《ロービジョン・エッセーⅡ》 夏山…富士登山 ペンネーム 月下美人 登山

《ロービジョン・エッセーⅡ》
夏山…富士登山
ペンネーム 月下美人
登山らしい登山をしてない私がいつしか富士登山を夢
見るようになりました。
友人の Y さんに「一緒に登らない」と声かけたら
「富士山は登ったこと無いから一緒に登ろう」と優しい
言葉をかけてくれました。もちろん私が弱視者であるこ
とを承知の上でです。私は晴眼者のこの Y さんの御陰で
富士登山ツアーに参加し無事登頂してきました。
弱視者は見えないと言いながらも動き回るので、とか
く周りの人からは「アレ!見えてるのと違うの?」と誤
解されがちですが、まるっきり見えないわけではないの
です「見え方が違う」のです。私の場合、人は近くに来
ると分かるのですが、「顔がほんとに近づかないと見え
ない!」だから「こんにちは」ではなく自分の名前を教
えてほしいのです。会釈だけでは顔を見てても誰だかわ
からないのです。文字も私の場合、赤のマーカーで書く
のが一番わかりやすいのです。そのほうが離して見えま
すから…。みえっぱりかな。
まぁ このような私ですからツアーの皆さんに迷惑だ
けは避けねばなりません。
さぁー出発です!バスの乗り降り・トイレ休憩、Y さんが
居るのでバスの位置・段差等々、ホントに気にせず河口
湖(五合目)に到着。お昼前の11時30分からいよい
よ富士登山開始です。
「私は絶対怪我や高山病をしてはならない」のです。な
ぜなら私は「障害者」だから。「障害者なのにこんなと
こ参加して…。」白い目が私に向けられるのは目に見え
てます。Y さんにも迷惑かけますしね。
それにはどうしたらいいか…①登山案内人(ガイドさ
ん)の後ろにいつもいること。それは喋っている声が良
く聞こえるから。そして私があぶないときはよく案内人
から見えるから②水分の補給を常にする③休憩の時はし
っかり深呼吸をする等々…心に命じた。そう思うと心が
ふるえて初めはうまく身体が動かなかったが、なんとか
慣れてきた。
七合目を過ぎると岩だらけの道になった。困ったことに
岩の高低がありすぎて平らに見える。しょうがない、手
で調べて登らなければ足並みが私のせいでみだれてしま
う。まわりを見るどころか汗がしたたり落ちます。
ガイドの「少し休憩です」の声、天の助けです。下を見
ると雲がモクモクと追ってきてます。それをときおり吹
く風がフアーと雲を散らしていきます、なんと優雅でし
ょう。
夢はつかの間、過酷な岩登りがガイドさんの一声で再開
です。こんなこと2・3回繰り返しやっと8合目(約3
100メートル)につきました。
ヘトヘトのはずなのに嬉しくて Y さんとおおはしゃぎで
す。ここで休憩と仮眠して夜の11時30分から山頂の
登山開始です。
ダウンジャケットに身を包み冬支度ですそしてヘッドラ
イトをつけて…またまた緊張です。
あたりは真っ暗闇!単眼鏡と同じでライトも視野が狭い、
サーチライトで明るいのですがそれが災いしてかえって
周りが見えない!「こまった・こまったどうしよう!」
ガイドさんが「ここかもう一つ先の小屋で、ついて行け
ない人はやめてください」と言っている。
寒いのに冷や汗が出てきた。とにかく登ろう。両方の手
も足になった。前の人の足も気を付けて見ておかないと
はぐれてしまう、そんなこと思っていたら前の人と間が
空いた!「えぇー!どこどこ」どこへ足を置いていいの
かわからない。「どうしょう、あぁーこっちやろか」な
んか頭に当たる触ってみるとなんと大きな岩、そこから
行けそうもない。「じゃこっちか」「焦る心で動悸がし
てきた。呼吸もおかしい!」そんな時またもガイドさん
の声、あぁーこっちの方から聞こえてくる、やっと前に
追いついた。
こんなことが2・3回あったかな。朝の4時頃、頂上に
着いたときは万歳万歳!!嬉しくて嬉しくてまだ眠って
居るであろう夫さんに電話したい気持ち、でも携帯は圏
外、公衆電話も探すのは不可能です。あきらめました。
山頂はお店いっぱいあったのですが、四時とはいえ私に
は暗くぜんぜん見えません。人混みが、まるで影絵のよ
うに見えます。Y さんとははぐれてしまうし、ただ集合場
所にお店の人に聞きながら行くのがやっとでした。ツア
ーの人達と、ご来光も運が良くて見る事が出来、ここが
富士山の上とは信じられないくらいでした。東の空が赤
く染まり太陽が雲間から頭をのぞかせる様を単眼鏡で位
置を確かめながら、写真を撮りました。はた目からは
「なにしてんやろ」って感じですね。
でももう「最高!」夜がしらじらと明けて来て、今度は
下山。これも大変らしい!
下り坂でしかも砂利道。上から下まで大小の石ころ道と
か。思わず絶句。弱視者にとって1センチ・2センチほ
どの距離は大げさだが本当に大事なのです。それで物が
見えたり見えなかったりします。明るさも同じい様なこ
とがいえます。
下りというのは足下から目の位置までだいぶん離れてい
るので、その少しのとこが見えない。
首も痛くなる。足下のいいところを踏みしめたつもりが
わざわざ石の上に足を置いて滑る。
ガイドさんが滑ったときは手をつかないでリュックから
滑って下さいと教えてくれる。手をつくと骨折するとき
もあるらしい。「そんなにうまくいくか」心の中で「ぶ
つぶつ」。でも笑顔でみぃんな「ハーイ」の大きな声。
尻餅着いて起きあがろうとするとまた前に転ぶ、ほんま
お笑いです。とにかくよく滑りました。
怪我が無いのが不思議なくらい?五合目の河口湖につい
たときはもう一歩も歩くのは嫌でした。
砂利道があんなにしんどいとは…。
しかし後で思うと無事登頂出来たのは、こまやかに注意
や冗談をいって疲れを吹き飛ばしてくれたガイドさんや
添乗員さんなればこそです。
3カ国語を喋り困ってる外人さんを見たら助けてあげ
てた。ガイドさんには凄いなと思いました。
そして一番に感謝するのは Y さんです。
「縁の下の力持ち」で私を助けてくれました。
富士山はほんとにほんとにしんどいけどいろんな障害や
病気お持っておられる方、色んな方法があるはずです。
何らかの方法で登れるだけ登ってみて下さい。なんか山
の大きな力を貰います。
きっと自分なりの何かが見つかるはず…です。
私は「一歩一歩が大事なんだ」難しいけど
「折り返し地点に来ている人生だがあせらないで歩んで
いこう」と思いました。
〈終〉