(WLB)の実現支援等で法定外福利費は増えるか

中小企業の経営者様必見!
1月号
明治安田生活福祉研究所
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これからの福利厚生
第10回 ワーク・ライフ・バランス
(WLB)
の実現支援等で法定外福利
費は増えるか
1.
増えると思うが2013年で56%占める
「ワーク・ライフ・バランス(WLB)の実現支援、企業の社会的責任
(CSR)の充実などへの取り組みを通
じて事業主の法定外福利費の負担は増えると思うか」
とのアンケートの質問に対する回答は、
そう思うが
2013年で55.7%を示した(図表1)。
図表1 WLB の実現支援、CSR の充実などへの取り組みを通じて事業主の法定外福利費の負担は増
えると思うか
出所:労務研究所 2013 年版「福利厚生の今後をどう考えるか」
アンケート調査報告書
(企業・団体の福利厚生担当者、研究者等からの回答)
WLB実現のためには、労働時間の短縮、育児・介護休業に伴う各種の法定・法定外の支援策が求められ
る。このうち、法定外の費用として経団連が定義しているものは、
「福利厚生費調査」
によると、
育児支援と
しては、直営・委託を問わず託児・育英施設運営の費用、保育士等の人件費、奨学金や保育サービスの利用
補助、育児・教育相談費用の補助、教育ローンへの利子補給などの費用、育児用品の購入費補助、介護支援
としては、介護関連施設や介護タクシーなどの利用費用の補助、介護費用や介護相談費用の補助、介護用
品の購入費補助などである。
これらの費用は、このところ大きな増加を示している。
育児の費用と介護の費用を合計した従業員1人
1カ月当たりの費用の推移をみると、2002年度の55円が2013年度には370円へと6.7倍に増えた
(図表
2)。
図表2 介護+育児関連の費用は増加を続ける(従業員1人1カ月当たり)
出所:経団連「福利厚生費調査」
(2014 年 12 月)
2.
出産後に継続雇用するときのコスト
経団連の「福利厚生費調査」では、育児・介護休業者への賃金補填の費用、
代替要員の雇用に伴う費用、
休
業者の業務を代行することで発生する時間外労働の費用などは除外されている(現金給与扱いになって
いると思われる)
。
2008年4月に「男女共同参画会議・WLB専門調査会」がまとめた資料では、女性が出産で継続勤務した
ときに発生する同僚社員による時間外労働などの代替費用を純コストで試算している
(図表3)
。
純コストを下記の前提条件での4年6週間
(214週×5日=1,070日)で割り、1カ月を23日労働とす
れば、1人1カ月当たりの純コストは、100 ~ 999人企業で9,887円、
1,000人以上企業で17,841円にな
る。
図表3 継続勤務の場合のコスト計算
出所:男女共同参画会議・WLB に関する専門調査会(総務省)
、2008 年4月
3.
休業者への所得補償額は対象者1人当たり月約3万円
育児休業取得者には、法定で育児休業給付金が支給される。
1カ月当たりの支給額は休業開始時賃金日
額×支給日数の67%(6カ月経過後は50%)相当額で、通常は1年間、最長で1年6カ月間支給される。
これに対し、企業の中には独自の上乗せ支給を実施しているところがある。2012年の労務研究所調査で
は、上乗せを実施している企業の割合は21.6%だった。
どの程度を上乗せするかは、企業によって異なり、中には、共済会が上乗せする企業もある。仮に、上乗
せ後の給付率が休業前賃金の80%になるように13%
(6カ月経過後は30%)とすれば、どの程度の金額
になるだろうか。
2010年の賃金構造基本統計調査(厚生労働省)によると、一般労働者の所定内賃金は女性で227,600
円であり、この13%は29,588円になる。上乗せ給付は大きな負担になるため、実施率は前述のとおり5
社に1社程度にとどまっている。
従業員1人1カ月当たりに換算してみると、正規の職員・従業員数は3,044万人
(国勢調査)
、有職の出
産者数は2012年では33万人
(人口動態職業・産業別統計(厚生労働省))で、総額は97.8億円、その結果、正
規の職員・従業員1人1カ月当たりで321円になる。企業の中には、上乗せを複数年にわたって実施する
ところがあり、その場合には、受給者数が増えるため、
この2倍以上の費用が掛かる。
4.
ワークライフバランスの実現にはかなりの費用負担が必要
このように、ワークライフバランスの実現には、
多額の企業負担が発生する可能性がある。
今後、
育児休
業期間が延長されたり、さらなる支援策の実施が法定で企業に義務付けられるようになれば、
今のところ
法定外福利費の1%程度である育児・介護の費用がさらに大きくなると思われる。
アンケートで半数を超
える回答者が、事業主の負担が増えると回答した背景にはこうした情勢判断があるものと思われる。
(株式会社 労務研究所 近江谷 栄樹)