○平成25年度奨励研究 化粧活動に用いた作業療法介入が後期高齢女性のWell-Beingに 及ぼす影響 作業療法学科 講師 堀田 和司 1.研究目的 化粧は、女性の身だしなみで大切な要素であるだけでなく、心理的効果として情動の活性化に繋がるとの報 告があるように、身だしなみへの関心だけでなく、生活習慣の活性化に繋がり、施設利用高齢者のWell-Being 向上に関連する活動になることが予測される。 近年、化粧は、医療・福祉の現場でも実施されるようになり、多方面で研究が行われ、不安の軽減、抑うつに 関連するとの報告がなされているが、断片的な報告が多く、化粧活動が施設利用高齢者のWell-Beingの向上に 繋がる活動として捉えた研究はほとんど行われていない現状にある。 そこで、本研究では、化粧活動を作業療法の重要な位置づけとし、化粧活動が高齢女性の心理社会学的変 化に及ぼす影響と、日常生活およびWell-Beingとの関連について、①化粧の実施前後の心理的効果を対象者 の主観的感情の変化、②自律神経測定による科学的指標による変化、③化粧介入を受けた対象者をに日常的 に観察している介護スタッフによる客観的評価の変化、の3点から介入効果を観測し、化粧活動に用いた作業 療法介入が後期高齢女性のWell-Beingに及ぼす影響について検討することを目的とする。 2.研究方法 1.対象 ①化粧の実施前後の心理的効果を対象者の主観的感情の変化の測定、②自律神経測定による科学的指標 による変化の測定については、対象施設である特別養護老人ホームに入所している女性高齢者のうち、施設作 業療法士が意志伝達可・指示反応可と判断し、かつ介入可能と判断した34名とした。また、③については、上記 対象者を担当し日常生活を熟知している介護スタッフ6名を対象とした。 また、本研究に関しては、事前に研究の主旨について、施設長並びに施設作業療法士に十分な説明を行い、 了承を得たのち、対象者に十分な説明を行い研究協力の了承が得られた上で実施した。 2.方法 2013年10月~11月、対象施設において週に1度化粧活動を用いたセッションを7回実施。化粧による介入手順 は、1)下地(化粧水、乳液、美容液、ファンデーション下地)、2)ファンデーション(パウダリー)、3)アイシャドウ、 4)チーク、5)リップとし、メイクセラピー理論に沿った化粧が可能な実施者が、市販されている化粧品を用いて対 象者に化粧を行った。また、現在の化粧実施状況として、化粧への関心、化粧の実施状況を聴取した。 ①高齢者施設における化粧介入が、施設入所者に及ぼす心理的効果検討については、化粧活動実施前後に Face-Scaleによる気分変化を測定、化粧前後の気分変化について、Wilcoxon の符号付順位検定を用いて分 析を行った。 また、②自律神経測定による科学的指標による変化については、自律神経測定機器(パルスアナライザープラ スビュー:TAS9VIEW)を用い、化粧実施時のHF(副交感神経活動)、LF/HF(交感神経活動)値を測定、各値 について、安静時とのI変化量についてWilcoxon符号順位検定を用いて分析を行った ③化粧介入を受けた対象者を日常的に観察している介護スタッフによる客観的評価の変化については、 介入前・後による女性高齢者の表情・行動の変化について、表情の豊かさ、会話量、行動の自発性、行 動範囲、他利用者様との交流、化粧の話、睡眠の7項目についてそれぞれ7段階で回答を求め、介入前後 の変化について、Wilcoxon の符号付順位検定を用いて分析を行った。 以上の統計解析には、SPSS ver.19を用い、有意水準はp<.05とした。 3.研究結果 化粧に関心があると答えた者は62.5%、現在化粧を行う習慣があると回答した者は8.3%、現在行っている化粧に 満足していると答えた者は16.7%であった。また、化粧を実施することへの希望の有無については76.2%が希望 有りと回答した。 ①施設入所高齢者に対する化粧介入が及ぼす心理的効果検討について、現また、化粧介入による気分変化 については、化粧介入前後でのFace-Scale得点に有意差が認められた(p<.001)。 ②自律神経測定機器(パルスアナライザープラスビュー:TAS9VIEW)を用い、安静時と化粧介入実施中のHF (副交感神経活動)、LF/HF(交感神経活動)値について有意差は認められなかった。 ③化粧介入を受けた対象者を日常的に観察している介護スタッフによる客観的評価の変化については、表情 の豊かさ(p=.001)、行動の自発性(p<=.014)、行動範囲(p=.014)、他利用者様との交流(p=.025)、化粧の話 (p=.000)、睡眠(p=.008)において、有意差が認められ、化粧活動による介入後に良好な変化がみられた。 4.考察(結論) 施設入所の女性高齢者において、対象者の76.2%が「化粧をしたい」と回答しているにも関わらず、83.3%が 「現在の化粧に満足していない」と回答し、化粧をしたいと思いながらも、現状に満足していない環境で生活して いることが示唆された。 また、化粧前後の気分変化について、Face-Scaleを用いて化粧介入前後の気分を測定、化粧前の気分と化粧 後の気分を比較した結果、化粧後の気分が化粧前の気分に比べ快方向へ有意に変化したことから、女性高齢 者に対して化粧を行うことが情動状態を快適な方向へ導くことが示唆された。 さらに、介護スタッフによる客観的評価による対象者の日常生活における変化において、表情の豊かさ、行動の 自発性、他利用者様との交流、睡眠といった、対象者本人にとって、良好な生活上の変化が認められた。このよ うに他者から見た対象者本人の行動が良好に変化したことで、化粧による介入が、客観的に観察しても対象者 のWell-bengを改善させることに寄与することが示唆された。 自律神経測定器による。ストレス反応の測定については、安静時と化粧介入時に有意な変化が認められなかっ た。化粧は、香りやエステティックマッサージの生理的効果から、唾液成分であるコルチゾール濃度の減少が認 められ、リラクゼーション効果があるとの報告があるが、本研究においては、リラクゼーション効果が認められなか った。このことは、安静時の環境と化粧活動による介入環境が変化したこと、介入したスタッフが、対象にとって、 馴染の関係でなく、緊張感を与えてしまったことが原因と考える。 本研究は、化粧活動を作業療法の重要な位置づけとし、化粧活動が高齢女性の日常生活およびWell-beingに 及ぼす影響について、①対象者の主観的評価、②科学的指標による評価、③介護スタッフによる客観的評価か ら検討をおこなった。化粧活動による介入は、本人にとってより良い気分への変化をもたらし、また生活において もWell-beingに繋がる良好な状態に繋がることが示唆された。化粧に興味を持ち、化粧をしたいと感じている高 齢女性が多いにもかかわらず、そのほとんどの方が自分の満足できる化粧を行えていない状況からも、高齢女 性に化粧を行う機会を積極的に作り、介入していくことが、施設を利用している高齢者のWell-beingを良好にす る一つの手段として重要であると考える。 5.成果の発表(学会・論文等,予定を含む) 「化粧活動に用いた作業療法介入が後期高齢女性のWell-Beingに及ぼす影響」として県立病院雑誌への投稿 を予定 また、同タイトルにて第7回茨城県作業療法学会において発表予定 6.参考文献 1)加藤由有、小松美砂、濱畑章子.老人保健施設で化粧療法を受けた高齢女性の化粧への考えと感情の変 化.看護技術. 2005;51(10):905-908. 2)浜治代.アルツハイマー型老人痴呆症ぼけ症状を呈する人々への化粧による情緒活性化の研究.コスメトロ ジー研究報告1.1993;146:152 3)余語真夫,浜治世,津田兼六,他.女性の精神的健康に与える化粧の効用.健康心理学研究.1990,vol.3, no1,p.28-32. 4) 出羽 祐子,前田 富子, 丸田 操代. 化粧療法を受けた認知症患者の行動変容. 日本看護学会論文集: 老 年看護(1347-8249)39号 p.210-212. 2009. 5) 稲田 範子, 川村 真理, 斎藤 奈月他. 介護老人保健施設入所者における化粧の効果 精神的効果と免疫 力への影響. 日本看護学会論文集:老年看護(1347-8249)38号 p.117-119. 2008
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