南九州大隅半島の山裾谷部における火山性未固結堆積物の分布特性と

全地連「技術 e-フォーラム 2004」福岡
【46】
南九州大隅半島の山裾谷部における火山性未固結堆積物の分布特性と道路計画
日本地研 ㈱ 鹿児島支店
1.
徳永
浩一郎
はじめに
ら)が厚く分布しており ,調査区間の斜面上には基盤
南九州は ,更新世中期以降 ,現在に至るまで火山活
岩の露頭のみならず転石すらも全く認められない特
動が活発な地域であり,黒ボク,赤ボク,赤ホヤ,しらす,
異な状況を呈する。
ぼら,こらと呼ばれる火山噴出物を起源とする多種多
様な火山性未固結堆積物が分布する。これらは概ね
3.
調査結果
脆弱な地層である上 ,特有の物性を持つことから ,土
調査は,トンネル案として両坑口部及び中間の谷部
木工事の設計・施工において地盤の安定性や構造物
で 4 箇所 ,切土案として長大切土のり面となる尾根
に対する支持地盤として問題となることが多く,一般
部で 4 箇所の合計 8 箇所実施した。
的な土質に対して「特殊土」と呼ばれている。
そ
お
きほく
鹿児島県曽於郡輝北町で実施した道路改築に伴う
地盤調査において火山性特殊土の「火山灰質粘性
土」及び「軽石(ぼら)」の分布が特異的に厚く確認
されたため,当該調査地におけるこれらの分布特性及
び物性,並びに道路計画に対する問題点について述べ
る。
図-2
図- 1
2.
位置図
起 点 側 斜 面 中 腹 ( No.4) の 地 層 状 況
2)
調査地周辺の地形地質状況
鹿児島県曽於郡輝北町は,大隅半島の北部で桜島の
東側に位置する。このうち当該調査地は標高
おおのがら
1236.4m の大 篦 柄岳を最高峰として南北に急峻な
山地が連なる高隈山地の東側斜面裾部で,これより東
方は標高 300m 程度の平坦な台地が広がっている。
表- 1
地 質 時 代
新
第
生
四
地質層序表
地 層 名
図- 3
中 央 小 谷 部 ( No.5 ) の 地 層 状 況
岩 相
火山灰質粘性土
完新世
霧島・桜島系火山噴出物
降下軽石(ぼら)
し ら す
代
紀
更新世
入戸火砕流堆積物
大隅降下軽石(ぼら)
中生代 白亜紀
四 万 十 層 群
頁 岩
地質は ,西側の高隈山地を形成する中生代・白亜
紀・四万十層群を基盤として ,東側は新生代・第四
い
と
紀・更新世・入戸火砕流堆積物のしらすが広く分布
している。さらにこれら全てを被覆して霧島及び桜
島を噴出源とする火山灰質粘性土及び降下軽石(ぼ
図- 4
中 央 小 谷 部 ( No.6 ) の 地 層 状 況
全地連「技術 e-フォーラム 2004」福岡
は鋼管と注入材により摩擦杭を構築するレッグ
(1)火山灰質粘性土の特性
パイル工法が考えられる。
①φ 1mm 程度の黄褐色軽石を僅少混入し比較的
(2)計画を切土とした場合
均質で高含水の粘土~シルトよりなる。
①長大法面となるため景観悪化・自然破壊が生じ
② N=0 ~ 4 と「非常に軟らかい~軟らかい」コン
る。
システンシーを示す軟弱層である。
→法面緑化が必要である。
③一部極弱溶結して固結土状を呈し,強度にバラツ
②表層崩壊・雨水による浸食が懸念される火山灰
キがある。
質粘性土及びぼらが広範囲にわたり法面に表出
④層厚は 7.3 ~ 10.5m で一般的な層厚に比べて非
する。
常に厚い。
(2)ぼら(大隅降下軽石)の特性
→吹付枠工等による法面保護工を全体的に必要
とする。
①φ 5mm ~数 cm の軽石から構成され粒度分布
③用地的な問題があり安定勾配で切土が出来ない
が悪く不均質で,細粒分を殆ど含まない。
区間がある場合。
②層厚は斜面中腹( No.4)が 8.7m であるのに対し
谷部(No.5)は 14.1m と極端に厚くなっている。
→勾配を起こすため生じる不安定土塊に対しア
③級化及び層理等の堆積構造が認められないこと
ンカ-工等による抑止工が必要である。ただし ,
から 降 下 後 に 斜 面 上 部 か ら 二 次 移 動 し て
ぼらの分布が受け盤構造となりアンカー定着地
谷 を 埋 め て 堆 積 し た 形成過程が 考 え ら れ る 。
盤が確保できない区間については補強土工によ
り対処する必要がある。
④ N 値は 5 ~ 10 回と緩い相対密度を示し ,自立性
が悪くルーズである。
⑤ No.6 の最下部は地下水の影響で粘土化(細粒分
24.5%)が進んでおり,上位のしらすから N=0 ~ 1
回の軟弱部が約 6m 連続する。
4.
道路計画に対する問題点と対策工
(1)計画をトンネルとした場合
①坑口上部斜面に非常に軟らかい火山灰質粘性土
が厚く分布することから坑口付けの切土法面の
安定性に問題がある。
→坑口付けの法面を極力小規模とすることが望
ましく結果的にトンネル延長が長くなる。
②自立性の悪いぼら及び軟らかい粘性土が分布す
るため切羽及び天端の崩落が懸念される。
→対策として先受け工法による補助工法が長い
区間に対して必要である。 工法としては , 緩み
荷重や緩み範囲(先行変位)の増大が懸念され
る塑性地山であるため先受け長が長く ,鋼菅剛性
が期待できる注入式長尺鋼管フォアパイリング
が効果的である。
③トンネル基面付近に軟弱層が分布するため支保工
の支持力不足が懸念される。
→支持面積を大きくするウイングリブ工法 ,或い
図-5
図-6
5.
切土部の地質横断図
おわりに
今回の地盤調査では ,当初 ,中央の谷部については
岩盤が浅所から分布するものと考え,ボーリングは計
画されていなかった。調査を進める中で特殊土の分
布を疑い追加調査したことで,その分布状況と性状を
詳細に把握することが出来た。調査結果を基に道路
計画に対する多くの問題点を抽出でき,今後の道路設
計に対して精度の高い資料を提供できたことは道路
事業に対し地質調査の重要性を強調できたと考える。
《引用・参考文献》
1) 鹿児島地質調査研究会編:20万分の1地質図
2) 土質工学会九州支部編:九州沖縄の特殊土,p.168,
1982.5
トンネル部の地質縦断図