「海外派兵恒久法」は自民・民主合作の立法改憲である 柴田健次郎(FC事務局員) 新テロ特措法案再議決をどう理解するか はじめに衆議院における新テロ特措法の再議決に ついて考えてみたい。日本は国民主権を原理としてお り、国会は衆・参両院とも普通選挙で選ばれた国民代 表の地位にあり、両者は原則として対等である。憲法 が例外として認めている(59条)時のみ、衆院の優 越が認められ3分の2以上の多数で再議決が出来る。 だからといって例外規定を自由に行使できるとは限 らない。国民代表として、民意に従って国民のために 法律をつくり、政治を行わなければならない立場から すれば、再議決に当たっては極めて慎重でなければな らない。国民の意思は動いているから直近の選挙にお いて多数の支持を得た意見が民意だとするのが合理 的だ。また、具体的に最近の世論調査で世論が示され ておれば、それによって対処すべきである。1月11 日の再議決時点で、インド洋での給油活動を継続する ことが国民に支持されていたとは決して言えない。 従って、衆院における自公与党の単独再議決は、民 意を無視した言語道断の暴挙であり、日本の議会制民 主主義の歴史に汚点を残すものと言わざるを得ない。 小沢一郎民主党代表の奇怪な行動 この再議決に際し、民主党の小沢代表は採決の直前 に退席し棄権した。なんとも理解に苦しむ奇怪としか 言いようがない行動である。自公与党が3分の2の多 数をかさに、50数年ぶりという歴史的な暴挙を行お うとする時、野党の党首として、反対の一票を投ずる のは、政治家としての道義と責任の上から、ごく当た り前のことで、これを怠ることはいかなる理由があれ、 許されるものでない。 氏は大阪府知事選挙への応援を棄権の理由とし、1 月16日に開かれた同党の定期大会における記者会 見で、党首として優先順位を判断してやっていると述 べ、批判に対して「理解できない」と居直り、 「新テ ロ特措法は大事な法案ではない」とも発言した。氏の 「分裂思考」と言うべき不誠実で支離滅裂な言動を目 にすると、こちらの頭がおかしくなる。 想起されるのは、昨年、臨時国会最中の福田首相と の「密室会談・大連立構想」騒動である。その時、急 浮上したのが海外派兵恒久法(以下恒久法)だった。 両者の間には、すでに恒久法に向けて協力する了解が 成立していたと推測される。それを裏付けるのが伊吹 文明自民党幹事長の「昨秋の党首会談で閣内協力が話 し合われ、最終的合意がなされたとうかがっている」 との衆議院代表質問における発言だ。 民主党の「対案」が衆院で継続審議に 忘れてならないのは、新テロ特措法を衆議院で再議 決した与党が、参議院では反対し、民主党などの賛成 多数で可決された同党の「対案」を、衆議院で否決せ ず、継続審議にしたことだ。国会関係者によれば、こ れは極めて異例なことだという。あえて、継続審議に したのは、民主党の「対案」なるものが自民党にとっ てたまらない魅力ある内容だからだ。 再議決で成立したのは1年の時限立法である。1年 後には再延長論議が、再び難航することが予想される。 その間に行われると予測される解散・総選挙で、再議 決が可能な3分の2の議席を与党勢力が再び確保す る保障はどこにもない。だから、恒久法をつくって再 議決も再延長の論議も必要でないようにしたい。その ため、恒久法の制定を含んだ民主党の「対案」を継続 審議にしておいて、民主党を恒久法の協議に引き込み たい、言い換えれば、 「火種」を残しておきたいとい う思惑だ。こうしてみると、小沢氏の棄権と「対案」 継続審議の謎も解けてくる。すべてが、大連立・恒久 法に収斂する。 民主党の恐るべき「対案」と福田康夫首相の対応 新テロ特措法は海上自衛隊のインド洋上での給油 活動に限っているが、民主党の「対案」には恒久法の 早期整備が盛り込まれている。その内容は、国連憲章 第7章の軍事行動を含む強制措置とともに「憲法上の 自衛権に関する基本原則」を盛り込むよう求めている。 民主党はすでに06年に海外派兵における武力行 使を可能にする集団的自衛権の行使を一部容認する 「基本原則」をまとめている。これは国連を“錦の御 旗”として海外での武力行使を公然と認め、集団的自 衛権に基づく派兵まで可能にするものである。さらに、 「復興支援」として陸上自衛隊のアフガン本土派兵、 武器使用基準の緩和までもが盛り込まれている恐る べき内容である。 福田首相は小沢民主党代表との党首会談(1月9 日)で「対案」について「大変意欲的、国会でもおお いに論議したい」と述べ、施政方針演説で自衛隊の海 外派兵が常時、迅速に出来るようにする恒久法を検討 していく考えを示した。民主党の鳩山由紀夫幹事長は、 代表質問で、 「対案」を紹介し、自民党政権の外交・ 安保政策には確固とした基本原則がないと批判し、原 理・原則もなく一般法(恒久法)をつくれるはずがな いと主張した。これに対し、福田首相は民主党との協 議をすすめたい趣旨の答弁をした。馴れ合いもいいと ころ、自民・民主両党は、こと憲法に関しては“同じ 穴の狢”であることがはっきりした。ムジナたちの“茶 番劇”を見せ付けられる国民こそいい面の皮だ。 「海外派兵恒久法」は自民・民主合作の立法改憲 恒久法は、安倍前首相の退陣で、明文改憲が暗礁に 乗り上げ、シナリオが狂った中での自民・民主合作の 立法改憲の路線であると言える。明文であれ立法であ れ、改憲派の意図を打ち砕くため、力を合わせたい。
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