ニッセイ基礎研究所 2016-03-01 法人企業統計 15 年 10-12 月期 ~経常利益が 4 年ぶりに減少、企業部門の 改善に陰り 経済研究部 斎藤 太郎 E-mail: [email protected] 経済調査室長 TEL:03-3512-1836 1. 製造業の経常利益が大幅減少 財務省が 3 月 1 日に公表した法人企業統計によ ると、15 年 10-12 月期の全産業(金融業、保険 業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比▲1.7% (7-9 月期:同 9.0%)となり、11 年 10-12 月期 以来、4 年ぶりの減少となった。非製造業(7-9 (前年比) 経常利益の推移 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 月期:前年比 15.2%→10-12 月期:同 12.7%) ▲5% は増益を確保したが、製造業(7-9 月期:前年比 ▲10% ▲0.7%→10-12 月期:同▲21.2%)の減少幅が ▲20% 製造業 非製造業 ▲15% 1101 1103 1201 1203 1301 1303 1401 1403 1501 (資料)財務省「法人企業統計」 大きく拡大した。 1503 (年・四半期) 製造業は輸出数量の減少が続く中、円安の一巡により輸出価格も減少に転じたことから売上高が 前年比▲1.4%(7-9 月期:同▲0.0%)と減少幅が拡大したことに加え、売上高経常利益率が 14 年 10-12 月期の 7.6%から 6.1%へと 2 四半期連続で悪化した。製造業の売上高経常利益率(前年 差)を要因分解すると、人件費、変動費、金融費用、減価償却費がいずれも利益率の悪化要因とな った。変動費は、原油価格下落などから前年比▲0.6%と 5 四半期連続で減少したが、売上高の減 少幅がそれを上回ったため、利益率の押し下げ要因となった。 (前年差、%) 売上高経常利益率の要因分解(製造業) (前年差、%) 3.0 売上高経常利益率(前年差) 2.0 売上高経常利益率の要因分解(非製造業) 2.5 売上高経常利益率(前年差) 2.0 1.5 1.0 1.0 0.5 0.0 ▲0.5 0.0 ▲1.0 ▲1.0 ▲1.5 ▲2.0 ▲2.0 1101 1103 金融費用要因 1201 1203 人件費要因 (資料)財務省「法人企業統計」 1301 1303 変動費要因 1401 1403 減価償却費要因 1501 1503 (年・四半期) ▲2.5 1101 1103 金融費用要因 1201 1203 人件費要因 1301 変動費要因 1303 1401 減価償却費要因 1403 1501 1503 (年・四半期) (資料)財務省「法人企業統計」 一方、非製造業は個人消費を中心とした内需の低迷を反映し、売上高が 11 四半期ぶりの減少(7-9 1| |経済・金融フラッシュ 2016-03-01|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved 月期:前年比 0.1%→10-12 月期:同▲3.2%)となったものの、売上高経常利益率が 14 年 10-12 月期の 4.3%から 5.1%へと改善したことが増益につながった。人件費は 4 四半期連続で利益率の 悪化要因となったが、 原油価格下落と円安の一巡に伴い変動費の減少幅が 7-9 月期の前年比▲1.0% から同▲4.6%へと大きく拡大し、変動費要因が利益率を 1 ポイント以上押し上げた。 経常利益の内訳を業種別に見ると、製造業は、はん用機械が前年比 12.9%(7-9 月期:同▲39.8%) と 2 四半期ぶりの増加となったものの、業務用機械(前年比▲29.7%) 、電気機械(同▲30.9%)、 情報通信機械(同▲70.0%) 、輸送用機械(同▲15.1%)など軒並み二桁減益となった。 非製造業では、物品賃貸業(前年比▲23.8%)は減益となったものの、建設業(前年比 21.4%) が好調を維持したほか、売上高が前年比▲4.8%の減少となった卸売・小売業も増益(前年比 4.5%) を確保した。 季節調整済の経常利益は前期比▲1.5%(7-9 月期:同▲7.5%)と 2 四半期連続で減少した。非 製造業は前期比 5.1%(7-9 月期:同▲6.9%) と 2 四半期ぶりに増加したが、製造業が前期 全産業 18.0 比▲13.5%(7-9 月期:同▲8.4%)と 2 四半 16.0 期連続の減少となった。非製造業の経常利益 12.0 は依然として過去最高に近い水準にあるが、 8.0 製造業は過去最高となった 14 年 10-12 月期の 4.0 14.0 非製造業 10.0 6.0 製造業 2.0 水準からは 2 割以上落ち込んでいる。海外経 0.0 -2.0 済の減速、円安の一巡を受けて製造業の収益 環境は厳しさを増している。 経常利益(季節調整値)の推移 (兆円) 20.0 -4.0 0001 0101 0201 0301 0401 0501 0601 0701 0801 0901 1001 1101 1201 1301 1401 1501 (年・四半期) (資料)財務省「法人企業統計」 2.設備投資は堅調を維持も先行きは減速へ 設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比 8.5%と 11 四半期連続で増加したが、7-9 月期の同 11.2%からは伸びが鈍化した。製造業(7-9 月 期:前年比 12.6%→10-12 月期:同 10.2%)、 (前年比) 設備投資(ソフトウェアを含む)の推移 15% 10% 非製造業(7-9 月期:同 10.4%→10-12 月期: 5% 同 7.6%)ともに前期から伸び率が低下した。 0% ▲5% 季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除 ▲10% く)は前期比▲0.0%と小幅ながら 2 四半期ぶ ▲15% りに減少した。製造業(7-9 月期:前期比 8.4% ▲20% 製造業 非製造業 ▲25% →10-12 月期:同 0.1%) 、非製造業(7-9 月期: ▲30% 前期比 4.3%→10-12 月期:同▲0.1%)ともに (資料)財務省「法人企業統計」 0801 0803 0901 0903 1001 1003 1101 1103 1201 1203 1301 1303 1401 1403 1501 1503 (年・四半期) 前期からほぼ横ばいだった。 企業収益が急減速する一方、設備投資は底堅さを維持している。ただし、これは企業収益が好調 だった時期に計画された設備投資がようやく実施されたことを反映した動きと考えられる。企業の 設備投資意欲を示す「設備投資/キャッシュフロー比率」は依然として 50%台半ばの低水準で推移 2| |経済・金融フラッシュ 2016-03-01|Copyright ©2016 NLI Research Institute All rights reserved しており、企業の設備投資意欲がここにきて大きく高まったわけではない。 2/26 に内閣府から公表された「企業行動アンケート調査(2015 年度) 」によれば、今後 5 年間の 実質経済成長率見通し(いわゆる期待成長率)は 1.1%となり、前年度から 0.3 ポイント低下した。 「設備投資/キャッシュフロー比率」は期待成長率との連動性が高いため、先行きも企業の設備投 資意欲が大きく高まることは見込めない。企業収益の悪化を受けて先行きの設備投資は減速する可 能性が高い。設備投資が景気の牽引役となることは当分期待できないだろう。 (兆円) 20 設備投資とキャッシュフローの関係 設備投資/キャッシュフロー比率と期待成長率の関係 18 140% 130% 130% 設備投資/キャッシュフロー比率(左目盛) 120% 期待成長率(今後5年平均、右目盛) 120% 設備投資(左目盛) 16 140% 14 110% 100% 100% 90% 90% 80% 3% 2% 70% 80% 60% 8 70% キャッシュフロー(左目盛) 6 60% 設備投資/キャッシュフロー比率(右目盛) 4 8601 8801 9001 9201 9401 9601 9801 0001 0201 0401 0601 0801 1001 1201 1401 50% (注)キャッシュフロー=経常利益×0.5+減価償却費。数値は全て4四半期平均 (年・四半期) 4% 110% 12 10 5% 1% 50% 40% 0% 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年度) (注)キャッシュフロー=経常利益×0.5+減価償却費 期待成長率は当該年度直前の1月時点の調査による (資料)財務省「法人企業統計」、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」 (資料)財務省「法人企業統計」 3.10-12 月期・GDP2 次速報は 1 次速報とほぼ変わらず 本日の法人企業統計の結果等を受けて、3/8 公表予定の 15 年 10-12 月期GDP2 次速報では、実 質GDPが前期比▲0.4%(前期比年率▲1.5%)になると予測する。1 次速報の前期比▲0.4%(前 期比年率▲1.4%)とほぼ変わらないだろう。 設備投資は前期比 1.4%から同 1.2%へと下方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いら れる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比 8.9%と 11 四半期連続で増加したが、 7-9 月期の同 11.2%から伸びが鈍化した。一方、 金融保険業の設備投資は前年比 4.5%と 7-9 月期 2015年10-12月期GDP2次速報の予測 の同 1.1%から伸びを高めた。 (前期比、%) 2015年10-12月期 法人企業統計ではサンプル替えに伴う断層が生 じるため、当研究所でこの影響を調整したところ、 設備投資の伸びは前年比 7%台となり、公表値よ り伸びが低くなった。本日の法人企業統計の結果 は設備投資の下方修正要因と考えられる。 民間在庫は 1 次速報で仮置きとなっていた原材 料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映 されるが、1 次速報の前期比・寄与度▲0.1%から 変わらないだろう。その他の需要項目では、12 月 の建設総合統計が反映されることなどから、公的 1次速報 実質GDP (前期比年率) 内需<寄与度> 民需(寄与度) 民間消費 民間住宅投資 民間設備投資 民間在庫(寄与度) 公需<寄与度> 政府消費 公的固定資本形成 外需<寄与度> 財貨・サービスの輸出 財貨・サービスの輸入 名目GDP (前期比年率) ▲0.4% (▲1.4%) <▲0.5%> <▲0.5%> ▲0.8% ▲1.2% 1.4% <▲0.1%> <▲0.0%> 0.5% ▲2.7% < 0.1%> ▲0.9% ▲1.4% ▲0.2% (▲1.2%) 2次速報予測 ▲0 . 4 % (▲1 . 5 % ) < ▲0 . 5 % > < ▲0 . 5 % > ▲0 . 8 % ▲1 . 2 % 1.2% < ▲0 . 1 % > < ▲0 . 0 % > 0.5% ▲3 . 2 % < 0.1%> ▲0 . 9 % ▲1 . 4 % ▲0 . 3 % (▲1 . 3 % ) 固定資本形成が 1 次速報の前期比▲2.7%から同 ▲3.2%へと下方修正されると予想する。 (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報 提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。 3| 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