マルチモダリティを活用した 乳腺画像診断

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Ultrasonic Week 2015 ランチョンセミナー 10
マルチモダリティを活用した
乳腺画像診断
日本超音波医学会第 88 回学術集会など 4 つの学会・研究会の共催による Ultrasonic Week 2015 が 5 月 22 日(金)〜 24 日(日)の
3 日間,グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)にて開催された。23 日(土)に開催された日立アロカメディカル株式会社共催のランチョ
ンセミナー 10 では,昭和大学病院乳腺外科准教授の明石定子氏を座長に,刈谷豊田総合病院放射線技術科副部長の桑山真紀氏と静岡県立
静岡がんセンター生理検査科部長・乳腺画像診断科部長の植松孝悦氏が,
「マルチモダリティを活用した乳腺画像診断」をテーマに講演した。
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講演
Report
乳腺超音波検査の最前線
~実はここまでわかる Elastography ~
桑山 真紀
刈谷豊田総合病院放射線技術科
当院では,健診センターでの乳腺検査に
を表す赤が混在する断面など,断面によっ
Score 判定にて良悪性の補助診断をする,
おいて,2014年10月から超 音 波 検 査
てカラー分布が異なっており(図 1 b),
②所見としてピックアップするか否かを
(US)にはエラストグラフィ,マンモグラフィ
B モードとの不一致により,Elasticity
振り分ける,③病変の組織構成を表示
(MMG)にはトモシンセシスを追加して総合
Score では評価できなかった。穿刺吸引
させる,④病変範囲を同定させる,⑤病
判定を行う運用を計画し,この半年間の成
細胞診は陰性であったが,病理組織診
変の存在を強調させる,という 5 点に用
績 は 要 精 検 率4 . 73 %, 乳 がん 発 見 率
断にて乳がんと確定し手術となった。病
いているが,①,②はカラーパターン診
0.23%,陽性反応的中率4.76%と,い
理像との比較では,RTEにて青の多い断
断を用い,③〜⑤はカラー分布を見てい
ずれも上昇傾向にある。本講演では,マル
面では病理像にてがん細胞が認められ,
る。カラー分布では,組織の細部が表現
チモダリティを活用した乳腺画像診断,な
緑が多い断面では青い部分ががん細胞,
されていることが重要であるため,より
かでも日立アロカメディカル社の“Real-
ほかは壊死成分であった(図 1 a)。RTE
高画質なエラストグラフィが求められる。
time Tissue Elastography(RTE)”
に着目していれば,穿刺吸引細胞診に
RTEでは,高精度に変位を算出し,そ
の評価のポイントと有用性を中心に述べる。
RTE とは
本講演で最も伝えたいのは,
「RTE は
組織の硬さ(ひずみ・弾性)分布画像で
て適切な部位を穿刺できていたはずであ
の精度を維持したまま効果的にカラーマッ
り,反省症例であった。
プを割り当てており,組織の硬さ分布画
エラストグラフィの有用性と
当院での使い方
間分解能で表現できていると思われる。
ある」ということである。このように考
『乳房超音波エラス
えるに至ったきっかけの症例を提示する。
トグラフィ診療ガイド
症例 1 は,触診にて左乳房に直径約
ライン 2013 』 には,
a:病理像
b:RTE画像
c:Bモード画像
1)
3 cm の腫瘤を認めた。MMG では局所
診断手法として,カラー
的非対称性陰影(FAD)と石灰化が認
パターン診断,グレー
められ,カテゴリー 4 とした。US の B モー
スケール画像のサイズ
ドでは,境界明瞭粗糙,内部エコー不
比,硬度(組織弾性)
均一,後方エコー不変,点状高エコー
の数値化が紹介されて
を伴う楕円形の腫瘤で,周囲の脂肪レ
いるが,実際の臨床的
ベルはやや上昇しており(図 1 c),乳が
有用性として,エラス
んまたは膿瘍が疑われカテゴリー 4 とし
トグラフィのカラー分
た。当日の RTE では,硬いことを表す
布を利用している場合
青が多い断面や,緑が多く軟らかいこと
が多い。① Elasticity
90 INNERVISION (30・9) 2015
像を高空間分解能,高色分解能,高時
がん細胞部分
壊死部分
図 1 ‌症例 1:RTE に着目していれば適切な穿刺が可能だった
症例
〈0913 - 8919 / 15 /¥300 / 論文 /JCOPY〉
Ultrasonic Week 2015 ランチョンセミナー 10
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a:RTE 画像
b:Bモード画像
c:病理像
a:RTE画像
a:コアの青い部分
b:低エコーの部分
c:がん細胞が密,
線維化が進んで
いる部分
a:青のグラデーション
を形成している部分
b:境界部高エコー像
を形成している部分
c:がん細胞,
線維化,
炎症細胞,
脂肪組織
などが入り乱れて
いる部分
a:周囲の赤い領域を
圧排する緑色の部分
b:境界部高エコーが
脂肪へとなだらか
に移行する部分
c:がん細胞と脂肪が
入り乱れている部分
図 2 ‌症例 2:硬癌における RTE 画像,B モード画像,病理像
の比較
a:造影MR画像
b:RTE画像
c:病理像
図 4 ‌症例 4:囊胞内乳頭癌における造影 MR 画像,RTE 画像,
病理像の比較
b:造影超音波画像
c:病理像
モダリティソースの特徴を生かした病態が表現されている。
図 3 ‌症例 3:浸潤性小葉癌における RTE 画像,造影超音波画像,病理像
の比較
とがある。特に,RTE
像も病理像と一致しており(図 3 b),モ
は相対評価であるた
ダリティソースの特徴を生かした病態が
め,ROI 設定を正確
表現されていた。
に行わないとカラー分
症例 4 は,前医より紹介となった症
布が乱れてしまうので,
例で,針生検後のため充実部に血液が
病変全体のカラー分
入り込み,US の B モードにて病変部は
布を追究する場合に
不明瞭であった。病理組織診断の結果
は 分 割 して 撮 像 し,
は囊胞内乳頭癌であった。術前の造影
総合的に判断する必
MRI では辺縁および隔壁のみが造影さ
要があると考える。
れており(図 4 a),Real-time Virtual
また,硬さ分布の
Sonography(RVS)を用いて造影 MRI
評価における RTE の
ガイド下 RTE を施行したところ,隔壁
調整法の一つとして,
部が緑で表示された(図 4 b)。造影超音
ゲイン調整がある。強
めにすると分布にメリハリが出てスコア
波も同様であり,病理像ともよく一致し
ていた(図 4 c)。
RTE による組織および硬さ分布
の評価
リングしやすくなり,弱めにするとカラー
症例 2 は硬癌で,RTE ではスコア 5 で
ぎには注意を要する。
RTE は組織の硬さの高画質な画像情
マルチモダリティの中の RTE を
観る(診る)
し,適切な条件で使用することで,組織
1.症例提示
た,ほかのモダリティと組み合わせるこ
表示される周囲の脂肪領域を圧排する
症例 3 は,右乳がん(浸潤性小葉癌)
とで,その病態をさらに正確に把握でき
緑色の部分がある(図 2 a)。B モード画
で乳房切除後の症例である。MMG では
るポテンシャルがあり,非常に有益なツー
ルであると考える。
あるが,よく見ると青く表示されている
部分にもコアとなる色の濃い部分と,そ
の周囲の色がやや薄くグラデーションを
形成している部分があり,さらに,赤で
分布が確認しやすくなるが,調整のし過
像と比較すると,低エコー部分,境界
U 領域に FAD が認められカテゴリー 3
部高エコー部分,そこから脂肪へとなだ
であったが,US の B モードにて同部位
らかに移行する部分が RTE のカラー分
に不整形で境界明瞭粗糙の低エコー腫
布とよく一致しており,病理像の組織分
瘤と乳腺境界の断裂が認められ,カテゴ
布とも一致していた(図 2 b,c)。ここか
リー 4 と判定された。トモシンセシスを
ら,RTE は組織分布をきちんと評価で
施行したところ,構築の乱れを伴う腫瘤
きると考えられる。
が認められ,浸潤性発育をするような組
一方,RTE では,例えば,ひずみの
織型が予想された。RTE ではスコア 4 と
大きい部分と小さい部分がどちらかに偏っ
判定したが,カラー分布を見ると青い中
た割合で混在している場合,カラー分布
に緑が偏在しており(図 3 a),病理像
が割合の大きい方にシフトしたり,グラ
(図 3 c)における血管の走行と一致して
デーション分布が正確に表示されないこ
いることがわかる。造影超音波の積算画
まとめ
報であり,画像構築のコンセプトを理解
構築を正確に表現することができる。ま
●参考文献
1)中島一毅・他:乳房超音波エラストグラフィ
診療ガイドライン 2013.
http://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/
pdf/elast_nyusen_ja.pdf
桑山 真紀 (Kuwayama Maki)
1990 年 名古屋大学医療技術短期大学部診療放射線技術
科卒業。同年 現・藤田保健衛生大学病院放射線科入職。
1998 年 現・医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院放射線技
術科入職。2014 年〜同科副部長。
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