別紙のとおり(PDF:257KB)

○選評
【小説・戯曲部門】
小説・戯曲部門では、相澤与剛、高橋千劔破、北原立木が慎重に審議して、
84編の中から、いずれも小説で準賞2編、佳作2編を選考した。準賞の「晩
秋の穂波」(斗有かずお)は、筆力があってそれに魅了された。友人である
医師からステージⅣのスキルス胃癌と言われて、それと共存して前向きに生
きる姿がいい。特によきパートナーを得て、新しい生命の誕生を思うという
のがインパクトがあって、作品を魅力あるものにしている。もう1編は「ア
ンザイレン」(根岸幸晏)で、登山でいう、ロープで体を結び合って登攀す
るアンザイレンを人生の中でもパートナーを組んで生きることがあって、そ
れを思わせるところにこの小説の興味深さがある。特に遭難した父と同じル
ートをアタックする息子がいい。息子の生き方に共感を覚えた。
佳作の「石の華」(菊池律子)は乳癌を患った女性の再発への不安と、そ
の心配はなかったという安堵感等と、夫との日常がリズム感のあるタッチで
描かれているのがさわやかで好感が持てる。
「喜沢の園のアリス」
(鈴木ナー
ネ)は県内の街を舞台にくりひろげられるファンタジックな作品で発想がお
もしろい。平和とはなにか、安心して暮らせるとはどういうことかを考えさ
せる作品である。
(北原 立木)
【文芸評論・エッセイ・伝記部門】
戦後70年の節目に戦中戦後の記憶を語る作品、親の介護と看取りを語る
作品などが目立った。準賞2作品を紹介しよう。
関根賢司「僕らの世代の戦争体験」は、学齢期前に敗戦を迎えた世代が孫
の世代に体験を伝えようとしてふと親や姉から聞かされた「贋の記憶」かも
しれないと疑いつつも、戦中の歌も戦後の抑留や残留孤児の問題も想起さ
れ、名前に刻印された時代性も何もかもが倫理的な問いとなって著者に迫っ
てくる。山本文夫「花の終わり」は通い介護で父を、同居介護に踏み切って
母を看取り、今は一人で生活する「私」がその経緯を語る。郷里に残る共同
体の温みを暗示する「朝顔」のモチーフを巧みに用いて構成した。
佳作は4作品。髙橋克己「少年」は小学校五年の康夫の視点から少年院に
収容されている中学生との淡い交流を描いた物語で、康夫は立原正秋『冬の
旅』
(昭44)を手渡される。外に、いわしたさき「スマイルアース」、石川
蝶平『川柳心理考』、中島大地「中国現代作家・余華」。
(佐藤 健一)
【児童文学部門】
今年度の応募は37編。10代の応募が2編と少なかったのは残念だ。し
かしながら、正賞と奨励賞を選出できたのは喜ばしい。
正賞は、一ノ瀬三葉氏「あしたのあたし」。引っ越しで転校しなければな
らず悩む六年生の歩が、自分で「明日」を選ぶ物語。これまで自分では何も
決められなかった歩の心の成長が、過不足ない文章と構成で描かれ、共感を
呼ぶ作品となっている。
奨励賞は、16歳の荻野結氏「終点妖駅」。学校帰り、電車を寝過ごした
花鈴が降りたのは、
「妖駅」。そこは妖怪の世界だった。若い筆者らしい、ア
ニメのキャラクターが浮かぶようなノリのいい作品。
佳作は、第一席から順に、蒔悦子氏「ぼくは忘れない」、武田裕子氏「恒
河沙の思い」、立花隆昌氏「お化けの出る家」、鈴木ナーネ氏「ふたごのカエ
ルのトゥングル・ムングル」、青砥享氏「1000本目の鉛筆」、宇田川直孝
氏「手をつないで 他9編」。
(金治 直美)
【詩部門】
詩部門の応募数は68点で、単行本10点と原稿作品58点であった。こ
のうち秋山公哉『約束の木』、天野英『冬の薄明の中を』、上野芳久『おとず
れ』の3冊が最終的な候補となりさらに検討が行われた。『約束の木』は震
災後の言葉への向き合い方や心境の描写が厳密な作品、『冬の薄明の中を』
は寓話的な物語を独自の視点で表現する作品、『おとずれ』は絵画から想起
される言葉の透明感が思考を深めた作品である。各詩集に力量が認められた
が慎重な審議の結果、第47回埼玉文芸賞は天野英詩集『冬の薄明の中を』
に決定した。思考と心情に徹する主題の詩的な昇華があり表現力の結実が高
く評価された。及び中村明美『ひかりの方へ』、渡辺恵美子『母の和音』、樋
口忠夫『ブラキストン線』は印象に残る作品であった。これらの詩集にわが
つまようこ「走る月 留まる月」、小野浩「紋白蝶」の原稿作品を佳作とし
た。なお高校生の応募は14点で奨励賞は該当作なしと決定した。
(鈴木 東海子)
【短歌部門】
短歌部門への今回の応募総数は55編で、前回より8編多かった。男女比
では25対30。年齢別では70代が一番多く18編、60代が13編、
80代が11編、あとは一桁で、10代と90代からの応募は無かった。
46編が50首の生原稿による応募で、9編が単行本での応募だった。
選考委員の沖ななも・水野昌雄・杜澤光一郎の三者が、候補作としてそれ
ぞれ10編ほどに絞った応募作を持ち寄り、具体的な審議に入ったが、三委
員がこぞって推挙するような一編に恵まれず、設樂芳江の第二歌集『ノー・
ウォー』と、菊地豊栄のやはり第二歌集『草ほたる』の2編を準賞に推すこ
とで結着を見た。なお他に渋谷みづほ、白藤巳玲、野村久雄、松本清、多田
政江、伊藤祥子の6編の佳作を選んだ。
設樂氏は早くから「潮音」に学び、今歌集は同人誌に発表した東京の戦後
の下町を詠んだ作品が多く、独特な詠風を持つ。菊地氏は「如月短歌会」の
代表で「作風」に所属。風土性に富み、母親の介護詠にも独自性がある。前
者は82歳、後者は71歳である。
(杜澤 光一郎)
【俳句部門】
今年の応募者は去年より9編多い82編(男53編女29編)であり60
代70代の人が最も多く57編を数えた。これは他部門も同じ傾向である。
落合水尾、岩淵喜代子両委員と小生の3人で選に当たった。3人が共に推
す優れた作品があり、スムースに正賞に決定した。
句集『車座』で応募した蕨市の長浜勤氏の作品は、有季定形即物具象の俳
句の骨法を極めた大人の作品として高く評価された。正賞は去年に続く快挙
であった。
狼の夢見し蒲団干しにけり
長浜勤
佳作は6編選んだ。龍野龍「赤ばかり売れ」、若杉朋哉「このごろ」、川島
一紀「四季の移ろい」、馬場友里恵『大鷲』、伊藤恭子『まんばうひらひら』、
青柳悠「ヨブ記の栞」等に個性的な句が見られた。
奨励賞は才守有紀さんの「筆跡」を選んだ。まだ高校生であり将来を期待
される作家である。
(尾堤 輝義)
【川柳部門】
応募数は前年とさほど変わらない。厳選の結果、正賞に該当する作品が見
当たらず、準賞2名を推挙し決定となった。佳作を6名とした。
準賞1席の島崎穂花氏の「ひとり旅」は文芸性に長け、人間探究を強く意
識し、用語選択が巧みな作品群である。準賞2席の茂木道子氏の「未完の絵」
は心象を上手く具現化されており、平明な言葉で柔らかく表現されている。
一句一姿に似合った表現が素晴らしい。
ベテランの応募が減少したこともあり、顔触れも変化が見られ年齢層も若
くなった。ただやはりベテランとの差は大きく、奮起を促したい。佳作には
三上博史、永井栄子、小高啓司、稲森あこ、鎌倉八郎、市村禎雲の6名が選
ばれた。
(四分一 周平)