「均一小僧」の新聞論 ■新編集講座 ウェブ版 第39号 岡崎武志さんに聞く 2015/11/1 毎日新聞社 技術本部長(元・大阪本社編集制作センター室長) 三宅 直人 古本に関する著書が多いフリーライターの岡崎武志さん。日本一の古書店街がある東京・神田神保町にちなんで 「神保町系ライター」と呼ばれたり、古本屋店頭の 100 円均一の平台からお値打ち品を掘り出す「均一小僧」の異名 を取ったりの、活字大好き人間です。個人的に古くから付き合いのある岡崎さんに、新聞について聞きました。 ■ 朝はインクの匂いから 「朝はやっぱり新聞やね。朝刊をバサバサ開いて朝ごはんを食べ = 東 京 都 国 分 寺 市 の 自 宅 で るのが儀式と言うか。新聞のインクの匂いがないと一日が始まらへ んし。そういう意味で、僕の世代は大体新聞好きやと思います」 「朝、新聞を読むのは 30 分くらいかな。やっぱり最初に見出し を見て、面白そうな記事を詳しく読みますね。見出しの掛けことば とか、有名な歌のもじりとか、遊び心は好きやね」 岡崎武志さん(おかざき・たけし) 書評家、 「そやけどこれは習慣性のものなんで、若い人にそういう習慣が ライター。1957(昭和 32)年大阪府生まれ。 あるかどうか。新聞社はつらいところやないでしょうか。今はタダ 立命館大学卒。高校講師、雑誌編集者な のネットや何やで大体のニュースをつかむこともできますし」 どを経てフリーに。古本や古書店に関する 「ただね、ネットやブログは悪口というか、はけ口みたいなもの。 社会の公器として物申すのは、やっぱり新聞の役目やと思います。 著書が多い。主な著書に「古本でお散歩」 (ちくま文庫)、 「古本道場」(角田光代氏と 共著、ポプラ社)、「古本道入門」(中公新書 事実を正確に伝え、そのうえで主張し批判する。この二つのことを ラクレ)、「読書の腕前」(光文社新書=下 守っていけば、新聞はこれからも生き残っていくと思いますよ」 欄は07年 5 月31日本紙朝刊文化面)など。 ■ 新聞は社会への「窓」 「思うんですけど、新聞は社会への『窓』やろなと。 雑多な情報がコンパクトに詰まっていて、一つの紙面に いろんな記事が載っていますよね。ぱらぱらページを繰 っていくと、全然知らない分野の記事や思わぬ事実に出 合ったりする。経済の記事を読もうとページを繰ってい て、ふと読書欄に目が止まって、面白そうな本の存在を 知るとか。そんな出合いがあるのが新聞の魅力やと思い ます。それで知らず知らず自分の『窓』が開いていく。 それが新聞の魅力やないですか」 「さっきのネットの話で言うと、ネット専門の若い人は窓を一つ か二つしか開けてへん。情報がどんどん断片化されて、それをばら ばらな断片のまま拾って、はい一丁上がりと。それではあかん、タ コツボやね。好奇心も、へたっていくんやないかな。驚いたり、知 りたいという気持ちがなくなったら、どんな仕事でもやっていかれ へんと思うけど」 岡 崎 さ ん の 著 書 ■ インタビューの作法は新聞と同じ =自宅地下の書庫で 「僕はこの業界で最初、雑誌インタビューの仕事をしてました。 取材の根本は、甘いかもしれへんけど、人対人の信頼やと思います。 教師の経験も生きたと思うし。それは新聞でも同じやないかな」 「インタビューは 1 時間は欲しいね。手探りで歩み寄って 30 分 過ぎて暖まって、それから。黒柳徹子さんに話を聞いた時は、遠慮 して『30 分でいいです』と言ったのに、いや、しゃべるわ、しゃ べるわ。2 時間以上の熱弁で、ホンマ面白かった。録音に 120 分テ 本棚に入りきらない 本が山積 ープしか持って行かへんかったし、テープ止まってんねんけど」 「それと、話を聞かせてもらうのだから、こちらも何か差し上げ ることを心がけています。「とらや」のようかんやなくて、話のネ タみたいな。由紀さおりさんに会った時、『こども家の光』という 昔の雑誌に、子供時代の由紀さんが消防署を訪問した記事が載って いる号を持っていて差し上げたら、 『お宝になる』と大喜びでした」 ■ 2万冊 地下のラビリンス 以前、自宅地下にある書庫を拝見したこと があります。広さ約 21 畳の空間に 30 本以上 の本棚が並び、蔵書は「約2万冊」とのこと。 単行本、新書、雑誌、パンフレット、何かの付 録(?)が、所狭しと積まれていました。 ■ 捏造と脚色の違い 「家を買う時、地下室が決め手やな、と」。 「雑誌だと、ビートたけしの談話は全部『オイラ』だよね。そん 引っ越しの時、本は自分で先に運んだそうで なしゃべり方する人なんて、いてへんのに。(プロ野球の)清原や すが、後で机やソファーを搬入してきた業者 ったら『ワシ』とか」 「ただ、捏造(ねつぞ う)はあかんけど、話の 順番の入れ替えとか、イ ンタビュー後の雑談を ■ 40 年ぶりの再会 岡崎さんと私は、実は小学校の同級生。 文字通り古くからの付き合いです。 10 年ほど前、 当時東京在勤だった私は、 岡崎さんが「サンデー毎日」に原稿を書 いているのに気づき、 「もしや、あの岡崎 ーい」と他のメンバーを呼びに行ったとか。 転居当時「全ての本の背表紙が見えた」の に、「毎月 100 冊買うので年に 1000 冊増殖 し」爆発寸前。「まあ地下やから、絶対に床が 抜けへんのだけは確かです」。 中心に書くとか、脚色は 著書「蔵書の苦しみ」(光文社新書)による 必要やと思いますよ。よ と、数千冊単位で処分したけれど「ビクともし り良い表現のための手 なかった」そうです。 段やね。聞いた通りにテ ープ起こししたって、そ 君?」と編集部に問い合わせの電話をし、 んなん原稿やないしね」 何十年ぶりかで劇的な再会をしました。 「 新聞 のイ ンタ ビュ その模様は、日経新聞に掲載されました ーはどうなのかな。捏造 (08 年 9 月 6 日朝刊「交遊抄」=上図) 。 が地下室を見るなり笑いだし、「おーい見にこ しない、つまり客観性を 守りつつ、談話を再構成し自分の主観をにじみ出す。まあ西田幾多 郎の『主観即客観』みたいな、ゆうて哲学教室みたいやな」 ■ 中川五郎さんとも交遊 岡崎さんとは最近も東京都内で一献傾け ■ 短詩を読んで見出しの修行を 「僕も雑誌の記事の見出しは自分で付けていたから分かるけど、 たのですが、前に杉並区の古本酒場(そうい う店があるのです)で取材した(単に飲んだだ あの短い字数にまとめるのは、ホンマ大変やね。短くて、印象的で、 けですが)時は、関西フォークの旗手と言わ 読もうという気を起こさせて。言葉のセンスが求められるな、と」 れた歌手の中川五郎さん=写真㊧=とばっ 「短詩を読むのがいい勉強になると思うよね。俳句とかもいい。 句集は日本の財産やと思いますよ。整理部の人もどんどん読んで、 感覚を磨いて欲しい。たとえば尾崎放哉。ぜひ手に取ってほしい」 たり。以前からお付き合いがあるそうで、岡崎 さん=同㊨=の文筆活動の背後にある多彩 な交遊の一端に触れることができました。
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