ⅩⅡ.泌尿器科領域悪性腫瘍の重複癌(PDF)

ⅩⅡ.泌尿器科領域悪性腫瘍の重複癌
泌尿器科領域悪性腫瘍では重複癌を合併する頻度は、他臓器の悪性腫瘍に比べて非常に
高い[1)-24)].重複癌の定義は古くから様々になされているが、1932 年に発表され
た Warren & Gates[25)]の定義が広く用いられている.しかし残念なことにその日本語へ
の翻訳に大きな間違いがみられることが非常に多い、そこで原著を原文の英語のまま示す
と以下の様になる.“Each of the tumors must present a definite picture of malignancies,each must
be distinct, and the probability of one being a metastasis of the other must be excluded.”非常に簡単
で易しい文章なので下手な翻訳をせずに原文のまま理解して準拠した方が臨床的には間違
いがない.
2000 年迄の 15 年間に、東
表1:重複癌の組み合わせと頻度
京都立墨東病院泌尿器科で初
腎癌 腎盂 膀胱癌 前立腺癌 精巣 尿道癌 陰茎癌
めて入院治療を行った悪性腫
尿管癌
腫瘍
瘍患者について重複癌の合併 腎癌 2
2
1
頻度を調査してみた.
膀胱癌
2
16
こ の 期 間 の 全 悪 性 腫 瘍 は 前立腺癌
2
16
1
1
2
1048 例だったが、2003 年 4 月 精巣腫瘍
3
18
16
の調査ではこのうち 148 例 胃癌
7
1
8
12
1
1
(14.2%)が重複癌で、29 例 大腸癌
1
1
4
7
は尿路性器癌同志の重複癌で 肺癌
2
1
6
あった.また 148 例中 12 例は 子宮癌
肝癌
2
2
2
3重複癌であった(1.3%).
血液腫瘍
3
4
これらの重複癌の組み合わ
乳癌
1
1
5
せを表1に示す.臓器別の重 皮膚腫瘍
2
3
4
複 癌 合 併 頻 度 は 前 立 腺 癌 その他
2
6
9
22.7%、膀胱癌 18.6%および腎 計
23
8
74
72
2
1
1
癌 16.5%と非常に高頻度であ 重複癌率(%) 15.6
11.6
19.1
23.2
2.4
25
14.3
る.今回の調査では前回[1)]
と若干異なり、膀胱癌と胃癌との組み合わせ重複
表2:三重複癌症例
癌が最も多く次いで、膀胱癌と前立腺癌との組み
年齢
性
第1癌
第2癌
第3癌
合わせ重複癌となっていて、膀胱癌の 4.1%が前立
54
男 腎癌
肝癌
大腸癌
腺癌を合併し、前立腺癌の 5.2%が膀胱癌を合併し 76 男 膀胱癌 ボーエン病
S状腸癌
ていることになる.近年本邦で急激に増加してい 75 女 膀胱癌 卵巣癌
子宮頸癌
る両癌が重複する頻度が高いのも当然といえる. 61 男 膀胱癌 肺癌
直腸癌
女性の膀胱癌 80 例中子宮癌8例(7.5%)、乳癌5 67 女 膀胱癌 胃癌
卵巣癌
例(6.3%)を合併していた.3重複癌の一覧を表 2 77 男 膀胱癌 前立腺癌 大腸癌
60
男 膀胱癌
胃癌
舌癌
に示す.
76
男
前立腺癌
耳介皮膚癌
胃癌
癌発生の原因が全く不明である現況では,重複
80
男 前立腺癌 直腸癌
胃癌
癌の原因も明かではないが,遺伝的素因,発癌環 73 男 前立腺癌 皮膚癌
胃癌
境への暴露期間の延長,喫煙飲酒等の極端な嗜好 77 男 前立腺癌 肺癌
胃癌
および第一癌の治療による誘発等がリスクファクターとさ 80 男 前立腺癌 胃癌
直腸癌
れている.
遺伝的素因を検討するには癌家族歴を調査するのが基本であるが、重複癌症例と単独癌
症例の癌家族歴の頻度に差はない[1)].本邦では 79 歳までに癌に罹患する確率は男性
で 39%,女性で 21%とされ[26)],理論的には全ての日本人が 3 親等以内に癌家族歴
を有することになり,癌家族歴から重複癌発生の原因を検索するのは困難である.
喫煙が癌発生と関連が深い ことは、周知のことであるが、男性患者に限定すると重複癌
群では単独癌群に比べて有意に喫煙者が多く、[2)]男性では重複癌発生に喫煙が何 ら
かの影響を与えている.
重複癌群が単独癌群に比べて高齢であり[2)],本来高齢者では重複癌の頻度が高く
[27)],異時性重複癌が同時性重複癌の約 2 倍の高頻度であり,最終癌診断時の年齢
を採用した影響を考慮しても高齢が重複癌発生の大きな要因である[2)].
癌の治療成績の向上により,癌患者の生存率が向上する事も重複癌が増加した原因の一
つと考えられる.本邦においては 5 年生存率を 75%と仮定すれば 79 歳までに 2 回以上癌に
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罹患する頻度は男性 6%女性 1.7%であるが,5 年生存率を 25%と仮定すれば男性が 2%女性
は 0.6%の低値となる[26)].泌尿器科領域悪性腫瘍の 5 年生存率は腎癌 73.4%,腎盂
尿管癌 56.2%、膀胱癌 76.1%,前立腺癌 51.2%,精巣癌 83.5%と比較的高値であるために重
複癌の頻度が高くなるとも考えられる.
文
献
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膚癌と尿路性器癌との重複癌-
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編,癌の科学,1 巻,癌の生物学,南江堂,東京,1980.p250 ー 286
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