社会変革の複雑性

社会変革の複雑性
北村
実(哲学)
新カント派は自然科学を「法則定立の
学」とし、精神科学を「個性記述の学」
としたが、この二分論は、あまりにも単
純で、支持しがたい。社会現象といい、
自然現象といい、「無法則」はありえず、
必ず「法則」は存在するが、その法則の
発現に、単純なケースと複雑なケースと
があり、何も前者をすべて「法則定立の
者の意志が選択の決め手となる。今日の
社会にあっては、圧倒的多数者である一
般有権者は資本の支配下で賃労働を行っ
ている人々であって、資本の所有者はご
く少数にすぎない。とはいっても、資本
主義を否定し、社会主義社会の出現を願
望する民衆は目下のところ必ずしも多数
を占めていない。
学」と、後者をすべて「個性記述の学」
と二分しなければならない謂れはない。
たしかに、自然科学の多くはすべての
事象を貫通する「一般法則」の発見を最
上の使命とするが、精神科学にあっては、
たとえば歴史学などは「個性記述」を無
視して、
「一般法則」の摘出だけで済ませ
ば、つまらないものになってしまう。自
然科学にあっても、医学なども「症例」
研究の蓄積が大事で、
「一般法則」はそれ
多くの民衆は、現在のグロ―バル資本
主義に反対しつつも、なお多国籍企業化
した資本主義巨大企業を規制し、
「ルール
ある経済社会」に向かわせようと望んで
はいるものの、社会主義を望んではいな
い。ここから出発して、資本主義巨大企
業の抑制・改良を積み重ねていき、もは
や資本主義の改良も限界に達し、どうし
てもこれに代わる新社会体制として社会
主義が望ましい、との思いに達したなら、
ほど重要でない。気象学なども、その典
型だろう。
「複雑系」の問題は、すべての科学研
究にとって欠かすことのできない重要問
題であって、この見地からすべての自然
現象・社会現象を捉え直してみる必要が
あろう。
私は JSA の「21 世紀社会論研究委員会」
に属し、未来社会に関する展望を模索中
だが、社会主義社会への道こそ「複雑系」
事象の典型ではなかろうか。二世紀以上
初めて社会主義の出番となる。この間は
弁証法で言われる量的変化の質的変化へ
の転換であって、量的変化を無視するな
ら質的変化は生じない。
俗流マルクス主義者は単純な「歴史的
必然性」で万事を片づけてしまうが、歴
史の進路は、主体的諸個人による未来の
意志的選択によって担われていることを
忘れてはならない。
「必然性の洞察として
の自由」に代って、「選択の自由」「意志
の自由」が重視されねばならない。
の歴史を持つ資本主義がすでに末期を迎
え、度重なる危機を何とか乗り越えてき
たとはいうものの、そうすんなりと社会
主義体制へバトンタッチがなされるはず
はない。議会制民主主義の下では、多数