2015 年文化祭ポスターコンクール講評

2015 年文化祭ポスターコンクール講評
(※審査員をお願いしたデザイナーの辻野先生より講評を頂きました。)
川越女子高校
このポスターは全体の配色・書体の選択など、完成度において突出していました。
丁寧に描かれた背景の建築物や「販売終了時間」
「collec しおん」という文言もテーマの
統一感にしっかりと貢献しています。
行列している人物は単なる反転に見えますが、左右の手を前後に描き分けるなど細やか
な配慮があって感心しました。
世界遺産を主題にして文化祭を行うのはとても難しそうですが、ポスターを見てどのよ
うな内容だっただろうかと想像する楽しさと「行ってみたかった」という後悔が生まれた
ことも珍しい経験です。
この方は昨年も横向きの女性二人を描いていたのですが、今度は前向きの人を描いた作
品も見てみたいですね。
浦和西高校
濃い色の空を背景にした浮遊感(落下感)がとても気持ちよいポスターとなりました。
空を飛ぶ動物も、風船もみな絵の具のしたたりが変貌したものだという表現。大空を巨
大な画布に見立てた発想が素晴らしいと思います。
「西春の霹靂」というコピーの内容も書体も配置も的確なのですが、バックの稲光をも
っと大胆に、画面を斜めに切り裂くようにレイアウトしたらどうだったでしょう。
絵筆を持つ手と髪の遠近感がちょっと不自然ですが、そういった矛盾点を払拭するほど
の迫力ある作品になりました。
上尾南高校
応募作の中でも群を抜いて表現が巧みで、目を見張る作品でした。さりげなく描いたの
にリアルな髪や影、この上なく深い漆黒の闇に浮かぶ少女と時計、トランプの重層的な光
の処理。どこを見てもうまいと思わされます。
テニエールやディズニーのア リスとも違うのに 、頭の黒いカチューシャのみ で、
wonderland というコピーやトランプがなくても“アリス”と判る造形。
これだけ世界のイコンになっているアリス像に「夜」という新たな一面を加えたという点
でも素敵な作品です。
中空を見つめた眼差しに、翌朝から始まる文化祭への淡い期待と歓びのような気持ちま
で感じられました。
大妻嵐山高校
黒い線がシャープに画面を引き締めていてコピー通りファンタスティックなムード満載
のポスターです。
輝く色彩と縁取りが相まってステンドグラスのように華麗な作品になりました。
背景の色板にパースがついていたり、上部の旗がレースだったり、少女の瞳が周囲を映
して揺らめいていたり、様々な要素で作者独自の魅力的な世界を展開しています。
上下の黒帯が少し太い気もします。透明な処理を施して背景の色板パターンが少しだけ
透けるようにしてみたらどうでしょうか。
画面にさらなる拡がりが出るかも知れません。
所沢高校
CG による表現が増えている昨今、このポスターのように徹頭徹尾手描きというポスター
を見ると新鮮さを覚えます。コピーの「テーマ『童話』
」まで手書きでもよかったくらいで
す。
上へ伸びる豆の木と少年の理想を重ねた力強い作品になりました。
改めて原典を紐解けば少年が抱えているのは雲上の巨人から奪った、金の卵を産む雌鳥
なのですね。ジャックが豆の木を降りている理由が判りました。鶏と少年が一体化してい
るところに不思議なムードがあります。
豆の木の太さを調整して遠近感をつけたり、目も眩むような高さを示すために地上や地
平線を描いたりする工夫も可能でしょうが、豆の茎をリアルに力強く描くことに専念して、
迫力あるポスターになったと思います。
桶川西高校
指や手を前面に出した作品はよく見かけるのですが、ここまで目鼻を隠したポスターは
なかなか珍しいという印象です。
粗い筆致で表現して迫力が出ました。力強くも精緻に描かれた掌や線と色が乱舞して、
自由に絵を描く楽しさに満ちた作品だと思います。
全体に黄色系の色が目立つこと、絵の具の飛沫や模様を周囲に配置することにより、ど
こか非日常的で不安定な躍動感が漂う個性的な作品になりました。
勾玉をつかもうとする少女の不敵で鋭い視線がこのポスターの力をよりいっそう強調し
ています。
三郷工業技術高校
Why Japanese People!
は今年の流行語で、時代をよく表していますが、今年は流行語
が少ないせいで珍しいケースになりました。
このヒップホップな乗りのデザインと太目の高校生とのギャップによって真剣なようで
ユーモラスで、一旦見たら目の離せない作品に仕上がっています。
これでもか、というほどにやりきった爆発マークや TAKUMI の文字も過激で気持ちがよ
いのですが、人物に関しては「やりきり感」が足りないですね。
「Why?」と呼びかけるからには、少年がこちらを向いてポスターを眺める人に視線を合
わせるべきではないのか。そのときに手は大きくこちらに差し出されるのではないか。な
どといろいろな課題が浮上してきます。
次の機会には様々な可能性を考えて制作してみてください。
盈進学園東野高校
爽やかな茶色系と緑系が調和したレイアウトで淡い期待と“ときめき”が素直に表され
ています。躍動的なポスター群の中にあってこのような清涼なムードを持った作品には特
に癒される気がします。
タイトルとのジャンプ率(大きさのメリハリ)を考えて「~青春~」以降のコピーはも
っともっと小さくして、右下の隅にさりげなく入っているくらいで良かったでしょう。
「青春」と文字にしなくても充分にイラストだけでその雰囲気は出ています。
説明過多にならず、絵だけで一番言いたいことを語るのも大切な方法です。