奥日光湯元地区における地産地消型エネルギーシステム導入による 環境先進地区形成に関する調査研究 宇都宮大学大学院工学研究科 准教授 横尾昇剛 宇都宮大学大学院工学研究科 博士前期課程2年 増田圭太 宇都宮大学工学部建設学科建築学コース4年 太田亮平 1.研究の目的・意義 エネルギーを地域で生産し地域で消費する「地 産地消型エネルギー」の取り組みの推進は一次エ ネルギー消費量、CO2 排出量を削減できると考えら れるため、環境面やコスト面において大変重要で ある。 奥日光湯元地区では、宿泊施設が多数立地して いるが、温泉排湯熱を回収しエネルギー源とした 有効活用はほとんどされていないのが現状である。 奥日光湯元地区を環境先進観光地区にするための 一環として、各施設における温泉熱を活用した地 写真 1.1 奥日光湯元地区全景 産地消型のエネルギーシステムに転換することで、 湯元第一ポンプ場 この地区のエネルギー消費量および CO2 排出量を 湯元第三ポンプ場 大幅に削減することの可能性が予想される。 本研究においては、実地調査およびモニタリン 奥日光エリア グを通じて、奥日光湯元地区での地産地消型エネ ルギーシステム導入の際のシステム的課題、経済 的課題および、導入した際のエネルギー消費削減 湯の湖 量、CO2 排出削減量の推計値を求める。これらの 結果を地産地消エネルギー利用のための基礎的資 料として整理し、この地区の環境への取り組みの 促進を図ることを支援することを目的としている。 延床面積 収容人数 源泉湧出量・ 平均気温(℃) (平均) (平均) 源泉温度 対象施設 施設数 小規模 宿泊 中規模 施設 大規模 10 691 29 12 3,748 135 1 12,000 300 2.研究方法(又は事業内容) 1788.5L/分 55~78℃ 夏季 18.1 冬季 -3.6 年間 7.4 ※夏季7~9月、冬季1~3月 図 1.1 奥日光湯元地域の概要 本研究では奥日光湯元地域の温泉熱に着目し、 温泉熱のポテンシャル量・利用可能量を明らかに (2) 温泉熱のポテンシャル量・利用可能量の算出 する。また、温泉熱利用システムを導入している 源泉湧出量・源泉温度、各宿泊施設の引湯量・ 施設の実測を行い、温泉熱利用の有用性を見出し、 一次エネルギー消費量・CO2 排出量の削減効果を 引湯温度について、各宿泊施設へのヒアリング及 定量化し、その結果をまとめた。 びアンケート調査と文献調査を行った。既に温泉 (1) 暖房・給湯システムの熱源と機器の実態調査 熱利用ポテンシャル調査が行われている地域の事 各宿泊施設へのヒアリング及びアンケート調査 例をもとに温泉熱のポテンシャル量・利用可能量 の算出を行った。 を行った。 1 (3)温泉熱利用システム導入施設での実測 (2) ポテンシャル量・利用可能量の算出結果 温泉熱利用システムを導入している施設を実測 源泉湧出量・源泉温度、各宿泊施設の引湯量・ し、システムの導入効果の定量化を行った。 引湯温度について、各宿泊施設へのヒアリング及 (4)実測値に基づいた奥日光地域全体での温泉熱 びアンケート調査と文献調査を行った。温泉熱の 利用システム導入による効果の算出 ポテンシャル量・利用可能量は各施設ごとに算出 奥日光地域の宿泊施設において、現状の暖房・ し、最終的に表 3.1 に示す施設規模別に合計した 給湯システムを温泉熱利用システムに更新すると もので表すものとする。温泉熱のポテンシャル 想定した際に、温泉熱利用システム導入による効 量・利用可能量は以下の式で算出した。 果を実測値をもとに試算し、地域全体での効果の 算出を行った。 ・ポテンシャル量算出式 Q1=ρcV ( t1-t2 ) 3.事業の進捗状況 ・利用可能量 …源泉利用 Q2=ρcV ( t1-t3 ) 排湯利用 Q3=ρcV ( t4-t5 ) (1) 暖房・給湯の熱源と機器の実態調査結果 奥日光地域の宿泊施設(計 23 施設)を対象に、 Q:エネルギー量(kJ) ρ:密度(g/㎤) 暖房・給湯システムの熱源と機器についてのヒア c:比熱(J/g・K) V:流量(L/分) リング・アンケート調査を行った。アンケート調 t1:源泉温度(℃) t2:平均気温(℃) 査によると灯油・重油を熱源としている施設が t3:浴槽温度(℃) t4:排湯温度(℃) 87%(図 3.1)であり、暖房の機器については図 t5:排水温度(℃) 3.2 に示す結果となった。これらの結果から、奥 日光湯元地域では化石燃料に依存したシステムが 30,000 暖房 30% 57% 給湯 57% 30 25 25,000 20 20,000 15 15,000 10 5 10,000 気温(℃) 13% 13% 30% 一次エネルギー量(GJ) 大半を占めていることが分かった。 0 5,000 -5 0 -10 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 ポテンシャル量 利用可能量(源泉) 利用可能量(排湯) 気温 図 3.3 月別ポテンシャル量・利用可能量 灯油 重油 灯油 電気・灯油 重油 電気・灯油 図 3.1 暖房・給湯システムの熱源 月別のポテンシャル量・利用可能量を図 3.3 に示 す。ポテンシャル量は夏季に低くなっていること 4% 1% 6% 16% 0% 2% 0% 22% 17% 30% 0% 2% が分かる。 エアコン 遠赤外線パネルヒーター 電気ストーブ こたつ ガスファンヒーター 放射パネル 石油ファンヒーター 石油ストーブ セントラルヒーティング アンケート調査では現状の光熱費データも調査 しており、年間の一次エネルギー消費量・CO2 排出 量も算出している。上記の式で算出した利用可能 量と現状の一次エネルギー消費量を比較したもの を図 3.4 に示す。 図 3.2 使用暖房機器 2 第一源泉 排湯槽 140,000 下水へ HEX3 HEX2 排湯 HEX1 ♨ 2階浴槽 > > > > > 第一源泉 100,000 > 客室・廊下へ 80,000 給湯へ 電気 温水器 0 現状 現状 利用可能量 利用可能量 現状 利用可能量 現状 BF 30kW HP 10kW HP エネルギー消費量 源泉利用 中規模施設 排湯利用 > 小規模施設 大規模施設 暖房へ > BF 利用可能量 > 奥日光エリア > > > > 20,000 > 加温 40,000 > > 放射パネル > 60,000 > 一次エネルギー量(GJ) 120,000 HEX4 下水へ ♨ 第二源泉 源泉+排湯利用 温泉水の動き 熱の移動 HP:ヒートポンプ HEX:熱交換器 BF:バッファタンク 図3.4 現状のエネルギー消費量と利用可能量の比較 3.5 温泉排湯熱利用システム図 奥日光地域全体の温泉熱利用可能量の合計値は、 排湯槽 チタン製熱交換器 現状のエネルギー消費量の 125.9%に相当すると 考えられる。ただし、ここでの一次エネルギー消 費量には電気などのエネルギー消費も入っており、 それらも熱エネルギーとして換算した際の比較で ある。 (3)温泉排湯熱利用システム導入施設での実測 温泉排湯熱利用システムを導入している施設 (図 3.5)を実測し、温泉熱利用システムの導入 給湯用HP 効果の定量化を行った。温泉熱利用システム導入 暖房用HP 前後のエネルギー消費量を図 3.5、 図 3.6 に示す。 写真 3.1 温泉排湯熱利用システム各設備 一次エネルギー量 (GJ) CO2排出量(t-CO2) 800 60 50 40 600 30 400 20 200 10 0 CO2排出量(t-CO2) 一次エネルギー量(GJ) 1000 0 2011 2013 2014 図 3.6 各エネルギー量の年度比較 10000 140% 9000 コスト比率 80% 60% 40% 20% 0% 灯油使用量(L) 7000 2013 年度に温泉熱利用システムに変更したが、温 90000 8000 120% 100% 100000 133% 80000 70000 100% 6000 78% 5000 60000 50000 4000 40000 3000 30000 2000 20000 1000 10000 0 消費電力(kW) 160% 図 3.8 冬期室内温度と PMV(快適性) 灯油使用量 (L) 泉排湯から得られた熱は暖房用 HP に送られ、給湯 消費電力 (kW) 用HPでの排熱利用が不十分であったため電力量 コスト比率(%) が上がり、エネルギー量・コストともに高い値と なった。2014 年度は第二源泉熱交換器設置により 0 2011 2013 2014 各 HP に均等に熱が送られ、高効率の運転をしたこ とで一次エネルギー量が 30%程度減少している。 図 3.7 灯油使用量・消費電力とコスト比 HP 導入によって年間消費電力が増えたものの、灯 3 油の使用量が 9 割近く減り、ランニングコストを (2) 温泉熱のポテンシャル量・利用可能量の算出 抑えると同時に良好な室内環境を確保している。 温泉熱利用可能量と現状の一次エネルギー消費 (4)実測値に基づいた奥日光地域全体での温泉熱 量を比較すると、温泉熱利用可能量の方が大きい ことが分かった。 利用システム導入による効果の算出 (3)温泉熱利用システム導入施設での実測 ・ケース設定 現状調査の結果を踏まえて既設システムを設 温泉熱利用システムを導入した施設を実測した 定し、既設システムを基準として空調・給湯シス 結果、システム導入前後で一次エネルギー消費量 テムを温泉熱利用システムに変更するというケー が約 30%削減できることが分かった。このことか ス 6 パターン設定した。温泉熱利用法は直接利用 ら、温泉熱利用の有用性を見出すことができた。 (源泉利用)と間接利用(排湯利用)とした (表 3.2)。 5.今後の展望 (1)施設レベルおよび地区レベルでの検討 想定したケースを基に給湯、空調稼働時間等の設 宿泊施設ごとに導入可能なエネルギーシステム 定し、一次エネルギー量、CO2 排出量を求めた。 および予想されるエネルギー削減量、CO2 削減量 ・計算結果 を地区の関係者に提示するとともに、奥日光湯元 図 3.7 に規模別の年間一次エネルギー量、CO2 地区の環境先進地区としてのビジョン形成のため 排出量を示す。エリア全体でのエネルギー削減量 の基礎的資料として活用する。 はシステム 6 の排湯利用+HP の給湯・暖房使用 (2)推進組織への支援 の場合に 7 割程度削減されており、HP 導入に加 奥日光湯元地域では、温泉熱利用を検討するた え排湯利用することで高い効果が得られる。 めの協議会が発足したところである。こうした協 4.事業の成果 議会の活動に関して、技術面、研究面から支援を (1) 暖房・給湯システムの熱源と機器の実態調査 行なう予定である。本研究の成果発表および外部 奥日光地域での暖房・給湯システムの熱源は からの講師を招いてのセミナーを開催したり、先 87%が灯油・重油を使用していることが分かった。 進事例についての情報を提供するなどし、対象地 暖房機器は、石油ストーブ・石油ファンヒーター 区の環境向上への取組みを支援する。 など石油を使用する機器をしている施設が多いこ (3)地産地消エネルギー計画の教材化 とが分かった。 地域のエネルギー資源活用への関心を高めるた 表 3.1 熱利用ケース設定 No 1 2 3 4 5 6 めの教材事例として活用するとともに、地産地消 温泉利用 熱源 源泉 排湯 給湯 暖房 灯油 既設システム 既存システム 無 無 重油 灯油 熱交換器導入 直接利用 有 無 源泉利用 重油 灯油 熱交換器導入 間接利用 無 有 排湯利用 重油 灯油 HP導入+排湯利用 間接利用 無 有 電気 給湯利用 のみ 重油 灯油 HP導入+排湯利用 間接利用 無 有 電気 暖房利用 のみ 重油 H P 導入+排湯利用 間接利用 無 有 電気 電気 給湯暖房利用 システム 変更点 型のエネルギーシステムの一つとして、温泉熱利 用のエネルギーシステムを具体的な事例としてと りあげ、システムの簡易設計方法、エネルギー量、 CO2 排出量の計算方法を身につけるための教材と してまとめ、地域レベルでの取組みを支援すると ともに学生にとっての地産地消エネルギー利用計 画ためのスキルを身につける機会を提供する。 【謝辞】本研究を進めるにあたり、奥日光湯元地 区の関係各位にアンケート調査にご協力いただき ました。また、ゆ宿・美や川、クラフトワーク(株) の関係者には多大なる協力をいただきました。謝 意を表します。 図 3.7 年間一次エネルギー消費量、CO2 排出量 4
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