欧州環境情報

情 報 報 告
ウィーン
欧州環境情報(11 月号)
欧州、太平洋諸島での持続可能なエネルギー宣言に署名
欧州委員会の Miguel Arias Cañete 気候変動・エネルギー担当委員は、欧州連合(EU)及
び4つの太平洋諸島であるマーシャル諸島、ミクロネシア、パラオ及びナウルと持続可能
なエネルギーに関する協力を強化するために新たな共同宣言に署名した。ニウエとトンガ
との共同宣言は、その後署名が行われる予定である。
2015 年9月8日に太平洋諸島フォーラム首脳会議で署名が行われたその共同宣言は、再
生可能エネルギーやエネルギー効率施策を推進することにより、国のエネルギー部門がよ
り持続可能になることを目指している。また、これを達成するために、彼らは太平洋諸島
で作用するようEUのコミットメントを再確認した。
Arias Cañete 氏は、「持続可能エネルギーは持続可能な発展のための原動力である。こ
れは燃料の輸入依存が経済成長を妨げ、気候変動が他のどこよりも強く影響する太平洋諸
島で特に言えることである。EUは、太平洋諸島の再生可能エネルギーを開発し、省エネ
ルギー化を推進する試みを支援している。」と述べた。
太平洋諸島は海面上昇やサイクロン、地震、津波のような自然災害の増加を含む気候変
動パターンの変化のため、気候変動の影響の矢面に立たされている。トンガのような島国
はまた、原油価格の上昇の圧力を感じており、そのため石油輸入依存からの脱却しようと
する試みに合意した。
さらに、今年5月に、欧州委員会のNeven Mimica国際協力開発委員は、シエラレオネと
ウガンダ、ドイツとフランスが持続可能エネルギーに関しより緊密に作用するよう2つの
同様な宣言に署名を行った。これらの宣言は持続可能なエネルギー部門の達成およびエネ
ルギーの貧困に対処するために緊密なパートナーシップを作るための政治的宣言を強化し
ている。共同宣言はこの11月に開催される気候変動に関する国連サミットの開催期間中に
行われる予定である。
欧州、EU及び国際諸国が原子力の安全性を後押し
EU と国際原子力機関(IAEA)は、世界的に原子力の安全性を改善しようとする動きを維
持・増加させることを保障させ続けようとしている。これは、オーストリア・ウィーンで
開催された IAEA の総会で述べられたメッセージである。2011 年ンお福島原発事故以来、
原子力の安全性は強化されてきている。欧州では改正された原子力安全指令が 2014 年7月
に採択され、EU 諸国は 2017 年8月までにこれを国内法の中に適用しなければならない。
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今年、欧州委員会は 2009 年の安全指令を実施している EU 諸国の進捗状況を評価し、後
ほど報告書を発行する予定である。
さらに、原子力の安全性を強化する必要性を特定するための、いわゆる“ストレステスト”
が欧州委員会と EU 諸国により行われ、これらの手法は現在実施中である。国の行動計画
を見直し、改善するワークショップが、2015 年4月に欧州委員会と欧州原子力安全規制当
局グループにより組織されている。
両組織は、原子力安全、セキュリティ及びその保障措置に関する共通の目標を達成する
ために密接に協力している。緊急時の準備と対応はまた2つの組織の重要な業務領域であ
る。
EU加盟国を代表する委員会は原子力安全に関するIAEAの条約を改正するための交渉に
参加した。会議での声明の中で、委員会は2月に開催された外交会議で採択された宣言を
実施することを全ての締約国に求めた。その宣言は言力発電所の安全性を改善し強化する
ための原則と施行メカニズムを設定している。EUはまた、国境を越え原子力安全の強化に
取組んでいる。“ストレステスト”は原子力プラントの操業或いは計画をしている近隣諸国で
実施され、現在のEUの予算の一部は、チェルノブイリやウクライナでの作業やアフリカで
の採掘の規制のサポート、中央アジアでのウラン採掘後の環境改善を含んでおり、EU内外
の原子力安全に対して支給されている。
欧州、オゾン層にダメージを与える化学物質の段階的撤廃を継続
欧州環境庁(EEA)からの新しい報告書によると、欧州はオゾン層を破壊する化学物質を段
階的に廃止する試みを続けていることが分かった。報告書では、モントリオール議定書と
EU 法により制御される 200 以上の化学物質の使用について考慮がなされている。
過去数十年に渡り、1989 年のモントリオール議定書の発効以降、オゾン層を破壊すること
で知られる化学物質が世界の多くで代替物に置換されてきている。EU 内では、オゾン層破
壊物質(ODS)は同議定書のルールよりもより厳格な ODS 規制が適用されており、その中で
は更なる追加物質についても規制されている。企業は輸入、輸出、生産、破壊を含む ODS
の使用についての報告が義務づけられている。
EU は 10 年先の法的規定を見越して 1987 年から 2010 年にかけてのモントリオール議定
書の要求に沿った ODS 使用の段階的撤廃を実施している。議定書の下での使用量を測定す
るための重要な指標は、消費量である。これは製造、輸入、輸出と破壊に関して報告され
たデータに基づき計算されている。
EEA が発行する報告書「2014 年のオゾン破壊物質(Ozone depleting substances 2014)」
では、EU における 2014 年の消費量はここ数年にわたる傾向と同様に消極的であったこと
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を示している。潜在的なオゾン層の破壊可能性は物質中で変化するため、これらの化学物
質についての収集されたデータは、物理的な重さではなく、その環境への影響の度合いを
示す“オゾン層破壊の潜在性(ODP)”トンで表現される。
報告書は、オゾン層保全の国際デーに一致して発行される。
欧州、EU が気候変動サミットで足並みを揃える
EU の環境大臣は9月 18 日、11~12 月にパリで開催される気候変動会議に先立ち議員連
合の交渉姿勢を採択した。会議の結論では、EU は「法的拘束力のある合意」と「実現可能
に向けた意思決定の包括的なパッケージ」を要求するとしている。
その目的は、地球温暖化を2℃以下に維持するために温室効果ガス排出量を遅くとも
2050 年までに 1990 年比で 50%以下に削減し、2100 年までにゼロまたはそれに近いもの
とするために少なくとも 2020 年までに合意に達することである。しかし、少なくとも 50%
という削減目標は、1990 年比で 2050 年までに 80~90%の排出削減を EU 諸国間で 2011
年2月に合意した目標と比べると、幾分ごまかしに思われる。
ルクセンブルグ大臣で同会議の議長を務める Carole Dieschbourg 氏は、それは妥協であ
るが、野心的で堅牢でダイナミックな気候合意への道をリードするものであると記者会見
で語った。
英国、OXIS 社と Hyperdrive 社が南極のアプリケーション用電池を開発
英国の Hyperdrive Innovation 社と OXIS Energy 社は輸送コストや排出量を増加させる
ことなく、英国の南極調査団が大幅に南極での自律的な科学的測定の頻度を向上できるよ
う超低温バッテリーの開発を協力して行っている。
超低温バッテリー(ULTB)プロジェクトは世界で最も過酷な環境で動作することが可能な
革新的なパッケージングと電子制御機器を組合わせた高エネルギー密度の電池の可能性を
探求している。
Hyperdrive Innovation 社は現在の鉛蓄電池より優れたバッテリーの管理システム及び
パッケージングを開発し、OXIS Energy 社はリチウム-硫黄充電式電池の低温電解質を開発
している。
ULTA プロジェクトは、プロジェクトの最初の顧客となる英国南極調査団(BAS)からの助
言を反映しつつ Hyperdrive Innovation 社主導により進められている。結果として得られ
る技術は、-80℃の環境でも稼働する高エネルギー密度を有する二次電池を開発する後続の
中期プログラムに引継がれる。OXIS Energy 社と Hyperdrive Innovation 社はその後、隣
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接市場へこの技術の使用範囲を拡大することを考えている。Hyperdrive Innovation 社の
Stephen Irish 取締役は、リチウム-硫黄により提供される優れたエネルギー密度は携帯性に
優れており、特に南極のような天候や資源のために輸送手段が飛行機のみに制限される広
大な遠隔地には最適であると述べている。
また、同氏は非常な低温に耐えることが出来るエネルギーシステムの設計課題に取組む
に当たり、BAS と協力し、この新興の電池技術を通して我々のバッテリー管理システム
(BMS)技術を証明する機会を得られたことに興奮していると述べている。
OXIS Energy 社によると、リチウム-硫黄電池はいかなるリチウムイオン電池よりもはる
かに高い理論エネルギー密度を有する次世代電池技術である。同社は 10 年以上に渡りリチ
ウム-硫黄電池を開発しており、既にパウチタイプ二次電池は 300 Wh/kg に達している。リ
チウム-硫黄電池技術が市場に参入し始めたばかりである一方、リチウムイオン電池技術は
既にその長所と短所が理解された上で市場に存在している。
OXIS Energy社のHuw Hampson-Jones CEOは、極端な温度下でのバッテリーシステム
の有効利用を確保することは非常に困難であり、本計画は北米や北欧諸国などの寒冷地で
使用される車に重要な影響を持つだろうと述べている。
欧州、LNGと天然ガスの貯蔵戦略について討論が行われる
欧州委員会は、液化天然ガス(LNG)及び天然ガス貯蔵のための EU の今後の戦略を議論す
るために会議を開いた。その戦略は来年初頭に公開される予定であり、エネルギー連合の
EU 計画の一部となる。
LNGは、米国やオーストラリアを含む新しいサプライヤーと共に、欧州で成長している
市場である。一方で、LNG価格は下落している。LNGと天然ガス貯蔵は共にガス供給資源
の多様化と、欧州のガスシステムの更なる柔軟性を作る上で重要な役割を果たしている。
会議は、エネルギー外交と貿易障壁を含む国際的な側面だけでなく、あらゆる規制または
商業や法的な障壁に関し、既存インフラのより良い使用法や新しいエネルギーインフラの
必要について議論される。同時に、LNG及びエネルギー貯蔵の公開協議が現在開催されて
おり、9月30日に終了する予定である
欧州、燃料電池自動車をより多く展開しようとするHydrogen Mobility Europeが、汎欧州
の水素燃料補給網を追加
欧州パートナー連合は燃料電池自動車を提供するための水素ステーションの最初の汎欧
州ネットワークを形成し、合計325台の燃料電池自動車と29箇所の新水素燃料補給ステーシ
ョンを展開するための、“Hydrogen Mobility Europe (H2ME) ”旗艦プロジェクトを立ち上
げた。
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H2MEプロジェクトには燃料電池・水素燃料共同事業体(FCH JU)からの共同出資金3200
万ユーロを含む約6800万ユーロの総予算が支給されている。
H2MEプロジェクトはその主としては欧州最大のプロジェクトで、欧州の4つのもっと
も野心的な水素インフラ整備を検討する組織「hydrogen mobility」の提携に基づいている。
これらの取組みは当初は水素部門の重要なステークホルダー(自動車メーカ、水素ステーシ
ョンプロバイダ及び政府)がそれぞれの領域で水素燃料輸送を実現するための戦略を研究開
発するために一つにまとめるためのものであった。そのプロジェクトにはまた監視国とし
てオーストリア、ベルギー、オランダが含まれており、このプロジェクトから得た経験を
その国独自の水素モビリティ戦略に反映する予定である。H2MEプロジェクトの下、10ヶ
国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、アイスランド、オランダ、
ノルウェー、スウェーデン、英国)で200台の燃料電池自動車、125台の燃焼電池の商業用バ
ン、29箇所の水素補給ステーションが2019年までに展開される予定である。
英国のコンサルタント会社であるElement Energy社が率いるH2MEプロジェクトのコ
ンソーシアムには、燃料電池や自動車メーカ、インフラプロバイダから、データの監視及
び発信を行う組織までを含む水素及び燃料電池部門の世界的なリーダーが含まれている。
H2MEプロジェクトは2014年4月に開始され、2017年9月末まで行われる予定である。
英国、再生可能エネルギーが石炭燃料を追抜く
英国の電力の多くは現在、石炭よりも再施可能資源により生産されている。エネルギー・
気候変動省が発表したデータによると、再生可能エネルギーは初めて、この3か月間で石
炭火力発電所よりも多くの電力を生産した。政府統計によると、2015 年の第2四半期に渡
っての再生可能エネルギー由来の発電の合計シェアは 25%と、過去最高に上昇しているこ
とが明らかになった。専門家は、これは過去 12 か月間に設置された風力タービンとソーラ
ーパネル数の増加、及び発電に有利な気象条件によるものであると考えている。表面的に
はこの統計は有望であるように思われるが、欧州委員会の予測によると、再生可能エネル
ギーにより生産された電力の消費量に目を向けると英国は EU の内最も低いランクの国の
一つであり続けている。
2013 年、英国は再生可能エネルギーを通じて 8,400,000TOE(石油換算トン)の電力を生
産しており、これに比べフランスは 23,073TOE、スペインは 17,377,000TOE、ドイツは
33,680,000TOE を製造している。
英国の再生可能エネルギーのほとんどはバイオマス及び廃棄物発電(61.7%)と風力発電
(29.1%)により生産されており、水力及び太陽光発電は他の北部ヨーロッパ諸国と比べ大き
く遅れをとっている。
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新しいデータによると、英国における再生可能エネルギー資金の未来は大きな不確実性
に直面していることも分かっている。ここ数カ月の間には、保守派の閣僚が補助金の再分
配を求めた後、英国の再生可能エネルギーへの取組みが中断されそうな懸念があった。
この最新の報告書は、政府が資金と資源を再生可能エネルギーミックスに供給し続けるこ
とを確保するのに役立つだろう。
クロアチア、昨年の平均インセンティブはメガワット時当たり116ユーロ
クロアチアエネルギー規制庁(HERA)は、昨年のエネルギー消費量の低下を報告した。こ
の結果は部分的に効率化とコスト削減の施書くに寄与しているが、大部分は経済活動と市
民の購買力の低下から生じていることが指摘されている。
クロアチア電力協会によると、とりわけ電力消費量は2013年から2.6%減の16.9TWhであ
り、これはこの5年間の減少傾向に沿ったものである。同協会長のTomislav Marjanović氏
は、2012年から現在にかけ、19,877世帯が利用している15,000戸の住宅と344棟の住宅建
築が改装されたと述べている。
この8年間における再生可能資源から電力を発生させるための、またコージェネのため
の旧インセンティブシステムでは昨年は412MWの容量があり、その内風力発電設備は
339MWを占めていた。クロアチアの消費におけるこのカテゴリーの全体的なシェアは、昨
年度は5.51%であった。
キプロス、2020年のグリーンエネルギー目標に向け順調に前進
キプロスは再生可能エネルギー資源の市場シェアが欧州指令で設定された2015年から
2016年にかけての7.45%という目標に先立ち、2014年の市場シェアが8.7%であったと発表
した。2020年までに同国は13%までシェアを引き上げることを目標としており、9月18日
から20日にかけて開催された展示会の主催者は代替エネルギー資源を使用する必要性を強
調した。
エネルギー省のConstantinos Xicheilos副局長は、国家戦略は再生可能エネルギーの使用、
省エネルギー、天然ガスの利用の3つの柱に基づいていると述べている。同氏によると、
キプロスは現在総設備容量157.7MWを有する6つの風力発電施設と、総設備容量71MWの
小規模及び大規模な太陽光発電システム、総設備容量10.7MWの10基のバイオマスプラント
が稼働していると述べている。
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