ヒューマンエラーは なぜ起きるのか! どうすれば無くせるのか! 労災事故【ゼロ】必達コミュニティー 前澤 眞澄 は じ め に 【推奨環境】 このレポート上に書かれている URL はクリックできます。できない場合は最新の AdobeReader をダウンロードしてください。(無料) http://www.adobe.co.jp/products/acrobat/readstep2.html ◆ 著作権について 当レポートは、著作権法で保護されている著作物です。使用に関しましてはご注意く ださい。 第1章 ヒューマンエラーはなぜ起きる? ヒューマンエラーを無くするためには、まずヒューマンエラーはなぜ起こるのか、その 原因を分析してみることからはじめてみましょう。 【1】 ヒューマンエラーの原因は12種のパターンに分けられます。 <高木元也氏(独立行政法人労働安全衛生総合研究所)による> ヒューマンエラーの12分類 1.無知、未経験、不慣れ 3.不注意 2.危険軽視、慣れ 4.連絡不足 5.集団欠陥 6.近道・省略行動本能 7.場面行動本能 8.パニック 9.錯覚 11.疲労等 10.中高年の機能低下 12.単調作業等による意識低下 以上のことは、実際にあなたも実際に経験した事例が思い浮かぶのではないでしょう か。 「うっかりミス」と一言で終わらせてしまいがちな失敗も、突き詰めて見ると、納得で きる様々な原因があるのです。 では、1~12のパターンついて、建設現場での災害事例と共に、考えていきましょ う。 分類1 無知、未経験、不慣れ ●作業に不慣れな作業員は、作業の危険がどこに潜んでいるかわからない ●熟練作業員でも、初めて行う作業や赴任まもない現場では、適切な危険予測がで きない <災害事例> 雇用当日に新規入場者教育を受けずに棟上げ作業に加わり、固定されていない足 場板とともに墜落して死亡 分類2 危険軽視、慣れ ●危険とわかっているのに不安全な行動をとり、エラーを起こす <災害事例> 3段目の足場組立作業中、「これくらいの高さであれば大丈夫」と安全帯を使用せず、 バランスを崩して墜落 分類3 不注意 ●作業に集中していたために、その他のことに不注意になる ●作業内容が日々変わるため、作業に集中できず注意が散漫になる <災害事例> 通電状態の電気工事で保護具を着用して作業中、保護具を着用していない臀部が 充電部に接触して感電 分類4 連絡不足 ●安全指示が正しく伝わらず、エラーが発生する ●「必要な安全指示を出さない」「指示の内容があいまい」「的を射た指示でない」「作 業員が指示を聞かない」「作業員が指示の内容を理解できない」など <災害事例> 高圧線の近くで足場組中、電気作業以外の作業をしている作業者が誤って高圧線に 接触して感電 分類5 集団欠陥 ●工期が厳しい場合などに、現場全体が「工期第一、安全第二」という雰囲気になり、 エラーが発生する <災害事例> 突貫工事で無理して足場の上下で作業を行い、上方の作業員が誤って落とした工具 が下方の作業員に当たって負傷 分類6 近道・省略行動本能 ●面倒な手順を省略して効率的に行動することを優先した結果、不安全な行動をと ってしまう <災害事例> 資材置場へ移動するとき、安全通路より近道となる切梁上を渡り、誤って墜落 分類7 場面行動本能 ●瞬間的に注意が一点に集中し、まわりを見ずに行動してしまう本能 <災害事例> 脚立上で作業中、手に持っていたボードを落とすまいとバランスを崩し、頭から墜落 分類8 パニック ●非常に驚いたときや慌てたとき、脳は正常な働きをせず、冷静に適切な安全行動 をとれなくなる <災害事例> コンクリートのはつり作業中、防振手袋をはめていたためブレーカーの停止ボタンが うまく押せずに作業員がパニックになり、ブレーカーが勝手に動いて被災 分類9 錯覚 ●合図や指示の見間違い・聞き間違い、思い込み <災害事例> 足場板が無い場所を足場板が有ると思い込んで歩き、墜落 分類10 中高年の機能低下 ●身体能力の低下を自覚せずに作業し、エラーを起こす <災害事例> 身体能力の低下を自覚せずに重い物を運ぶ作業を続けて腰に負担がかかり、腰痛 になる 分類11 疲労等 ●人間は疲れるとエラーを起こしやすくなる ●長時間労働、夏の炎天下での作業など、過酷な条件下での作業では、作業員が 疲労しやすい <災害事例> 工事の納期の関係から疲労が蓄積していた作業員が、工事現場から会社に戻るた めに社用車を運転していたところ、黄色信号点滅の交差点で乗用車と出合い頭に衝 突し負傷 分類12 単調作業等による意識低下 ●人間は単調な反復作業を続けると意識が低下し、エラーを起こしやすくなる <災害事例> 大量の鉄筋を結束する作業中、バランスを崩してもたれかかった床面に差し筋があ り、足に接触して負傷 潜在原因にも目を向ける ヒューマンエラーの12分類は、いわばヒューマンエラーの直接原因です。 しかし、さらに「直接原因を引き起こした原因(潜在原因)」が存在する場合もありま す。 例えば、「資材置場へ移動するとき、安全通路より近道となる切梁上を渡り、誤って墜 落」という災害事例。直接原因は、近道・省略行動本能です。 さらに、なぜ近道・省略行動本能によって不安全な行動をしたかを調べたところ 「安全通路を使うと遠回り」、「工期がなく急いでいた」、「安全費が少なく、十分な数の 安全通路が設置できなかった」といった潜在原因が明らかになったとします。 このような場合、 直接原因に対しては「作業員の安全意識を向上させる教育を増やす」といった対策 が考えられます。 潜在原因に対しては「安全通路の設置場所の見直し」、「作業員の人数を増やす」 「安全費を増やす」といった対策が考えられます。 直接原因だけでなく潜在原因にも目を向けることで、より効果的なヒューマンエラー 対策を見出すことができます。 以上のように、ヒューマンエラーはなぜ起こるのか、 その原因を考えてきましたが、 では、どのようにしたら ヒューマンエラーによる労働災害を防ぐことができるのか! 次の、第2章で考えていきましょう! 第2章 ヒューマンエラーを防ぐには! 【1】建設現場は安全対策が難しい? 「建設現場は安全対策が難しい」といわれています。 その理由は、建設現場に 1.作業内容が日々変化する 2.多業種の専門工事業者が入場している 3.単品受注生産(建設・建築)である 4.雇用期間が短い といった特徴があるからです。 つまり、様々な事業者と作業員が、 同じ場所に同じ条件で同じ物をつくることのない一度きりの現場で、 様々な作業をするのが建設現場です。 このため、安全対策を講ずる上で、 ●適切な安全設備の設置に限界がある、 ●作業のマニュアル化に限界がある、 ●事業者や作業員間の連絡・調整が難しい、 ●作業員への継続的な教育・訓練が難しい、といった特徴があります。 しかし、これらの特徴は、 建設現場での安全対策を練るときのポイントを示してくれています。まさに、ここに 「全産業の中で労働災害の発生が最も多い」理由があるからです。 例えば、安全設備が設置できない危険箇所については 不安全行動をしないよう作業員間で声をかけあう、 事業者や作業員間の連絡・調整に多くの時間をかけたり方法を工夫したりする、 といった対策のポイントが見えてきます。 【2】具体的な対策 ヒューマンエラーを防ぐ具体的な対策としては、大きく次の2つの方向があります。 ●ヒューマンエラーが発生しても大丈夫なような安全設備面の対策 ●ヒューマンエラーが発生しないような現場の安全管理活動の充実 ★ ヒューマンエラーが発生しても大丈夫なような安全設備面の対策 建設現場は、適切な安全設備の設置に限界があります。 しかし、「人は誰でも間違える」ことを前提として、可能な限り適切な安全設備を設置 することは非常に重要かつ有効な対策です。 ヒューマンエラーの12分類のうち、 特に、不注意、近道本能行動、場面行動本能、パニック、錯覚、単調作業による意識 低下は、 「瞬間的に注意力が適切に働かない」状態ですから、「最終的な安全確保を人の注 意力に頼らない」ような安全設備を整えることが効果的な対策となります。 具体的な対策例としては、 安全帯、墜落防止ネット、墜落防止手すり、各種保護具の着用、差し筋の養生キャッ プや曲げ加工、各種リミット装置(安全弁、ガス警報器、漏電遮断機、重機の接触防 止等)といったものが挙げられます。 ★ ヒューマンエラーが発生しないような現場の安全管理活動の充実 適切な安全設備の設置に限界がある、作業のマニュアル化に限界があるのが、建設 現場の特徴です。 このため、「作業員ひとりひとりがヒューマンエラーを起こさない」ために、現場の安全 管理活動を充実させることが、非常に重要な対策となります。 ヒューマンエラーの12分類のうち、 特に、未経験、危険軽視、連絡不足、集団欠陥、中高年の機能低下、疲労等は、「あ らかじめエラーが発生しやすい状況が作業員に内在している」といえます。 このような危険な状況を作らない、もしくは早期に発見し改善できるような安全管理 活動が効果的です。 安全管理活動では、「集団の力をうまく活用する」という視点も大切です。 「作業員ひとりひとりが高い安全意識を持って注意深く行動する」ことが重要なのは、 言うまでもありません。 しかし、個人の注意力には限界があります。また、例えば「現場の朝礼でヒヤリハット 事例の報告会をする」など、個人の安全意識を高める上でも、集団の力は効果的で す。 ヒューマンエラーを防ぐ具体的な安全管理活動としては、下記のものが挙げられま す。 ●作業の技能教育・訓練 ●安全衛生に関する教育・訓練 ●ヒヤリハットの蓄積・共有 ●KY活動(危険予知活動) ●パトロール ●危険作業はひとりでやらずにペア・コンビで行う ●現場での声のかけあい(危険を指摘しあう等) ●職長や安全衛生責任者等の教育・訓練 ●明確な安全指示(誰が何をするのか) この他にも、それぞれの事業所、建設現場の状況に応じて、様々な活動が工夫でき るでしょう。 以上、建設業における「労働災害とヒューマンエラー」についてみてきました。 安全関係で大変有名な実話に「1 万人の 1 人」があります。 ある製鉄会社の労働災害で夫を亡くした妻が、弔問に訪れた工場の労務部長に次 のように言いました。 「工場にとって主人の死は 1 万人の中の 1 人を失っただけですが、わが家では、私は …人生のすべてを失ってしまいました」。 この言葉に労務部長は大きな衝撃を覚え、「1 人 1 人かけがえのない人なのだ、労働 災害は絶対あってはならない」と心底から悟ったといいます。 ヒューマンエラーを防ぐことで無くせる労働災害があり、守れる命があります。「人は 誰でも間違える」のですから、安全設備や安全管理活動の充実はもちろんのこと、 「個人のヒューマンエラー」を補い合える現場の雰囲気づくりが大切です。 以上にて、【ヒューマンエラーは何故起きる!】についてのPDFテキストを終わらせて いただきます。 最後までお読みいただき、ありがとうございます。 御社の安全衛生活動の取り組みに、 少しでも参考にしていただけたら幸いに存じます。 ご安全に!
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