高調波雑音除去のための帯域通過FIRフィルタの記述

2013 年電子情報通信学会基礎・ 境界ソ サイ エ テ ィ 大会
A-4-29
高調波雑音除去のための帯域通過 FIR フィルタの記述
Description of Band-Pass FIR Filters for Cancellation of Harmonic Noise
越田俊介 1
Shunsuke Koshita
大成高顕 2
Takaaki Ohnari
阿部正英 1
Masahide Abe
川崎智之 2
Tomoyuki Kawasaki
川又政征 1
Masayuki Kawamata
三浦祥吾 2
Shogo Miura
東北大学大学院工学研究科電子工学専攻 1
Department of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University
1
まえがき
電力や通信など 多くのアプリケーションにおいて,基
本波に混入する高調波雑音を除去し,基本波を強調する
信号処理システムは重要な役割を果たしている [1–3].本
稿では,このような信号処理を実現するための基礎的な
手法として,基本波の通過および高調波雑音の除去に特
化した特性をもつ帯域通過 FIR フィルタを提案する.提
案法では,フィルタのタップ数と基本波の周波数との間
に制約条件を設けた上で,所望のフィルタ係数を簡単な
三角関数の式によって記述する.
Magnitude [dB]
10
(1)
3
提案する帯域通過 FIR フィルタの記述
提案法では,所望の帯域通過 FIR フィルタの伝達関
数 H(z) を以下の式で与える.
h(n)z −n
n=0
=
2(n + Δ)
2
cos
π
N
N
0.2
0.4
0.6
Normalized frequency
0.8
1
提案法による帯域通過 FIR フィルタの振幅特性
H(e
2. 直流および高調波の周波数において,フィルタの振
幅が 0 となる.
ここで,項目 2 の仕様は,所望のフィルタの零点が,直
流および高調波の周波数において単位円上に配置される
ことを意味する.
h(n)
−30
jkω1
1. 基本波の周波数において,フィルタの振幅が 1 となる.
N
−1
−20
を代入すると (ただし k は 0 ≤ k ≤ N/2 を満たす整数と
する),以下が得られる.
この制約条件のもとで,以下の仕様を満たす実係数の帯
域通過 FIR フィルタを設計することを考える.
=
−10
図1
フィルタ仕様
基本波の周波数を ω1 [rad] とし ,所望のフィルタの
タップ数を N とする.本稿では,ω1 と N との間に以下
の制約を設ける.
H(z)
Δ=0
Δ=2
0
−40
0
2
ω1 N = 2π
(株) 東芝 2
TOSHIBA Corporation
(2)
ここで,Δ は任意の実数である.このように,提案法で
はフィルタ係数 h(n) が簡単な三角関数の式によって記
述される.
以下において,式 (2) にて与えられる FIR フィルタが,
前章で述べた 2 つの仕様を満足することを証明する.基
本波・直流・高調波それぞれの周波数におけるフィルタ
特性を調べるために,式 (2) の H(z) に対して z = ejkω1
)=
ejΔω1
0
k=1
k = 1
(3)
これより,式 (2) の FIR フィルタの伝達関数の絶対値は,
基本波の周波数において 1 となり,直流および高調波の
周波数において 0 となる.ゆえに,この FIR フィルタ
は,前述の 2 つの仕様を満足する.
提案法による FIR フィルタの例として,ω1 = π/5 す
なわち N = 10 とし,Δ の値を 0 および 2 とした場合に
おける振幅特性を図 1 に示す.図 1 からわかるように,
振幅特性の形状は Δ の値に依存しているが,Δ = 0 と
Δ = 2 のど ちらの場合においても,前述の 2 つの仕様
が満足されている.すなわち,Δ がどのような値をとっ
ても,振幅特性は基本波の周波数において 1 となり,直
流および高調波の周波数において 0 となることが確認さ
れる.
なお,提案法による帯域通過 FIR フィルタは,白色
雑音に埋もれた正弦波を強調する問題に対する最適フィ
ルタ (すなわち Wiener フィルタ) の特別な場合であるこ
とも証明できる.この詳細については,今後報告する予
定である.
参考文献
[1] J.-D. Wang and H.J. Trussell, IEEE Trans. Commun., July 1988.
[2] J.F. Chicharo and H. Wang, IEEE Trans. Power
Electron., Nov. 1994.
[3] 布村, 阿部, 越田, 川又, 大成, 川崎, 三浦, 電気学会
全国大会講演論文集, Mar. 2013.
81
2013/9/17 〜 20 福岡市
( 基礎・ 境界講演論文集)
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