発電と送配電

第2課
発電と送配電
電気利用の恩恵は言うまでもなく、過去 50 年にわたり電
力消費量は年々上昇してきています。その結果、発電所の大
規模化が進み、適当な場所はどうしても消費地からほど遠い
場所とならざるを得ません。特に水力発電所の適地は人里離
れた山の谷川をせき止めた場所ですから、東京、大阪など大
消費地までの送電をどうするかが問題となってきます。
この課では、いつもは気にも留めないで使っている電気の
発電、送配電について簡単にふれます。
【和英コース】
技術分野
初級 第 2 課
テキスト
発電
電気の発生、すなわち「発電」とは、ある種のエネルギを電気エネルギに変換することである。
従来使用されてきた電気エネルギ源は、位置エネルギである。例えば、水力発電では水の位置エ
ネルギを使用する。できるだけ高いところにある河川の流域にダムを設け、ここに溜めた水を一
気に落下させて水車を回転させる。水車に与えられた回転力が回転エネルギ(機械エネルギ)で、
これは水の位置エネルギが変換されたものである。この回転エネルギで、発電機(電磁誘導法則
の応用、磁石とコイルで構成)を回転させ発電するのである。位置エネルギが「高さのエネルギ」
であることから、これを一般的に「ポテンシャル・エネルギ」と言っている。
水分子のエネルギは、温度が上昇するとともに大きくなる。水の分子は、蒸気になると動きが
活発になる。ここで出てくるのが石炭や石油に蓄えられた化学エネルギ(燃焼エネルギ)を使う
というアイデアである。石炭・石油を燃焼させて得られるエネルギを用いて水分子のエネルギを
高め、非常に高温の水蒸気にする。そして、この蒸気を羽根クルマ(タービン)に噴射すると、
タービンが高速で回転する。水の温度を高めて蒸気とするには、ウラニウム原子の核反応(化学
エネルギ)を用いてもよい。このシステムも化学エネルギを利用するものであり、化学エネルギ
は機械エネルギに変換される。
最後に、タービンの回転エネルギ(機械エネルギ)で発電機を回転させ発電させる。すなわち、
これは磁界の中でコイルを勢いよく回せば、コイルに電圧が発生するという理論からきている。
このコイルを回すのに、水力や熱を利用しているのである。
このようにして、元のエネルギは最終的に電気エネルギに変換される。発電の名称は、水力発
電、火力発電、原子力発電と、元のエネルギの名に基づいている。
翻訳キーワード
*位置エネルギ
positional energy
*回転エネルギ
rotary energy
*機械エネルギ
mechanical energy
*発電機
power generator
(可搬型のものは dynamo )
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初級 第 2 課
技術解説
水力発電所、火力発電所、原子力発電所で発電したエネルギは送電線、変電所、配電線を通じ
て各家庭に送られます。ここではまず電気エネルギの発生、すなわち発電から説明します。
1. 発電
電磁誘導による起電力の発生
一般に用いられる発電機の発電原理は、コイルが磁界をよぎる時に発生する誘導起電力を応用し
たものです。すなわち図 2-1 のようにあるコイルを磁極 N−S 間に置きこのコイルを回転させ、
「フレミングの右手の法則」(Fleming's right-hand law)にしたがいコイルに誘導電圧が発生
するのを利用します。この誘導電圧の大きさは
コイルが回転
コイルの巻数および磁束変化量に比例します。
現実のコイルは巻数を増やしたかご(籠)形
電流
の形状になっており、回転させる動力源とし
ブラシ
スリップリング
て、水力(水車などを経由)、火力(石炭・石
導体
油ボイラなどによって水蒸気を発生させ、ター
ビン羽車に吹き付け、回転させる)、原子力(核
絶縁体
右手の法則
反応熱でボイラから水蒸気を発生させ、タービ
ンに吹き付け、回転させる)などを応用します。
図 2-1 交流発電機のしくみ
コイルを回転させると電気を生じる
(実際の発電機はこのコイルが多数ある)
運動させる
フレミングの右手の法則
コイルが磁束をよぎるとそれ自身に起電力が
S
発生しますが、この現象はイギリスの科学者
M.Faraday が 1831 年に発見しました。発生す
磁石のS極
N
磁石のN極
運動の方向
る電気は、その流れる向き、コイルの移動方向、
磁界の向きに一定の関係があります。それらの
関係は右の図のように、右手の親指、人差し指、
磁束
中指を互いに直角に曲げて表せます。これを、
フレミングの右手の法則といっています。
起電力
(電流)
図 2-2
フレミングの右手の法則
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2. 送・配電
水力発電所、火力発電所、原子力発電所で発電した電力(電気エネルギ)を工場や家庭に送・
配電するには、電力系統、すなわち、送電線、変電所、配電線からなる送・配電システムを通じ
て行われます。水力発電所はダム貯水による発電ですから人里離れた山間地に配置され、また火
力発電所や原子力発電所は燃料補給、公害・騒音防止などの点から市外地を外れた場所に設置さ
れるのが普通です。一方家庭の大半や工場は市街地に隣接していますので、それら工場や家庭に
は図 2-3 のように送電線、変電所、配電線を経て電気エネルギを供給することになります。
原子力発電所
火力発電所
50万V
27万5000V
超高圧変電所
水力発電所
15万4000V
一次変電所
大工場
15万4000V
∼
6000V
6万6000V
鉄道変電所
配電用変電所
柱上変圧器
低圧配電線
100V
農家
引込線
住宅
図 2-3
200V
100V
商店
200V
小工場
発電から消費まで
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直流送電は電圧を可変できないことから、多くの先進国では行われていません。現在の主流は
交流による高電圧、それも 50 万ボルトという超高圧を発電所(例;黒部発電所)で発電し、そこ
から高圧送電線を通じて市外に設置した一次変電所(例;多摩変電所)にまで送り、そこからさ
らに配電用変電所(例;中野変電所)にまで送電し、そこで低電圧(100V、200V)に落として
配電しています。
理由は、交流はトランスを使用すれば任意の電圧に変換することが可能なこと、また送電電力
が電圧の 2 乗に比例するのを利用しているからです。
詳しくいうと、供給電力エネルギが 1 万 W とすると、電力 P は電圧と電流を掛け合わせた値で
すから、電圧 1 万ボルト×電流 1 アンペアでも、電圧 1 ボルト×電流 1 万アンペアでも、送る電
力エネルギは同一となります。しかし電流は電子の流れですから、大電流を送ることはたくさん
の電子を送ることになり、細い電線では電線自身の抵抗によって赤熱(せきねつ:エネルギ・ロ
スが多大となる)してしまいます。これを防ぐには大げさに言うと、電線を直径数メートルにで
もするしか方法がありません。しかし、超高圧で送電すれば電流が小さくて済みますから、比較
的細い電線でも同一の電力エネルギを送れるのです。
トランスの原理
下図のように 2 つのコイルを互いに近接して鉄心などの強磁性体に巻き付け、一方のコイルに
電流を断続すると他方のコイルに電圧が発生します。断続電流はいわば交流ですから、一次コイ
ルに交流を流すと二次コイルにも電圧が発生することになります。トランスはこの原理を応用し
たもので、一次コイルと二次コイル間の電圧関係は、その巻数比で決まり、e1:e2=N1:N2と
なります。すなわち一次コイルが 1 万回巻き、二次コイルが 100 回巻きとしたトランスの一次側
に 1 万ボルトを与えると、二次側は 100 ボルトとなります。
二次コイル:巻数N2
一次コイル:巻数N1
電圧e2
電流
電池
電圧e1
磁力線
電圧計
鉄芯
スイッチ
図 2-4
トランス
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添削課題
● 次の日本文を英訳して下さい。
送配電
発電所で生み出す電気は、非常に高い電圧をもっており、例えば 50 万ボルト、75 万ボルトに
もなる。これは、電圧を高くした方が送電コストは安価となるからである。電気の送配電で重要
なのは、電気エネルギ(電力のこと。すなわち、電圧×電流)を効率良く送ることである。理論
的には、ケーブルを通して送電する電力は、電圧を高くし電流を低くしてもよいし、電圧を低く
して大電流を送ってもよい。しかし、大電流を送るためには非常に太い送電線が必要である。そ
のように太いケーブルを用いると送電線に大量の銅が必要になり、非常に高価となるばかりでな
く、重量も増すため鉄塔から垂れ下がってしまう。そのため電圧を高くし、比較的細い電力ケー
ブルを用いるシステムの方が効率よく大量の電力を長距離送電できる。送電線は米国では大部分
が地中に埋められる場合が多いが、日本では通常これを鉄塔に架けて国中に送電している
しかし、このような高い電圧を発電所から家庭に送電するのは安全ではない。そこで発電所で
つくった電気は、専用の高圧線でまず変電所に送電し、高電圧をそこで 1,200 ボルト、あるいは
3,000 ボルト程度にまで大幅に下げるのである。そして変電所は、これらの電圧で柱上変圧器ま
で配電する。しかし電圧は依然として高いので、最後に変圧器で 100 ボルト(実際には単相 200
ボルト)に下げている。
変圧器は、これも電磁誘導法則(鉄芯に一次コイルと二次コイルを巻いたもので構成)を応用
したものである。変圧器で得られる電圧の値は、一次コイルおよび二次コイルの巻数で決まる。
翻訳キーワード
*送配電
power distribution
*変電所
sub-power station
*柱上変圧器
pole transformer
*電磁誘導の法則
Law of Electromagnetic Induction
*一次コイル
primary coil
*二次コイル
secondary coil
*鉄芯
iron core
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