01 CASE STUDY CASE STUDY 01 小 石 研究 室 /児 玉研究 室 /タイヤ研究部 自動車の空気抵抗を抑え、低燃費化の実現へ 「インサイドフィンタイヤ」 開発ストーリー タイヤで自動車の空気の流れを変える 新たな挑戦 社外の協力を得ながら、 仮説を検証していく 経験が必要となる。しかし、開発当初、横浜ゴムでは流 体での空気抵抗が低減することが確認でき、この効果は 体シミュレーションの経験はさほど多くなく、開発にお 風洞試験でも確認できた。実は当初仮定していた、タイ いて重要となる「勘所(いわゆるエンジニアリングセン ヤサイド部のフィンによる床下の空気の流れの変化はほ ス)」を的確に掴むまでに至っていなかった。 とんど発生しておらず、仮説とは異なるメカニズムで自 動車の空気抵抗が低減していることがわかってきた。 そこで、CFDシミュレーションを研究している大学との 共同研究からアドバイスを受け、次第にCFDシミュレー ションの経験の蓄積を行っていった。そして、モデルの 低燃費化に寄与するコンセプトとして横浜ゴムのコンセ 作成方法やシミュレーション方法について試行錯誤を繰 プトEV「Aero-Y」のタイヤに実装され、2013年の東京 り返し、横浜ゴム独自の解析技術とノウハウを、数カ月 オートサロン、東京モーターショーに展示された。 「タ の間で得ることができた。 イヤにフィンをつけることで自動車全体の空気抵抗を下 げる」という低燃費化へのアプローチは、自動車・タイ 定常走行中の自動車に作用する抵抗は「走行抵抗」と 実際の研究は、自動車の床面の空気の流れをタイヤで 呼ばれ、これは、「転がり抵抗」と「空気抵抗」に大別 変えることで、自動車の空気抵抗を変えられるのではな 風洞試験(※1)を行い、実験的にも効果を検証する必要が される。横浜ゴムをはじめ国内外のタイヤメーカーでは、 いか、という仮説を検証することから始まった。この仮 あった。しかしながら、この風洞試験には、車両とタイ 自動車の低燃費化に対し、転がり抵抗を低減するための 説によれば、車両外側よりも、床面に面している車両内 ヤの模型が必要になるが、これらについても、まったく 努力を行っており、転がり抵抗を下げることは、タイヤ 側のタイヤサイド部付近に何らかの工夫が必要となる。 製作経験がなかった。そこで、風洞試験や、自動車のデ また、今回のように効果が未知数のタイヤに関しては、 では、車両内側のタイヤサイド部にどのような工夫があ れば、床面の流れを変えることができるのであろうか。開 形状と走行速度によって異なるが、低速走行では転がり 発メンバーでディスカッションを繰り返したが、タイヤで 抵抗が支配的である。しかし、空気抵抗は車速の二乗で 自動車の空気抵抗を変えることなど、まったく未経験のこ 増加するため、比較的高速度においては、空気抵抗が支 とであり妙案が思いつくわけでもなかった。そこで、まず 配的となる(図1)。つまり、高速走行中の自動車の低燃 はタイヤ周りの流れを変えてみようということになり、凹 費化においては、自動車の空気抵抗を低減することが有 凸をタイヤサイド部に取り付けて試してみることになった。 効なのである。 を引くこととなった。 図4 コンセプトEV「Aero-Y」 まずは、空気の流れを作り出す機械である送風機を参 要請し、1/4スケール模型を製作し、この模型を使用し た風洞試験が行えるようになった。 ※1 風洞試験:風を流す装置を使用し、その中に模型を置き、模型のまわりの空気の流 れや模型に働く力について調査する試験。 横浜ゴム コンセプトEV Aero-Y 低燃費化を実現する 新たなタイヤを世の中へ 自動車の空気抵抗は、自動車のボディ周りの空気の流 考にし、車両内側のタイヤサイド部にフィンを取り付け このように、インサイドフィンの効果をシミュレーショ れに大きく依存することが知られているが、カーメー た「インサイドフィン」タイヤ (図2) による自動車の空 ンと風洞試験の両面から確認する環境が整い、2011 ∼ カーの先行研究によると、タイヤ付近からの空気の流れ 気抵抗の変化について調べることになった。これは、タ 12年にかけて多くのデータを収集することができたのだ。 が自動車各部(主に床面や背面)の流れに影響を与えてい イヤが回転することにより、タイヤハウス内の流れを変 その結果として、インサイドフィンがタイヤハウス内の ることがわかってきている。そこで、横浜ゴムでは、タ え、さらに床下流れが変わることを期待した形状である。 空気に渦流れを誘起し、タイヤハウスを前面に押す力を Aero-Yのインサイド フィンタイヤ 発生することを発見した。また、この力により自動車全 イヤ形状を変えることで、タイヤ周りの空気の流れを変 え、さらに、その流れが自動車周辺の流れを変えること ヤ業界でもはじめての試みであったため、多くの人の目 ザインから製作まで、幅広く手掛けている会社に協力を の性能の中でも重要な要求項目となっている。 一般的に、転がり抵抗と空気抵抗の割合は、自動車の このインサイドフィンは、自動車の空気抵抗を下げ、 図2 インサイドフィンタイヤモデル 図3 シミュレーション で自動車全体の空気抵抗を下げることができるのではな 結果に手応えを感じながらも、 横浜ゴムの挑戦は終わらない いかと考えた。もし、このようなタイヤが実現できれば、 転がり抵抗の低減とともに、自動車の低燃費化への新し いアプローチとなり、さらにタイヤに対して新しい付加 シミュレーションと風洞試験を駆使することで、 「イ 価値を付与することができるはずである。 ンサイドフィンタイヤ」という新しい付加価値を持った タイヤをつくりだすことができたことは、技術者・研究 自動車が受ける抵抗 図1 自動車の走行抵抗 シミュレーションによるテスト モデル周辺の流れの分析 インサイドフィンの効果を検証するために、シミュ 空気抵抗 80 速度[km/h] 100 だと考えている。また、タイヤ付近の流れは、自動車の レーションと実験の両面からの検討を行った。自動車ま 操縦安定性にも影響を与えると推測しており、今後は、 わ り の 空 気 の 流 れ を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン す る 方 法 は、 転がり抵抗 60 ンタイヤの効果には満足しておらず、私たちは、もっと 空気抵抗の低減効果が大きいタイヤを見出すことが必要 空気抵抗 + 転がり抵抗 40 者として満足している。しかし、現状のインサイドフィ 120 CFD(数値流体力学)シミュレーションと呼ばれ、専用 のソフトとともに、シミュレーションを駆使する技術と 空気抵抗のさらなる低減とともに、自動車全体の空力的 インサイドフィンに より誘起されたタ イヤハウス内の渦 操縦安定性を向上されるタイヤの研究開発を行い、タイ ヤの高付加価値化に貢献していきたいと考えている。
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