加治木の太鼓踊りの 特 異 な 芸 態

と くに朝鮮 的 と見 られ る。 ただ, 朝鮮 で もナ ンバ で
ない舞踊 は あ ま り見 られ ない こ とか ら, 朝鮮 軍 あ る
いは明軍 の軍薬笥 よ うな ものの影響 も受 け て いるか
加治木の太鼓 踊 りの
特 異 な 芸 態
も知 れ な い が, 国 内 に 類 を見 な い加 治 木 の 太 鼓 踊 り
の 特 異 な 芸 態 は, 秀 吉 の 朝 鮮 出 兵 に よ る芸 能 に 対 す
一 秀 吉 の朝 鮮 出 兵 に よる芸 能 へ の 影 響 一
る異 国 の文 化 の 影 響 に よ る もの で あ る こ とは 間 違 い
な い で あ ろ う。
吉
川
周
平
注1.
この太鼓 を打つ 〈
マ イ〉の動 きの特 色は, 旋回 ・水平運
東 日本の 鹿踊 りに対 し, 西 日本 の太鼓 踊 りと言 わ
れ, 九州 で は 多種 多様 の太 鼓
を打つ 舞踊 が 見 られ
る
注1
注2
動 ・直線的に移動す るだけの ときは上 下動のない滑な動
が,
動 き ・拍子に動 きを合せ るこ とを意図 しない ことな どで
そ れ ら は 〈太 鼓 の マ イ 〉
二 大 別 す る こ とが で き る。
と 〈太 鼓 の オ ドリ〉
あ る。
ふ つりゆつ
前者 は, 熊 本県 荒尾 市 の 〈風 流〉 を頂 点 とし, 福
岡県柳 川 市の古 賀, 今古 賀, 藤 吉の 各 〈風 流〉か ら,
佐賀
県の 〈浮立 〉 につ なが る太鼓 を打
つ舞冒注3
で. 舞楽
だ一だ い こ.
一
の大 太鼓 を打つ 所作 か ら発展 して きた もの尼 考 える
こ とが で きる。
後 者に は, 注3の(4)-(10)の よ うな 多種 の ものが あ
るが, 九州 の 〈太鼓 の オ ドリ〉の中核 をなす のは,注
が く
3の(7)の
き ・足 を地面や床か ら上 げない ・抑制 された幾何学的な
に
〈楽 型 〉 の 太 鼓 踊 りで あ る。
注2.
太鼓 を打つ 〈
オ ドリ〉 の動 きの特 色は, 跳躍 ・
垂直運動 ・
上 下動 をお さえて水平運動化 して も拍節 に合せ た明確 に
区切 った動 きで組立てて いる ・足を地面や床 か ら上 げて
動 く ・抑制 しないダ イナ ミックな動 きなどである。
注3.
太鼓 を打つ芸能 は, 次の ように分類 して考 える と, 種 々
のこ とが見 えて くる。
A. 大道具 的太鼓……据 えた大太鼓 を打つ。
(1) 舞楽型……大 太鼓 の片面に向 って立 ち, 太 く短 い二本 の
注4
ところで, 鹿 児島 県姶 良郡加 治 木町 の太鼓 踊 りも,
〈楽型 〉の太鼓 踊 りの一 種 だが, そ の芸 態 に は, 次の
よ うな特 異な点 が見 られ る。
イ. 太鼓 を打つ とき, 左足 を上 げて右 手 の掻 で打
つ な ど, ナ ンバ でな い動作 が あ る。
ロ. 太鼓 打 はツ リ人形 の よ うに動 け といわれ るよ
うに, 身体 をひ ね る動 作 をしな い。
ハ. 鉦 打4人 が 横一 列 で左 まわ りに, 太鼓 打 は縦
一 列 で右 まわ りに まわ った りす るな ど, 陣形 の
変 え方 が独得 で あ る。
以上 の よ うな特 異 な動 きは, 加 治木 の太鼓 踊 りが
属 す 〈楽型 〉の太 鼓踊 りには見 られず, 日本 の太 鼓
踊 りの伝 統 には ない 異質 な動 き と言わ ねば ならない。
加 治 木の 太鼓踊 りの起源 は, 秀吉 の朝 鮮 出兵 に参
加 した島津義 弘 (1535-1619) が, 江戸 で駿 河 の念
仏 踊 りを見 て, 配下 の侍 に作 らせ た もの とい う。 し
か し, 現 在 の遠州 の大 念仏 に は, イ-ハ の よ うな動
きの要素 は見 られ ない。
義 弘が隠居 した加 治 木 には, 竜 門司焼 とい う朝鮮
か らの帰 化 陶工 に よる朝鮮 系の 陶芸 が伝承 されて
い
き
そ
るが, 加 治木 の太鼓 踊 りの前 に演 じられ る 「
吉左右
踊 り」 とい う棒 踊 りを仕 組 んだ 風流 が, 島津 軍 と朝
鮮 軍 とに扮 しての風 流 で あ り, 鹿児 島県 内か ら, 義
弘 が朝鮮 へ の途 次滞 在 した肥前 に至注5
る まで, 加 治 木
の 太鼓 踊 りと同様 な ものが 見 られ ないこ とな どか ら,
加 治木 の太鼓 踊 りに見 られ る特 異 な芸 態 は, 朝 鮮 で
接 した もの を摂 取 して は じめて創 始 で きた もの とし
か考 え.よ うが な い。
また, 加治 木の太 鼓 踊 りの細長 い掻, 朝 鮮 の三拍
子が 日本 風 に四拍子 に変 化 した ような リズム な どは,
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嬢 で, 間遠 に打 つ。大太鼓 を打つ風流 に発展す る。
(2) 神楽型……床 に置かれた太鼓 を細長 い二本 の撲 で, 連 続
的 に打つ。太鼓 打はあ くまで も離子方 で, 神楽 では撲 を
採物 として舞 う 「
撰 の舞」以外は座 して打つのが特色 で,
太鼓 を打つ舞 踊 としては発展 しな い。
(3) 山車型……山車 な どにのせ て, 移動 させ なが ら, 太鼓 を
打つ もの で, (2)同様 離子 の太鼓だが, 太鼓が露 出してい
る場合, 打つ所作 に見せ る要素が あるものもある。
B. 小道具的太鼓
1. 太鼓 を手 に持 って, 打つ もの
(4) 念仏型……小太鼓 を左手に持 ち, 鉦な どと合せ て, 一本
の嬢 で打つ。
(5) 穿酵 樋……太
鼓持 ちが持つ小 太鼓 を, 他 の一人が
上
に向け られ た片面 を, 二本の撲 で打つ。
II. 太鼓 を身体 につ けて, 打つ もの
(i) 太鼓 を身体 の前部 につけて, 打つ もの
(6) 稚児舞楽型……子供 が掲鼓(小 太鼓)を 胸につけて, 二
本の擬 を直線的 に動か し,両面 を打つ。跳躍性は少 な く,
〈
マ イ〉 に属す。檸 をせ ず, 御幣 を背負 わない。
(7) 楽型……大人が胸 につ けた太鼓 の両 面 を, 二本の撲で打
つ。(6)の掲鼓が比較的静か な音なのに対 し, 大 きな音 を
出 し, 雨乞いや虫追 いに用 い られた りす る。典型的 な太
鼓 踊 りで, 跳躍性に富み, 陣形 をさま ざまに変 えた り,
移動性 に富む。裡, 御幣 をつ ける。
(8) 田離子型……(7)に類 似す るが, 田の中で打つ ため, 移動
性 は少ない。二本の撞 で片面 ずつ を打ちかえた り, 搬 を
拗 り上 げた り, 曲芸的 な打 ち方 で, 撰 の動 きを派手に見
せ る。
(9) 田楽 型……(7)と類似 し, 陣形 を変 えてお どるが, (7)と異
な り, 小鼓, ささら, 銅銭子, 笛 など を伴 な う。平べ っ
た い 大 太 鼓 を, 二 本 の掻 で, 比 較 的静 か に 打 つ。
(ii) 太 鼓 を左 脇 に か か え て, 打 つ もの
(10)沖 縄 の エ イサ ー の大 太 鼓 型……左 手 を 太 鼓 の 胴 に巻 き,
片 面 を一 本 の 掻 で打 つ。
以上 注3の 太 鼓 の 芸 能 は, (2)(3)の 嘘 子 の太 鼓 をの ぞ き,
依 代 の 相 違 に よ り二 大 別 で き る。
(ィ)笠 をつ け る も の……顔 をか くし, 仮 装 の 意 識 が ある。
(1)(4)(5)(6)(8)(9)(10)
(口)御 幣 等 を背 負 う も の……非 念 仏 系 で, 本 来 は 仮 装 で
な い。(7)
注4.
こ の 太鼓 踊 りに つ いて は, 『鹿 児 島 県 文 化 財 調 査 報 告 書 』
8 (昭 和36年3月)
に 真 鍋 隆 彦 氏 の 「吉 左 右 踊
太 鼓 踊」
と題 す 論 考 が あ る。
注5.
鹿 児 島 県下 に 太 鼓 踊 りは130以
上 あ るが, 次 の よ うな 地
域 的 な芸 態上 の 特 色 が 見 ら れ る。
(1) 本 州 的 太鼓 踊 り(や す ら い花 の よ うに 手 太 鼓 を持 つ。 市
来 の七 夕 踊 りの 太 鼓 踊 りな ど。)
(2) 九 州 的 太鼓 踊 り (注3の(7) の楽 型 の 太 鼓 踊 り。 九州 に は
無 数 に あ るが, 沖 縄 に は な く, 愛 知 以 北 に も見 ら れ ない。)
(3) 沖 縄 的 太 鼓 (注3の(10) の もの で, 出水 郡 東 町 鷹 巣 の種 子
島 踊 りな ど。)
(4) 異 国 的 太 鼓 踊 り (加 治 木 の 太 鼓 踊 りで, 朝 鮮 的 太 鼓 踊 り
とい うべ き も のか も知 れ な い。)
注6.
『筍 子 』 巻 第 十 議 兵 篇 第+五
の 四 に 「聞 鼓 声 而 進, 聞 金
声 而 退 」 と あ り, 太鼓 の 音 で 進 軍 し, 鉦 の 音 で 退 却 す る
とい う, 戦 国 時 代 の 中 国 の 軍 楽 が 知 ら れ る。
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