17.ボールのかご(バスケット) Bernard Pestre(佐藤陽治 訳) 1.はじめに テニスコーチは 20 年間に,通常の基礎として球出しを使用してきた.球出しはゲームの状況を想定 した練習,リズム練習や練習試合と同様に主要な学習ツールである. 学習過程に基づいた反復の原則はいうまでもないが,生徒は練習中行動的であり続けること,斬新で 面白い状況をより楽しむこと,そして試合のコアの部分である戦術的要素を練習に頻繁に組み込むこと が必要不可欠である.球出しの主な利点は,その使用がそれぞれのプレーヤーのニーズやレベルに適応 し得るということである.練習を主に構成しているのは球出しそのものではなく,それを上手く使用す ることにより上達していく生徒なのである. これからお見せするビデオの目的は,指導者が技術的,戦術的,肉体的,及び精神的分野において, 球出しの使用をより良く理解してもらう指針となることである.そして,この学習ツールの利点と限界 の両方に焦点をあてる. 我々は学習段階に応じた球出しの様々な使用法について研究している. ・初期段階---これは概して練習の最初の2年間に関わる段階である. ・洗練段階---これは技術的及び戦術的基盤の強化に関わる段階である. ・訓練段階---これは試合によって意欲を高められるプレーヤーのため段階である. 2.初期段階 初期段階では,球出しの使用は主に技術的向上を目的とする. この段階で重要なことは,子供達がテニスの試合の様々な側面を発見すること,そして楽しみが勝る ことである.彼らのプレイのレベルに応じて,球出しは選択的に,そして少量使用されなければならな い. 初級クラスでは,生徒の数はたいていとても多い.このため,コートにおいて生徒に行動的な役割(ボ ールを打つこと,球出しすること,そして回収することから成る),を割り当てるのが一般的に良いと されている.しかしながら,望ましいショットの質や量が要求されるため,子供達が球出しをするのは しばしば困難を伴う.この不調和は学習過程を妨げるかもしれず,このためコーチはある期間は,球出 しすることを要求されるかもしれない.コーチはまた,上達するためのテクニカルスキルを強く要求す る機会をもたされるかもしれない. コートに6人以上選手がいる場合,それぞれの作業グループを設定することが必要となる:そうすれ 1 ば,クラス全体が共通のテーマに基づいて作業することができる.この場合,子供達がプレイエリアに 立ったまま,コーチはかごと共に,コートの片方に立つことができる. 3.洗練段階 洗練段階ではバスケットは主に戦術的,そして技術的向上を目的に使用される. この段階では,子供は獲得した戦術的そして技術的スキルを強化する.また子供は自分自身のゲーム パターンを身につけることによって,プレーヤーとしての個性の発達を示す.それゆえ,子供が次に使 うであろうショットやパターンの反復練習に時間を充てることが必要になってくる.しかしながら,バ スケットの使用は全指導時間の 3 分の 1 を上回らないようにしなければならない. この期間,その他にバスケットトレーニングで考慮することは: ○ あるショットの練習は生徒達にとって,球出しの時に要求される正確さのレベルや怪我のリス クのために困難になる場合もある.こういう場合には,バスケットからの球出しが最も適して いる. ○ バスケットトレーニングはコーチが同一の指導のもとに行う少人数グループを設けることの 妨げにはならない.これは,待ち時間の短縮と回復時間を作り出す事を同時に可能にする. ○ 早いローテーションはより高強度のトレーニングを可能にする. ○ 反復練習と明確な指導の効果は,ショットの強化に貢献する. ○ 特にコートの中にプレーヤーが多数いる場合,あるゲーム状況を作り出すことは難しい.バス ケットの使用とうまくクラスを編成することにより,効率的に,ある特定のショットを数多く 打たせる機会をプレーヤーに与えることが可能となる. ○ このタイプの反復練習の間,コーチは彼らのポジションやコート上でのローテーションのシス テムに注意を払いながら適切な指示を与えることにより,子供達の安全を守らなければならな い. ○ バスケットは他の指導方法やツールと併用することも出来る.例えば,コーチはバスケットか ら球出しすることにより選手はラリーを始め,ラリーで終わらせることができる.巧みにコン トロールされた球出しのペースにより,コーチは攻撃的,防御的,及び自然な戦術的状況を返 球者に対して作ることができる. ○ ある時には,コーチは生徒と反省する時間を取り,自分達の動きや戦術的状況をもっと良く理 解できるように指導しなければならない. 4.訓練段階 訓練段階では,バスケットは技術的,戦術的,肉体的及び精神的レベルの全ての向上において用い られる. ここでの目的は,プレーヤーが将来の試合に備えることである.トーナメントの日程は,いつどのよ うにバスケットを使うかということを決定する指針となるであろう.トーナメントが近づいてきたら, 2 コーチは徐々にボールかごから離れて,よりゲームに近い状況を要求するであろう.とにかく,バスケ ットトレーニングがプレーヤーの練習時間の 40%以上を占めるべきではない. プレーヤーが,ゲームパターンを自分のものにし,試合でそれを再現するためには,何度も繰り返す ことが重要である.これらの練習のタイプにおいては,コーチは簡単な球出しを行い,十分に安全なゆ とりをもったターゲットを使用することにより,プレーヤーに自信を持たせることができる.試合が近 づいてきたら,コーチの役割は,選手の弱点に注目させることよりも,選手の長所を強化することにな るであろう. 選手達のレベルに関係なく,技術的な矯正を行うことはしばしば必要である.そうする為に,コーチ は最初,プレーヤーに弱点を注目させる状況を与え,弱点を評価した後に,選手は必要な練習に気付く ようになる. 例えば, −ルイーズはフォアハンドドライブボレーを向上させなければならない. −シャルロットはフォアハンド側のボレーの処理に取り組まなければならない. −そしてアレクサンドラはバックハンドボレーを向上させなければならない. 始めは,コーチは向上させる必要のあるショットを切り離して,容易なボールを球出しすることによ り,ショットの練習を単純化させる.それから,コーチは出す球の軌道を修正したり,球を出すペース や強さを上げる.この作業の最終段階では,新しい学習を戦術上のパターンに統合することである.こ のようなやり方の利点は,コーチがグループセッションの範囲内で,個人のニーズに対応したトレーニ ングを作成することを可能にすることである. 5.体力トレーニング 年間トレーニング計画の中で,コーチが体力トレーニングに重点をおいて練習を作成しなければなら ない時,バスケットはそれが大変使いやすいことから,極めて貴重なツールだということがわかる.コ ーチは球出しの頻度,ボールのペースやストロークの数を思い通りにコントロールすることができ,そ れゆえ,望まれる生理学的効果を生み出すことができる.中程度の強度の運動と休息時間のバランスを うまくとることは,例えば持久的能力を向上させる方法である.明らかに,休息と運動時間は個々のプ レーヤーの体力レベルに固有のものでなければならない. 試合が近くなると,コーチはスピードとコーディネーションに焦点をあてる.コーチは効果的なスピ ードトレーニングに必要な運動及び回復時間に応じて,プレーヤー固有の運動量を選択するであろう. 回復時間は運動時間を大幅に上回り,その連続の後には完全な休息時間をとらなければならない. 創造しうる状況の数は計り知れず,コーチの役割は要求される目的に応じて適切なものを選択するこ とである.戦術的な要素は常に練習に含まれなければならない.ストロークを打つたびに,プレーヤー 3 はゲームの論理と一致した意図を持たなければならない. もしプレーヤーが体力トレーニングをする時に高いレベルに到達することを求めているなら,試合の 精神的側面もまた向上されるであろう.プレーヤーによっては,疲労が蓄積され始めるとコートの範囲 を忘れてしまうことも起こりそうなことである.高いレベルの集中力を要求することにより,コーチは 生徒に 100%の効果をもたらすことができる. 最後に,バスケットのお陰で,コーチは予備のボールを多数持ち,適切な反復とプレーヤーのローテ ーションにより,コーチはテニス特有の練習を組み立てることができる.同様に,ラリーの状況でその ようにすることが難しい球を出すことを通して,コーチはとても正確な体力トレーニングを奨励するこ とができる.例えば,コーチがとても低くて速度のない球を出すと,プレーヤーはかなり長い時間膝を かがめることを強いられる.連続で繰り返し練習すると,プレーヤーは筋肉の強度だけでなく,(あき らめないという)意志も向上するであろう. 6.他のタイプのバスケットトレーニングとバスケットトレーニングの考え方 ボールのかご(バスケット)はまた,コーチとプレーヤーに特別なショットを打つ機会を与える.こ の面白い要素は,特にプレーヤーが日々の基本として練習する場合には,無視することができない.ト レーニングは,体力と個性を向上させることはいうまでもなく,もしコーチが面白くて独創的な練習を 完成させることができれば,ますます建設的で能率的なものになるであろう. 複合型(Mixed forms)のトレーニングは戦術的見地からとても興味深く,コーチが試合の状況を再 現することを可能にする. スコアリングシステムはモチベーションを向上させ,選手がある程度のプレッシャーの下でプレイす るのに慣れさせるのに有効な方法である. コーチは出す球の速さ,高さ,回転を,要求される目的によっていろいろ変えることが出来なければ ならない.コーチは常に行動的でなければならず,球出しをする場所も変える必要があるかもしれない. 早い球を出すことによって,シングルスでもダブルスでも直面する状況を再現することができ,それ ゆえ,プレーヤーの反応を早くし,チームプレイの原動力の向上が可能になる. 4
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