HUD とジェスチャ操作による走行時の情報端末へ

JARI Research Journal
20151001
【研究速報】
HUD とジェスチャ操作による走行時の情報端末への視認行動
Visual Behavior While Driving Using a HUD and Gesture-input of a Personal Digital Assistant Device
宇野
宏
*1
Hiroshi UNO
古賀
光 *2
阿部
Ko KOGA
正明 *2
Masaaki ABE
Abstract
The effects of a Head-Up-Display and gesture-input interfaces of a personal digital
assistant device on driver behaviors were examined. During car-following driving, the HUD
remarkably improved the number and duration of glances at the digital device, and the
gesture-input facilitated manipulations which did not require glances at the device.
Regardless of the driver interfaces, however, in-vehicle tasks having large cognitive demands
increased vehicle lateral displacement variability and headway distance variability.
1. はじめに
自動車運転中の情報機器の操作は,走行時の安
全性を損なう懸念がある.一方,ドライバ前方の
車外風景に近い位置に情報を視覚表示する HUD
(Head up display)や,画面を大きくなぞる行
動や手指で表象意匠を呈示する行動で特定内容を
入力するジェスチャ操作など,新しい表示操作系
が実用化しつつあり,従来型の情報機器に比して
走行影響を低減する効果が期待されている.
車外前方から離れた位置にある情報機器を視
認する回数や時間が大きいと,通常走行時にあっ
ては自車の横方向位置や車間距離の変動性が増す
ことから 1,2),危険発生の可能性が相対的に高ま
る.また,機器視認の最中に回避行動が必要な車
外状況が出来すると,危険対象の発見が遅れ,衝
突回避に失敗するリスクが増す.これに対し,前
方から視線を大きく移動せずに機器情報を取得で
きる HUD は,周辺視で車外状況変化を検知しや
すいと予想される点で有利と思われる 3).ボタン
位置の同定などの視覚探索を必要としないジェス
チャ操作も,視認行動の点で有利と予想される.
そこで,HUD 表示系とジェスチャ操作系によ
る機器視認行動の改善効果を確認するため,テス
トコース上での走行実験を行った.
*1 一般財団法人日本自動車研究所 安全研究部 博士(学術)
*2 一般社団法人日本自動車工業会 HMI分科会
JARI Research Journal
2. 車内タスクの設定
手操作と音声操作を併用して経路案内の目的地
を設定する車内タスクとした.ここで,携帯情報
端 末 ( 市 販 ス マ ー ト フ ォ ン で 代 替 ; NTT
DOCOMO F-06E)と HUD 装置(パナソニック
CY-DFD100D)を用いて,表示系 2 水準(携帯情
報端末,HUD)と操作系 3 水準(手タップ,タッ
チ(Touch)ジェスチャ,空間(Remote)ジェス
チャ)のインタフェース要因を組合せた計 6 通り
のタスク条件を設定した.タスク用装置の設置状
況を Fig. 1 に示す.
Fig. 1
Task devices set in experimental vehicle
携帯情報端末はセンタコンソール上部に横置き
で固定し,HUD 装置のコンバイナは運転席前方
のダッシュボード上に固定した.本実験用の設定
として,HUD には携帯情報端末画面の内容をそ
のまま表示した.操作系の水準は,タスクの最終
- 1 -
(2015.10)
ステップである「決定操作」に違いを設けること
にし,手タップは情報端末画面上のボタン押し操
作,タッチジェスチャは画面全体を V 字になぞる
操作,空間ジェスチャは画面手前に手指で V サイ
ンを呈示する操作とした.ジェスチャ操作はいず
れも機器の本来機能とは異なる模擬操作とした.
設定した車内タスクは,Fig. 2 に示すように,
表示操作系の違いによらず同一の操作ステップで
あり,情報機器の状態をドライバ自身が随時監視
して操作入力する必要のあるタスクとした.
Step
1
Driver behavior
Operation
Monitored
Manual #1
・Tap on screen
Launcher start
2
Voice #1
・Call app. name
Desired state of
Smartphone (PDA)
Starting
voice input launcher
Starting
route guidance app.
App. start
3
Voice #2
・Call destination name
Result of
voice recognition
5
Manual #3
Fig. 2
Result of ANOVA (F value)
Main effect
Setting
intended destination
Device for visual monitoring follows
"Display" condition;
・Screen of Smartphone (PDA)
・HUD
Task steps set in the experiment
3. 走行実験
統制された道路環境と交通状況の下で,先行車
への追従走行中に車内タスクを実行する走行実験
を実施した.走路は JARI 城里テストコースの外
周路であり,約 1km の 2 車線直線部分(車線幅
3.5m)を実験区間として,60km/h 一定速度で走
行するセダン型乗用車に追従走行するものとした.
6 通りの車内タスクは被験者内要因とし,一回の
実験区間走行あたり 1 つの車内タスクの実行を求
め た . 実 験車 は ス テーシ ョ ン ワ ゴン 型 乗 用車
(461×177×157cm)とした.
男女ドライバ 12 名(27~61 歳)を実験参加者
とし,6 通りの車内タスクに対応する実験走行を
ランダム順に実施して,最後に車内タスクなしで
のベースライン走行を行った.各実験走行の後に
JARI Research Journal
Factorial effects detected by ANOVA
Switching to
voice input mode
Starting
route guidance
to destination
《alternative》
Step of manual #3 follows
"Operation" condition;
・Tap on screen
・Touch-gesture
・Remote-gesture
4. 実験結果
4. 1 要因効果
表示系(2 水準)×操作系(3 水準)を要因とす
る分散分析結果を Table 1 に示す.
Table 1
Manual #2
・Swipe on screen
Mode change
4
「運転への不安感」と「機器の操作しにくさ」に
ついて,7 点尺度で主観評価を求めた.走行にあ
たり「安全第一で,車線内位置を保持し,先行車
との車間距離を一定に保って走行すること.走行
の途中中断も可能であること」を教示した.
分析対象として,総タスク時間,主観評価,視
認行動
(携帯情報端末への総視認時間,視認回数,
一回視認時間)を指標とした.視認回数と一回視
認時間は,手操作の有無別に集計した.また参考
として,タスク実行中の横位置と車間距離の変動
性(最大値と最小値の差)を集計した.
Measure
Total task time
Subjective ratings
Uneasiness in driving
Difficulty of device task
Visual behavior
Total glance time
(with manual operation) ----N of glances (1)
Mean single glance time
(glance only) ------------------N of glances
Mean single glance time
Variability of vehicle location
Lateral displacement
Headway distance
Interactions
Display
Operation
d.f. (1,11)
d.f. (2,22)
d.f. (2,22)
0.236
0.345
0.001
1.964
10.824**
2.390
9.555**
7.765**
0.786
72.493***
6.729**
0.107
―
16.059**
―
7.147**
―
1.188
36.716***
1.409
1.578
0.763
0.635
1.305
0.282
0.044
0.262
0.932
0.778
0.318
・+: p<.1, *: p<.05, **: p<.01, ***: p<.001
(1)
ANOVA unavailable due to zero variance conditions
1) 総タスク時間
走行中の総タスク時間に要因効果は認められな
かった.表示系と操作系の違いに関わらず,本実
験で設定した車内タスクの実行に要した時間は,
平均値にして 43 秒程度であった.
2) 主観評価
「機器の操作しにくさ」に表示系と操作系の主
効果が,
「運転の不安感」に交互作用が認められた.
例として「機器の操作しにくさ」の集計値を Fig.
3 に示す.携帯情報端末画面に比して HUD では
主観評価が改善し,従来型の手タップ操作に比し
てタッチジェスチャ操作と空間ジェスチャ操作で
はより肯定的に評価された.
- 2 -
(2015.10)
Ratings
Very 7
diff.
6
S.D.
Mean
5
4
3
Tap
Fig. 3
T-gesture
HUD
PDA
HUD
PDA
HUD
PDA
Base
line
2
Very
1
easy
R-gesture
Subjective ratings (Difficulty of task)
3) 視認行動
総視認時間と手操作時の一回視認時間平均値に
表示系と操作系の主効果が,視認のみ時の視認回
数に表示系の主効果が認められた.要因効果がみ
られた指標の集計値を Fig. 4 に示す.
20
Duration (s)
15
10
5
HUD では,携帯情報端末への総視認時間,手
操作時の一回視認時間平均値,手操作を行わずに
機器視認のみを行う回数が小さかった.手操作毎
の機器視認時間の短縮とともに,操作をともなわ
ず機器を視認するのみの行動を減じる効果により,
総視認時間が減じたものとみられる.
タッチならびに空間ジェスチャ操作では,手タ
ップ操作に比して,総視認時間と手操作時の一回
視認時間平均値が小さかった.後述するように,
ジェスチャ操作には“機器を注視しない操作入力”
を促進する効果があることによるとみられる.
以上の結果は,前述の主観評価と同様に,HUD
とジェスチャ操作が携帯情報端末への視認行動を
改善することを示している.
4) 車両位置
分散分析の結果,横位置変動性と車間距離変動
性には要因効果は認められなかった.Fig. 5 に示
すように,本実験の設定では,HUD やジェスチ
ャ操作による車両位置の変動性に一貫した差はな
く,いずれの車内タスク条件ともベースライン走
行時の車両位置変動性よりも指標値が大きかった.
PDA
60
R-gesture
50
Displacement (cm)
HUD
T-gesture
HUD
Tap
PDA
HUD
PDA
Base
line
0
(1) Total glance time
2.0
1.0
30
20
10
Tap
Tap
T-gesture
HUD
PDA
HUD
T-gesture
R-gesture
(1) Lateral displacement variability
HUD
PDA
HUD
PDA
HUD
PDA
Base
line
0.0
PDA
HUD
0.5
PDA
0
Base
line
Duration (s)
1.5
40
R-gesture
25
(2) Mean single glance time (with operation)
20
Headway (m)
20
15
10
15
10
5
Tap
T-gesture
Tap
HUD
PDA
HUD
PDA
HUD
PDA
Base
line
0
T-gesture
HUD
PDA
HUD
PDA
HUD
PDA
0
5
Base
line
Glance number
25
R-gesture
(2) Headway distance variability
R-gesture
(3) Number of glances (glance only)
Fig. 5
Variability of vehicle location
Fig. 4 Visual behavior to PDA
JARI Research Journal
- 3 -
(2015.10)
4. 2 決定操作時の視認行動
本実験では,操作系の水準をタスクの最終操作
ステップである「決定操作」の違いとして設定し
ている.そこで,この最後の操作を行う際の携帯
情報端末に対する視認行動を調べたところ,Fig.
6 に示すように,ジェスチャ操作では,操作中に
情報端末を一部時間あるいは全く視認しないまま,
タッチまたは空間ジェスチャ操作を行う実験参加
者がみられた.
さらに Fig. 7 に示すように,機器視認をともな
う場合でも,ジェスチャ操作では一回視認時間が
短かった.これらの影響は空間ジェスチャ操作で
より大きかった.ジェスチャ操作は,機器を注視
せずに操作入力するいわゆるブラインド操作を促
進する効果があるとみられる.
Number of participants
12
with view
partialy without view
fully without view
10
8
6
4
2
Tap
Fig. 6
T-gesture
HUD
PDA
HUD
PDA
HUD
PDA
Base
line
0
R-gesture
Operation without viewing PDA
3.0
2.0
1.5
1.0
Tap
Fig. 7
T-gesture
HUD
PDA
HUD
PDA
0.0
HUD
参考文献
1)麻生ほか:走行中のナビ視認時間に関する台上評価法
PDA
0.5
Base
line
Duration (s)
2.5
認行動と主観評価を改善し,機器を注視しな
い操作入力を促進した.この効果は,タッチ
ジェスチャ操作よりも空間ジェスチャ操作
で大きかった.
・ただし,車両位置変動性(横位置,車間距離)
には表示操作系の違いはみられなかった.
以上により,HUD は,機器が提供する情報を
ドライバが車外前方から視線方向を大きく移動す
ることなく取得できる点に大きいメリットがあり,
ジェスチャ操作も走行時の機器視認の負担を低減
することを確認した.
この視認行動の改善効果は,
ドライバにも自覚されやすいとみられる.車外前
方から視線を逸らすことは,先行車の急減速や飛
び出しなどの発見が遅れるリスクにつながるため,
機器に対する視認行動の改善は,緊急時の危険回
避行動の劣化を抑制する効果があるものと予想さ
れる.
ただし,タスク実行中の車両位置の変動性には,
表示操作系による差はみられず,表示操作系の異
なるいずれの条件でも,タスクなしのベースライ
ン走行に比して変動性が大きかった.本実験では,
情報機器の状態遷移の監視をドライバの作業内容
に含む車内タスクを設定したため,認知負荷が大
きく,これにより車両位置変動性が増大したもの
と考えられる.現実の交通環境でこのような通常
走行の運転行動の劣化を抑制するためには,表示
操作インタフェースの改善だけではなく,ドライ
バの認知負荷を増さないタスク内容を選択する配
慮が重要と思われる.
の検討,
「ケータイ・カーナビの利用性と人間工学」シ
ンポジウム資料,p. 145-148(2002)
R-gesture
2) 宇野,中村:情報機器の操作が運転行動に与える影響
Single glance time in manual step #3
に関する実験研究,自動車技術会論文集,Vol. 45, No.
5. おわりに
情報機器の HUD 表示系とジェスチャ操作系に
よる走行中の視認行動への影響を調べた走行実験
から,以下の結果を得た.
・HUD は,走行中の機器操作における携帯情
報端末本体への視認行動と主観評価を著し
く改善した.
・ジェスチャ操作は,従来の操作系に比して視
JARI Research Journal
2, p. 387-392(2014)
3) 岡林ほか:自動車用ヘッドアップディスプレイにおけ
- 4 -
る前景情報と表示情報の認識について,証明学会誌,
Vol. 75, No. 6. p.267-274(1991)
(2015.10)