狭輝線セイファート1型銀河 1H0707-495 の中心核付近における電離

狭輝線セイファートⅠ型銀河 1H0707-495 の
中心核付近における電離吸収体の時間変動
水本 岬希1,2, 海老沢 研1,2,
島 寛明1
(1ISAS/JAXA、2東京大学) [email protected]
Abstract
低電離吸収体を
通ってきた成分
高電離吸収体を
通ってきた成分
Residual Normalized counts s-1 keV-1
狭輝線セイファートⅠ型銀河(NLS1s)は、水素輝線が比較的細く、
FeII 輝線が強く、X線スペクトルの傾きが急で、X線での時間変動が激しい
という特徴がある[1,2]。これらの特徴は、NLS1 が、他のAGNと比較して、
中心のブラックホール (BH) 質量が小さく、質量降着率が高いことを示唆し
ている。故に、NLS1 は、BH へのガス流入が起こって間もない、比較的若
い AGN であり、BH が急速に成長しているものと考えられている[3]。この
ことから、NLS1 は AGN 中心の BH と母銀河の共進化の理解につながる
天体として注目されている。
AGN をX線で観測すると、母銀河を透過し、中心核付近の様子を直接見
ることが出来る。また、中心核付近には、warm absorber と呼ばれる、電
離吸収体が存在していることが、X線観測により明らかになっている[4]。故
に、吸収体が豊富に存在していると考えられる NLS1 の中心核付近の様子
を調べるのに、X線は適している。
NLS1 1H0707-495 の X 線スペクトルは、1 keV 付近に鉄の L 輝線、
および 7 keV 付近に急激な鉄の K エッジのような構造を持ち、 X 線で非
常に激しい時間変動を起こしていることでよく知られている。このように特
異な X 線スペクトルを、極端なカー・ブラックホールの極近傍からのディ
スク反射であると解釈するモデルもある[5]が、MCG-6-30-15 を始めとす
る AGN で成功したように、内部構造を持つ電離した吸収物質が視線上の
X 線源を部分的に覆い隠すというモデルでも解釈できると考えられる[6]。
今回我々は、後者の立場から、1H0707-495 の X 線スペクトルおよび
時間変動を説明することを試みた。
直接成分
Energy (keV)
Energy (keV)
図2. 1H0707-495 の時間平均スペクトル (右) と、強度別にスライスしたスペクトル (左)。ソフト側
のスペクトルは主にディスク成分と高電離吸収体を通過した成分が、ハード側のスペクトルは主に
Power-law 成分と低電離吸収体を通過した成分が支配的である。
カバリング
3.0-10.0 keV 1.0-3.0 keV 0.5-1.0 keV 0.2-12.0 keV ファクター
1. Introduction
Residual Normalized counts s-1 keV-1
狭輝線セイファートⅠ型銀河(以下、NLS1)は、他のAGNと比較して、中心のブラックホール(以下、BH)質量が小さく、質量降着率
が高いことで知られている。また、NLS1 は、BH へのガス流入が起こって間もない、比較的若い AGN であり、BH が急速に成長してい
るものと考えられている。そのため、NLS1 は AGN 中心の BH と母銀河の共進化の理解につながる天体として注目されている。
NLS1 1H0707-495 の X 線スペクトルは、1 keV 付近に鉄の L 輝線、および 7 keV 付近に急激な鉄の K エッジのような構造を持ち、
X 線で非常に激しい時間変動を起こしていることでよく知られている。このように特異な X 線スペクトルを、極端なカー・ブラックホール
の極近傍からのディスク反射であると解釈するモデルもあるが、MCG-6-30-15 を始めとする AGN で成功したように、内部構造を持つ電
離した吸収物質が視線上の X 線源を部分的に覆い隠すというモデルでも解釈できる。
今回我々は、後者の立場から、1H0707-495 の X 線スペクトルおよび時間変動を説明することを試みた。その結果、1H0707-495 の
時間変動は、質量降着率の変化による1日以上の長期的な変動と、部分吸収体の変動による1日以下の短期的な変動によって説明できること
がわかった。我々の結果は、NLS1 の中心の BH の周りには電離吸収体が豊富に存在していることを示しており、NLS1 が比較的若い
AGN であるという考えをサポートしている。本講演では、NLS1 が X 線でどのように解釈されるかを示すとともに、光赤外線領域での
NLS1 の時間変動についても併せて議論する。
Time (sec)
図3. エネルギーバンド別のライトカーブ (黒) と、シミュレートしたモデルライトカーブ (赤)。最上段
はカバリングファクターの変動を示している。2段目以降は、各エネルギーバンド のライトカーブを
示している。
4. Discussion
2層の構造を持つ吸収体が
視線上を遮ることで
スペクトルを再現する
図1. 中心核のX線放射領域を部分的に覆い隠す電離吸収体 (Warm absorber)
の模式図 (Figure 12 in Miyakawa et al. 2012)
2. Observation
すざく衛星と XMM-Newton 衛星の計 1100 ks に及ぶアーカイブデータ
を解析した。紙面の都合上、最も観測時間の長い 2010年9月の XMMNewton 衛星で取得されたスペクトルのみを提示する。露光時間は 104 ks
である。
3. Results
図2に、時間平均スペクトルおよび強度別にスライスしたスペクトルと、
モデルフィットの結果を示す。電離吸収体を通ってX線がやってくることで、
特徴的なスペクトルを構成する。強度別スペクトルのフィッティングでは、
吸収体がX線源を覆い隠す割合(カバリングファクター)のみを変動させ
た。X線源としては、slim disk 由来と考えられるディスク成分と、逆コンプ
トン散乱による Power-law 成分を考えている。
図3に、様々なエネルギーバンドでのライトカーブと、我々のモデルから
計算されるモデルライトカーブを示した。特にソフト側の領域で、ライトカ
ーブがモデルによって見事に再現されることが分かる。
我々の結果は、1H0707-495 の中心核付近には電離吸収体の雲が豊富に存
在しており、それらが中心のX線源を覆い隠す割合が変わることでX線スペク
トルの変動が説明できることを示している。同様の結果は、セイファート銀河
MCG-6-30-15 および他の 20のセイファート銀河においても得られている
[6,7]が、本天体の場合は、カバリングファクターが非常に大きく、故に 7 keV
付近に鉄の強いエッジが生じていると考えられる。一方で、1週間程度にわた
る観測データを、カバリングファクターの違いだけで説明することは出来なか
った。このことは、電離吸収体の変動とは別に、数日程度の長期的な変動があ
ることを示唆している。この変動は質量降着率の変動によるものと考えること
が出来る。
NLS1 はX線で短期間に激しい変光を示すが、一方、可視では一晩以内の変
光は、少数の例外を除いてほぼ観測されない。このことは、X線での変光と可
視での変光は起源が異なることを示している[8]。一方、radio-loud NLS1 で
ある PMN J0948+0022 から、数百秒程度の間での可視偏光フラックスの激
しい変化が検出された[9]。これは、非常に強い磁場を持った 1014cm 程度の
小さな領域からシンクロトロン放射が起こっていることを示している。X線観
測と可視の偏光観測はともに NLS1 の中心核付近を見ていると考えられるた
め、これらの間に何らかの相関がある可能性が考えられる。
<References>
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Osterbrock, D. E, et al. 1985, PASP, 97, 25
Pounds, K. A., Done, C., & Osborne, J. P. 1995, MNRAS, 277, L5
Grupe, D. 2004, AJ, 127, 1799
Reynolds, C. S.& Fabian, A. C. 1995, MNRAS, 273, 1167
Fabian, A. C., Ballantyne, D. R., Merloni, A., et al. 2002, MNRAS, 331, L35
Miyakawa, T., Ebisawa, K., & Inoue, H. 2012, PASJ, 64, 140
磯直樹, 2012, 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士論文
Klimek, E. S. Gaskell, C. M., & Hedrick, C. H. 2004, ApJ, 609, 69
Itoh, R., et al. 2013 ApJ, 775, L26
【 活動銀河核ワークショップ(2014.4.23-24 @国立天文台)】