Q&A

2014 年度 債権総論 1 定期試験解問題と解答例
2015 年 7 月 28 日
明治学院大学法学部教授 加賀山
茂
問題 1(25 点)
①民法 422 条の修正理由(5 点)
(解答例)
債権の目的とは,給付のことである。それにもかかわらず,民法 422 条の旧条文におけ
る「債権ノ目的」は,「物又ハ権利」であったため,これに「支払」を追加し,「債権の目
的である物又は権利の価額の全部の支払」として,
「債権の目的」という文言を維持したま
ま,債権の目的を給付とすることを実現した。
② 民法 422 条の旧条文における債権の目的は何か(5 点)
(解答例)
「物又ハ権利」
③ 民法 422 条の現行条文における債権の目的は何か。
(5 点)
(解答例)
「物又は権利の価額の全部の支払」
④ 「債権の目的」と「債権の目的物」との違いを明確にしつつ,民法 422 条の趣旨を正し
く表現するには,どのような方法があると考えられるか。
(10 点)
(解答例)
「債権の目的物(有体物及び無体物である権利を含む)である物又は権利の価額の全部
を受けたときは」とする。
問題 2(30 点)
①種類債権であるとすると,「目的物の良否」,すなわち,品質は問題となるか。なるとし
たら,それは何条の問題か。
(5 点)
(解答例)
民法 401 条(種類債権)第 1 項は,「債務者は,中等の品質を有する物を給付しなければ
ならない」としているため,種類債権の場合には,品質が中等の品質であるかどうかが問
題となる。
②特定物債権であるとすると,「目的物の良否」,すなわち,品質は何条で問題となるか。
なるとしたらそれは何条の問題か。
(5 点)
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(解答例)
確かに,最高裁は,タール事件において,種類債権の場合とは異なり,
「制限種類債権で
あるとするならば,履行不能となりうる代りには,目的物の良否は普通問題とはならない」
と述べている。
しかし,特定物債権の場合には,民法 570 条(売主の担保責任)は,
「売買の目的物に隠
れた瑕疵があったとき」
,すなわち,品質が契約に適合しない場合について,民法 566 条を
準用しており,それによると,品質が契約に適合しない「ために契約をした目的を達する
ことができないときは,買主は,契約の解除をすることができる。この場合において,契
約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる。」として
いる。
したがって,特定物債権の場合においても,品質が契約に適合しているかどうかが問題
となると考えられる。
(3) 特定物債権の場合に,債務者が品質の悪い目的物を提供した場合に,債務者は,債務
不履行の責任を免れるか。それは,何条の問題か。
(5 点)
(解答例)
「債権の目的が特定物の引渡しであるときは,
第 483 条(特定物の現状による引渡し)は,
弁済をする者は,その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない」と
規定しており,品質が悪い目的物を提供した場合でも,債務者は,一般の債務不履行責任
を免れると解されている。しかし,本件のような,有償契約の場合には,民法 559 条によ
って,民法 570 条(売主の担保責任)の規定が適用,または準用されるため,債務者であ
る売主は,担保責任を免れることはできない。
④特定物債権の場合に,債務者が品質の悪い目的物を提供した場合に,債権者が,「品質が
悪いといって引き取りに行かなかった」とすれば,債権者は,受領遅滞の責任を負うか。
(15
点)
(解答例)
債務者が債務の本旨に従って弁済の提供をした場合には,民法 492 条(弁済の提供の効
果)により,債務者は,弁済の提供の時から,債務の不履行によって生ずべき一切の責任
を免れる」
。したがって,債務者が本旨に従った弁済の提供をしたにもかかわらず,債権者
が,
「品質が悪いといって引き取りに行かなかった」とすれば,それは,債権者が債務の履
行を受けることを拒み,又は受けることができないときに該当し,民法 413 条(受領遅滞)
にしたがって,
「債権者は,履行の提供があった時から遅滞の責任を負う」ことになる。
しかし,債務者が,売買契約の目的に適合しない目的物を提供した場合には,債務者は
債務不履行責任を負うため,その受領を拒絶したからとって,債権者が遅滞に陥ることは
ない。
2
問題は,売主が,品質の悪いものを提供した場合に,それが,債務の本旨に従った提供
といえるかどうかであるが,最近の多くの学説は,その場合には,債務者に債務不履行が
あると考えている。
問題3(10 点)
(1) Y(被保険者)の Z(保険会社)に対する請求の可否・条文の根拠(5 点)
(解答例)
自賠法第 15 条(保険金の請求)
(2) Z(保険会社)の保険金の支払義務・条文の根拠(5 点)
(解答例)
自賠法 第 16 条(保険会社に対する損害賠償額の請求)
問題 4(35 点)
(1) X と Y3 との連帯債務契約が錯誤を理由に無効となった場合,Y1,Y2,Y3 は,X に対して,
それぞれ,どのような債務を負担するか。
(6 点)
例:全額○○○万円(負担部分○○○万円,保証部分○○○万円)という形式で。
(解答例)
Y1:全額 700 万円(負担部分 400 万円,保証部分 300 万円)
Y2:全額 700 万円(負担部分 300 万円,保証部分 400 万円)
Y3:全額 0 万円(負担部分 0 万円,保証部分 0 万円)
(2) 理由(IRAC の形式で書くこと)
(20 点)
(I)民法 433 条と民法 440 条に関する争点(5 点)
(解答例)
民法 433 条(連帯債務者の 1 人についての法律行為の無効等)は,連帯債務の給付はひ
とつであるが,債務は,単数なのか,複数なのかが争われた時代に起草されたものであり,
連帯債務者の一人に生じた無効等の事由が,連帯債務全体を無効とするものではないこと
を明らかにした規定である。その場合に,一人の連帯債務者に生じた無効事由が,他の連
帯債務者を利するか(絶対的効力を有するのか),それとも,民法 440 条によって,相対的
効力にとどまるのかが問題となる。
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(R) 連帯債務者の一人に生じた無効・取消し関するルール,学説(5 点)
(解答例)
現行民法の立法理由によれば,連帯債務者の一人に生じた無効原因は,連帯債務全体を
無効にするものではないが,他の連帯債務者を利するものであるとされており,一人の連
帯債務者の負担部分の範囲で,他の連帯債務者に対しても影響を及ぼすものと考えるべき
である。
(A) どのルール,または,どの学説または判例を適用すべきかについての議論(5 点)
(解答例)
確かに,民法 440 条(相対的効力の原則)は,
「第 434 条から前条まで〔連帯債務者の 1
人について生じた事由の他の連帯債務者に対する絶対的効力〕に規定する場合を除き,連
帯債務者の 1 人について生じた事由は,他の連帯債務者に対してその効力を生じない。」と
規定しており,絶対的効力事由を制限的に列挙しているように見える。
しかし,この中に,絶対的効力が異議なく認められている弁済が脱落しており,当然と
思われるものは,規定されていないことが分かる。
連帯債務者の一人に生じた無効の場合も,それが,他の連帯債務者を利することになる
のは,当然であるため民法 440 条に絶対的効力事由として規定されなかっただけであり,
弁済の場合と同様,当然に絶対的効力を及ぼすと考えるべきであろう。
(C) 結論(5 点)
(解答例)
もしも,連帯債務者の一人に生じた無効等の事由を相対的効力と考えると,その連帯債
務者は,無効にも変わらず,全額弁済を行った他の連帯債務者から求償を受けることにな
り,その分を不当利得にもとづいて債権者に返還を求めるという,回り求償の問題が生じ
る。このことは,免除や消滅時効の場合の絶対的効力とのバランスが崩れることになるた
め,連帯債務者の一人に生じた無効等の事由は,他の連帯債務者にも影響を及ぼすと考え
るのが合理的である。
(3) 事情を知らない Y2 が,Y3 事前の通知をせずに,連帯債務の全額 900 万円を X に弁済
したとする。この場合,Y2 は,他の連帯債務者である Y3 に対して,いくら求償することが
(4 点)
できるか。Y3 は,その場合に,無効の抗弁を持って Y2 に対抗できるか。
(解答例)
Y2→Y3 への請求:0万円
Y3→Y2 への抗弁:Y3 は,無効の抗弁をもって Y2 に対抗できる。
④ Y2 は,どのような救済を受けることができるか。(5 点)
不当利得に基づいて,債権者から 200 万円の返還を受けることができる。
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