バウンド時のボールの回転の変化について 転速度を一定に保てるように、下図のよう な落下装置を作った。構造は、タイヤが 3 富山東高等学校 物理2班 野﨑 弘晃 帯刀 遼平 つあり、その真ん中に落とすボールがはま 鶴瀬 康介 鍋谷 晋之介 るようになっている。そして、タイヤの 1 つをギヤーボックスで回転させると、ボー 1、動機 ルが一定の速さで回転し、重力で自然に落 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 下する。 軟式テニスボールを回転させながらバウ ンドさせると、バウンド後にボールの回転 方向が変化することを見つけ、とても不思 議に思った。そこで、なぜ回転方向が変化 するのかを中心に研究している。 2、方法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ■実験装置について 3、実験と結果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ■実験 1 ボールの静止摩擦係数と 回転速度の関係について ボールの落下点に、8 種類の素材(氷・木 材 2 種類・プラスティックボード・コルク 板・石板・発泡スチロール板・カッター台) を使用し、ボールと素材との静止摩擦係数 上図のような実験装置で実験をする。ボ と回転速度との関係を調べた。 ールを一定の速さで回転させて落とす落下 装置を脚立に設置し、ボールが回転して落 ~静止摩擦係数の測定方法~ ちるところを高速ムービーが撮れるデジタ ルカメラで撮影し、回転速度や回転方向を 調べた。実験によってはカメラの台数を増 やしたり、落下させるボールの条件を変え たりして実験を行った。 ■落下装置について ボールを毎回手で落とすと、回転速度に バラつきが生じる。そこで、できるだけ回 -39- 上図のように、ボールと合わせて 500g に 反転する理由の一つに、ボールと接地面の なるような水の入ったペットボトルを図の 摩擦が関係しているとわかる。ただ、今回 ようにボールの上にのせ、ニュートンばか は数値が出しやすいという理由で静止摩擦 りで引っ張り、ボールが動き出した時の力 係数を用いたが、ボールは回転しているの の大きさを調べた。 で、動摩擦係数の方が適切だったと思う。 結果はグラフの通り。 ■実験 2 について 回転するボールは、普通回転速度が落ち るが、この実験では、バウンド前の回転速 度に関係なく、ボールの大きさが 6.9cm か ら 7.1cm 前後で、バウンド前の回転速度よ りもバウンド後の回転速度の方が大きくな るという結果がでた。 ■実験 2 テニスボールの空気圧と回転 ■ボールが反転する理由 速度との関係について 実験 1 の結果に加えて、ボールがバウン ドしている様子を接地面の下から観察する バウンドする前の回転速度を 3 段階で変 と、ボールの印が歪んでいることがわかっ 化させ、それぞれソフトテニスボールの空 た。このことから、次のようなメカニズム 気圧を変えてボールの直径を 6.3~7.3cm でボールの回転方向が反転していることが まで変化させて、回転速度の変化の関係を わかった。 調べた。 結果は以下の通り。 3、ボールが回転して地面に接すると、一 部分は地面との摩擦で回転が止まるが、 他の部分は慣性でそのまま運動するた 4、考察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ■実験 1 について めねじれが生じる。 4、しばらくして、ボールがバウンドする 氷以外のすべての素材でボールの回転方 向が反転することがわかった。また、静止 摩擦係数の値が大きくなるにつれ、バウン ド後の回転速度が大きくなっているため、 - 40 - ときに、溜まっていたねじれが戻るた め、ボールの回転方向が逆になる。 ■ボールの回転速度が大きくなるメカニ ① ボールが地面に接するとねじれが生 ズム(仮説 1) じる。 ISS(宇宙ステーション)で宇宙飛行士 ② ボールに溜まっているひずみが開放 が体を回転させているとき、手足を伸ば されるタイミングと地面からボール したり曲げたりすると回転速度が変化す が離れるタイミングが一致したとき るという動画をみて、以下の仮説を考え に、力学的エネルギーが回転エネルギ た。 ーに変換される。 5、仮説 2 の検証 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ■実験3 ボールの反発係数と回転速度 の関係について ① ボールが地面に接するとねじれが生 もし、仮説2が正しければ、ボールの回 じ、それが戻ることでボールの回転方 転速度が大きくなるときに、バウンドする 向が反転する。 高さが低くなると考え、ボールの反発係数 ② バウンドした反動でボールの形が細 と回転速度の関係を調べた。 長くなり、直径が小さくなるためボー ルの回転速度が大きくなる。 実験方法は、ボールの落とす速さを 3 段 階(落下装置の電源を 2.0V、2.5V、3.0V の ③ しばらくすると、ボールの形がつぶれ、 3 種類に設定)変化させ、さらに全てにおい 直系が大きくなるためボールの回転 て、ソフトテニスボールの直径を 6.3~ 速度が小さくなる。 7.3cm まで 0.1cm ずつ変化させ、データの 精度を上げるため 1 つの条件につき 5 回実 ■ボールの回転速度が大きくなるメカニ 験を行った。 ズム(仮説 2) ボールの回転速度が大きくなる原因は、 ~反発係数の測定について~ 何らかのエネルギーが回転エネルギーに この実験には、回転速度を求めるための 変換されたからだと考え、力学的エネル ハイスピードカメラに加えて、反発係数を ギーが回転エネルギーに変換されたと仮 求めるための通常のデジタルカメラの 2 台 定して、以下の仮説を考えた。 でボールの様子を撮影した。通常のデジタ ルカメラで撮影した動画から、バウンド後 のボールの最高点の瞬間を静止画にし、 Excel のソフト「!0_0! Excel 「長さ・面 積測定」 」を利用して、反発係数を求めた。 - 41 - 結果は以下の通り。 6、まとめ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ボールとの静止摩擦係数が大きいほ ど、回転速度も大きくなる。ただし、 グラフの形より、ある程度静止摩擦係 数が大きくなると、回転速度は大きく ならないと思われる。 ・ ボールの空気を入れ、直径を 6.9cm から 7.1cm 前後にすると、バウンド前 よりもバウンド後の方が回転速度は 大きくなることがわかった。 ・ ボールの回転方向が変化する理由は、 ボールが接地しているときに、摩擦で ねじれが生じ、それが戻ることで起き るからである。 ・ ボールの回転速度が大きくなるとき に、ボールのバウンドする高さも高く なることがわかった。ただ、原因は未 だ不明である。 7、今後の課題 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 今後は、今回の実験でわかった現象のメカニズムを解 回転比(バウンド前の回転速度を1とし たバウンド後の回転速度の値)と反発係数 の差(回転時の反発係数から無回転時の反 発係数を引いた値)との散布図を作ったと 明することが中心となる。また、ボールと設置面の摩擦 と回転速度の関係、そしてボールの回転速度がなぜ大き くなるのかということも調べていきたいと思う。 ころ、回転比が大きくなる時に反発係数の 差も大きくなる(つまり回転速度が大きく なる時にバウンドする高さも高くなる)こ 8、参考文献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ とがわかった。また、相関係数を求めると、 やや強い値になるとわかった。よって、ボ 「―物理のかぎしっぽ―」 http://hooktail.sub.jp/ ールの運動エネルギーが回転エネルギーに 変換されたため回転速度が大きくなる、と いう仮説は否定された。だが、なぜ今回の ような現象が起きるのかは、まだわかって いない。 - 42 - 「視覚でとらえるフォトサイエンス 物理図録」 数研出版
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