同一疾患とは思えないほど多彩な臨床像となる皮膚病変

皮膚病変の臨床像の多彩性
〔解説〕
同一疾患とは思えないほど多彩な臨床像となる皮膚病変
水野可魚
【要旨】
サルコイドーシスの皮膚病変の臨床像は結節型,局面型,皮下型,びまん浸潤型の4大病型,および,その他の病型に分
類され,同一疾患とは思えないほど多彩である.そのため,皮疹を見逃さないように各病型の特徴を理解して診察にあた
る必要がある.今回,皮膚病変の様々な臨床像を示し,皮膚病変を診察する上での注意点について述べる.
[日サ会誌 2015; 35: 69-72]
キーワード:皮膚病変,臨床像,多様性
The Variety of Cutaneous Lesion of Sarcoidosis
Kana Mizuno
Keywords: cutaneous lesion, clinical feature, variety
はじめに
肉芽腫の形成は認めない.非特異疹でサルコイドーシス
サルコイドーシスにおける皮膚病変の発症頻度は胸郭
以外の疾患(ベーチェット病など)でも生じる.わが国
内・眼病変に次いで高い .また,皮膚は生検がしやすく,
でのサルコイドーシスにおける発症率は欧米と比較する
組織学的に類上皮細胞肉芽腫の確認を行うのが比較的容
と低い 3).本症に出現する結節性紅斑に特異的な特徴はな
易な臓器であるため,サルコイドーシスの診断基準に基
く,他の疾患で見られる場合と臨床像,組織像および経
づいて組織診断群として診断する上で重要な臓器である.
過に相違はない.
1)
しかし,その臨床像は典型的なものから非典型的なもの
まで非常に多彩であり,診察で見逃さないためにはその
臨床像の多様性を周知しておく必要がある.
1.サルコイドーシスの皮膚病変の診察
B.瘢痕浸潤(Figure 1)
陳旧性瘢痕部に肉芽腫反応が生じたものである.その
ため,多くは外傷を受けやすい膝蓋,肘頭,顔面に好発
する 4).頻度は報告者により様々だが,慎重に診察すれ
サルコイドーシスの皮膚病変は顔面などの場合は患者
ば高頻度に発見できる病変と考えられる.臨床像は瘢痕
が自覚して受診することもあるが, 自覚症状に乏しく,
部が赤みを帯びてきたり,隆起が増強する.顔面に出現
小さなものや見逃されやすい部位に生じていることも多
した場合には患者が自覚していることが多いが,膝蓋や
く,実際はより高頻度に発症していると考えられる.こ
肘頭の皮疹は患者自身が気づいていないことが多いため,
れらの皮疹を見逃さないために,皮膚病変の特徴とその
患者の申告がなくても肘・ 膝に関しては必ず診察する.
好発部位を熟知しておく必要がある.皮膚病変の診断は
組織像は類上皮細胞肉芽腫とともに偏光顕微鏡で重屈折
診断基準
性を示す異物が観察される.
2)
に記載されている皮膚病変の診断の手引きに
沿って行う.
2.皮膚病変の病型分類
A.結節性紅斑
両側下腿伸側に好発する発赤を伴う有痛性の皮下硬結
C.皮膚サルコイド
サルコイドーシスの特異疹であり,病理組織学的に類
上皮細胞肉芽腫が見られるが,異物は存在しない.臨床
像により以下のように分類される.
で,多発することが多い.病変の主座は皮下脂肪織であ
り, 組織学的にはseptal panniculitisの像を呈し, 通常,
関西医科大学 皮膚科
著者連絡先:水野可魚(みずの かな)
〒573-1010 大阪府枚方市新町2-5-1
関西医科大学 皮膚科
E-mail:[email protected]
Department of Dermatology, Kansai Medical University
*掲載画像の原図がカラーの場合,HP上ではカラーで閲覧できます.
日サ会誌 2015, 35(1)
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〔解説〕
皮膚病変の臨床像の多彩性
Figure 2. 顔面の結節型病変
精査が必要である.組織学的には水平方向に進展する肉
Figure 1. 膝蓋の瘢痕浸潤
芽腫反応がみられる.経過は長く,瘢痕を残したり,頭
部では脱毛をきたすことがある.
c)びまん浸潤型(Figure 4)
a)結節型(Figure 2)
皮膚サルコイドで最多の病型である.紅色丘疹・結節
海外ではlupus pernioと呼ばれる病型で, 暗紅色のび
で,顔面(特に鼻周囲)
,四肢に好発する.経過が異なる
漫性に腫脹した凍瘡様病変で,指趾・頬部・耳介・手背・
ことから,直径1cm以上の大結節型とそれより小さい小
鼻背など凍瘡の好発部位に発症することが多い.指趾に
結節型とに区別することもある.大結節型は数が少なく,
生じた場合,下床の指趾骨に嚢状骨炎が生じていること
単発性であることが多いが,長期間持続する傾向にある.
が多く,自覚症状がなくてもX線による確認が必要であ
一方,小結節型は多発することが多いが,自然消褪傾向
る.また,この病型では抗核抗体および抗セントロメア
が強い.
抗体の陽性率が高い 3)ので,検査を行って陽性であれば,
皮膚硬化やレイノー現象などの関連症状の有無も確認す
b)局面型(Figure 3)
る.わが国での頻度は低い.
ほとんど隆起しない病変であり,環状病変と斑状病変
に分類される.環状病変は中央部がやや萎縮し,辺縁が
d)皮下型
赤味を帯びて堤防状に軽度隆起する(Figure 3a).斑状
弾性硬〜やや軟の皮下結節や硬結で,皮膚表面には変
病変は均一な性状の隆起しない局面である(Figure 3b)
.
化がないことが多いが,時に血管拡張を伴うことがある.
本邦では斑状病変よりも環状病変の方が多い.大きさは
好発部位は四肢で,多発する傾向がある.大豆大から鳩
様々で,手掌大に至ることもある.環状病変は顔面,特
卵大までの大きさであることが多いが,四肢や臀部では
に前額部に多発する傾向があり,この場合,心病変を合
巨大な板状硬結となることもあり,このような症例では
併する頻度が高い 5) とされているため,心病変に関して
糖尿病の合併頻度が高く,自然消退傾向が強い 6).多くは
a)
b)
Figure 3. a)顔面の局面型の環状病変,b)下腿の局面型の斑状病変
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皮膚病変の臨床像の多彩性
〔解説〕
Figure 4. 足趾のびまん浸潤型病変
Figure 5. 上肢の苔癬様型
無症状であるが,神経圧迫などにより圧痛や自発痛を伴
うことがある.
e)その他
1)苔癬様型(Figure 5)
粟粒大から半米粒大の小さな扁平丘疹が集簇性にあ
るいは多発性に出現する.結節型の一亜型とも考えら
れるが,同じ性状の扁平小丘疹が癒合せず集簇あるい
は多発するという苔癬の概念に合致することから,特
殊型として分類されている.経過は自然消褪傾向が強
く,予後良好である.
2)結節性紅斑様皮疹(Figure 6)
臨床的には前述した非特異疹である結節性紅斑と似
ているが,病理組織学的に類上皮細胞肉芽腫が存在す
る 7).爪甲大の淡い紅斑や不整形な紅斑を伴う皮下結節
Figure 6. 下腿の結節性紅斑様皮疹
であるが,非特異疹である結節性紅斑と比較して熱感,
自発痛,圧痛などの症状が軽度であることが多い.肺・
眼病変の合併率が高いため,これらの病変について注
きである.また,非典型疹も多いことから,サルコイドー
意深く観察する必要がある.結節性紅斑と比べて持続
シスが疑われる患者で何らかの皮疹を発見し,組織学的
期間は長いが,自然消褪することが多い.
アプローチが必要な場合には,必ず皮膚生検を行い,肉
芽腫の有無を確認し,確定診断に結びつけることが重要
3)魚鱗癬様皮疹
である.
皮膚が乾燥し,魚の鱗状に粃糠様および小葉状の落
屑が見られ,いわゆる魚鱗癬に類似する臨床像を呈す
本報告の要旨は,第34回日本サルコイドーシス/肉芽
る.組織学的に類上皮細胞肉芽腫を認める.四肢伸側
腫性疾患学会総会シンポジウム(2014年11月1日,新潟市)
(特に下腿伸側)に見られることが多い.
4)その他
臨床像により,乾癬様病変,疣贅様病変,白斑,潰
瘍などが報告されているが,臨床像のみで診断するこ
で発表した.
引用文献
1)森本泰介,吾妻安良太,阿部信二,他.2004年サルコイドーシ
ス疫学調査.日サ会誌.2007; 27: 103-8.
とは不可能である.確定診断するには,いずれの皮疹
2)津田富康.サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き-2006
でも生検を行い,組織学的に類上皮細胞肉芽腫の有無
要約.安藤正幸,四元秀毅監修 日本サルコイドーシス/肉芽
を確認する必要がある.
腫性疾患学会編.サルコイドーシスとその他の肉芽腫性疾患.
まとめ
以上,サルコイドーシスの皮膚病変の臨床像の特徴お
克誠堂出版.東京.2006; 290-4.
3)佐藤篤彦,須田隆文,植村晃久,他.サルコイドーシスの臓器
病変.安藤正幸,四元秀毅監修 日本サルコイドーシス/肉芽
よび診察上の注意点を述べた.皮膚病変の診察は特異疹
腫性疾患学会編 サルコイドーシスとその他の肉芽腫性疾患.
については各皮膚病型の好発部位を念頭に入れて行うべ
克誠堂出版.東京.2006; 63-134.
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〔解説〕
4)岡本祐之.サルコイドーシス 診断における瘢痕浸潤の重要性.
Visual Dermatology. 2003; 2: 327-31.
5)Okamoto H, Mizuno K, Ohtoshi E. Cutaneous sarcoidosis with
cardiac involvement. Eur J Dermatol. 1999: 9: 466-9.
6)相崎知子,相馬良直,五十棲健,他.M蛋白血症を合併し,四
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日サ会誌 2015, 35(1)
皮膚病変の臨床像の多彩性
肢の板状硬結を呈した皮下型サルコイドーシスの1例.皮膚臨
床.1998; 40: 1953-6.
7)Okamoto H, Mizuno K, Imamura S, et al. Erythema nodosumlike eruption in sarcoidosis. Clin Exp Dermatol. 1994; 19: 507-10.