今世界の若者は過去最多の 18 億人 「人口ボーナスの活用

今世界の若者は過去最多の 18 億人
「人口ボーナスの活用」「若者への投資」
2014 年版世界人口白書が呼び掛け
国連人口基金(UNFPA)は 11 月 18 日、「18 億
人の力 未来を変革する若者たち」というタイトル
が付いた 2014 年版世界人口白書(The State of
World Population)を発表した。白書は、若者(10
~24 歳)が 72 億人の世界人口の中で 18 億人を占
め、過去最多の規模になっていること、その 9 割が
開発途上地域に住んでいることに焦点を当て、未来
152
を変革する力になる若者の潜在能力を開花させるた
めに、開発途上各国政府、国際機関などが、教育、
衛生、雇用などを充実するなど、
「若者に投資」をす
るよう求めている。
◆若者の 9 割が途上国で暮らす
2013 年版の世界人口白書(「母親になる少女 思
春期の妊娠問題に取り組む」)は、「若者(youth、
15~24 歳)」、
「思春期の若者(adolescent、10~19
歳)」などとしていたが、今年の白書は 10~24 歳を
「若者(young people)」と呼んでいる。
白書によると、世界人口が約 25 億人だった 1950
年は、
若者人口は 7 億 2100 万人だった。それが 2014
年には、72 億 4400 万人の世界人口うち 17 億 9700
万人を占めるほど飛躍的に増加した。その 89%は、
アジアやアフリカなど経済的に発展の遅れた開発途
上地域の国々に住んでいる。
若者の割合は、世界全体では 25%だが、途上地域
の中でも開発が遅れている「後発開発途上国(サハ
ラ以南アフリカの 34 カ国、アジアの 8 カ国、オセ
アニアの 6 カ国、カリブ海地域のハイチ)
」では 32%
と高い。先進地域では 17%だ。
2014 年 12 月 1 日 発行
◆インドの若者は 3 億 5630 万人
世界で最も若者が多い国はインド。12 億 6740 万
人の総人口のうち若者は 3 億 5630 万人と、28%を
占める。
〒106-0047
第 2 位は中国の 2 億 78600 万人(総人口 13 億 9380
東京都港区南麻布 3-5-12 仙台坂ハイツ 101
Phone / 03-5420-1425 Fax / 03-3443-9319
万人の 20%)、第 3 位はインドネシアの 6610 万人
E-mail / [email protected]
(同 2 億 5280 万人の 26%)、4 位は米国の 6540 万
Website / http://www.npo2050.org
人(同 3 億 2260 万人の 20%)
、5 位はパキスタンの
5860 万人(同 1 億 8510 万人の 32%)などが続い
1
ている。
ュアル/リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関
少子化が続いている日本は 1790 万人(同 1 億
する健康)のニーズに応えるのに失敗した結果で
2700 万人の 17%)だ。
あるのは明らかである。
・総人口に占める若者人口が多い国で、児童婚(18
歳未満の結婚)が行われている。毎日 3 万 9000
◆若者が置かれた厳しい状況
人が児童のまま花嫁になっており、10 年間にする
白書は、若者を「地球の未来を形づくり、リーダ
と 1 億 4000 万人になる。
ーになる人」
、
「今後何十年かにわたり問題解決のプ
ロデューサー、クリエーター、起業家、改革の推進
・児童婚は若い年齢での妊娠につながるため、妊娠・
者、指導者になれる」存在としている。
出産が原因の合併症による死亡と結びつき、既婚
しかし、彼らが置かれている現状はかなり厳しい
少女は大人の既婚女性より夫による暴力や虐待を
ことを白書は明らかにする。
受ける可能性が高い。
・8 億人は、特有のニーズを抱え、将来への夢を持
つ思春期の少女である。
・5 億人以上の若者が 1 日 1.25 ドル未満で生活して
いる。
・開発途上地域の若者の 80%が学校に行っていなか
ったり、仕事が不定期だったりする。
・学校教育が必要な 5700 万人の若者が学校に行っ
ていない。
・性暴力の被害者の半数は 15 歳未満の少女である。
◆国内紛争、殺人発生事件、児童婚…
さらに、若者人口の増大がさまざまな問題を生じ
させるとする事例を挙げている。
【2014 年版世界人口白書日本語版の表紙】
・15~29 歳の人口割合が高いことと、国内紛争(国
内で 25 人以上の命が失われる暴動が勃発するこ
◆「人口配当」
「人口ボーナス」
と)の発生頻度との間には相関関係がある。
若者人口が多いことは問題なのか?白書は逆に、
・国の人口に占める 10~24 歳の割合と、15 歳児の
将来発展できる機会とみている。ただ、その機会は、
平均余命の低さとは相関関係がある。ある計算に
人口構造の変化によって「人口配当(demographic
よると、2012 年に 10 歳から 19 歳の思春期の若
dividend)
」を得られた場合であり、約 60 カ国でそ
者 130 万人が命を落としたが、その 97%は低所
うした人口変動が起きているとする。人口配当は、
得・中所得国だった。
「人口ボーナス population bonus)とも呼ばれる。
・殺人発生件数は、若者人口の最も多い所で、最も
日本語版白書の監修に当たった阿藤誠・国立社会
高い傾向がある。
保障・人口問題研究所名誉所長は、人口配当につい
・途上国の少女と若い女性の主な死因は、妊娠・出
て「生産年齢人口(15~64 歳)割合が、従属人口(0
産の合併症である。合併症は 15~19 歳の女性の
~14 歳の子ども人口と 65 歳以上の高齢者人口)割
死亡の第 2 の原因であり、その死亡のリスクは若
合を上回る方向への年齢構造の変化がもたらす経済
者人口の割合とともに増す。
成長のポテンシャルのこと。ポテンシャルが実現す
・世界的に見て 15~19 歳の少女の死因は自殺であ
るには、若者への投資を含む適切な経済政策が必要
る。このことは途上国で彼女たちの希望と機会が
という考え方」と解説する
あるのか、という疑問を投げ掛ける。
その人口配当をもたらすのが「人口転換」
。
これは、
・HIV 感染は思春期の若者の 2 番目に多い死因。感
国の出生率、死亡率ともに高い「多産多死」の状態
染の危険が少女や若い女性に多いことは、セクシ
から、近代化などに伴って出生率が高く、死亡率が低
2
い「多産少死」になり、さらに出生率、死亡率とも
及び国家の扶養負担が急低下し、その結果、家計貯蓄
に低い「少産少死」になるという人口のダイナミッ
及び国家貯蓄が増大し、増大した貯蓄は市場経済へ
クな現象である。
再投資され、経済成長の機動力になった。一方で、第
人口転換は、生活水準の向上、医薬・公衆衛生の
一次ベビーブーム世代が勤労世代に達し、豊富な労
発達、教育水準の向上、乳児死亡率の減少、避妊実
働力を提供した。このような出生率転換を伴う人口
行率の上昇、結婚年齢の遅れなど、さまざまな要素
構造の変化が経済成長にプラス要因として働いた一
が複合的に作用して生まれる。
連の現象を『人口ボーナス』と呼ぶ」
人口配当をもたらすには、特に出生率の低下、つ
また、人口配当の指数である従属人口指数を基に、
その時期は 1950 年から 1990 年までとしている。
まり避妊手段の情報やサービスの入手、女性の決定
権が重要になることから、白書は「若者への投資を
人口配当の時期が過ぎると、高齢化の影響で扶養
含む適切な施策と投資によって、その機会をいかに
負担が上昇して同指数が高くなる。こうした人口構
うまく生かすかが重要」と強調する。
成の変化が経済にとってマイナスの効果を現すよう
になり、
「人口オーナス(onus)
」と言われる。オー
ナスは、重荷、負担という意味だ。
◆人口配当のチャンスを生かすために
白書は、人口配当は何百人もの人たちを貧困から
脱出させ、生活の質を向上させ、経済発展に向けた
「石弓」になるとし、
「人的資本への投資が、人口配
当への扉を開く」と述べている。
そのチャンスを生かすには、実体経済の投資に加
え、若者に対する教育、健康、職業訓練などの投資
【ザンビアのルサカにある高校で、セクシュアリテ
が必要と強調、次のようなことを挙げている。
ィーや思春期の妊娠について情報を提供するピア・
①児童婚を禁止し、思春期の妊娠を予防する。
エデュケーター ©YMCA Zambia】
②家族計画を含む若者へのセクシュアル・リプロダ
クティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健
◆日本は人口配当を活用して経済成長
康・権利)を普及させる。
人口配当がもたらす規模は大きい。ババトゥン
③女性性器切除(FGM)のような有害な慣行を禁止
デ・オショティメイン国連人口基金事務局長は人口
する。
白書へのメッセージの中で、
「東アジアでは 1960 年
④教育における男女平等を促進するとともに、女子
代から若者の人的資源に投資したため、国内総生産
の中等教育就学率を促進する。
(GDP)の 6%上昇に貢献し、幾つかの国は 1 人当
⑤若者の雇用を促進し所得機会を改善する。
たりの収入が 4 倍になった」という事例を紹介。
国連が進めているミレニアム開発目標(MDGs)
さらに、サハラ以南アフリカ諸国が同様の投資を
は 2015 年で終わることから、それ以降の新しい開
若者にすれば、自らの力で経済的奇跡を実現し、30
発課題(ポスト 2015 年アジェンダ)の検討が行わ
年間は毎年 5000 億米ドル相当の経済効果をもたら
れている。白書は、こうした可能性を持っている若
すだろう、とも述べている。
者を、同アジェンダの中心に置くべきだと提言して
日本は人口配当(人口ボーナス)をうまく活用し
いる。
(西内正彦)
て経済成長を達成した経験を持つ。
それについて、2003 年の国際協力機構(JICA、
*白書については国連人口基金東京事務所のホームペ
当時は国際協力事業団)の報告書「第 2 次人口と開
ージで読めます。
発援助研究─日本の経験を生かした人口援助の新た
http://www.unfpa.or.jp/publications/index.php?ei
な展開」は、次のように述べている。
d=00042&showclosedentry=yes
「1950 年代末以降子どもの数の減少により、家計
3
ことなどを示している。
高齢者の暮らしやすい国、1 位はノルウェー
ランキングでは、高齢者が最も暮らしやすい国の
日本は 9 位、最下位はアフガニスタン
1 位はノルウェー。昨年のスウェーデンとトップが
高齢者支援 NGO・HelpAge International が発表
入れ替わった。
開発途上 国の高 齢者を 支援して いる国 際協力
次いで、②スウェーデン、③スイス、④カナダ、
NGO ・ ヘ ル プ ・ エ イ ジ ・ イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル
⑤ドイツ、⑥オランダ、⑦アイスランド、⑧米国、
(HelpAge International、本部・ロンドン)は、
「国
⑨日本、⑩ニュージーランド──などの順。
際高齢者デー」の 10 月 1 日、高齢者の暮らしやす
ノルウェーは、人口 510 万人、60 歳以上人口の
さランキングとも言える「Global Age Watch Index
割合は 21.8%で、60 歳の平均余命は 24 歳。トップ
2014」を発表した。対象になった 96 カ国のトップ
になった理由は、他の国より老後の収入の保障があ
はノルウェーで、日本は 9 位。最下位はアフガニス
り、60 歳以上人口の貧困率は 1.8%と世界で最も低
タンだった。
く、高齢者の 90%以上が中等教育以上の教育を受け
ている、などとしている。
◆地球規模で急速に進む高齢化
それによると、世界は急速に高齢化しており、60
歳以上人口は現在 8 億 6800 万人で世界人口の 12%。
それが 2050 年には 20 億 200 万人(21%)に増え、
15 歳未満の子どもとほぼ同じ規模になる。34 カ国
は 60 歳以上が 1000 万人以上、中国、インド、米国
は 1 億人以上になる。
高齢者の高齢化も激しく、80 歳以上人口の割合は
現在の 2%から、2050 年には 4%に増える。女性は
寿命が長いことから、80 歳以上の 62%を占める。
多くの国で 60 歳の平均余命は、20 世紀中ごろに
比べると 3 分の 1 以上延びている。
【2014 年と 2050 年の 60 歳以上人口の割合】
◆所得、健康、雇用・教育、自立度で分析
◆日本で高い高齢者の貧困率
Index は昨年から始まり、今年は 5 カ国多い 96
日本については
「トップ 10 の国で西ヨーロッパ、
カ国について分析している。
北米、オーストラリア以外の唯一の国」という紹介
その基になる指数は①高齢者の所得保障(年金、
がある
貧困率、1 人当たりの GDP など)
、②健康状態(60
歳時の平均余命と健康寿命、生きがい満足度)
、③雇
日本は、人口 1 億 2710 万人、60 歳以上人口の割
用と教育(就労状況、高齢者の学歴)④自立を支え
合は 32.8%、60 歳の平均余命は 26 歳、健康寿命は
る環境(社会的なつながり、公共交通機関へのアク
20 歳と、いずれも 96 カ国中で最高。60 歳以上人口
セス、自己決定の自由)──で、高齢者が社会的、
の割合は 2050 年には 42.7%になると推計されてい
経済的にどの程度「良い状態」にあるかをランク付
る。アジアでは最も GDP が高いのに、高齢者の貧
けしている。
困率は 19.4%と高い、などとの説明がある。
有力な新興 5 カ国(BRICS)のランキングは、ブ
データは、経済協力開発機構(OECD)
、世界保健
ラジル(58 位)、ロシア(65 位)、インド(69 位)、
機関(WHO)
、世界銀行などのものだ。
中国(48 位)
、南アフリカ(80 位)としている。
その結果、世界全体では 60 歳の平均余命は多く
の国で延び、83 カ国では 1990~2012 年の間に 2 歳
このうち中国の 60 歳以上人口は、現在総人口の
延びた。また年金のカバー率も広がってはいるが、
14.4%だが、年率 4.3%という速いスピードで増加
社会経済政策は人口動態の変化に追いついていない、
しており、2050 年には 32.8%の 4 億 5400 万人にな
るとの推計を示している。
4
2015 年の 60 歳以上人口は、インドが 2 億 9700
40 周年迎えた国際人口問題議員懇談会
万人、ブラジルが 6700 万人になるなどとし、高齢
アジアの国会議員が東京で人口・開発会議
化のペースに対応するために適切な政策が必要と提
40 年前の 1974 年 4 月、人口・持続可能な開発に
言している。
取り組む世界で初めての超党派の国会議員グループ
◆最も暮らしにくいアフガニスタン
である「国際人口問題議員懇談会(JPFP)」が設立
一方、
下位は①アフガニスタン、
②モザンビーク、
され、初代会長に当時の岸信介首相が就任した。6
③ヨルダン川西岸地区とガザ地区、④マラウイ、⑤
代目になる現会長は谷垣禎一自民党幹事長。
この年 8 月、国連は初めて人口問題をテーマにし
タンザニア、⑥パキスタン、⑦ヨルダン、⑧ウガン
ダ、⑨ザンビア、⑩イラク──。
た政府間会議である世界人口会議をルーマニアのブ
高齢者が最も住みにくいとされたアフガニスタン
カレストで開き、解決のための「世界人口行動計画」
は、人口 3130 万人、60 歳以上人口の割合は 3.9%、
を決めた。会議には議員懇のメンバーも参加した。
60 歳の平均余命は 16 歳。60 歳の健康寿命は 9.6 歳
議員懇設立のきっかけは、前年の 1973 年に、岸
と調査対象国で短い国の 1 つ。高齢者の教育程度は
氏を団長とした国会議員らが、
「人口爆発」に悩むア
低い、としている。
ジア諸国を視察したことだった。
Index によると、対象国の 65 歳以上人口のうち 1
億 5000 万人が年金を受け取っており、その割合は
インド 29%、マラウイ 4%に対し、ミャンマーは
95%と高い。
また、インドネシアの 80 歳以上の 92%が職を探
しており、タンザニアでは 55~64 歳の 92%が仕事
に就いているなど、普段は知ることができない高齢
者の姿も明らかにしている。
◆「データを比較して、認識を高めて」
Index は、
「報告は、どの国もまだ投資をする余地
があることを示している。このデータを他の国と比
会議風景
較することによって、一般の認識を高め、政策コミ
ットメントを刺激することになる」と活用を促して
JPFP の働きかけによって、現在では世界のすべ
いる。
ての地域に人口・開発関連の議員連盟が設立されて
ミレニアム開発目標(MDGs)は 2015 年末で達
いる。
成期限を迎え、それに続く「ポスト 2015 年アジェ
事務局を努める公益財団法人アジア人口・開発協
ンダ」の検討が進んでいる。それに関連して Index
会(APDA、理事長・福田康夫元首相)は、国連人
は「持続可能な開発の新しい目標は、高齢者を含む
口基金(UNFPA)、国際家族計画協会(IPPF)の
異なる年齢グループのニードについて注意を払うべ
後援を得て 11 月 27 日、東京の衆議院第一議員会館
きだ」と、と地球規模で進む人口高齢化を採り入れ
で、第 30 回「人口と開発に関するアジア国会議員
る必要性を主張している。
代表者会議」を開いた。テーマは「ライフサークル
(E)
アプローチと人口の課題─若者と高齢者に焦点を当
てて」
。
* 「Global Age Watch Index 2014 」は、 HelpAge
中国、インド、インドネシア、ベトナムなどの代
International の ホ ー ム ペ ー ジ で 読 め ま す 。
表、国際機関、専門家ら約 50 人が参加、人口状況
http://www.helpage.org/
が異なる中でも共通するこのテーマについて議論を
深めた。
5
11 月 19 日は「世界トイレデー」
25 年を迎えた「子どもの権利条約」
いまだに 10 億人が屋外で排せつ
ユニセフが「世界子供白書 2015」
11 月 19 日は国連総会で決まった「世界トイレデ
今年は、1989 年に国連総会で「子どもの権利条約
ー(World Toilet Day)
」だった。国連のプレスリリ
(児童の権利に関する条約)
」が採択されて 25 年に
ースによると、世界には約 25 億人が適切なトイレ
なる。国連児童基金(ユニセフ)は、この条約によ
を使用できないでおり、その中の 10 億人は野原、
って世界中の子どもを保護する取り組みが進み、多
茂み、水の中など屋外で用を足しており、特に子ど
くの成果が生まれたとしている。
もたちを下痢のような、便を介す病気の危険にさら
していると指摘している。
◆4 つの子どもの権利
同条約は、18 歳未満を「児童(子ども)」と定義、
4 つの子どもの権利を守るよう定めている。
◆インドでは 6 億人近くが屋外で用足し
2013 年には 34 万人以上の 5 歳未満児が、安全な
それらは、①生きる権利=防げる病気などで命を
水や基礎的な衛生施設がないために、下痢が原因で
奪われないことなど、②育つ権利=教育を受け、自
死亡しているという。こうしたことから国連は、
分らしく育つことができることなど、③護られる権
2025 年までに屋外排せつをなくすために「Call to
利=あらゆる種類の虐待や搾取などから守られるこ
Action on Sanitation(衛生対策実施の呼び掛け)
」
となど、④参加する権利=自由に意見を発表したり、
を進めている。
自由な活動をしたりすることなど──である。
最近の世界保健機関(WHO)
、国連児童基金(ユ
ユニセフは活動の中で最も成果を挙げた活動の 1
ニセフ)の推計によると、1990 年から 2012 までの
つが予防接種だとし、2013 年に予防接種を受けた子
間に、途上国での屋外排せつの割合は 31%から 17%
どもは 1 億 1100 万人以上、世界中の子どもの 84%
へ約半減した。
に達したとしている。
屋外排せつしている 10 億人のうちの 8 億 2500 万
また母子保健の推進によって、1990 年以降、生後
人は、
アジアとアフリカの計 10 カ国に住んでいる。
28 日以内に死亡する新生児数が 3 分の 1 以上減少し、
アジアで最も多いのはインドで、人口の 47%に当た
水と衛生の支援では、1990 年以降、23 億人が新た
る 5 億 9700 万人、
次いでインドネシア
(5400 万人、
に安全な飲み水を使えるようになったとしている。
人口の 21%)
、アフリカではナイジェリア(3900 万
人、同 22%)
、エチオピア(3400 万人、同 36%)
◆世界子供白書 2015
ユニセフは、国連総会で定められた 11 月 20 日の
などとしている。
「世界子どもの日」に、
「世界子供白書 2015」を発
◆ポスト 2015 年アジェンダの重要な課題に
表した。
潘基文国連事務総長はこの日に寄せたメッセージ
テーマは「未来を再考する─1 人ひとりの子ども
の中で、
「全世界で、女性の 3 人に 1 人が安全なト
のためのイノベーション」
。その一例が、調理せずに
イレを使えない。その結果、こうした女性は病気や
食べられる栄養補助食品。災害時に子どもの生存に
恥辱のほか、排せつ場所を探しているときに暴力を
必要な栄養を賄うことができるとし、世界各地で武
受ける危険にも直面している」
、
「衛生施設が改善す
力紛争や災害が多発していることから、よりイノベ
れば、より健康と安全を得られる女性と女児は 12
ーティブな物資や手法、あらゆる分野の人たちと協
億 5000 万人に上る。安全で清潔なトイレは、女児が
力関係を築くことが、子どもたちに支援を届け、子
通学を続ける一因であることも証明されている」と
どもの権利を実現するために必要不可欠だと強調し
述べている。
ている。
*「世界子供白書 2015」は、日本ユニセフ協会のホ
また、ミレニアム開発目標に続く開発アジェンダ
の中で、
「すべての人に衛生施設を普及するという課
ームページで読めます。
題は大きな重要性を帯びている」と強調している。
http://www.unicef.or.jp/news/2014/0157.html
6
田尾斗識のアジア写真館 Vol.142
そこには懸命に生きる姿がある
その生きるを見守る姿がある
生きるを支える姿がある
それらの姿は気高く、美しい
地球という舞台で彼らは舞う
その命を謳歌し、愛があふれていく
それは、宇宙に浮かぶ地球そのものであるような
撮影地 : カンボジア 2000 年 写真:果遊 文:田尾斗識
※ 写真(垣見一雅氏) OK バジ 720 周年記念式典(ネパール)より
書籍紹介
「わたしは 13 歳、学校に行けずに花嫁になる。未来をうばわれる 2 億人の女の子たち」
著者:公益法人プランジャパン 久保田恭代+寺田聡子+奈良崎文乃
発行:合同出版 1400 円+税
著者は、教育や子供の保護に取り組む NGO「プランジャパン」のス
タッフ。
「女の子」だからという理由だけで、さまざまな苦難に遭い、
権利を奪われている厳しい実情を現場から描き出している。
世界から届いた女の子たちの物語、
「女の子だから」と言う理由で
遭遇するこれだけの苦難、女の子への支援が必要な 4 つの理由、女
の子を助ける男の子は自分も幸せになる、日本の女の子のいま、そ
して未来は!?──などの 9 章からなる。写真や解説が理解を助けて
くれる。
食から人生を考える(17) 「老いてこそ悠々と生きましょう」
副理事長
橋本宙八
今、豊かな国に住む日本人には、いくつもの課題が突きつけられている。特に、高齢化社会に伴う数々の
課題は、当事者である高齢者は元より、次代を担う若者たちへも多大な影響を及ぼす深刻な問題である。
わずかな年金で生きていけるのか?病気になったら医療費は払えるか?介護者は見つかるか?施設に入
れるだろうか?認知症になったらどうしよう?孤独死にならないか?等々、心配や不安は数え上げたら切り
がない。看る側も看られる側も、そして、社会にとっても、悩みの種が尽きない課題である。
釈迦は、人生には「生老病死」の四大苦があると言った。これは、人生の避けられない<苦>なのだと言
うばかりでなく、これらの意味をよく理解し、苦を楽に転換する能力と心の成長こそが、人生を生きること
の意味であり、歳を取ることの豊かさなのだと言う教えでもある。
そんな貴重な教訓が、ただただ苦に思える今の時代は、とても不幸な時代である。それは、あまりにも人
間が我欲を膨らませ、モノや経済など、目に見える刺激ばかりを追い求め、身体と心を自然から乖離させ、
モノの本質を見抜く知性や感性、逞しい生命力を失ってしまったからではないだろうか?
生命の感性は、言うまでもなく、身体を造る食とその生きる環境によって養われる。現代人に比べたら、
昔の人たちははるかに豊かな自然環境の中で生まれ、育ち、死んでいた。そんな自然な命であったからこそ、
老いた時、改めて意識するまでもなく、自から人生の意味を理解し、あるがままの状況を受け入れる逞しい
生命力と豊かな感性が備わったのではないだろうか?
農薬や添加物一杯のジャンクな食物から、生命の自然な感性は育たない。可能な限り自然なものを食べ、
無理の無い自然な生活を心がける。そうするだけで、老いが抱える問題は、間違いなく違って来る。高齢期
こそ、人生とは何かを理解し、感じ、そして楽しめる人生の収穫期でもある。時代の濁流に流されること無
く、物事を達観し、悠々と毎日を生きたいものである
--------------------------------------------------------------------- 編集後記 -------------------------------------------------------------------
2014 年版世界人口白書の記者発表で、ジェンダー・国際協力の専門家である大崎麻子関西学院大学客員教
授は、日本の若者、特に若年女性が置かれている現状と照らし合わせて「非常に示唆に富む、有意義な報告書」
とコメントした。その中で、大学、就学前教育に占める日本公的支出が低いこと、若者の自殺者が多いこと、
若者の非正規雇用が多いことなどを指摘し、
「若者の関与が少ないところは困難な状況に陥る」という白書の
指摘は「日本にとっても重要なメッセージ」と述べた。白書が取り上げた児童婚に関連して、日本の 20 代の
シングルマザーの貧困率は 8 割というデータを示し、「経済力や“リプロの教育”を受けないまま児童婚した
場合の結末は日本でも同じ」と、若い女性を支援する重要性を強調した。
8
(m)