車のハンドルに搭載可能な 呼気アルコール検知システム - 日立製作所

中央研究所
車のハンドルに搭載可能な
呼気アルコール検知システム
飲酒運転事故の撲滅に向け、
国土交通省は2011年5月1日から
自動車運送事業者の点呼においてアルコール検知器の使用を義務化しました。
そこで日立は一般車両への搭載も念頭に置いた、
小型呼気アルコール検知システムを試作。
微小な水クラスターの質量を検知し、
呼気であることを証明する
「小型質量分析装置」
と
アルコールセンサーを組み合わせ、
ハンドル部へ設置することで普通の姿勢のまま測定可能としました。
自動車をはじめとする交通システムにおける飲酒運転防止に寄与する技術として期待されています。
人の呼吸を明確に検出する
「小型質量分析装置」が原点
̶̶ 今回の技術を開発された背景から教
えてください。
中央研究所
主管研究長
理学博士
坂入 実
困難なため、脱法行為を見逃す可能性な
なっています。呼気中に含まれる水クラス
どが大きな課題となっていました。
これに対
ターは、大気中で電界をかけると、瞬時に
し私たちが開発した技術は、特別な動作を
正と負のイオンに分離されます。
イオン化に
行うことなく車中で容易に測定でき、
それが
より水クラスターが電荷を帯びると、真空で
間違いなく人間の呼気から検出されたもの
はない大気中でも浮力、空気抵抗、重力、
であることを証明できる装置を、低コストに
電界による力の影響で、そのサイズによっ
実現できるものだと考えています。
て異なる運動をすることがわかりました。
こ
※ エンジン始動時などに運転者が装置に息を吐きかけ、
呼気に規定以上のアル
コールが検知されると、
アラームが鳴ったり、
エンジンが始動しないようにする装置
の性質を利用すると、人の呼吸を連続的
かつ明確に検出できるのです。
̶̶どのような技術で構成されているので
しょう。
河野 通常、呼気中成分の精密な分析に
坂入 核となるのは、呼気中の微小な水
のが大前提でした。
しかし坂入は、計測対
粒子(水クラスター)
を検出する
「小型質量
象によっては大気中でもその計測原理の一
分析装置」
です。
これはもともとアルコール
部が使えるのではないかと考えチャレンジし
用いる質量分析装置は真空中で計測する
坂入 自動車の安全走行のため、
日本だ
検知とはまったく別の目的のイオン電流計
この原理的な発見自体が非常に大
ました。
けでなく世界的にも飲酒運転撲滅の取り
測に関する研究を行っていた際、
たまたま
きな功績で、
イオン化装置や真空ポンプなど
。国内では緑ナン
組みが強化されています。
自分の呼気がノイズとして計測されている
が必要なくなるため、装置の小型化につな
呼時のアルコール
バー事業者に対して点呼時のアルコール
ことに気づいて発見した原理がベースに
がりました。温度、湿度、酸素といった複数
されま
検知器の使用が義務化されま
転で摘
したし、海外では飲酒運転で摘
ルバス
発された運転手やスクールバス
などの運転手に対してアルコー
ルコー
この速度成分
を小さくする
空気抵抗
電荷を持つ
クラスター
入検討が始まっています。
。
ただ
し、
こうした際に使われる既存
既存
電界による力
一般車
のアルコール検知器を一般車
にも適用しようとすると、マウス
重力
電荷を持つ
小さな
クラスター
検出電極
一呼吸
電界
検出
化や導
ルインターロック※の義務化や導
高電圧印加電極
浮力、
空気抵抗
電荷を持つ
大きな
クラスター
試料導入
方向
ため衛
ピースを使って測定するため衛
生的に問題があったり、装置自
体が大きくコストもかさんだ
だりす
ること、
さらに言えば検出された
された
【大気中】
大気中の平行平板電界下で、
検出電極に衝突するクラスターの個数は、
①電極間の位置、
②クラスターの大きさ、
③クラスターの電荷、
の関数となる
アルコールが本当に呼気中に
気中に
判別が
含まれているかどうかの判別が
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【平行平板電界下】
図1「小型質量分析装置」
の構造と原理
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呼気アルコールセンサー部
しても、
しても 呼気特有のピークが計測できない
行為がありました。
しかし運転中も継続的に
ので代替はで
きません
(図1)
。
ので代
アルコールを検知し、
きちんとエビデンスが
残る仕組みを作ってしまえば、飲酒行為を
運転中も継続的にアルコールを検知
運転中
抑止する効果が高まります
(図2)
。
ハンドル付近にチューブを取
河野
河野 一般車両への搭載をめざすには、 ̶̶なるほど、
もう1つク
1つ リアしなければならない課題があ
り付ける意味はそこにもあるのですね。
りました。
した 当初考えた装置では、呼気を吹き
呼気吹き込み用の
チューブ
かける部分と
アルコール検知のセンサー部
かける
さまざまな医療診断への応用も期待
分が一体化していたため、
ハンドル部分に
分が一
取り付
取り付けて普通の姿勢で計測できるように
̶̶ 今後の展開を教えてください。
するた
するためには、
やや大きすぎたのです。
しか
制御回路部
(ダッシュボード内へ収容)
図2 ハンドル付近への設置イメージ
のパラメーターを測ることで人の呼吸である
長
し、長いチューブを介しても呼気中に含ま
坂入 車内における装置の安定的動作な
れる微
れる微小な水クラスターが拡散せずに伝
どの実証実験を行いながら、製品化に向
搬することを坂入が発見し、呼気吹き込み
搬する
けて取り組んでいきたいと思います。
また次
口をハンドル付近に、装置自体はダッシュ
口をハ
なるステップとしては、飲酒運転防止に続
ボード内にセパレー
ド
トで組み込むという今
けて居眠り運転の防止などにも、
この技術
回のアイデアが生まれたのです。
が応用できると考えています。
̶̶またまたユニーク
な発見があったわけ
̶̶
̶
ま
ですね。
ですね
ことを証明しようとする方法もありますが、
わ
れわれの方式なら1つのセンシングだけで
坂入 生体情報の正確な計測方法につ
証明できるため装置を低コストで作ること
いてのさまざまなアイデアを出しながら、試
中央研究所
ライフサイエンス研究センタ
メディカルシステム研究部
主任研究員
医学博士
河野 美由紀
ができるのも大きなメリットです。
これにより、 行錯誤で進めている中、数百cmの長さな
アルコールセンサーと組み合わせ、人の呼
ら、
チューブを使っても呼吸特性がきちんと
気であることの証明とアルコール検知を同
捕まえられることが証明できました。
これも
時に行う技術を確立したわけです。
偶然といえば偶然なのですが。
河野 人間は眠くなると呼吸間隔が空き、
̶̶ 素人的に考えると、
わざと小さく息を吹
̶̶ハンドル付近のチューブに息を吹き込
ゆっくりとした呼吸になります。その呼吸の
き込めばアルコールも少ししか検出できな
めば、
ダッシュボード内の離れた装置にしっ
変化をこの装置で捕まえることで、居眠りや
いのではと思うのですが。
かりと呼気が届くわけですね。
疲労などの生体状態を検出し、事前に危
坂入 確かにそうなります。人は呼吸の際
坂入 チューブに向かって息を吹きかける
た呼吸状態から生体情報を継続的にセン
3秒くらい吐くのですが、1秒・2秒・3秒と計
スタイルになりますが、数十cm離れた場所
シングできるので、
さまざまな医療診断装置
測したとき、呼気の強さのピークも段階的に
からでも大丈夫です。
シートに座った普通の
にも応用できるかもしれません。
険を回避できる可能性があるわけです。
ま
変わり、
アルコール量もそれに応じて変化し
姿勢で測定できます。実はこの測定スタイ
ます。
そこで呼気ピークの強度を計測し、最
ルを採用することで、
もう1つ大きな効果が
̶̶ 移動する車内での生体情報をリアル
大量が計測できる時点でアルコール量を
期待できます。運転前だけでなく、運転中も
タイムに計測できれば、
また別なビジネスの
計測するようにコントロールします。
わざと小
常に呼気を計測でき、
その際の日付や時間
芽が生まれてくるかもしれませんね。
これか
さく吹き込めばアラートを出し、
「もう一度吹
などのログが残せるため、運転手にいい意
らの展開が非常に楽しみです。本日はどう
き込んでください」
と指示して計り直す運用
味での緊張感が与えられるのです。
これま
もありがとうございました。
にすればいいのです。同様に、
スプレーな
では事故を起こした後、
酔いをさました後で
どの人工物を吹きかけて検査を逃れようと
出頭するとか、大量の水を飲むなどの脱法
* 本システムは株式会社 日立製作所と株式会社 日立エンジニアリング・アンド・
サービスが共同で試作したものです。
お問い合わせ先
(株)
日立製作所 中央研究所 https://www8.hitachi.co.jp/inquiry/hqrd/rd/jp/form.jsp
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