調査期間中の平均が で,ほとんどの日で 動パターンは気温のそれとよく似ていた(図 )。 ) 。地温の日較差 より低かった。地温の日較差の変 以上の結果から林内の地温は気温に比べ,温度変化が少なく安定していることがわかった。気温,地温と もに 月中旬以降日較差が小さくなっているが,これは林床に生えているコガクウツギ等の落葉広葉樹の開 葉時期と重なっている。すなわち,落葉広葉樹の葉が林床を覆い,直達光を遮る等の働きのため,温度の日 較差が小さくなったと考えられる。 ある種の種子にとって,温度変化の大きさは重要な発芽条件に数えられる。林床に発生した当年生実生は シデ属,ケヤキ,ヒノキ,カエデ属,スギ,モミの順に多かった(表 。これらの実生は前年(平成 年) ) の結実状況から,前年散布された種子が発芽したものと考えられる。これらの種子は,人工壮齢林の林床と いう温度変化の少ない環境でも十分に発芽する能力を持つといえよう。同調査地では,平成 年に 種の高 木性樹種の埋土種子を確認している(酒井ほか, ) 。このうちタラノキ,ヌルデ,アカメガシワ,カラ スザンショウ,イイギリ等の実生は,今回の調査ではまったくみられなかった。これらの種は土の中に永続 )環境資源としての森林の保全技術の向上 平成 年度森林総合研究所四国支所年報 的なシードバンクを形成することが知られているが,今回観測されたような林床の温度環境または光環境下 では,発芽が抑制されていると考えられる。それぞれの種について発芽条件を明らかにするとともに,その 知見を森林管理に役立てることが求められる。 引用文献 酒井 敦・倉本惠生・酒井 武・田淵隆一( )人工林の潜在的な自然植生と林冠木伐採によるその発現. 日林学術講 図 .人工林林内の気温(上段)と地温(下段)の日変化 表 .壮齢人工林林内に発生した当年生実生 種名 スギ ヒノキ モミ シデ属 ケヤキ カエデ属 図 .人工林林内における気温と地温の日較差の推移 注)丸は平均値を,縦棒は標準偏差を示す 発生実生数 (本 )
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