プレスリリース 2016 年 3 月 2 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 世界で 世界で初めて、 めて、一つの細胞質内 つの細胞質内で 細胞質内での温度差を 温度差を検出 -感度高く 感度高く細胞内温度を 細胞内温度を測定する 測定する方法 する方法を 方法を開発- 開発- 慶應義塾大学理工学研究科の谷本隆一(修士課程 2 年)と同理工学部生命情報学科広井賀子専任講 師らの研究チームは、量子ドット※を用いて感度高く細胞内温度を測定する方法を開発し、この新 手法で神経細胞の細胞体と呼ばれる丸い形の部分と、軸索と呼ばれる長い枝状の部分では温度差 がある事を検出しました。同じ細胞内部でも膜で仕切られた異なる小器官ではなく、一つの細胞 質内での温度差を検出した例は世界初となります。この温度差は、神経細胞の特徴的な形状に由 来すると予測されています。細胞形状に依存した反応•拡散速度の違いなどの事例と並び、細胞 の「形」がその内部で実現される生理機能に意味を持つ可能性が、この測定結果でもう一つ新た に加わりました。 なお、本研究成果は3月1日にScientific Reportsオンライン版に掲載されました。 1.本研究のポイント ・量子ドットを用いた細胞内温度検出方法について、従来法に比べ感度高く検出可能な方法を開発。 ・細胞質の異なる場所での温度差を検出し、同時に論理的な説明を見出す事が出来た。 ・細胞の形状が細胞の生理機能に影響を及ぼす可能性を示した新しい事例の一つである。 2.研究背景 細胞で起こる反応の速度や平衡は温度によって変化するため、温度は細胞環境のなかで最も重要な 要素のひとつであると言えます。よって細胞内の温度を正確に定量化することは細胞の機能を理解す るための重要な課題です。近年、蛍光イメージング技術を基盤とした細胞内の温度を測定する手法が いくつか考案され、細胞全体での温度変化や細胞小器官ごとの温度差などが報告されています。しか し、これらの測定法では侵襲的に温度センサーを細胞内に取り込ませなければならないという問題点 や、温度センサーを化学的に合成したり通常の顕微鏡システムに付属していない高性能分光器を使用 するといった制約があります。また、細胞質内の温度分布を測定し、温度分布と機能の関係を明らか にした研究報告はありません。そこで我々は、量子ドットを温度センサーとして汎用的な測定装置を 用いて生細胞内の温度分布を非侵襲的に測定する方法を新規に構築しました。この温度測定手法を用 いて、神経細胞内の時空間的な温度分布を検出し、神経機能への影響を理解することを目ざしました。 3.研究内容・成果 本研究では、量子ドット 1 粒子の蛍光強度比率は温度と正の相関があることを確認し、この指標を 用いて温度測定を行うことの妥当性を示しました。まず、SH-SY5Y 細胞内で時系列温度測定を行った ところ、CCCP による脱共役に伴って温度上昇することを確認しました。また、定常状態において細胞 体のほうが神経突起よりも温度が高いことを示唆しました。これらの測定結果から、神経突起には定 常的な熱源である核が存在せず過渡的に熱産生を起こすミトコンドリアが存在すること、そして細胞 体に比べて相対的に比表面積が大きいことに起因して温度変化に敏感になっており、そのことが先行 1/2 研究で示唆されている加熱による突起伸長に寄与しているという仮説を立てました。蛍光イメージン グにより推定した神経突起のミトコンドリア量や、神経突起と細胞体の比表面積の違いといった事実 は、この仮説を助長するものでありました。 以上のことから、本研究により細胞内の温度が突起伸長といった神経特有の機能に影響を与えてい る可能性を示しました。 4.今後の展開 神経細胞では、その特徴的な形状と細胞の特異な役割とが密接に結びついています。この形状が原 因となって生み出される細胞内部での反応•拡散速度の違い、温度の違いなどが、生理機能に結びつ く事例を示していきたいと考えています。また、化学物質に頼らない神経分化誘導や突起伸長などの 操作技術が、神経変性疾患に対する医学面での新しい知見につながることを期待しています。 <原論文情報> Ryuichi Tanimoto, Takumi Hiraiwa, Yuichiro Nakai, Yutaka Shindo, Kotaro Oka, Noriko Hiroi & Akira Funahashi. “Detection of Temperature Difference in Neuronal Cells” *Scientific Reports* 6, Article number: 22071(2016) doi:10.1038/srep22071, Published online:01 March 2016 <用語説明> ※量子ドット: 量子ドットは半導体で構成される直径は 2-10 nm 程度の粒子の名称。1 粒子あたり 10-50 個の原子が含まれている。量子ドットはその特異な電気的性質によりレーザー技術や量子コン ピュータへの応用を目指して研究開発が進められてきたが、近年では、生物学分野において蛍光プロ ーブとしての利用が注目されている。 ※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。 ※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、各社科学部等に送信させていただいております。 ・研究内容についてのお問い合わせ先 慶應義塾大学 理工学部 生命情報学科 専任講師 広井 賀子(ひろい のりこ) TEL:045-566-1584 FAX:045-566-1789 E-mail: [email protected] ・本リリースの配信元 慶應義塾広報室(竹内) TEL:03-5427-1541 FAX:03-5441-7640 Email:[email protected] http://www.keio.ac.jp/ 2/2
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