血液型 - 名古屋市立大学大学院医学研究科・医学部

血液型
青木康博
名古屋市立大学大学院医学研究科法医学分野
式血液型 式血液型 血液型抗原 前駆物質 → (
)抗原 抗原 → 抗原 式血液型抗体 式血液型検査用抗体(抗血清) オモテ試験 ウラ試験 オモテ・ウラ不一致,誤判の原因 式血液型抗原 遺伝子(
遺伝子) 遺伝子の変異 遺伝子の多型 遺伝子 シス シス 日本人における頻度 遺伝的多型(
! ) ハーディ・ワインバーグ平衡("#$%& '& ) ハーディ・ワインバーグの法則 ( ハーディ・ワインバーグの法則 (( ハーディ・ワインバーグの法則 ((( ハーディ・ワインバーグの法則 () 平衡下にある集団の性質 %"!#* 日本人における アリル頻度 分泌型・非分泌型 +, 式血液型 +, 抗原 + - 遺伝子と表現型の関係 .! 式血液型 .! 式血液型:歴史 .! 式血液型の抗原命名法 !$." による命名法 % による命名法 % による命名法: アリル どっちが正しいのか . 式血液型 各表現型の頻度 式血液型
年に /" +"#
によって発見
種のメジャーな表現型( )および亜型,変異型
番染色体長腕に遺伝子がある
0 式血液型
赤血球膜上の脂質(およびタンパク)に付加された糖鎖が抗原となる。
前駆物質(基質)は 抗原で非還元末端の糖はフコース
Æ
Æ
抗原はこれに 1$アセチルガラクトサミン 23"1 4
抗原はこれにガラクトース 23"4
がそれぞれ付加されて生成される。
遺伝子はこれらの糖転移酵素をコードする
0 血液型抗原
血液型抗原はタンパク抗原と糖鎖抗原とに大別される
タンパク抗原は直接遺伝子によってエンコードされている(.! など)
糖鎖抗原は糖転移酵素をエンコードする遺伝子のコントロールを受けている( + など)
0 前駆物質 → (
)抗原
0 抗原 → 抗原
0 式血液型抗体
自然抗体
Æ 環境刺激により生ずる
Æ 抗原曝露は原則生後起こる
新生児には自身の抗体はほとんどないとされる
Æ 生後 カ月になればほぼ全員に認められる
その他
Æ 主として (5
0 式血液型検査用抗体(抗血清)
現在は単クローン抗体が主流
以前はヒト由来抗体(抗血清)を利用していた。
抗原の検出には (ハリエニシダ)のレクチンが用いられた(る)。
抗 抗体は青色,抗 抗体は黄色に着色されている。
実際の検査ではオモテ検査(抗原の検出),ウラ検査(抗体の検出)の両者によりダブルチェック
する。
表現型
抗原
6
68 抗原の量は 抗体
抗 ,抗 抗
抗
7
0 オモテ試験
抗体(抗血清)により血球上の抗原を検出
凝 集
抗
抗
表現型
9
:
9
:
9
9
:
:
抗
::
:
:
:∼9
0 ウラ試験
指示血球を用いて血清中の抗体を検出
表現型
凝 集
型血球 型血球
:
9
:
9
:
:
9
9
型血球
9
9
9
9
0 オモテ・ウラ不一致,誤判の原因
技術的・事務的問題
検体・被検者の取り違え
不適切な温度管理等
溶血
血球側要因
変異型,亜型
血液疾患等による抗原性低下
後天性 やキメラ
汎凝集反応
骨髄移植
連銭形成,寒冷凝集素による感作
血清側要因
不規則抗体,寒冷凝集素
低 血症状
新生児
0 式血液型抗原
赤血球膜上の 抗原は 遺伝子(
遺伝子)によって生成される。
0 遺伝子( 遺伝子)
, 抗原の前駆物質を作る
ホモで欠損しているヒト()がまれにいる
→ボンベイ型
近傍にある が体液中の , 抗原の前駆物質を作る
遺伝子(- 遺伝子)がホモで欠損しているヒト(
)はまれではない
(分泌型,非分泌型)
日本人の場合 の変異はミスセンス変異
0 遺伝子の変異
単一塩基多型 2-1;4:∼ 塩基ごとに存在
Æ
Æ
Æ
Æ
サイレント:アミノ酸置換を伴わない
ミスセンス:アミノ酸置換を伴う
ノンセンス:ストップコドンが生じる 2< < 3 <3 4
スプライシングサイトに生ずるとスプライシングに影響を与えうる
欠失,挿入
その他
0 遺伝子の多型
欠失・挿入によりリーディング・フレームが変わる(フレームシフト)
↓
不適当なストップコドンが生ずる原因となる
( 遺伝子)
遺伝子は活性のない 個のアミノ酸をエ
ンコードする
0 遺伝子
0 シス
型の母から 型の子が生まれる?
当初は 本の染色体に 両者の遺伝子が載っていると想定された。
抗原は弱い
シーケンスにより, 遺伝子の一部にミスセンス変異があることが判明した。
例: 3=
0 シス
0 日本人における頻度
表現型
型
型
型
型
頻度
遺伝型
人種集団により頻度に顕著な差がある
南西日本では 型がやや多い
0 遺伝的多型( )
遺伝的に均質であった集団("
)中に突然変異( "
)などによって遺伝的変異が供給さ
れると,その瞬間から,当該座位()には異なるアリル(")が共存する状態が現れる。
野生型アリル(,#$
")
変異アリル( "
")
定義
種内の同一生息場所に つあるいはそれ以上の遺伝的に決定される不連続的な型が,世代を超え
て共存し続けている状態。
より具体的には,
同一集団内にある座位のアリル(")が 種類以上存在し,変異アリルの頻度が >以上の割
合で存在すること。
0 ハーディ・ワインバーグ平衡( )
ハーディ・ワインバーグの法則とは,
十分な個体数があり(集団が無限大)
任意交配がなされており
個体の移動がなく
突然変異がなく
淘汰がない
集団において,ある座位における各アリルの分布頻度は世代を重ねても一定の値を保つというもの
である。
この法則が成立している場合,その集団はその遺伝子についてハーディ・ワインバーグ平衡
(%?)にあるという。
理想的な集団ではあるが,ごく少ない世代数を問題にする限り多くの集団で成立している。
0 ハーディ・ワインバーグの法則 )のモデルを考える。
遺伝型は,
の 種類
各遺伝型頻度を順に, とする
のアリル頻度をそれぞれ とすると,
最も単純な, アリル(
親世代の交配について考える。
♀
♂
まとめると・
・
・,
0 ハーディ・ワインバーグの法則 組み合わせ
の確率
両親の遺伝型
<
"
子の世代の
子の遺伝型の頻度
の遺伝型頻度はそれぞれ, となる。
0 ハーディ・ワインバーグの法則 さらにしつこく,孫の世代の遺伝型頻度を で計算してみる。
♀
♂
同様に整理すると,
0 ハーディ・ワインバーグの法則 両親の遺伝型
<
"
組み合わせ
の確率
孫世代の遺伝型の頻度
先に述べた つの条件を満たす集団では,遺伝型頻度(およびアリル頻度)は世代を超えて不変
である(平衡状態にある)。
つ以上のアリルがある場合も,同様である。
ホモ接合体( )
:
,ヘテロ接合体( )
:
0 平衡下にある集団の性質
遺伝子頻度から遺伝型・表現型の頻度が計算できる(計算してみてください)。このことを基礎
として,血液型や @1 多型による個人識別における確率的評価が可能となる。
アリル数 の場合に取りうるヘテロ接合度の最大値は
( が大きくなれば に近づく)
階層化した集団で,各分集団内で任意交配が行われ,それぞれの集団でアリルの頻度が異なると
き,その集団全体で集団が階層化していないで任意交配が行われている場合と比べて,ヘテロ接
合の頻度は減少,ホモ接合の頻度が増加する(%"!#* )。
0 集団が階層化していると,ヘテロ接合の頻度が減少し,ホモ接合の頻度が増加する。
の遺伝子頻度を とすると,各分集団の遺伝子頻度の平均値は,
分集団の大きさがすべて同じとすると,ヘテロ接合の頻度は,
(ただし, は遺伝子頻度の分散)
集団全体の遺伝型頻度
( アリルの場合)
遺伝型
頻度
0 日本人における
アリル頻度
の頻度 より
アリル:
アリルの頻度を とすると
の和が なので
アリルの頻度は
0 分泌型・非分泌型
式血液型物質は,その表現型とは無関係に,これを体液中に多く分泌するヒト(分泌型)と,
少量しか分泌しないヒト(非分泌型)がいる
日本人における頻度はそれぞれ 両者の違いは - 遺伝子(
遺伝子)の有無による
- 遺伝子は主として腺組織・上皮組織において 型糖鎖に作用し 抗原を合成する
遺伝型は (分泌型),
(非分泌型)
- 遺伝子によって合成された 抗原に 遺伝子, 遺伝子が作用する
0 !" 式血液型
+, 式抗原は腺上皮などで合成され,リポタンパクに結合して血液中に運ばれた糖鎖が,赤血
球に吸着して発現
+ 遺伝子と - 遺伝子が制御(分泌型・非分泌型と相関する)
+ 遺伝子の遺伝子産物(
)は前駆物質, 抗原のいずれをも基質としそれぞれ + 抗原,+
抗原を合成
は末端の 3" にシアル酸が付加した糖鎖も基質とし,その結果シアリル + 抗原が生成され
る。このシアリル + 抗原は癌のマーカーであったり,白血球上で細胞間相互作用に関与してお
り,臨床的に重視されている。
0 !" 抗原
0 ! # 遺伝子と表現型の関係
+, 表現型 + 遺伝型 - 遺伝型 - 表現型
+2":&$4
非分泌型
+2"$&:4
+2"$&$4
分泌型
分泌型 非分泌型
表現型として発現するのに生後数年かかることが多く,生後しばらくは +2"$&$4,ついで +2":&$4 か
ら +2"$&:4 に変化する。
0 $ 式血液型
種類以上の抗原系からなる
遺伝子は 番染色体上にあり,共優性
多型がある
臨床上特に問題になるのは @ = ? の つ。
Æ 輸血の際 @ 抗原は 抗原に次いで重要な赤血球抗原であり,不適合妊娠による新生児溶血
性疾患の原因となる。
0 $ 式血液型:歴史
年 +A "# -
が 適合輸血において強い溶血の発現を見た症例を報告
レシピエントは死産児を分娩した母親で,その血清中に 型血液型の一致した血球の
>を凝集させる抗体の存在を確認(抗 @ 抗体)
年 +"#
"# % がアカゲザル(ÊÀ B)の赤血球でウサギやモルモットを免
疫して得た血清が,白人の赤血球の約 >を凝集させた(抗 .! 抗体)。
この両者は性質が似ているため当初は同じものと考えられた。
その後,この両者は全く異なるものとされたが, .! の名は残った。
現在では後者は抗 +% 抗体と呼ばれている。
0 $ 式血液型の抗原命名法
!$."8 =@? 表記法
%8 .!$ 表記法
.#8 .! 7.!
前 者には .! 式血液型の遺伝様式理論についての対立が背景にあった。
0 $ による命名法
=@? 表記法
現在ではもっとも一般的に使用されている
.! 抗原は 組の近接した(リンクしている)遺伝子によって制御されていると考えた。
例
の個体は @ = の 遺伝子ともホモ接合
の個体は @ =0 ?0 の 遺伝子ともヘテロ接合
0 による命名法
.!$ 表記法
現在ではあまり使われないが,表現型を記載するには好適
単一遺伝子が複数の抗原を生成する
アリルが 個ある
それぞれのアリルは つの因子に対する凝集原の産生を制御する。
¼
7777 7777
.! 座位
.! 因子 が @ 抗原を産生する。
!* → = !C → ? !* → !C → 0 による命名法:% アリル
個の(主要な)アリルがそれぞれ異なった組み合わせの抗原(@ = ? )をコードする。
Æ . . . .
Æ * C 遺伝子
.
.
.
.
抗原
@
@=
@?
@=?
遺伝子
*
C
抗原
#
#=
#?
#=?
抗原を表現するときには下付きにする(例:. )
0 どっちが正しいのか
どちらの理論も部分的に正しかった。
% は単一の遺伝子が複数の特異性を持つと考えた。
!$." は複数の遺伝子( 個)があると考えた。
つの密接にリンクした遺伝子がすべての .! 抗原を制御している。
Æ 遺伝子:@ 抗原
Æ 遺伝子:= ? 抗原
=$ は のエクソン の塩基置換,?$ はエクソン の塩基置換による(共優性であるこ
Æ
Æ
とに注意)
@ 抗原には多くのエピトープがあり,遺伝子の変異によりどれかが欠けると "
" @ となる(多
くの種類がある)。
0 $ 式血液型
.! ポリペプチドは膜貫通型のペプチドであり,機能は不明ではあるが,トランスポーターとして膜
安定化機能を持っている可能性が指摘されている。
.!@ 陰性化は欧米人においては主に 遺伝子の欠失による。
日本人においては, 遺伝子の完全欠失は少ないとされている。
各ハプロタイプの頻度
頻度
0 各表現型の頻度
表現型
@==
@=?
@??
@=
@?
@=??
?
??
=
=?
==
頻度
主な遺伝型
など
など
など
など
など
0