無断複写禁止 フーリエ変換によるグリーン関数の解法 (周回積分の注意点) フーリエ変換を用いて、グリーン関数を求める最も単純で周回積分の面倒な例 として、「演習 くり込み群」(柏太郎著、サイエンス社出版)に記されている 遅延グリーン関数(1 頁)𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡); 𝑑𝑑2 �𝑑𝑑𝑡𝑡 2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡) = −𝛿𝛿(𝑡𝑡) (1) 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡) → 0 𝑎𝑎𝑎𝑎 𝑡𝑡 → −∞ を考えてみる。ここで𝛿𝛿(𝑡𝑡)はディラックのデルタ関数である。デルタ関数が生で 数式に登場することに、私は抵抗を感じます。計算の結果が信用できるのか? デルタ関数などの超関数の取扱いは、L.シュワルツ著「物理数学の方法」 (吉 田耕作、渡辺二郎訳、岩波書店出版)を参照して貰うことして、議論を進めま すが、時々、気になるところは再考します。 同書では、デルタ関数を超関数として � +∞ −∞ 𝑑𝑑𝑡𝑡 𝛿𝛿(𝑡𝑡 − 𝑎𝑎)𝜑𝜑(𝑡𝑡) = 𝜑𝜑(𝑎𝑎) (2) によって定義している。ここでφは実数上で定義された複素数値関数で、無限回 微分可能であり、かつ実数の有界集合Kが存在して、その外でφは恒等的に 0 で ある。試験(テスト)関数と言われている。 グリーン関数𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡)を求めるために、微分方程式(1)の両辺をフーリエ変換して みる。 1 √2𝜋𝜋 � +∞ −∞ 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑢𝑢𝑡𝑡 𝑑𝑑 2 1 � 2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡) 𝑑𝑑𝑡𝑡 = − 𝑑𝑑𝑡𝑡 √2𝜋𝜋 (3) グリーン関数𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡)が条件; d 𝐺𝐺 (𝑡𝑡) , 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡) → 0 𝑎𝑎𝑎𝑎 𝑡𝑡 → ±∞ dt 𝑅𝑅 を満たせば、(3)式の右辺で 2 回部分積分を繰り返すと、 1 √2𝜋𝜋 � +∞ −∞ 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑢𝑢𝑡𝑡 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡)(−𝑢𝑢2 + 𝜔𝜔2 ) 𝑑𝑑𝑡𝑡 = − 1 (4) 1 √2𝜋𝜋 無断複写禁止 1 (−𝑢𝑢2 + 𝜔𝜔2 ) � √2𝜋𝜋 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡)のフーリエ変換をG𝑅𝑅 (u); 1 � G𝑅𝑅 (u) = とすると、(4)式は � G𝑅𝑅 (u) = 1 −∞ � √2𝜋𝜋 +∞ 1 √2𝜋𝜋 +∞ 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑢𝑢𝑡𝑡 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡) 𝑑𝑑𝑡𝑡 −∞ √2𝜋𝜋 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑢𝑢𝑡𝑡 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡) 𝑑𝑑𝑡𝑡 = − 𝑢𝑢2 1 − 𝜔𝜔 2 � となり、𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡)のフーリエ変換G𝑅𝑅 (u)が得られます。 (5) (6) (7) 以上の計算では、デルタ関数を直接積分するなどの気になる点があるので、 デルタ関数の定義(2)を用いて、𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡)のフーリエ変換を試みます。 遅延グリーン関数𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡)の方程式(1)の湧き出し口の位置を 0 から s に移動して、 𝑑𝑑2 � 2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡 − s) = −𝛿𝛿(𝑡𝑡 − s) 𝑑𝑑𝑡𝑡 とし、試験関数φ(t)を両辺に掛けて、t で積分する。 +∞ 𝑑𝑑 2 𝜑𝜑(𝑡𝑡) � 2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡 − s) 𝑑𝑑𝑡𝑡 = −φ(s) 𝑑𝑑𝑡𝑡 � −∞ (8) (9) 上式はデルタ関数を生で含んでいません。上式をフーリエ変換する。 1 √2𝜋𝜋 � +∞ −∞ 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖 � −∞ 1 (10)の左辺 = � 𝜑𝜑(𝑡𝑡) � +∞ 𝑑𝑑 2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡 − s) 𝑑𝑑𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡𝑡 𝑑𝑑𝑡𝑡 2 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖 φ(s)𝑑𝑑𝑑𝑑 (10) √2𝜋𝜋 −∞ 右辺の積分は収束し、試験関数φのフーリエ変換φ � にマイナスを付けた関数にな る。左辺は変数変換 を行うと、 =− +∞ 𝑡𝑡 − s = w 1 √2𝜋𝜋 � +∞ −∞ 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖 , dt = dw � +∞ −∞ 𝑑𝑑2 𝜑𝜑(𝑤𝑤 + 𝑠𝑠) � 2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑤𝑤) 𝑑𝑑𝑤𝑤𝑑𝑑𝑑𝑑 𝑑𝑑𝑤𝑤 ここで積分の順序を交換するが、上式の被積分関数が可積分であれば、フビニ の定理を適用して、積分の順序を交換することが出来る。被積分関数は試験関 2 無断複写禁止 数を含んでいるから、可積分であり、積分の順序を交換すると、 (10)の左辺 = � =� +∞ −∞ +∞ −∞ 𝑒𝑒 𝑖𝑖𝑢𝑢𝑢𝑢 ここで、変数変換 1 √2𝜋𝜋 1 √2𝜋𝜋 � +∞ −∞ +∞ � −∞ 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑑𝑑 2 𝜑𝜑(𝑤𝑤 + 𝑠𝑠)𝑑𝑑𝑑𝑑 � 2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑤𝑤) 𝑑𝑑𝑤𝑤 𝑑𝑑𝑤𝑤 𝑒𝑒 −𝑖𝑖𝑖𝑖(𝑤𝑤+𝑠𝑠) 𝜑𝜑(𝑤𝑤 + 𝑠𝑠)𝑑𝑑𝑑𝑑 � 𝑤𝑤 + 𝑠𝑠 = 𝑣𝑣 を行い、変数𝑣𝑣の積分を行うと、 𝑑𝑑 2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑤𝑤) 𝑑𝑑𝑤𝑤 𝑑𝑑𝑤𝑤 2 , 𝑑𝑑𝑑𝑑 = 𝑑𝑑𝑑𝑑 ∞ (10)の左辺 = φ � (u) � 𝑒𝑒 𝑖𝑖𝑢𝑢𝑢𝑢 � −∞ 𝑑𝑑2 + 𝜔𝜔2 � 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑤𝑤) 𝑑𝑑𝑤𝑤 𝑑𝑑𝑤𝑤 2 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑤𝑤)が境界条件(4)を満たすとして、部分積分をすると、 2 2 ∞ (10)の左辺 = φ � (u)(−𝑢𝑢 + 𝜔𝜔 ) � 𝑒𝑒 𝑖𝑖𝑢𝑢𝑢𝑢 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑤𝑤) 𝑑𝑑𝑤𝑤 −∞ � � (u)(−𝑢𝑢2 + 𝜔𝜔2 )G𝑅𝑅 (−u) = √2𝜋𝜋φ (10)の左辺の計算は、 「2 つの関数のたたきこみ(convobution)のフーリエ変換 は 2 つの関数のフーリエ変換の積になる。」ことを示したものである。以上の計 算より、(10)式は � � (u)(−𝑢𝑢2 + 𝜔𝜔2 )G𝑅𝑅 (−u) = −φ � (u) √2𝜋𝜋φ (11) となる。試験関数𝜑𝜑は任意であるから(試験関数の集合の中から任意に選ばれた 関数𝜑𝜑)、(11)式が成立するためには、 1 1 � G𝑅𝑅 (−u) = (12) 2 √2𝜋𝜋 𝑢𝑢 − 𝜔𝜔 2 � � G𝑅𝑅 (−u) = G𝑅𝑅 (u)であるから、上式はデルタ関数を生でフーリエ変換した結果で ある(7)と一致した。 もとの議論に戻る。式(7) � G𝑅𝑅 (u) = 1 𝑢𝑢2 1 − 𝜔𝜔 2 √2𝜋𝜋 をフーリエ逆変換し、遅延グリーン関数𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡)を求める。 𝐺𝐺𝑅𝑅 (𝑡𝑡) = 1 √2𝜋𝜋 � +∞ −∞ � 𝑒𝑒 𝑖𝑖𝑢𝑢𝑡𝑡 G𝑅𝑅 (u) 𝑑𝑑𝑢𝑢 3 (7) 無断複写禁止 = 1 +∞ 𝑖𝑖𝑢𝑢𝑡𝑡 1 � 𝑒𝑒 𝑑𝑑𝑢𝑢 2 2𝜋𝜋 −∞ 𝑢𝑢 − 𝜔𝜔 2 (13)式の被積分関数; (13) 1 (14) 𝑢𝑢2 − 𝜔𝜔 2 はu = ±ωに特異点を持ち、積分可能ではない。これを解決(解決か?)するた め、被積分関数を複素関数 𝑒𝑒 𝑖𝑖𝑢𝑢𝑡𝑡 𝑒𝑒 𝑖𝑖𝑧𝑧𝑡𝑡 とし、複素平面上での積分 𝑧𝑧 2 � 𝑒𝑒 𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖𝑖 γ 1 − 𝜔𝜔 2 𝑧𝑧 2 (15) 1 𝑑𝑑𝑧𝑧 − 𝜔𝜔 2 (16) を考える。ここでγは複素平面上の積分路を表す。積分路の取り方は ①特異点z = ±ωを複素平面上で虚数軸方向に微小だけずらし、積分路は実軸を 通る。 ②特異点z = ±ωを中心に微小な半径の半円を通って、特異点を避ける。 などです。 積分路①は L.I.Schiff 著「QUANTUM MECHANICS」(McGROW-HILL) J.D.Bjorken & S.D.Drell 著 「Relativistic Quantum Mechanics」(McGROW-HILL) 中西譲著 「ファインマン・ダイヤグラム」(丸善株式会社) などに見られます。主に物理学の本です。 積分路②は W.R.Derrick 著 大槻義彦訳 「複素関数論とその応用」(講談社) 後藤憲一他編集「詳解物理応用数学演習」(共立出版株式会社) などに見られます。主に数学系の本です。 積分路②による積分は計算が複雑になるので、改めて議論することにし、こ こでは積分路①による計算を行う。 積分路を図 1 に示す。 4 無断複写禁止 z plane z = −ω + i𝜀𝜀2 -R z = ω + i𝜀𝜀1 𝛾𝛾2 R 𝛾𝛾1 𝛾𝛾3 図 1.周回積分路 5
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