アミーチ・デル・クオーレ第1期指導者講習会 修了生 春原太一 Q.1 あなた

アミーチ・デル・クオーレ第1期指導者講習会
修了生 春原太一
Q.1 あなたは10回のディスカッションを通じて、何を学びましたか?
私は、硬式野球の指導現場に携わり十数年が経ち、自分なりに野球の指導者
はどのようにあるべきかを考え直したい、野球の現場において子供たちやその
保護者から何を望まれているのかを探るべく、ここ数年は指導の最前線から一
歩退いて新たに勉強していこうと考え、さまざまなことに取り組んできました。
野球に関する指導者講習会はもとより、「運営セミナー」「スポーツ指導者講習
会」
「栄養講習会」といった類の講習会には時間の許す限り、多くの場に足を運
んでおりました。その折に今回のアミーチ・デル・クオーレ指導者講習会を知
り、無理を言って参加させていただくことになりました。お力添えをいただい
た関係者の皆様には心から感謝申し上げます。その参加した多くの講習会の中
でもアミーチ・デル・クオーレ指導者講習会からは、子供たちへの指導方法・
伝達方法や学び方など、多くの「気付き」を与えていただきました。
現在の野球界は、変革を望む者と保身を望む者の間で「様子見」の状態では
ないかと考えております。評論家もメディアもやはり、どっちつかずの見解が
多いように思います。野球界ピラミッドの頂点に立つプロ野球から始まり、社
会人・大学と上に行けば行くほど保身を望む、つまりは新たな見解や科学的根
拠を受け入れようとしない体質があるように思います。桑田さんの提案された
逆台形モデルの野球界になることが、変革を望む者たちの旗印となってくれる
のではないかと考えます。
指導者とはどうあるべきかについて、コーチの語源からどのような立場で子
供達に接しないとならないか、意味と立場をよく理解して履き違えてはならな
いことを学びました。決めつける、余分なことを言いすぎる、分かりやすい言
い回しができない、何でも教えたがる指導者が多いことを、私もそれらに該当
するのではないかと危惧しておりました。望む場所へ確実に送り届けること、
つまりは子供達の望むべき結果を求めた野球の環境づくりをしていかなければ
ならないことを強く学びました。また、言われていることの真逆を、技術に関
しては「常識を疑う」と良い方法が見つかるのではないかということを新たな
形で認識することもできました。
そして野球の歴史を学びましたが、野球理論・技術論・ルールなどからの講
習内容ではなく、野球界の常識には歴史的背景が大きく影響しているのではな
いか、また望まれていない野球道が普及しているのではないかなどに多くの時
間を割いていただき、新たな気付きがあました。まさに自分が望んでいたよう
な講習内容でありました。野球の指導現場に残る矛盾点に対して、しっかりと
理由づけをして間違いを正していくことは非常に難しく、大きな課題でありま
す。この学んだ内容の切り口で入ることができるのではないかと、その可能性
を探れたことは今後に大きく結びつけられるヒントとなりました。
安全管理・フィジカルトレーニングに関しては外部講師をお招きいただき、
専門的な知識の中で必要とされること、取り入れることが可能な内容が主な講
習内容で、すぐに実践に移すことができました。
「知らないよりは知っていた方
が良い」知識を得ることの必要性を学びました。技術云々はもちろんのこと、
安全管理・適切なトレーニングなど、野球における指導者のレベル向上は急務
であり、それらに対する認識を向上させていくべきであると思います。安全管
理の余談ですが、つい最近参加したスポーツ指導者講習会の更新セミナーにお
いて、某メーカーの熱中症対策に関する講習が実施されました。熱中症で病院
へ搬送される競技者として野球が圧倒的に多いスライド【1位の野球が10
0%とすると2位のサッカーは40%程度】が流されました。以前にもそのメ
ーカーが主催する野球関係者向けのセミナーに参加したことがあるのですが、
その時は「①野球人口は圧倒的に多いので搬送される人数が多いのは仕方がな
い」
「②野球関係者もぜひ知識を得てほしい」といった野球関係者に配慮した内
容でした。しかし今回は「①野球人口は多いとは言え、熱中症で搬送される数
は多すぎる」
「②野球の指導者は熱中症への認識が薄い」など、さらには野球関
係者がこのような講習会にいることは予想もしていない様子の言い回しが多く、
見下されたような感じがして残念な思いをしました。桑田さんからもありまし
たが、野球現場における危機管理は今後の大きな課題であることは間違いあり
ません。外部から向けられている野球指導者への厳しい視線も意識しなくては
ならないのだとも思います。
後半は技術指導となりましたが、桑田さんが何度もおっしゃったように、や
はり野球に答えは無いのだと思います。経験論で語られることの多い野球界の
中で、野球はもっとシンプルに考えると答えが出るのではないかと思っていま
す。科学的に解明されることも多くなり、日々進化しているにもかかわらず、
打つ・捕る・投げる、どの分野も経験論の賜物である根拠のない指導論が乱立
し、実際の指導現場でも経験論的な指導が中心であります。つまり野球は難し
く考えられすぎているのだと思います。遠回りして辿り着く答えに、最短距離
で辿り着けるようにしなくてはならない、またその遠回りがゆえに犠牲となる
子供たち、目標を失ってしまう子供たち、野球が難しくてつまらなくなってし
まう子供たちを講習で学んだ「教育=共育」の実践で一人でも多く救えるよう
になるのではとも感じました。
「あくまでも一つの方法にすぎない」と事あるご
とに桑田さんから話があり、決して押しつけでない共育の精神の大切さを学び
ました。
「教育=共育」の考えは強く同感しました。私も「共学共進」を指導理念に
謳い続けてきました。今後は「共育の精神」も加えていこうと思います。講習
中に何度も桑田さんから、同じ考えを共有できる仲間を増やしていきたいとの
お話がありましたが、
「共に」ということが指導現場はもとより、野球界のキー
ワードになると思います。やはり「野球は楽しい」と、選手も選手を預ける親
御さんも思えるには、どのような少年野球指導現場にしていかなくてはならな
いのか、今回の指導者講習で多くを学んだと思います。桑田さんの考えに共感
しているばかりでは、理想に近づくことを願うばかりではだめなのです。修了
生として、その学んだ知識を必ず実践し、必要としている方々に伝え、共に育
む仲間を増やしていかなければなりません。徐々にではありますが、広がる考
え方ではないかと思いますので、今できる小さな努力から始めていければと思
います。
Q.2 あなたはここで学んだことをこれからどのように活かしていこうと考え
ますか?
私はこの講習会で学んだことを指導現場に活かしていくことはもとより、一
番は指導者のライセンス制を確立するための取り組みをしていきたいです。サ
ッカーや他種目のように、硬式野球指導者にもライセンス制の確立を図る必要
性を以前より強く感じておりました。その可能性を探るために今回の指導者講
習会に参加させていただきました。
硬式野球は危険性も伴うスポーツですので、その指導者たるものは、ただの
野球好きで金銭的にも時間的にも余裕のある人だけが、自分の欲求を満たすた
めに指導現場に携わるのではなく、しっかりとした展望と知識を持ち、理論武
装が出来て選手にも保護者にもしっかりと立ち向かえ、さらにはチーム運営や
危機管理の知識も最低限備えた人材でなくてはならないと思います。まずは自
分自身がここで学んだことをさらに発展させ、理想を追求してその輪を広めて
いきたいと考えております。
現状では、硬式野球以外のスポーツにおいては大多数の競技に向けたスポー
ツ指導者講習会が実施されております。日本体育協会や各自治体の単位で実施
していることが多いのですが、野球においては軟式野球に限り日体協の講習が
あり、年に一度や数年に一度の割合で更新をしなくてはなりません。更新内容
は今回のアミーチ・デル・クオーレ指導者講習会でも行ったような応急処置で
あったり、フィジカルトレーニングであったり、栄養学であったりします。し
かしながら、私の知りうる範囲の硬式野球指導者では、このような講習会に興
味を持つどころか存在すら知らないことが多いです。つまりは、小・中学でも
高校でも、硬式野球に関しては応急処置の知識がなくても、栄養学の知識がな
くても、子供のことが好きでなくても、誰でも「指導者」になれてしまうのが
現状です。
まだまだ小さい集まりではありますが、私が関わるステージの硬式野球指導
者の中にはライセンス制に対し必要性を感じ始めてくださった方も出てきてい
ます。その方々を巻き込んで進めていきたいと考えております。その際には、
このアミーチ・デル・クオーレ指導者講習会で学んだことがベースとなり、今
回頂いた修了証を活かしていけるのだと思います。同じステージの硬式野球指
導者におけるアミーチ・デル・クオーレ「心の友」作りに活かしていきたいで
す。
さらにはアミーチ・デル・クオーレ指導者講習会参加者の待場さんから提案
を受けたドキュメンタリー制作への協力をしていきたいと思います。投球障害
で苦しむ子どもが少しでも減るように、今回の講習内容を広めていくためにも
必要なツールとなってくれるのではないかと考えます。
それには、まず群馬県館林市の慶友会整形外科病院が実施する指導者講習会
と、著名人の方(桑田さんにお願いできればありがたいのですが)の講演会を
コラボレーションさせるなどして、耳の痛い話を多くの少年野球指導者に傾聴
させることを目指していきたいです。慶友会の伊藤先生の執刀する「伊藤式」
と呼ばれる肘の手術は金属製のボルトで固定していた以前の手術に対し、患者
本人の他部位からとった骨柱と腱で代用することによってボルトを取り除く手
術を省き、負担軽減を可能にしました。慶友会病院は投球障害に関する手術執
刀は日本でもトップクラスで、多くのプロ野球選手が手術を受けることでも有
名です。
(あまり良いことではありませんが)
その慶友会病院が小学生・中学生の手術がここ数年急増していることに危機
感を感じ、2年前から少年野球指導者向けに病院主催で投球障害に関する無料
講演会を実施されています。野球少年が置かれる立場、投球制限やシーズン8
カ月制の提案などが行われます。しかしながら、指導者の参加は全く増えない
のが現状です。恐らく耳の痛い話を聞くことが予想できるので指導者の方々は
参加されないのではないかと思います。
公演中に映し出されるパワーポイントには、多くの執刀写真が使用され、執
刀シーンや切開した肘、壊死した肘に新たな骨柱を移植したものなど、目を背
けたくなるようなものも出てきます。それらは患者さんから二度と同じ手術が
行われないようにとの願いから、執刀写真使用を快諾いただいた話も紹介され
ます。もし、自分の息子が同じような状況になってしまったらと考えると、桑
田さんが提唱される野球界の改革は必要であり、このような講演を多くの人に
知ってもらい、参加してもらわなくてはならないと感じます。
このドキュメンタリー制作で野球少年の現状、特に手術を受けるまでになっ
てしまう子供達とその親御さんたちの悲痛を訴えることによって、桑田さんが
提起された今回の講習内容の普及や硬式野球指導者のライセンス制の確立に結
び付くのではないかと考えます。出来る範囲ですが、引き続き連絡を取りあい
進めていきたいと思います。
長きにわたり、貴重な経験をさせていただき、心から感謝申上げます。本当
にありがとうございました。
最終日の翌々日に、別の少年野球指導者講習会で桑田さんの講習に参加させ
ていただきました。やはり全力投球の講習会でした。私だけはアミーチ・デル・
クオーレ指導者講習のおさらいをさせていただきました。それだけでも他の参
加者に比べ得をした感があり、目立たぬよう講習を受けておりましたが、終了
時に退席される桑田さんに気づいていただき、さりげなく手を振っていただき
ました。いつものように、常に自然体の桑田さんがそこにはおられました。
常に変わらぬ姿勢や言動に、やはり今後の野球界の正しい旗印は桑田さんな
のだと勝手にですが、確信させていただきました。