26 寄稿・随想 九十の手習 結 城 瑛 「六十の手習」と言う言葉を多く聞くが、 「九十 硯に墨をすり「禅語の毛筆字」を書き続けている。 の手習」と言う言葉を今迄に聞いた事がない。 「今日無事」 、 「日日是好日」 、 「無事貴人」、 「好 四年前、愚妻が入院加療中に、八十八才になっ 雪片々不落別処」 、 「諸行無常是生滅法、生滅々巳 てしまった。自宅で独人で、年の暮を送り、正月 寂滅為楽」等の禅語録を毛筆字で練習紙に何枚も を迎えた。 何枚も書く、なかなか満足の出来る字が書けない 『侘し 八十八 故郷の春』 と言う事をつくづく感じさせられた。 と色紙に毛筆で何遍も手習をして漸く書いた。翌 「六十の手習」とは、よく言うが、 「九十の手習」 年、 左 脚 大 腿 骨 骨 折 を 受 傷 し て 苦 労 し た が、 とは誰れも言わない。私だけの「独言」か、いや 八十八才の正月以来、書き続けて来た毛筆字の色 「勝手な造言」かも知れない。 紙が二十数枚になった。姪の強い勧めに乗って、 兎に角、自分に満足の出来る様な、毛筆字が書 「卒寿の色紙展」 を開いた事が忘れられず、 現在も、 ける様になりたいと、 「九十の手習」の努力を毎 午後になると習慣の様になって、 机の前に座って、 日々々続けている。 新潟県医師会報 H28.2 № 791
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