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静滴法による液体スズの表面張力の測定
向井, 楠宏; 柏木, 一郎; 福田, 孝祝
1973-03-01T00:00:00Z
http://hdl.handle.net/10228/3898
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Kyushu Institute of Technology Academic Repository
九州工業大学研究報告(工学)No・26短73年3月 155
静滴法による液体スズの表面張力の測定
(昭和47年10月4日 原稿受理)
金属加工学教室向井楠宏
光洋精工(株)柏木一郎
タツタ電線(株)福田孝祝
Determination of Surface Tension of Liquid Tin
by Sessile Drop Method
by Kusuhiτ◎MUKAI
Ichiro KASHIWAGI
and Takan◎Ti HUKUDA
The suピface tensionγof liquid ti口was deteどmi且ed by sess鎖e dr◎p method i数hy喧
drogen atmosphere and is given by
γ蓋.鞠=580−0.053×ξ(℃)dyne/cm (250℃∼5◎0℃)
atτ℃. These values are in good agreement with those by the differential capillary・
rise method2)under the same conditions.
Surface tension values of liquid tin being in contact with graphite are smaller
than those without graphite.
The aboveτesults suggest th就the discrepancy between the surface te刀si◎狂values
determined by white1)by use of sessile dr⑪p method and those by the differential
capiUaryぜise meth◎d2)i§attributed t◎ the c◎負tamiDati(m ◎f li〔オuid 磁n by gτaphite
used in the measurement by White1),
を用いて,向井2)の2毛管上昇法の測定の場合と
璽. 緒 言
同一の測定条件下すなわち同一の雰囲気,同一の
液体金属の表面張力の測定には,静滴法が最大 スズ試料等を用いて,スズの表面張力の測定を行
泡圧法とともに最も多く用いられている。スズの ない,その結果を向井2)の測定結果と比較した。
表面張力については,最近,Whitel)がこの静滴 次にWhite1)と向井2)との測定条件の最大の相
法を用いて高い精度の測定結果を得ている。一方 違点は,測定法を別にすれば,White1)の測定で
著者らの一人向井2)は,液体金属の表面張力の測 は向井2}の測定と異なり,液体スズ試料が黒鉛と
定精度を上げる目的で毛管上昇法を改良した2毛 接触した状態で測定が行なわれていることであ
管上昇法による測定装置を製作し,この装置を用 る。そこでこの黒鉛の影響を調べるために,本測
いてスズの表面張力を,比較的簡単にしかも精度 定装置を用いて液体スズ試料が黒鉛と接触する状
よく測定することができた。しかしW蹴e1}の測 態でのスズの表面張力の測定を行ない,その結果
定結果と向井2)のそれとの間には,両者の測定誤 を黒鉛と接触しない状態での測定結果と比較し
差範囲を越える25dyne/cm程度の差異がある。 た。
本研究はこの両者の測定結果の相違の原因を解明
する目的で以下の実験を行なったものである。 2・実 験
まず測定法の相違による両者の測定結果の系統 2.1測定原理
的な差異の有無を調ぺるため,本研究では静滴法 表面張力γはFig.1に示すκとzを測定す
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i Fig.3は測定用加熱炉の内部を示す。加熱炉
lO は石英管にエクロム線を巻いた電気抵抗炉であ
、,。一 ÷ る.炉の両端には齢ガラ辞ヤップを介して光
一 学的に歪みのない透明石英板がとりつけてあり,
ミ
/.Pl。q。診 /、 炉内のスズ滴は外部から光学的に観察することが
1 2叶一、 できる。炉の中央部に酸化物支持台(A夏,0、98.5
蹴9,1Sketch of sessile dmP of liquid ti皿 %以上)を置き,その上の透明石英板あるいはア
showi㎎elements of meas㎜ements’ ルミナ板上でスズ滴が形成される。測温は酸化物
ればBashforth, Adams3)の表から次式によっ 支持台の下の石英保護管内のアルメルクロメル熱
て求めることができる。 電対の先端をスズ滴の直下に位置させて行なっ
た。石英保護管はFig.3に示すように石英炉心
γ一9ρ(b2/β) (1)
管に溶着してある。熱電対による測温位置とスズ
ただし9は重力加速度・ρは液滴の密度・6は 滴の位置での温度差は,炉の中央部での垂直方向
Fig.1の液滴の◎点における曲率半径・βは の炉内の温度分布の測定結果から無視しうる程小
Bashforth, Adams3)の表によってx/zから求 さいことが確かめられた。炉の中央部には内径
められる一種のパラメークーである。このように 11mmの枝管が溶着されており,その中にスズ
して求められる表面張力の最大測定誤差は本測定 滴滴下用の黒鉛製(分析用黒鉛,灰分0.1%以
の場合約±3%と見積られる。 下)ピストンとシリンダーが吊るしてある。枝管
2・2実験装置 の上端とスリ合せ結合されているガラス製キャツ
実験装置は大別してFig・2に示すように・測 プのコックa, bを,外側から操作することによ
定用加熱炉と水素ガ入アルゴンガス精製装置お り,このピストンとシリンダーを別々に上下させ
よびスズ滴撮影のための光学装置の三つの部分か てスズ滴を滴下することができる。この滴下装置
らなる。 「 は液体スズ試料が黒鉛と接触する状態での表面張
力の測定の場合に使用した。炉内には水素ガスあ
A.Furna◎e G.別eed寧
ぼC細e織 H謂゜w冊t°「 るいは水素とアルゴンの混合ガスを通してスズ滴
;::㌫、畑. ;:1㍑蕊雲 の酸化を防止した.水素ガ欲よびアルゴソガス
,蹴19㌫9蒜1洋ie’絃G「°͡$卿 の綴は市販の梼ガ纈蝶置アルゴンガス
A「 精製装置(いずれも日本純水素株式会社製)を用
Ir “ いて行ない・雌後のスズ滴力・酸化されていない
⇔ ・ ⊂顧日・ こと罐かめた・スズ滴の撮影は・13髄噸遠
c レンズにベローズアタッチメントを装着したカメ
Fig・2Diagr巫③fぴ禦オi聯nta’a卯a頚包s・ ラを加熱炉の一方の端に設置し,他端から照明用
ランプで光をあてることによって行なった(Fig.
集b 2参照)。撮影倍率ならびに像の歪みについて
Cock a Ch釦n
c。pp.,,。d は,真球度のよい(JIS規格1級)鋼球を写真に
s日ica知mac■ tube
白「b㈱d
@ 撮ってしらべた結果,倍率として0.8628±0.0015
Gうin を得かつ特定方向の像の歪みは検出されなかっ
Carbon e l‘nd韓r
G’ P°“‘
(“
芭
刀ン} c。m鯛 た。
Liqu‘d tin drop At20,0r i ? plaqu■
・Aも呈禦 測定に用いたスズ試料は市販のインゴット状,
S“Xa◎p梧:●1 W醜
{… @ .、,.,C。。1、。ロ,、P 純度99.999%以上のものである。スズ滴の支持
ん_、 一一 台には,SiO、の板噛合麺力・鏡猷態の市
Fig,3Details of the experime取tal furna㏄. 販の透明石英板を用い, A1203の板の場合には単
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結晶アルミナをダイヤモンドと石で表面が鏡面状 の測定
態になるまで研磨したものあるいは市販の焼結ア ・fンゴット状のスズを小片に切りだし,ペソゼ
ルミナ板(A120399%)をダイヤモンドと石で表 ジで脱脂洗浄後黒鉛シリソダーに入れ炉の枝管の
面が平滑になるまで研磨したものを用いた。いず 中に吊るして適当な高さにセットした。スズ滴の
れの酸化物板も塩酸,ついで蒸溜水で煮沸洗浄後 支持台には透明石英あるいは単結晶アルミナを用
800°Cで空焼きしたものを実験に供した。 い,その表面が水平になるようにセットした後,
2.3操 作 水素アルゴン混合ガスを炉内に流入し,1000cc/
2.3.1液体スズ試料が黒鉛と接触しない状態 minの流量で約1時間炉内を置換したのち昇温
での測定 を開始した。測定温度に到達後,外部からコック
角柱状に加工,ベソゼンで脱脂洗浄したスズ試 a,b(Fig.3参照)を操作して黒鉛シリンダー
料約1.4gを市販の焼結アルミナ製の板の上にの 中のスズをピストンで押出し,酸化物板上に滴下
せ,アルミナ板の表面が水平になるよう炉の中央 し滴下後のスズ滴の写真撮影を行なった。写真撮
部にセットした後,精製水素ガスあるいは精製水 影したスズ滴の形状は,2・3.1の場合と同様にし
素アルゴソ混合ガスを頚◎◎cc/崩nの流量で約 て測定した。
1時間炉内に流してから昇温を開始した。表面張
3 実験結果および考察
力の測定温度範囲の上限の温度まで昇温後約2◎分
間その温度に保持してから,スズ滴の写真撮影を 51液体スズ試料が黒鉛と接触しない状態で
行なった。以後50℃あるいは100℃間隔で温度 の測定
を下げ,同様の写真撮影を行なった。 水素気流中でのスズの表面張力の測定結果を
写真撮影したネガフィルム上の液滴の像の形状 Fig.5に示す。 Fig.5から明らかなように,表
は,XY方向にそれぞれ1/1000 mmまで読取可
650 −〒一一一一一一_一
能な市販の簡易型工具顕微鏡を用いて測定した。 ξ ‘ 1 |
Fig.1のズは容易に精度よく測定できるが,7の き60 ◇ 。}− 1−…一一「一
測定はBaesら・・の方法にしたカミった.すなわち 三 コー§一一;こ』8=』8.上
Fi紗に示すようにネガフ,ぬ上にスズ滴の 夢三ぼご一「}…:一・
已 。、 ㍗「一「一仁…
∴lll・ 1 46弓… 。・ ・・・ ・・・ …
lD il l T師芦・at・・e(’c)
・…IC i Fi&5R。1。ti。。 b。・w㏄_faee t斑,i。_d
temperature of liqui《1 tin.
{
F’&4
ヘ器。鵠ごth°hwd t°d{nΩ 面張力と繊との剛ま直綱係が成立つとみな
せるので,最小2乗法を用いて次式を得た。
像の端Dから約α1mmの間隔をおいて底面に γi. H、=580一α053×∫(℃)dyne/cm(2)
垂直な4本の割線を想定し,この割線と液滴の像
が交わってできる二つの交点A,13の中点Cを求 表面張力の算出に必要なスズの密度((1)式参照)
める.このようにして求めた点Cから直線1まで はKi・sh鋤a限ら5)の測定値を用いた・
の距離〆と,像の端Dから割線までの距離x・と なお水素アルゴン混合気流中での測定も行な
の間に随線関係が獅られるので,最り・自乗法 い・アルゴンガスFよる鰍の効果鰯べた・そ
を恥て。’とx’喧綱係式を求め,その式を の結果を同じくF19・5に示す・表面張力と温度
用いてx・_0でのピの値を求める2の値とし との関係は最小自乗法を用いて次式で示す結果を
得た。
た。
2.3.2液体スズ試料が黒鉛と接触する状態で γ1、H,。A,=594−0.064×’(℃)dyne/cm(3)
158
二:麟欝灘㌶㌶⊆㌔易『 i:1「「==
ロ
の範囲に入る程度のものである。 て
ロ
(2)式で示される本測定結果は,Fig.6に示 竃550・
ト
すようにWhite1)の結果より2毛管上昇法によ §525
§
竃㈱
1:liこ≒斗
§o§
0 20 40 60
Hold⑪ng Tome(mln)
貢g.7 Re叢磁ion betwee浪surfaee te鼓sion of
li卯id tin and holding time after
d’卿i㎎.
1㈱隠:=顎ぽ一
20分間保持後測定を行なった3.1の項の場合の測
§登0
定値は,表面張力の経時変化のない状態での測定
200 300 400 500 600
T・唯・at・階(・c) 値とみなしてよいことがわかる。滴下後10分以
路9.6Comparison of surface t題slon data 後の表面張力の平均はSio2板の場合548 dyロe/
?fli‘uid tin detemined by three cm, A120、板の場合553dyne/cmである。500
オ穎ves縫gato’s.
℃における黒鉛と接触しない場合の値は(2)式
る向井2)の測定結果に近い。White’)の用いたス の結果から565 dyne/cmとなり,したがって黒
ズの密度6)と本測定に用いた密度5)との間には, 鉛と接触する状態でのSio2板, A1、03板の場合
若干の差はあるが,その差は表面張力に換算して の値はそれよりそれぞれ17dy拙/cm,12 dy捉/
数dyne/cmの大きさにすぎない。そしてたとえ cmだけ小さくなっている。本測定法の最大測定
同一の密度を用いたとしても,(2)式の結果と 誤差が±16dy負e/cm程度であることを考慮す
White1)の結果との間には両者の測定誤差の範囲 れば,黒鉛と液体スズが接触した場合は,しない
を越える2◎dyne/cm以上のちがいがある。こ 場合より表面張力は低下する傾向にあるとみなす
れに対して2毛管上昇法による向井2)の結果と のが妥当である。これは黒鉛と接触することによ
(2)式の本測定結果との間には,4dy紅e/cm程 り,スズが汚染されるため表面張力が低下するも
度の差しかなく,測定誤差を考慮すれば両者はよ のと考えられる。汚染の原因としては,黒鉛その
く一致しているとみなすべきである。したがって ものかあるいは黒鉛に含まれる微量の不純物成分
両者の間には測定法の相違による明瞭な差異はな 等が考えられる。以上の結果から,White1)の測
いと結論できる。以上の結果から,White”の測 定結果は黒鉛との接触によってスズ試料が汚染さ
定結果と向井2)の結果との間の差異の原因とし れ,表面張力の低い測定結果が得られたおそれの
て,液体スズ試料と黒鉛との接触の有無を考慮す あることが十分考えられる。なおスズ滴の支持台
ることが必要になる。この黒鉛との接触が液体ス には,透明石英,焼結アルミナ,単結晶アルミナ
ズの表面張力にどの程度の影響をおよぼすのかを の3種類のものを使用したが,3.1と3.2の場合
調べるために次項3・2の実験を行なった。 の表面張力の測定値を比較する上では,その相違
3.2 液体スズ試料が黒鉛と接触する状態での は無視した。その理由はBashforth, Adams3)の
測定 表に基づく表面張力の測定原理からして,液滴の
F垣.7に500℃におけるスズ滴滴下後の表面 回転対称性が保持され,滴の支持台と滴との反応
張力の時間的な変化を示す。Fig.7から明らか が無視できる状態では,表面張力の測定は滴の支
なように,スズ滴の支持台であるSio、板とA1、03 持台の材質あるいはその表面のあらさ等には影響
板との間に表面張力の差は殆んどなく,また両者 されないからである。本測定結果でも,スズの表
とも滴下後1◎分経過後の表面張力はほぼ一定の 面張力はSio2板とA1、O、板との間にほとんど差
値を示す。この結果から,スズ滴を測定温度に のない結果が得られている(Fig.7参照)。
ユ59
摘された。以上の結果から,スズの表面張力に対
4・結 論 するWhite1)の測定結果が向井2)の結果より低
静滴法を用いて水素気流中での液体スズの表面 い原因として,Whiteuの測定の場合,用いた黒
張力の測定を行ない,次式で示す結果を得た。 鉛による液体スズの汚染の可能性を考慮すべきで
揃、−58・一α・53×’ぐC)dyn・/・m あると結謝た・
(250°C∼500°C)
文 献
この結果は,同一測定条件下で測定した2毛管上
昇法での測定結果2}とよい一致を示し,この二っ 1)D・W・G・White:Met・Tずans・・2(1971)・3◎6乳
の測定法の間に,測定法の櫨こよる測定結果の i;舗鑑蕊騰鷲欝覧。Att。m。,
明瞭な差異は見出されなかった。また水素アルゴ to Test the Theories。f CaρHlaぷy, Cambridge
ン混合気流中でも同様の測定を行なったが,表面 Univ・P「ess・(1883)・
張力に対するア⇔ガスによる水素ガス醐気 4)(蒜621es͡翫Ke11°g迦e鍋5
の希釈効果は,はっきりとは認められなかった。 5)A.D. Kirshenbaum and J. A. Cahi11:Trans.
次に黒鉛と接触した場合の液体スズの表面張力 ASM・55(1962)・844・
は山な暢合よりも低噸を示禰向力・得ら 6)Wぽ蒜ご㌫F霊摺蒜場Dl㌶:
れ,黒鉛との接触によるスズの汚染の可能性が指 819.