鉄道車両の騒音低減計画と対策について (PDF188KB/5pages)

Te c h n i c a l
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鉄道車両の騒音低減計画と対策について
垂井 茂幸
車両事業本部 研究開発部
要 約
1.はじめに
鉄道車両における騒音低減は近年、当然の要求仕様とな
っている。さらに騒音低減構造あるいは要素の適用によ
鉄道車両の高速化による環境騒音の低減、そして快適
り、どの程度静かになるか、といった低減予測も精度の
な車内空間を提供するための車内静粛化を図るため、当
高いものが求められるようになった。騒音低減手法はさ
社では騒音低減についての研究を行っている。今回はそ
まざまあると思われるが、当社では独自の騒音低減計画
れらを紹介する。
法により、現車の走行状態を模擬したモックアップによ
る騒音低減要素の検証や、音響解析システムを活用した
騒音低減予測、および聴感上の評価等を研究しており、
2.鉄道車両の騒音低減計画法のフロー
これらを紹介する。
騒音低減対策を行う場合、図1に示すフローに従い、
まず音源はどこかの見極めを行う。次に騒音または振動
がどういう経路をたどっているかの伝播経路の調査、解
明を行い、今問題としている騒音がどの種類の騒音なの
かの特定を行う。この伝播経路の解明と騒音の種類を見
極めることが騒音対策をするうえで最も重要であり、か
(ニーズ)
鉄道車両の高速化/移動空間の快適性向上
鉄道車両の騒音対策
(手 法)
音源の種類の見極め
騒音、振動の伝播経路の調査、解明
騒音の種類の特定
騒音低減方法の選択
音の種類ごとの対策
低騒音車両の開発
図1 騒音低減計画法のフロー
● 25●
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つ最も難しい作業となるが、これにより打つべき対策と
騒音低減材料の選択が決まる。これらの手法をとること
が効率よく騒音低減対策を打つことにつながると考えて
いる。
3.音源の種類と発生箇所
音
源
の
種
類
図2に示すように鉄道車両にはさまざまな音源があり、
各音源からの騒音の周波数分布は、それぞれ固有の傾向
を示す。音源からの騒音の周波数分布傾向が把握できれ
ば、車内等の観測点で測定した騒音の周波数分布から、
転
動
に
よ
る
音
・車輪、レール間の転動
・レール継目の衝撃
・車輪フラットによる音
・車輪踏面、フランジのきしり音
・走行による励振
床
下
機
器
音
・床下機器の電磁音
・空気圧縮機の稼働音
・台車モータギア音、継手音
・機器による励振
空
調
・
換
気
・空調機器音
・換気装置の給排気扇音
・空調の吹出音
・空調装置による励振
空
力
音
・集電装置、先頭形状、床下の空力音
・2車間の風切音
・窓戸の段差、外板表面、突起物からの
空力音
・扉のガタツキ音
その観測点の騒音はどの音源が大きく寄与しているかを
予測することができる。
4.騒音、振動伝播経路
図2 音源の種類と発生箇所
これまで鉄道車両の騒音対策にかかわってきたなかで
知り得た騒音の種類と伝播経路をまとめて示したのが図
3である。これをみると、
固体伝播振動
集電装置からの
空力
(風切)
音
・音源からの直接的なもの(直接音)
集電装置
直接音
空調装置に
よる励振
透過音
空調装置
・音が構造物を透過しているもの(透過音)
・振動が音になって放射されるもの(振動放射音〔一次固
体音〕
)
振動放射音
空調装置音
空調ダクト
ト
ン
ネ
ル
・何らかの要因で発生した音により構造物が振動し、さ
2車間風切音
側引戸
吹出音
らにその振動が音になって放射されるもの(振動放射音
ガタツキ音
〔二次固体音〕
)
の大きく分けて4種類の騒音があることが分かる。実際
の車両では、これらが複雑に絡み合っているため、騒音
低減対策を複雑にしているといえる。
突起物からの
空力
(風切)
音
防
音
壁
水抜き管
機器による
励振
5.騒音、振動低減対策
台車
床下からの
空力音
機器電磁音
空気圧縮機稼働音
台車モータギア音
これまでで音源の見極め、騒音、振動の伝播経路が解
明されれば、次にそれに基づいた音の種類ごとの対策を
走行による
台車励振
転動音
レール継目の衝撃
きしり音
図3 騒音、振動伝播経路
講じる。対策としては図4に示すように音源対策、しゃ
音、吸音、制振がある。
まずは音源対策が重要であることはいうまでもない。
鉄道車両特有の台車の転動音、振動の場合は車輪踏面、
レールの管理が音源対策の一つとなる。高速車両の場合、
先頭形状や2車間形状により空力騒音が発生するので、
空力騒音を抑える形状が求められる。
近畿車輌技報 第12号 2005.11
床下機器
● 26●
音源の種類ごとの対策
しゃ音
吸 音
・しゃ音材料の使用選定
・材料選択と適正構造、適正配置、
施工方法の検討
・コインシデンス周波数の検討
・すきまによるもれ注意
・吸音材料の使用選定
・材料選択と適正構造、適正配置、
施工方法の検討
・チューニング周波数と背後層厚
さの設定
・吸音減衰による使用法
・耐候性、耐水性、耐熱性の検討
・振動伝達経路の解明
・固有振動数把握と共振分離
・制振機構の選定
・伝達率低減のための支持方式、
支持弾性体の適正設計
・ダイナミックダンパの設計
・しゃ音材
・しゃ音床構造
・しゃ音窓構造
・吸音材
・吸音粉体
・パンチング板
・吸音制振床構造
・弾性床構造
・浮き床防振ゴム支持構造
・ダイナミックダンパ
・吸音制振床構造
音源対策
・音源周波数分析
・床下機器音源の低減
・車輪踏面、レールの管理
・先頭形状の空力特性向上
・2車間の平滑化
制 振
図4 騒音低減対策
現車の
現状把握
モックアップ
実験検証
6.騒音低減計画法の実際
これまでの鉄道車両の騒音低減計画法のフローを基本
音響解析ソフト
の応用
に、近畿車輌の騒音低減計画法の実際について述べる。
図5に示すように、まずは現車の現状調査を行うことで
低騒音車両
の開発
ある。現車の車外/車内騒音、各箇所の振動データを測
定し、現状を把握する。その時、音源、振源はどこか、
図5 騒音低減計画法の開発
励振している機器はあるか、などを確認しておくことが
重要である。
しゃ音による対策を行う場合、しゃ音の性能が落込む
周波数域があることを認識することも必要で、とくにサ
次にモックアップによる実験検証を行う。本来なら現
ンドイッチパネルのような2枚板においてはその構成に
状調査のより詳細な調査、あるいは現状調査から見つか
よってしゃ音特性が変化することがある。剛性の高いサ
った課題についての対策の確認を再び現車で行うことが
ンドイッチパネルは質量則に比べてしゃ音特性が落ちる
最も確実な方法ではあるが、現車での確認には費用、手
傾向がある。またすきまについても注意が必要で、側扉
間、鉄道事業者の協力等の問題があり、機会が限られる。
のすきまからの音も扉近傍の車内音に寄与する。
そこで走行状態を模擬した定置モックアップを製作する
ことで、現車で確認すべき調査、あるいは確認をより安
吸音対策で注意することは、しゃ音材と適用を混同し
ないことで、吸音すべきところにしゃ音材を施工したり、
価に、時間の制約なく行うことができる。
またその逆となることがないように注意すること、これ
また、モックアップでの実験検証と並行して、音響解
は基本的なことであるが混同しやすいので留意する。吸
析ソフトの応用による机上での検討も考えている。これ
音にはチューニング周波数があり、低減したい騒音の周
はまだ試行中であるが、簡単にいえば、現車の音をどの
波数を把握した上で、チューニングした構成とする。
ように制御すればどう聞こえるかが机上でリアルタイム
制振の基本は共振分離を行うことである。共振してい
に耳で確認でき、騒音低減目標の効率的な目処を与えて
るものに振動減衰機能を付加しても大きな効果は見込め
くれるというものである。また音響心理パラメータによ
ないことがある。振動減衰機能を付加するなら共振分離
る騒音の分析により鉄道車両の騒音低減を行うことは、
を行った後とするのが基本となると考えられる。
今後必要になると考えている。
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6.
1 モックアップによる実験検証法
実際のモックアップ実験検証法を行ったときのモック
アップ写真を図6に示す。実物大の車両を製作し、走行
状態の模擬はスピーカーと加振器を用いる。
スピーカーはモックアップ外の床下、側近傍、屋根上
に配置し、台車転動音、機器音、空力音等の音響加振を
行う。また、加振器は台車部床下に設置し台車転動によ
図6 モックアップ
る機械加振を行う。スピーカー、加振器の出力、周波数
特性をアンプ、イコライザで調整しながら、モックアッ
プ内各箇所の騒音、振動の絶対値、周波数分布を現車デ
ータに近づける同定(チューニング)作業を行う。これに
より現車走行状態が再現できるので、騒音、振動の伝播
経路の詳細調査、あるいは現状調査から見つかった課題
の対策としての騒音低減要素を組込むことによって、実
車での騒音低減効果が予測できる。
このモックアップ実験検証法で特長的なことは、音響
加振や機械加振など音源ごとに加振試験ができ、どの種
80
類の音が車内騒音に寄与しているかという、いわゆる音
70
騒音レベル(dB(A)
)
源寄与度分析を行うことができる、ということである。
これにより騒音振動の伝播経路の解明が可能となる。
本手法は現車の走行状態をほぼ精度よく再現できる
が、モックアップにより騒音低減効果を確認した騒音低
減要素のうち、効果的と考えられる対策について現車走
行試験での検証となる。
60
50
全体加振
40
加振器ノミ
側SPノミ
30
モックアップによる実験検証法を使って試験すること
により開発した例として弾性床がある。その他にも新幹
従来床構造
床下SPノミ
中心周波数(Hz)
性床や浮き床構造は現車に採用されている。ここでは弾
性床開発の時の内容を紹介する。
80
図7に弾性床構造と、モックアップ実験を行った結果
弾性床構造
70
騒音レベル(dB(A)
)
を示す。
「全体加振(加振器+スピーカー)
」に対し、
「加
振器のみ」でも同等の騒音が発生していることから機械
加振による振動放射音は車内騒音に大きく寄与している
ことが分かる。床構造を弾性床とすることで、床下から
の振動伝達が抑制されて床面からの振動放射音が低減し
60
50
40
全体加振
加振器ノミ
たために、車内騒音レベルが低減した結果となった。ち
30
側SPノミ
なみに床下スピーカーのみでは800Hz付近をピークと
床下SPノミ
1.6k
800
400
100
にあることが推測できる。
200
20
する周波数特性であり、転動音の周波数域がこのあたり
中心周波数(Hz)
なお、このモックアップ実験検証法は車内騒音の低減
近畿車輌技報 第12号 2005.11
1.6k
800
400
線車両の浮き床構造あるいは吸音制振床構造があり、弾
200
100
20
図7 モックアップによる低騒音要素の確認
● 28●
に対する検証を行うもので、車両走行による車外への影
6.
2 音響解析ソフトの応用
響、いわゆる環境騒音の検証までは含まない。したがっ
音響解析ソフトの特長の一つは、現車あるいは定置で
て環境騒音の検証は風洞試験、あるいは数値シミュレー
録音してきた音に対し、低減したい周波数域の音にフィ
ション等による評価を行っている。
ルタをかけて低減し、音の聞こえ方をリアルタイムで実
感できるマスキング機能があげられる(図8)
。これによ
り、ただ単に騒音レベルの絶対値の低減だけでなく、ど
マスキングOFF
の周波数域の音を、どの程度低減させれば心地よい音色
になるか、といった聴感上の対策の目標設定も可能とな
る。
また騒音の聴感上の評価として、音響心理パラメータ
による分析がある。一般に騒音評価に使われるデシベル
は音圧レベルの重み付けによるものであるが、ほかに、
OD
静か/大きさを表すラウドネス、鋭さ/かん高さを表す
50
100マスキングON、OFFの瞬時の切換可能
f/Hz 200
500
1000
2000
5000
シャープネス、うねりなどの粗さを表すラフネス、ノイ
ズ成分があるかを表すトナリティといった人の感性から
マスキングON
評価する指標でもって騒音評価を行うことができる。そ
れぞれの値が鉄道車両においていくらであればどうかと
いう基準づくりはこれから必要となると考えている。
一例として、ある特急車優等席と一般車、およびその
出入台の騒音を音響心理パラメータ分析した結果を表1
OD
50
100 f/Hz
200
500
1000
に示す。たとえばシャープネスは各測定点であまり差が
2000
5000
ないが、ラウドネス、ラフネスは出入台での値が大きく
図8 音響解析ソフトによるマスキング
なっていることが特長的である。
たとえば騒音の波形が鋭いほうが耳につく。弾性床の
シャープネスが従来床のそれよりも小さな値を示すこと
が分かっており、フラットな周波数特性を持つ音が心地
表1 音響心理パラメータ
分類
評価
デシベル
(dB)
よい音でもあると考えられる。
特急車
優等席
一般席
出入台
強い、弱い
57.5
60.9
74.5
ラウドネス
(sone)
静か、大きい
9.8
12.2
28.0
シャープネス
(acum)
鋭い、
かん高い
2.6
2.4
2.5
ラフネス
(asper)
粗い
1.3
1.7
2.9
トナリティ
(tu)
音とノイズを
区別
0.05
0.03
0.06
7.まとめ
騒音低減のためのモックアップによる当社独自の実験
検証法を構築することができた。また音響解析ソフトに
より音圧レベルの大小に加え、人間の感性を考慮した音
響心理パラメータによる騒音低減要素の評価を新しい試
みとして実施することが可能となった。これらモックア
ップ実験検証法と、音響解析ソフトを有効に活用して、
より迅速な騒音低減要素の開発への取組みとしたい。
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