ナノワイヤー熱電変換素子の開発と評価のプロジェクト報告

ナノワイヤー熱電変換素子の開発と評価のプロジェクト報告
14ME212 寺門 宏樹(M2), 14ME217 本間 亮英(M2)
1.はじめに
いることで以前の石英ガラスを使用する圧入法よ
(1)プロジェクトの概要
りも、作製行程を簡便にすることができる。
廃熱を電気へと直接変換できる熱電変換素子は
エネルギー変換効率が最大でも約10%と低いため、
実用化に向けて変換効率の向上が求められている。
本研究室では素子のナノワイヤー化により性能の
向上を図っている。今年度は、従来とは異なるワ
イヤー作製方法である引き伸ばし法を用いて作製
した Bi ワイヤーの熱電特性を測定し、計算結果と
比較、考察した。また Bi ワイヤーの熱伝導率測定
のために必要なワイヤーの周囲のガラスのエッチ
(a)Bi の充填
ングを緩衝材であるアルカリ溶液を用いて行った。
図 1. 引き伸ばし法による Bi ワイヤー作製方法
(2)プロジェクトの今年度の到達目標
昨年度に 7.5μm ワイヤーのゼーベック係数と
(b)ガラスの融着
(c)引き伸ばし
図2 の左は6 回引き伸ばした7.5μm のBi ワイヤ
ーの側面からの光学顕微鏡写真であり、ガラスの端
抵抗率を測定し、計算によりワイヤー中に不純物
から端までBi ワイヤーが通っていることが確認で
が混入していないことが確かめられた。今年度は
きる。また右図はBi ワイヤーの断面の電子顕微鏡
より小さな直径のワイヤーを測定し、熱電特性の
(SEM)像であり、複数回引き伸ばした後も綺麗な円
直径依存性を評価する。
になっている。このSEM 写真によってBi ワイヤー
の直径を計測した。
2.研究成果
(1)Bi ワイヤー作製方法
今回 Bi ワイヤーの作製に使用するのはこれま
での石英ガラスではなく、軟化点がBi の融点に近
く、Bi と熱膨張係数が近いリン酸塩系ガラスである。
このリン酸塩系ガラスを用いることで、Bi とガラス
を同時に引き伸ばすことができる。
まず液化したBi を予めリン酸塩系ガラスに充填
し、ガラスの軟化点近くで加熱しながら引き伸ばす
図 2. 作製した Bi ワイヤーの側面及び断面
(図1(a))。
次にリン酸塩系ガラスで全体を覆い融着し
て外径を太くし(図1(b))、再度引き伸ばす(図1(c))。
今回作製したBi ワイヤーは引き伸ばし回数が6
(b)と(c)の行程を繰り返すことで、より小さな直径の
回で直径7.5µm、7 回で4.2µm、8 回で870nm であ
Bi ワイヤーが作製できる。複数回、ガラスとBi を
り、直径と引き伸ばし回数の関係を図3 に示す。引
引き伸ばしてBi ワイヤーを作製するため、
この方法
き伸ばし回数が増加すると、直径は指数関数的に減
を引き伸ばし法と名付ける。この引き伸ばし法を用
少していき8 回でナノスケールに到達する。また、
引き伸ばし回数を増やすことでさらに直径の小さ
蒸発材料を長い距離輸送するために 5×10-4Pa
いワイヤーが作製できると想定される。
の真空中で Ar ガスを導入し、高周波電源の高
電圧の印加によってプラズマを発生させ、材料
となる金属を電子ビームにより蒸発させる。そ
の蒸発した粒子をイオン化させて高エネルギ
ー状態とし、基板表面に皮膜させることができ
る。図 5 の昭和真空製 SIP-650 を利用し、蒸着
する金属はガラスとの密着性の強い Ti、その上
に Ti の酸化を防ぎ、
研磨で削れた部分で導通を
取るために Cu を選択した。この装置は埼玉県
産業技術総合センターにあり、装置担当者の指
導を受け、実験を行った。
図 3. 引き伸ばし回数と直径の関係
(2)ワイヤーへの良好な電気的接触の確保
ゼーベック係数や電気抵抗率といった熱電特性
を測定するためには、直径数μm 以下のワイヤー
と良好な電気的接触を得る必要がある。そこで、
まずはワイヤーの端部を 80nm の研磨材を用いて
鏡面研磨を行い、ガラスとワイヤーの断面を平滑
にした。研磨の際にガラスを固定するためにワッ
クスを用いたが、図 4 のように GP の予算で購入
したアセトン及びビーカーを使用している。アセ
トンは揮発性であるために、ビーカーにはアルミ
ホイルをかぶせている。
図 5. イオンプレーティング装置(昭和真
空:SIP-650)埼玉県産業技術総合センターの装置
である。
基板
水晶膜厚計
高周波コイル
シャッター
電子銃
ガス導入
(Ar,Ni,H2,N2,C2H2)
真空
ゲージ
ビーム
蒸発材料
図 4. 研磨後のガラスの洗浄
マッチングボックス
電源
排気システムへ
続いてワイヤーと接触を得るために密着性が
高周波電源
高い、高密度な蒸着法であるイオンプレーティ
ングを行った。イオンプレーティングは薄膜材
料を加熱蒸発し、目的物質に薄膜を形成する物
理蒸着法の一つである。平均自由行程を長くし、
図 6. イオンプレーティング装置の仕組み
続いて、イオンプレーティングした Bi ワイヤ
ーの両側の断面に、電極として銅板をつける。
リード線を銅板に付けるため、Bi ワイヤーと銅
板との接合部分を電気信号が伝わる。接合部分
はゼーベック係数、抵抗率の測定にできるだけ
影響を与えないために熱伝導率が高く、電気抵
抗が小さいことが求められる。そこで Pb-Sn 半
田を使用し、銅板と Bi ワイヤーを接合した。
銅板にはリード線を付け、リード線を介して抵
図 8. サンプル完成写真
抗率測定のために印加電流を流し、またゼーベ
ック係数測定のために電圧を測定する。熱流出
を極力減らすために本実験では 25µm のリード
線を使用した。
(4)ゼーベック係数・電気抵抗率の測定
熱電変換素子の性能はゼーベック効果の程度
を表すゼーベック係数α[V/K]、形状によらない電
気の流れにくさを表す抵抗率ρ[Ωm]、熱の伝わり
(3)サンプル作製
やすさを表す熱伝導率κ[W/mK]の 3 つの熱電特
次にサンプル上下で温度差を付けるために上
性を用いて、
側の銅板にヒーターを、温度差を測定するため
の差動熱電対(銅コンスタンタン)を上下の銅板
Z

[K ]

2
1
(1)
に付ける。コンスタンタンは銅とニッケルとの
と表される。今回は熱電特性の中でゼーベック係
合金であり、熱起電力が低いことから熱電対に
数及び抵抗率の温度依存性の測定を試みる。
適している。熱電対は銅線、コンスタンタン線
ヒーターに印加電流を流すことで上側の銅
ともに 25µm 線を使用した。また接合に使用す
板が温められ、銅板の上下に温度差ができる。
る半田の約 60%がスズであり、スズは銅を侵食
温度差によりゼーベック効果が生じ、熱電対に
してしまう。特に細線に半田付けする場合には
流れた起電力を測定することで温度差を測定
断線する恐れがあるため、予め銀を数%含んで
する。また Bi ワイヤーにもゼーベック効果が
おり、侵食の影響を軽減することのできる銀入
生じるため、リード線を経て Bi ワイヤーのゼ
り半田を用いて熱電対を作製し、取り付けた。
ーベック係数が測定できる。またリード線に印
このサンプル作製時に、GP の予算で購入した
加電流を流し、電圧を測定することで抵抗率を
ピンセットを用いて行った。
測定することができる。ゼーベック係数、抵抗
率ともに温度依存性があるために室温から低
温まで測定を行う。ヘリウムガスの循環を利用
した冷凍機を使用することで、ヘリウムの沸点
である 4.2K 以下に冷やすことができる。そこ
で300K から4.2K までのゼーベック係数と抵抗
率を測定する。
電圧測定、電流印加、温度調節のために複数
図 7. サンプル作製行程
の測定器を使用し、図 10 のようにコンピュー
タにより組まれた LabVIEW プログラムで制御
し、データを収集する。
少していき、50K で正に反転し、30K を境に 0
に向かっている。
各直径とバルクの抵抗率の測定結果を以下
に示す。
1.2
図 9. 熱電特性測定装置のセットアップの様子
Resistivity [m]
Bulk
1.0
870nm
0.8
7.5m
0.6
4.2m
0.4
0.2
0.0
0
50
100
150
200
250
300
Temperature [K]
図 12. Bi ワイヤーとバルクの電気抵抗率の温度
図 10. 制御用プログラムと測定器
依存性
(5)測定結果
図 12 より室温付近ではゼーベック係数同様に
各直径とバルクのゼーベック係数の測定結
各直径のワイヤーともにバルクと近い値である。
果を以下に示す。
バルクでは低温で 0 に向かうが、ワイヤーでは直
径が小さくになるにつれ、低温での抵抗率は上昇
している。7.5μm と 4.2μm のワイヤーではそれ
Seebeck coefficient [ V/K]
-80
ほど変わらないが 870nm では大きく上昇してい
-60
Bulk
7.5m
-40
4.2m
る。
計算を行い、ゼーベック係数と抵抗率の測定
870nm
結果が上記のようになる原因を明らかにする。
-20
3.計算と測定結果の考察
0
(1)Bi は結晶構造が明らかにされており、熱電
20
0
50
100
150
200
250
300
Temperature [K]
図 11. Bi ワイヤーとバルクのゼーベック係数の
温度依存性
図 11 より室温付近ではどの径のワイヤーも
バルクの計算結果と近い値である。室温以下に
なると、バルクの場合では徐々にゼーベック係
数は減少していくが、7.5μm、4.2μm はおよそ
100K までほぼ一定である。そして 100K を下回
ると、直線的に 0 に向かう。870nm は急激に減
特性を求めるための計算を行うことができる。計
算した電子とホールのゼーベック係数と電気抵抗
率との測定結果から、各直径の電子とホールの移
動度を図 13 のように求めた。
10
4
Mobility [m2/Vs]
Bulk electron
Bulk hole
10
3
10
2
10
1
10
0
7.5m electron
7.5m hole
4.2m electron
4.2m hole
870nm electron
870nm hole

       

 
 
h
h
e
h
e
e
h
h
e
h
e
e
(2)
今回の解析では図 15 のように月に一度、
共同研
究先である茨城大学の先生と産業技術総合研究所
の研究員との打ち合わせを行った。
4.2
10
100
300
Temperature [K]
図 13. 測定結果から求めた移動度
図 13 より、
バルクの移動度は低温でも影響を受
けていないが、Bi ワイヤーは直径が小さくなるほ
ど移動度の制限を受けていることがわかる。
図 14 のバルクとナノワイヤーの散乱を見ると
バルクはバルク中のフォノンと呼ばれる熱を伝え
図 15. 埼玉大学東京ステーションカレッジで毎
る粒子によってのみ散乱されるが、ナノワイヤー
月行われる茨城大学、産業技術総合研究所との打
の場合フォノンによる散乱に加えてワイヤー境界
ち合わせ風景
での散乱も加わる。そのためナノワイヤーではバ
ルクと比較して散乱が増加し、平均自由行程が伸
4.熱伝導率測定のためのガラスエッチング
びる低温で移動度が大きく制限を受けることで、
(1)Bi ワイヤーの熱伝導率を測定するためには
電子とホールが移動しづらくなり、抵抗率が上昇
ワイヤーを露出させる必要がある。ワイヤー周辺
した。
のガラスを溶かすためにはフッ酸が用いられる。
しかし、フッ酸でガラスは溶けるものの、ガラス
のコロイドがワイヤー周辺に残ってしまう。した
がって、熱がガラスコロイドにも伝わるため熱伝
導率の測定に影響を及ぼすと考えられる。また、
ガラスだけでなく Bi も同時にエッチングしてし
図 14. バルクとナノワイヤーの散乱の違い
まうと、ワイヤーが切れてしまう。そこで、今回
は Bi には影響を与えず、ガラスのみをエッチング
また図 13 では 7.5μm と 4.2μm は電子とホー
することを試みる。
ルの大小関係は電子の移動度が大きいまま変わっ
ていないが、870nm については 50K 付近でホール
(2)実験方法
の移動度のほうが大きくなっている。ゼーベック
前述した通り、初めのエッチングはフッ酸で行
係数の式は(2)で表され、電子のゼーベック係数は
われるが、フッ素成分がガラスを溶かすことで知
負、ホールのゼーベック係数は正である。今回の
られている。そのため今回はフッ化アンモニウム
実験ではホール移動度が電子よりも大きくなった
(NH4F)、Bi がエッチングされるのを防ぐための緩
ために、ゼーベック係数の正へ反転が起きたと考
衝材である KOH と NaOH が主成分であるアルカ
えられる。
リ溶液を用いた。NH4F とアルカリ溶液を室温で
混合すると溶液が固まってしまうため、GP の追
140
40℃で攪拌させながら実験を行う。またガラスの
120
ビーカーを使用すると、混合液によりエッチング
されてしまうので、テフロン製のビーカーを使用
した。
Etching rate [nm/h]
加予算で購入したホットスターラーを用いて温度
100
80
60
40
20
0
Etching temperature : 40℃
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
Percentage[g(NH 4F)/ml(アルカリ溶液)]
図17. NH4F とアルカリ溶液の割合とエッチング
速度の関係
図 17 より NH4F とアルカリ溶液との割合は 0.5
つまり NH4F:アルカリ溶液=1:2 のときエッチング
速度が最も大きくなることがわかった。
図 16 . エッチング実験で使用したホットスター
ラー
(4)ワイヤーアレイでの調査
次にこのNH4Fとアルカリ溶液がBiを溶かさな
(3)混合液の割合とエッチングレートの調査
まずは水ガラスを対象に、ガラスが溶けやすい
いか調査するためにアレイと呼ばれる Bi ワイヤ
ーが複数集まったものを混合液に浸した。今回の
NH4F とアルカリ溶液との割合を見つける。割合
混合液の割合は(3)で最もエッチング速度が高
の異なる NH4F とアルカリ溶液の混合液に、混合
かった NH4F:アルカリ溶液=1:2 で実験を行った。
液では溶けないカプトンテープを半分巻いた水ガ
混合液に 24 時間浸した結果を図 18 に示す。
ラスを数時間浸す。
数時間後に、
テープを剥がし、
埼玉県産業技術総合センターにある触針式表面
形状測定器でテープが貼付した箇所と貼付し
ていない箇所との段差を測定し、一時間あたり
のエッチングレートを求めた。結果を図 17 に
示す。
図 18. NH4F とアルカリ溶液の混合液に 24 時間
浸した後のアレイ SEM 写真
Bi ワイヤーアレイの電子顕微鏡(SEM)写真
ワイヤーアレイでの実験結果、図 18 を見ると、ワ
イヤー周辺のガラスがエッチングされていること
がわかる。研磨をした段階でガラスより軟らかい
Biは図19のように10nm程度深く削れることがこ
れまでの調査でわかっている。そのため、ワイヤ
(2)東京大学物性研究所
東京大学物性研究所でシュブニコフ・ド・ハー
ー周辺のガラスはより早くエッチングされるため
ス振動の測定における Bi のフェルミ面の解析方
図 18 のようになったと考えられる。また、図 18
法を見学し、ご指導いただいた。
の Bi ワイヤーは円形のまま残っており、エッチン
グされなかったことがわかる。
5.まとめ
混合液から取り出したアレイは混合液の成分が
Bi とガラスを同時に引き伸ばすことができる
付着しているため、アセトンで超音波洗浄 20 分、
引き伸ばし法を用いて直径の異なるマイクロから
純粋で 1 分間すすぎ、
再度アセトンで 10 分間の超
ナノまでのワイヤーを作製した。埼玉県産業技術
音波洗浄を行った。また今回使用したアセトンは
総合センターにあるイオンプレーティング装置で
GP の予算で購入したものである。
ワイヤーと良好な電気的接触を確保し、熱電特性
であるゼーベック係数と抵抗率を測定した。特に
低温領域では、直径が異なることでゼーベック係
数と抵抗率の温度依存性に違いが生じた。茨城大
学の先生と産業技術総合研究所の職員と毎月行わ
れる打ち合わせで解析方法を議論し、Bi ワイヤー
の熱電特性の測定結果の解析、
及び考察を行った。
解析結果により、ゼーベック係数と抵抗率におけ
るナノワイヤーの直径依存性を評価することがで
きた。また、Bi ワイヤーの熱伝導率測定のための
図 19. 研磨によってガラスよりも軟らかい Bi が
ガラスのエッチング実験では GP の追加予算で購
深く削れた写真
入したホットスターラーを用いた実験から、NH4F
とアルカリ溶液との混合液のエッチング速度を求
4.関連学外組織
め、ガラスをエッチングする際の最適な割合を求
(1)Rhine-Waal university of applied sciences
めることができた。さらにワイヤーアレイを用い
ドイツのRhine-Waal university of applied sciences か
た実験から、混合液が Bi を溶かさないことを証明
ら、ポストドクターが来日し、図 20 のように実験
することができた。
を行なったり、研究内容に関して議論した。また
Rhine-Waal university of applied sciences のポスト
2 月後半から寺門と本間が Rhine-Waal university of
ドクターとの実験や議論、東京大学物性研究所で
applied sciences で実験を行う。
の見学によりプロジェクト内容の見識を深めるこ
とができた。
6.学会発表
・2014 年 10 月熱電学会でポスターセッション
図 20. Rhine-Waal university of applied sciences の
ポストドクターとの実験の様子
図 21. 2014 年 10 月の日本熱電学会でポスター