学校外補習学習費の支出傾向と地域特性 -社会経済的データを基に-

C18
Research Abstracts on Spatial Information Science
CSIS DAYS 2015
学校外補習学習費の支出傾向と地域特性 -社会経済的データを基に-
貞広 斎子
千葉大学 教育学部
Email: <[email protected]>
(1) 動機: 我が国の教育費をめぐる状況は,公的負担
率が低く,各家庭が負担する私的負担が相対的に
高い公私混合型であるとされている(末冨 2010).更
に近年では,格差問題への着目もあり,家庭の経済
力によって家計における教育費負担,ことに学習塾
などに代表される学校外補習学習費(以下,補習学
習費)の負担傾向や負担額には差異があり,それが
子どもの学力達成における格差を規定する一要因
になっているとの指摘がなされている.従来,上記
の議論を行う場合,まずは世帯収入を中心とした個
人間の差異・格差を分析の対象としてきたが,有償
の教育機会への支出傾向は,経済力が同じ家庭で
あっても,居住地の環境によってその支出傾向が異
なるメカニズムが存在する可能性がある.そこで本
研究では,補習学習費支出について,①世帯収入
に加えて,②地域の人口規模のように世帯収入に
関連があり,かつ補習学習費支出に影響を与える
要因,③①以外の補習学習費支出に影響を与える
世帯の特性,④②以外の補習学習費支出に影響を
与える地域特性を被説明変数として想定した検討を
行うものである.
(2) アプローチ: 補習学習費支出を被説明変数,各地
域特性を説明変数とする重回帰分析を行う.補習
学習費支出については,「消費支出推計データ」
(JPS)の地域の支出総額から,子ども 1 人あたりの
支出額を算出し,地域間の分散が大きいことから,
その対数値を用いた.地域特性については,補習
学習費の支出に関連すると仮説的に考えられる項
目を,国勢調査(2010 年)データ等から抽出し,適
宜再計算を行った上,多重共線性を考慮して,変
数を選定し,ステップワイズ法を用いて推定を行っ
た.なお,今回は,地域の多様性に富み,地域特性
の分析を行うのに適合的な地域として,千葉県を取
り上げ,分析を進めている.
(3) 結果: 学校段階に共通して,世帯の子ども数の影
響力が最も高い.特に,中学校段階において最も
影響力が高くなっており,複数人の子どもを抱える
家庭の補習教育費支出の負担感が透けて見える.
また,流出入などの人口変動や通勤・通学といった
社会活動のスタイル,持ち家率,大卒率といった個
人属性に関わる影響力も析出された.更に,上記の
知見を基礎として,地域特性と補習学習費支出傾
向の関連をより簡便に推定する方策を模索する目
的で,居住者特性の地域累計であるジオデモグラフ
ィクと補習学習費支出がどの程度の関連性を検討し
たところ,平均値を大きく上回る支出を行っている地
域がある一方,特にいくつかの地域で補習学習費
支出が抑制されている実態が明らかになり,いわゆ
る「学習格差」の存在が析出された.
(4) 謝辞: 本研究では,東京大学空間情報科学研究
センターの国政調査データを利用した.ここに感謝
の意を表する.
(5) 参考文献:
末冨芳(2010)『教育費の政治経済学』,勁草書房.
(a)推定額
(b)実支出額との残差※
図 1: 重回帰分析結果に基づく補習学習費推定額と実支出額の残差(中学校)
※(b)理論値-実績値について,赤スケールの濃淡がプラス誤差の絶対値,青スケールの濃淡がマイナス誤差の絶対値
- 50 -