デジタル伝送

和英コース
技術分野 上級
第 1 課
Lesson 1 テキスト
デジタル伝送
電気的なコミューニケーション・システムでは、データはある点から他の点へと電気信号の形
で伝搬させる。電気信号にはアナログ信号とデジタル信号とがあるが、特にアナログ信号は、周波
数に応じて多様な媒体を選択できる点で便利である。例えば、ツイスト・ペア・ケーブル、同軸ケ
ーブル、あるいは光ファイバ・ケーブルなどの通信媒体を選択することができる。電波も空間を伝
搬する通信媒体である。
デジタル信号も媒体の選択ができるが、一般には通信線を媒体とすることが多い。デジタル信
号伝送では、あるしきい値以上の電圧を2進数の1、そしてあるしきい値以下の電圧を2進数の0
として表わしている。デジタル信号の長所は、アナログ信号よりも雑音に強いことと、伝送コスト
がアナログ信号の場合よりも安価となることである。短所は、アナログ信号よりも減衰が大きいこ
とである。
あらゆる物理量は、アナログ量あるいはデジタル量として表わすことができ、両者ともアナロ
グ信号データ、あるいはデジタル信号データとして伝送することができる。通常、アナログ・デー
タは時間的関数として表わされ、一定の周波数スペクトラムを占有する。この最も顕著な例が音声
データである。音声データは 20Hz から 20KHz までの周波数成分を有する。しかし音声エネルギは、
これよりもかなり狭い帯域内に集中する。人間の音声スペクトラムは 100 から 5,000Hz にわたって
広がっているが、実際は 300 から 3,400Hz を送受信できれば、音声を明瞭にはっきりと送受するに
は十分である。従って高忠実度の番組を放送する放送局は別として、電話機では 300 から 3400Hz
の周波数帯しか伝送していない。
コンピュータ出力などのデジタル・データはまた、モデム(変調器−復調器)を利用してア
ナログ・データとして伝送できる。モデムは比較的低い周波数の搬送波を変調することによって、
2進数パルスをアナログ信号に変換する。このアナログ信号は、変調信号および/または通信速度
に比例した周波数スペクトラムを持っている。最も一般的なモデムでは、通常の音声レベルの電話
回線で伝播できるスペクトラムのデジタル・データを表現している。相手方でもモデムで電話回線
上を伝送されてきたアナログ信号を復調し、本来のデジタル情報を再生する。
1
和英コース
技術分野 上級
第 1 課
Lesson 1 課題
信号の伝送レベルは、利用する通信回線の状態によって常に異なるため、アナログ伝送方式と
するか、あるいはデジタル信号伝送方式とするかを正しく判断し、選択することは難しい。アナロ
グ伝送方式では信号が減衰するため、送信距離には自ずと限界がある。長距離通信を可能とするた
めには、アナログ伝送方式では通常、「増幅器」を用いて、媒体を伝送されて減衰した信号エネル
ギを強める。
しかし残念ながら「増幅器」は、雑音成分も増幅してしまうのである。長距離伝送を可能にす
るため、増幅器の数を増加すればするほど、信号の歪みは大きくなる。また増幅器自体には振幅歪、
位相歪があるため、多段増幅を行うと増幅信号の歪みは一層大きくなってしまう。音声などのアナ
ログ・データの場合、かなり大きい歪みでも情報を理解することはできる。しかし一般的にアナロ
グ信号方式では、いわゆる高忠実度伝送と呼ばれる優良な伝送は行えない。
デジタル信号伝送方式も、通信回線の長さに影響を受ける。しかしデジタル・データは2進数、
すなわち2つの電圧レベルで情報を送るため、長距離伝送を行うためには中継器でデジタル信号を
受信し、0と1のパターンに戻し、新しい信号を再伝送する。アナログ伝送方式での増幅器同様、
中継器にも自己雑音、振幅歪、位相歪がある。しかし雑音やひずみは電圧レベルで0、1を判別し
ているため、デジタル伝送方式では位相歪以外は問題にならない。
いずれの伝送方式がよいか、という疑問が当然出てくるだろう。業界では、その答えはデジタ
ル伝送方式である。これまで NTT、KDD などが歴史的にアナログ通信方式に多大な投資を行って
きた関係上、簡単にこの論争を終わらせることはできない。1つの案としては、混合システム、す
なわち AD 混合伝送方式も出現している。この新方式では遠距離通話をデジタル伝送方式、市内通
話を従来のアナログ伝送とする方式である。長距離通信はいずれにせよ、将来はデジタル方式にな
ると通信業界では予想している。
2