左半身脱力から始まった繰り返す意識障害の一例

繰り返す意識障害の一例
1)与論徳洲会病院内科 2)同 外科
黒田 駿1) 石原 亮1)
高杉 香志也1) 久志 安範2)
症例:84歳 女性
【主訴】
左半身脱力
【現病歴】
来院前日より、左上肢の動きが悪く、翌日も症
状改善したため、脳血管障害疑われて紹介受診。
【ADL】
車椅子、食事自立、おむつ
【既往歴】
高血圧症 脊髄空洞症 骨粗鬆症
葉酸欠乏症 膀胱炎 皮膚炎
【社会/生活歴】
喫煙歴:なし、
飲酒歴:なし
職業:以前は農業、機織り
【内服】
マグミット 500㎎ フォリアミン 5㎎
ディオバン80㎎
入院時現症①
バイタルサイン
心拍 75/分 血圧171/101mmHg 呼吸数16/分
体温 36.3℃ SpO2:96%(room air) JCS0
結膜: 貧血(-) 黄疸(-)
呼吸: 呼吸音左右差(-) wheeze(-) crackles(-).
循環: S1→S2→S3(-)S4(-) 心雑音(-)
入院時現症②
腹部: やや膨隆で軟. 腸蠕動音良好 打診上
鼓音(-) 濁音(-) 筋硬直 (-) 肝脾腫 (-)
末梢: 浮腫(-)
皮膚: 黄疸(‐)クモ状血管腫(-)手掌紅斑(-)
神経:項部硬直(-)Jolt accentulation (-)
指鼻指試験 左で稚拙、左上肢MMT4/5
感覚左右差(-) 腱反射亢進(-) Babinski(-)
入院時現症③
脳神経:
Ⅱ:視野異常(-)
Ⅲ:両目眼瞼下垂(-)対光反射+/+
眼球運動 左方視○ 右方視○
Ⅴ:顔面感覚 左右差(-)
Ⅶ:右口角下垂(+)前額運動左右差(-)
Ⅷ:聴力 左右差(-)
Ⅸ:カーテン徴候 (-)
XI:胸鎖乳突筋 MMT5 僧帽筋 MMT5
XII:舌提出 右方偏位(+) 萎縮(-)
入院時血液検査
血算
WBC 36.2 /μl
12.1 g/dl
Hb
34.7 %
Ht
MCV 100.9 fl
PLT 12.3 104/μl
凝固
PT-% 72.5 %
PT-INR 1.19
APTT 36.5 sec
生化
CPK
T-Bil
205
0.8
IU/l
mg/dl
GOT
GPT
LDH
γGTP
ALP
AMY
BUN
CRE
TP
Alb
Na
K
Cl
Ca
25
16
223
36
421
70
15.2
1.0
7.0
3.2
146
2.9
108
7.8
IU/l
IU/l
IU/
IU/l
IU/l
IU/l
g/dl
g/dl
g/dl
g/dl
mEq/l
mEq/l
mEq/l
mg/dl
T-cho 194
LDL- c 139
HDL-c 49
TG
93
Glu
123
HbA1c 5.6
CRP 2.9
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
mg/dl
%
μg/dl
胸部レントゲン
頭部MRI
入院後経過
LVFX500mg
尿G染色
GPC(4+)
GNR(3+)
GNC(3+)
尿中WBC(3+)
250
200意識障害
左上肢脱力
150
右眼瞼下垂
100
50
0
3
7
27 29 30 32 36 39 43 44 45 46 48 49 50 53 55 58 60 67 69 72
腹部CT
入院後経過
LVFX500mg
LVFX500mg
VCM1.0g
尿G染色
GPC(4+)
GNR(3+)
GNC(3+)
尿中WBC(3+)
250
200
意識障害
150
左上肢脱力
尿G染色
GPC(3+)
GNR(1+)
尿中WBC(1+)
意識障害
混濁尿
右眼瞼下垂
100
混濁尿
肉眼的血尿
50
0
3
7
27 29 30 32 36 39 43 44 45 46 48 49 50 53 55 58 60 67 69 72
現在の腹部CT
診断
#1 ウレアーゼ産生菌による
高アンモニア血症
#2 単純性尿路感染症
#3 神経因性膀胱
高アンモニア血症鑑別
・肝不全(劇症肝炎、肝硬変)
・痙攣、運動外傷、熱傷、飢餓状態
・シャント(門脈血流が大循環へ)
・薬物:バルプロ酸、カルバマゼピン
リファンピシン、TPN、ステロイド
化学療法
・感染症:ウレアーゼ産生菌、ヘルペス
・測定ミス
ウレアーゼ産生菌
GNR:Klebsiera pneumoniae
Escherichia.Coli
Morganera sp
Proteus mirabilis
GPR :Corynebacterium sp
Arthrobacter cumminsii
GPC :Stapylococcus intermedius
Peptostreptococcus tetradius
高アンモニア血症が生じる機序
国内報告例
年
年齢/性別
基礎疾患
起因菌
JCS
NH3
尿pH
CRP 体温
2014
87歳
女性
慢性膀胱
炎/膀胱憩
室
Corynebacterium
urealyticum(GPR)
200
395
9.0
4.19
36.6
2013
88歳
女性
子宮体癌
術後
Corynebacterium
urealyticum(GPR)
200
259
8.5
0.34
36.7
2012
84歳
女性
膀胱憩室
Arthrobacter
cumminsii(GPR)
20
197
8.5
-
35.6
2012
80歳
女性
骨盤骨折
Staphylococcus
intermedius(GPC)
200
500
8.0
5.34
36.2
2011
69歳
男性
尿道損傷
Peptostreptococcu
s tetradius(GPC)
20
511
-
11.1
37.5
2011
87歳
男性
直腸癌/慢
性膀胱炎
Klebsiella
pneumoniae(GNR)
200
294
8.5
6.26
38.5
2010
69歳
男性
糖尿病
Proteus
mirabilis(GNR)
200
241
-
14.8
37.2
2009
83歳
女性
腰椎圧迫
骨折
Corynebacterium
urealyticum(GPR)
3-R
167
-
0.34
36.9
培養結果
第44病日
・カテーテル尿
Enterococcus faecalis 3+
Moraxella sp 3+
・血液
Bacteroides fragilis 1+
考察
• 培養結果から起因菌として現時点で考え
られるものが検出されていない。検出さ
れている菌でウレアーゼ産生は報告なし。
• 検体が本土に送られている際に、菌が
死滅してしまっていたために検出されな
かった可能性がある。
Take Home Message
・意識障害の鑑別として肝疾患がなくとも、
高アンモニア血症は考えなくてはならない
・高アンモニア血症の原因として、
ウレアーゼ産生菌によるものもあるため、
感染症の検索を怠ってはならない。
結語
• 今回我々は、ウレアーゼ産生菌による高
アンモニア血症が原因の意識障害の1例を
経験した。
諸言
高アンモニア血症による意識障害の原因は、
多岐にわたり、肝疾患や薬物以外にもさまざま
な原因があることが知られている。今回、我々
は尿路感染症を契機に高アンモニア血症を来た
し、意識障害を繰り返す症例を経験したので
報告する。
考察
・腹部単純CTで膀胱粘膜下の石灰化と思われる高吸収像
を呈し,結痂性膀胱炎の所見
・結痂性膀胱炎により膀胱のコンプライアンスが低下し,
多量のリン酸マグネシウムアンモニウムが析出したこと
も相乗して尿閉をきたしたと推察される。
・ウレアーゼ産生能により尿をアルカリ化してリン酸塩
を析出する傾向が強く,慢性的に膀胱内が石灰化されて
生じる結痂性膀胱炎の起因菌としても知られている
・痂性膀胱炎により膀胱のコンプライアンスが低下し,
多量のリン酸マグネシウムアンモニウムが析出したこ
とも相乗して尿閉をきたした