平成 27 年 7 月 1 日 多粒子系の量子論の基礎 千葉 敏 (原子炉工学研究所) 第二量子化 1 粒子 i (i = 1 · · · N ) が状態 αi , (i = 1 · · · N ) にある N 粒子系の状態を (1) (2) (N ) (1) (2) (N ) |α1 α2 · · · αN ⟩ ≡ |α1 ⟩|α2 ⟩ · · · |αN ⟩ (1.1) で表す。上付きの添え字 (i) は粒子 i の状態であることを示す。1 粒子状態 |αi ⟩ の添え字 i は 1 粒子状態を区別するための添え字で、粒子の番号とは無関係である。上では単に粒子 i がある (i) 状態を (i) と書いただけである。ま た、|αi ⟩ は規格直交系とする: ⟨αi |αj ⟩ = δij 1.1 (1.2) スレーター行列式 N 個の同種粒子系では、個々の粒子は量子力学的には区別できない。簡単のため N = 2 の 場合を考える。2 粒子系の波動関数の粒子を交換する 演算子を P̂12 とする。これを波動関数 (1) (2) |α1 α2 ⟩ に作用させると (1) (2) (1) (2) P̂12 |α1 α2 ⟩ = |α2 α1 ⟩ (1.3) となる。もう一度作用させると、 (1) (2) (1) (2) (1) (2) 2 P̂12 |α2 α1 ⟩ = P̂12 |α1 α2 ⟩ = |α1 α2 ⟩ (1.4) (1) (2) 2 の固有関数であり、固有値は、P̂ 2 = 1 より すなわち、|α1 α2 ⟩ は P̂12 12 P̂12 = ±1 (1.5) であることがわかる。このうち (1) (2) (1) (2) (1) (2) (1.6) (1) (2) −|α1 α2 ⟩ (1.7) P̂12 = 1 → P̂12 |α1 α2 ⟩ = |α2 α1 ⟩ = |α1 α2 ⟩ P̂12 = −1 → (1) (2) P̂12 |α1 α2 ⟩ = (1) (2) |α2 α1 ⟩ = となる。つまり、同種二粒子系の波動関数は、二つの粒子が交換する時に符号が変わらない場 合(これを対称な波動関数と言う)と変わる場合(これを 反対称と言う)の二種類がある。量 子力学ではこの事実を取り入れ、かつ同種粒子の非識別性を正しく取り入れるために、多粒子 系の状態として次の要請を満たす(パウリの仮定) : • フェルミ粒子(スピンが半整数の粒子)の場合、任意の二つの粒子の状態を交換すると 波動関数の符号が変わる反対称の状態 • ボーズ粒子(スピンが整数の粒子)の場合、任意の二つの粒子の状態を交換しても不変 な対称の状態 1 重要なことは、これまでこの仮定に反する粒子は見つかっていないことである。そこで、以下 (1) (2) ではフェルミ粒子系の多体系を考え る。|α1 ⟩ と |α2 ⟩ から粒子 1 と粒子 2 の状態を交換して 符号が変わる組み合わせを考えると ( ) (1) (2) (2) (1) |α1 α2 ⟩a = C |α1 α2 ⟩ − |α1 α2 ⟩ (1.8) である。C は規格化定数で、 ( ) (1) (2) (1) (2) (2) (1) (2) (1) 2 ⟨α1 α2 |α1 α2 ⟩ + ⟨α1 α2 |α1 α2 ⟩ = 2|C|2 = 1 a ⟨α1 α2 |α1 α2 ⟩a = |C| √ の条件より C = 1/ 2 と取れば良い。この時、(1.8) は行列式により (1) (2) 1 |α1 ⟩ |α1 ⟩ |α1 α2 ⟩a = √ (1) 2 |α2 ⟩ |α2(2) ⟩ と表すことができる。一般に N フェルミ粒子系の状態は (1) |α ⟩ |α(2) ⟩ · · · 1 1 (1) (2) 1 |α2 ⟩ |α2 ⟩ · · · |α1 α2 · · · αN ⟩a = √ . .. N ! .. . (1) (2) |α ⟩ |α ⟩ · · · N N (N ) |α1 ⟩ (N ) |α2 ⟩ .. . (N ) |αN ⟩ (1.9) (1.10) (1.11) である。これをスレーター行列式と言う。スレーター行列式の性質として、 • 粒子 i と j の状態を交換することは添え字 (i) と (j) を交換することで、これは行列式の i 列と j 列を入れ替えることであり、行列式の性質から符号が変わる。 • α1 、α2 、· · · 、αN の中に一組でも同じ物がある場合、行列式の性質からゼロになるか ら、 これらの状態は全て異なる状態で無ければならない。つまり同種フェルミ粒子系では、二 つの粒子が同じ状態を占めることは許されない(パウリの排他率、またはパウリ原理)。 言葉を変えると、一つの状態を占めることのできる粒子は、最大で 1 個である。 1.2 生成 · 消滅演算子 † 状態 |α⟩ のフェルミ粒子を生成する演算子 aα が反交換関係 { } aα , a†α′ ≡ aα a†α′ + a†α′ aα = δαα′ {aα , aα′ } ≡ aα aα′ + aα′ aα = 0 { } a†α , a†α′ ≡ a†α a†α′ + a†α′ a†α = 0 (1.12) (1.13) (1.14) を満たすとする。これより直ちに aα aα = a†α a†α = 0 (1.15) † が成り立つ。また、これらより演算子 Nα を Nα ≡ aα aα と定義し、その固有値が nα である固 有状態を |nα ⟩ とする: Nα |nα ⟩ = nα |nα ⟩ (1.16) である。反交換関係を使うと Nα a†β |nα ⟩ = a†α aα a†β |nα ⟩ = a†α (δαβ − a†β aα )|nα ⟩ = (a†β a†α aα + a†α δαβ )|nα ⟩ = (nα + δαβ )a†β |nα ⟩ (1.17) Nα aβ |nα ⟩ = a†α aα aβ |nα ⟩ = −a†α aβ aα |nα ⟩ = −(δαβ − aβ a†α )aα |nα ⟩ = (aβ a†α aα − δαβ aβ )|nα ⟩ = (nα − δαβ )aβ |nα ⟩ (1.18) 2 † つまり、aα は Nα の固有値を 1 つだけ増やし、aα は 1 つ減らす。従って反交換関係を満たす a†α 、aα はそれぞれ生成、消滅演算子であり、Nα はその固有値が 1 粒子状態 |α⟩ にある粒子数 を表す演算子と解釈できる。 2 Nα2 = a†α aα a†α aα = a†α (1 − a†α aα )aα = a†α aα − a†α aα 2 = a†α aα = Nα (1.19) †2 である。ただし aα = aα 2 = 0 を用いた。これより固有値に対しても n2α = nα の関係が成り立 つので、nα = 0 または nα = 1 だけである。従ってパウリの排他率を自動的に満たしている。 また (1.18) で nα = 0 とすると、 Nα aα |nα = 0⟩ = −aα |nα = 0⟩ (1.20) なので Nα の固有値が-1 になってしまうがそれは許されないから aα |nα = 0⟩ = 0 (1.21) となる。 全ての Nα の固有値が 0 である規格化された状態を |0⟩ とする。|0⟩ はどの 1 粒子状態にも粒 子が存在しないから真空と呼ばれる。この時、任意の α に対して aα |0⟩ = 0 (1.22) である。この真空を用いて、粒子が N 個ある状態 |α1 α2 · · · αN ⟩a ≡ a†α1 a†α2 · · · a†αN |0⟩ (1.23) を考える。この状態は • i ̸= j に対して a†αi a†αj = −a†αj a†αi であるから、二つの粒子の状態を交換すると符号を変 える。すなわち同種フェルミ粒子系の反対称性を正しく示す。 • a†α a†α = 0 であるから、同一の状態を二つ(以上)の粒子が占めることはできない。すな わちパウリの排他率を満たしている。 • さらには、規格化条件 a ⟨α1 α2 · · · αN |α1 α2 · · · αN ⟩a =1 (1.24) となることを示すこともできる。このために αi (i = 1, 2, · · · , N ) が全て異なるとする。 a ⟨α1 α2 · · · αN |α1 α2 · · · αN ⟩a = ⟨0|aN · · · aα2 aα1 · a†α1 a†α2 · · · a†αN |0⟩ = ⟨0|aN · · · aα2 (1 − a†α1 aα1 )a†α2 · · · a†αN |0⟩ (1.25) † † となるが、aα1 は aα2 , · · · , aαN とは単に反交換するだけ であるから、二行目で aα1 を含 む項は aα1 a†α2 · · · a†αN |0⟩ = (−1)N −1 a†α2 · · · a†αN aα1 |0⟩ = 0 (1.26) である。これを繰り返していくと、 a ⟨α1 α2 · · · αN |α1 α2 · · · αN ⟩a = ⟨0|aN · · · aα2 a†α2 · · · a†αN |0⟩ = ⟨0|aN · · · aα3 a†α3 · · · a†αN |0⟩ = ⟨0|0⟩ = 1 • 従って |α1 α2 · · · αN ⟩a はスレーター行列式と同じ性質を有する状態を表す。 3 (1.27) 1.3 生成 · 消滅演算子を用いる演算子の表現 フェルミ粒子の N 粒子系を扱うとき、二つの方法がある。 1. 状態をスレーター行列式 Ψ で表して、通常の演算子を用いる。一体、及び二体の演算子 をそれぞれ N N ∑ 1 ∑ v(i, j) (1.28) F1 = fi , V2 = 2 i=1 i,j=1,i̸=j とする。v(i, j) は粒子 i と j の相互作用を表し、対称性 v(i, j) = v(j, i) を有する。ここで i、j は粒子を表す指標である。 2. 状態と演算子を生成 · 消滅演算子で表す。この場合、粒子 1 や 2 などの区別はそもそも無 くなる。 |α1 α2 · · · αN ⟩a = a†α1 a†α2 · · · a†αN |0⟩, ∑ F1 → F = fαβ a†α aβ , fαβ ≡ ⟨α|f |β⟩, Ψ→ (1.29) αβ 1 ∑ v̄αβα′ β ′ a†α a†β aβ ′ aα′ 4 ′ ′ V2 → V = αβα β v̄αβα′ β ′ ≡ ⟨α(1) β (2) |v(1, 2)|α′(1) β ′(2) ⟩ − ⟨α(1) β (2) |v(1, 2)|β ′(1) α′(2) ⟩ (1.30) ここで α、β 等は状態を表す指標で、和は完全系をなす無限個の状態に渡って取る。 ところで v̄αβα′ β ′ は添え字 αβ と α′ β ′ に関して反対称である。このうち後者の半対称性は 上の定義からすぐにわかるが、前者については、v の対称性 v(1, 2) = v(2, 1) を用いて v̄βαα′ β ′ = ⟨β (1) α(2) |v(1, 2)|α′(1) β ′(2) ⟩ − ⟨β (1) α(2) |v(1, 2)|β ′(1) α′(2) ⟩ = ⟨β (1) α(2) |v(2, 1)|α′(1) β ′(2) ⟩ − ⟨β (1) α(2) |v(2, 1)|β ′(1) α′(2) ⟩ = −⟨β (2) α(1) |v(1, 2)|β ′(2) α′(1) ⟩ + ⟨β (2) α(1) |v(1, 2)|α′(2) β ′(1) ⟩ (1↔2) = −⟨α(1) β (2) |v(1, 2)|α′(1) β ′(2) ⟩ + ⟨α(1) β (2) |v(1, 2)|β ′(1) α′(2) ⟩ = −v̄αβα′ β ′ (1.31) 1 体演算子が (1.29) 式のように対応することを示す。まず波動関数を用いると、|⟩a をス レーター行列式として N ∑ ⟨|F |⟩ = ⟨| fi |⟩a (1.32) a 1 a a i=1 左側の a ⟨| にも右側の |⟩a にも粒子 i を含む項が N ! 個あるが、そのうちゼロにならないの は演算子が作用しない粒子 i 以外の状態が全て等しい場合だけである。その時、左右の粒 子 i の状態も等しくなるので、上式は a ⟨|F1 |⟩a = N N 1 ∑ 1 ∑ (i) (i) (N − 1)!⟨αj |fi |αj ⟩ = N (N − 1)!⟨αj |f |αj ⟩ N! N! i,j=1 = N ∑ j=1 ⟨αi |f |αi ⟩ (1.33) i=1 となる。和を取ることで全ての一粒子状態の和になっている。一方、N 粒子系の基底状 態を |⟩ ≡ a†1 a†2 · · · a†N |0⟩ (1.34) 4 として、 ⟨|F1 |⟩ = ⟨| ∑ fαβ a†α aβ |⟩ = αβ = N ∑ ∑ fαβ ⟨|a†α aβ |⟩ αβ = N ∑ fαβ δαβ = β=1 N ∑ fαα α=1 ⟨αi |f |αi ⟩ (1.35) i=1 これより a ⟨|F1 |⟩a = ⟨|F1 |⟩ (1.36) が証明できた。2 体演算子についてはもう少し複雑であるが、同様に証明できる。 ハートリー · フォック近似 2 N フェルミオン多体型のハミルトニアンが H= N ∑ t(i) + i=1 1∑ v(i, j) 2 (2.1) i̸=j で与えられるとする。t(i) は粒子 i の運動エネルギーを、v(i, j) は粒子 i と j の間の相互作用を表 す。適当な 1 粒子状態の完全規格化直交系を用いて N 粒子系のスレーター行列式 |α1 α2 · · · αN ⟩ を考える。N 個の状態として可能な全ての組み合わせを考えて、それらから作ったスレーター 行列式の集合を作れば、それは N 粒子系の完全系になる。従ってそのようなスレーター行列式 の集合で H の固有状態を展開して固有状態を求めれば良いわけだがそれは実際上不可能であ る。そこで系の基底状態を求めるために一つのスレーター行列式だけを考えて、その模型空間 内でエネルギーが最小になるように 1 粒子状態を求めることにする。これがハートリー · フォッ ク近似である。 2.1 エネルギー期待値 真空を |0⟩ として、N 粒子系の基底状態を |⟩ ≡ a†1 a†2 · · · a†N |0⟩ (2.2) とする。生成 · 消滅演算子を用いると、ハミルトニアンは H = T + V, T = ∑ tαα′ a†α aα′ , V = αα′ 1 ∑ v̄αβα′ β ′ a†α a†β aβ ′ aα′ 4 ′ ′ (2.3) αβα β と書ける。ハートリー · フォック法は、⟨|H|⟩ を最小にするような状態 αi , (i = 1, 2, ·, N ) を求 める方法である。そこで EHF = ⟨|H|⟩ を求める。 まず運動エネルギーの期待値を求める: ∑ ∑ ⟨|T |⟩ = tαα′ ⟨|a†α aα′ |⟩ = tαα′ ⟨|a†α aα′ · a†1 a†2 · · · a†N |0⟩ (2.4) αα′ αα′ 1 粒子状態 |α′ ⟩ が |⟩ において占められていない場合、つまり α′ ̸= i(i = 1, 2, · · · , N ) ならば aα′ † † † と ai は反交換する (aα′ ai = −ai aα′ ) だけであるから aα′ |⟩ = aα′ a†1 a†2 · · · a†N |0⟩ = (−1)N a†1 a†2 · · · a†N aα′ |0⟩ = 0 5 (2.5) † である。次に α′ = i の場合、aα ai |⟩ は状態 i にある粒子を消して、状態 α に粒子を作り出す。 この場合、 0, α ̸= i ⟨|a†α ai |⟩ = (2.6) 1, α = i これより ⟨|a†α aα′ |⟩ = δαα′ θα , θα = と表せる。これから ⟨|T |⟩ = 1, α = i (i = 1, 2, · · · , N ) の時 0, その他 N ∑ tii = i=1 N ∑ ⟨αi |t|αi ⟩ (2.7) (2.8) i=1 になる。 次に ⟨|V |⟩ を求める。T の時と同様に i, j = 1, 2, · · · , N とすると、α′ ̸= i、β ′ ̸= j ならば aβ ′ aα′ |⟩ = 0 であるから N 1 ∑∑ v̄αβij ⟨|a†α a†β aj ai |⟩ (2.9) ⟨|V |⟩ = 4 i,j=1 αβ † † このうち aα aβ aj ai |⟩ が符号を除いて元の状態 |⟩ に戻るためには α = i, β = j または α = j, β = i でなければならない。従って ⟨|V |⟩ = N N ) 1 ∑ 1 ∑( v̄ijij ⟨|a†i a†j aj ai |⟩ + v̄jiij ⟨|a†j a†i aj ai |⟩ = (v̄ijij − v̄jiij ) ⟨|a†i a†j aj ai |⟩ 4 4 i,j=1 i,j=1 (2.10) ところで ⟨|a†i a†j aj ai |⟩ = ⟨a†i (1 − aj a†j )ai |⟩ = ⟨|a†i ai |⟩ − ⟨|a†i aj (δij − ai a†j )|⟩ † (2.11) † で、⟨|ai aj |⟩ = δij と aj |⟩ = 0 を使うと ⟨|a†i a†j aj ai |⟩ = 1 − δij (2.12) になる。これと v̄ の反対称性から ⟨|V |⟩ = N 1 ∑ 1 (v̄ijij − v̄jiij ) (1 − δij ) = 4 4 i,j=1 = 1 2 N ∑ N ∑ (v̄ijij − v̄jiij ) i,j=1,i̸=j v̄ijij (2.13) i,j=1 従って H の期待値は EHF = ⟨|H|⟩ = N ∑ i=1 tii + N 1 ∑ v̄ijij 2 (2.14) i,j=1 EHF は未知関数 |αi ⟩, (i = 1, 2, · · · , N ) の関数である。EHF を最小にする関数の組 {|αi ⟩}, (i = 1, 2, · · · , N ) を見つけよう、というのがハートリー · フォック近似である。そのために変分法を 用いる。 6 2.2 変分法 あるエルミート演算子 F の期待値 ⟨ϕ|F |ϕ⟩ ⟨ϕ|ϕ⟩ f [ϕ] = (2.15) を最小にする波動関数 |ϕ⟩ を求めることを考える。ただし |ϕ⟩ は規格化されている必要は無い。 ϕ が微小変化 δϕ した時の f の変化量を δf とする。f が停留値をとる、すなわち任意の δϕ に対 して δf = 0 であるとする。⟨ϕ|ϕ⟩f = ⟨ϕ|F |ϕ⟩ の変分を求めると (⟨δϕ|ϕ⟩ + ⟨ϕ|δϕ⟩) f + ⟨ϕ|ϕ⟩δf = ⟨δϕ|F |ϕ⟩ + ⟨ϕ|F |δϕ⟩ (2.16) ⟨ϕ|ϕ⟩δf = ⟨δϕ|(F − f )|ϕ⟩ + ⟨ϕ|(F − f )|δϕ⟩ (2.17) ⟨δϕ|(F − f )|ϕ⟩ + ⟨ϕ|(F − f )|δϕ⟩ = 0 (2.18) 整理すると δf = 0 になるためには が必要である。ここで |δϕ⟩ を i|δϕ⟩ に置き換えると ⟨δϕ| は −i⟨δϕ| に置き換わるから −⟨δϕ|(F − f )|ϕ⟩ + ⟨ϕ|(F − f )|δϕ⟩ = 0 (2.19) ⟨δϕ|(F − f )|ϕ⟩ = 0, ⟨ϕ|(F − f )|δϕ⟩ (2.20) この 2 式から を得る。F がエルミートならば f は実数になるから、2 番目の式の複素共役は 1 番目の式にな る。従ってどちらか一つの式を考えればよい、つまり、ケットの変分 |δϕ⟩ とブラの変分 ⟨δϕ| は 本来は独立ではないが、停留値を与える ϕ を求める時には |δϕ⟩ と ⟨δϕ| はあたかも独立なもの とみなしてどちらかの変分だけを考えればよい。そこで最初の式を考えると、任意の δϕ に対 して成り立つためには (F − f )|ϕ⟩ = 0 (2.21) になる。任意の変分に対して f が停留値になる状態は F の固有状態である。従って F の固有 状態を求めるためには変分条件を用いればよい。 2.3 ハートリー · フォック方程式 (2.14) の変分を考えて、多粒子系の波動関数を 1 個のスレーター行列式で近似した場合のエネ ルギーの停留値を求める。各一粒子状態は規格化されている必要があるから、⟨k|k⟩ = 1, (k = 1, 2, · · · , N ) の条件を課して変分をとる必要がある。これを行うためにラグランジュの未定乗 数法により、 δ(EHF − ϵk ⟨k|k⟩) = 0 (2.22) の条件を課せば良い。ブラとケットの変分は独立とみなしてよいのでブラの変分を考える。あ る一つのブラ ⟨k| の変分を取ると、これが粒子 1 の場合と粒子 2 の場合を考えて、(2.14) から、 δEHF = ⟨δk|t|k⟩ + ∑ 1∑ 1∑ ⟨δkj|v̄|kj⟩ + ⟨iδk|v̄|ik⟩ = ⟨δk|t|k⟩ + ⟨δki|v̄|ki⟩ 2 2 N N N j=1 i=1 i=1 (2.23) 従って (2.22) は ⟨δk|t|k⟩ + N ∑ ⟨δki|v̄|ki⟩ = ϵk ⟨δk|k⟩ i=1 7 (2.24) ⢏Ꮚ䠄particle䠅≧ែ p 䝣䜵䝹䝭䜶䝛䝹䜼䞊εF ✵Ꮝ䠄䝩䞊䝹䠅≧ែ h 図 1: 粒子状態、空孔状態、フェルミエネルギー uHF ≡ N ∑ ⟨i(2) |v̄(1, 2)|i(2) ⟩ (2.25) i=1 hHF ≡ t + uHF (2.26) とすると、これは粒子 1 についての演算子であり、(2.24) は ⟨δk|hHF |k⟩ = ϵk ⟨δk|k⟩ (2.27) hHF |k⟩ = ϵk |k⟩ (2.28) と書くことができる。これより が状態 |k⟩ を決める方程式となる。これをハートリー · フォック方程式と言う。また、この近似 法をハートリー · フォック近似と言う。 ハートリー · フォック(HF) 近似では、粒子は一体ポテンシャル uHF の中をあたかも独立に 運動している。しかし、このポテンシャルは 1 粒子状態の基底系 {|k⟩} が分かっていなければ 決まらない。一方、{|k⟩} を求めるには uHF が求まっている必要がある。従って実際にハート リー · フォック方程式を解くためには反復法を行う。まず、uHF として適当なポテンシャルを 仮定して hHF の固有状態を求める。この固有状態のうちエネルギーの低い N 個の状態を用い て uHF を計算し、再度 hHF の固有状態を求める。これを一粒子状態、あるいは uHF が変化し なくなるまで繰り返す。このようなやり方を自己無撞着 (self-consistent) の方法と言う。 HF 近似の基底状態で、占められている一粒子状態のエネルギーの中で最大のものをフェル ミエネルギーと言う。フェルミエネルギーより下の状態をフェルミの海 (Fermi sea) と言う。 フェルミエネルギーを ϵF とすると、ϵk ⟨ϵF の時、ak はフェルミの海の中の粒子を消滅させるの で、海の中に正孔(ホール)を生成することになる。ϵF をエネルギーの基準にすると、これは ϵk − ϵF のエネルギーが無くなっていることに対応するので、 ϵh = −(ϵk − ϵF )⟩0 (2.29) の正エネルギーの粒子とみなすことができる。HF 基底状態 |⟩ で占有されていない一粒子状態 を粒子状態 (particle state)、占有されている一粒子状態を空孔状態 (hole state) と言う。粒 子状態のエネルギーは ϵF より上、空孔状態は以下ということになる(図 2.3)。 † 生成演算子 bk を a† , ϵ > ϵ の時 (θ = 0) F k k k b†k = (2.30) ak , ϵk ≤ ϵF の時 (θk = 1) 8 † で定義すれば、bk は粒子または空孔を生成し、全ての k に対して bk |⟩ = 0 になる。HF 基底状 態は粒子も空孔もない状態、つまり粒子-空孔真空である。 以下では、粒子状態を p、p′ 、空孔状態を h、h′ などで表し、区別しない時はギリシャ文字 α、β などを使う。こうすると N ∑ ∑ → (2.31) i=1 h などと書ける。ハートリー · フォック方程式 hHF |k⟩ = t|k⟩ + N ∑ ⟨i(2) |v̄(1, 2)|i(2) ⟩|k (1) ⟩ (2.32) i=1 は hHF |h⟩ = t|h⟩ + ∑ ⟨h′(2) |v̄(1, 2)|h′(2) ⟩|h(1) ⟩ h′ ∑ ∑ = t|h⟩ + ⟨h′(2) |v(1, 2)|h(1) h′(2) ⟩ − ⟨h′(2) |v(1, 2)|h′(1) h(2) ⟩ h′ (2.33) h′ となるので、これを波動関数を用いて書き換えると ∑∫ ( ) d3 r′ ψh† ′ (r′ )v(r, r′ ) ψh (r)ψh′ (r′ ) − ψh′ (r)ψh (r′ ) hHF ψh (r) = tψh (r) + (2.34) h′ ここで uH (r) ≡ ∑∫ d3 r′ ψh† ′ (r′ )v(r, r′ )ψh′ (r′ ) (2.35) h′ とすると、最終的にハートリー · フォック方程式の微分型 ( ) ∑∫ h̄2 2 − ∇ + uH ψh (r) − d3 r′ ψh† ′ (r′ )v(r, r′ )ψh′ (r)ψh (r′ ) = ϵh ψh (r) 2m ′ (2.36) h となる。uH (r) は空間の一点 r だけに依存する通常の(局所的な)ポテンシャルであり、求め ようとする全ての状態に共通である。これをハートリーポテンシャルと言う。一方、左辺の第 三項をフォック項、あるいは交換項と言う。フォック項の積分は h 毎に異なるため、ハートリー · フォック方程式を実際に解く場合、複雑になる。また (2.24) より ∑ ϵα = ⟨α|hHF |α⟩ = tαα + v̄αhαh (2.37) h であるから EHF = ⟨|H|⟩ = ∑ h thh + ∑ 1∑ 1∑ v̄hh′ hh′ = v̄hh′ hh′ ϵh − 2 ′ 2 ′ h hh (2.38) hh となる。EHF は基底状態で占められている一粒子状態のエネルギー ϵh の単純な和ではない。 3 ウィックの定理 第二量子化によりフェルミ粒子の多体問題を扱う際に頻繁に現れる生成演算子と消滅演算子 の任意個の積 ABC . . . Z を考える。このうちすべての消滅演算子がすべての生成演算子の右に 9 くるように並べ替えた積を作る。この積が最初の並びから奇置換で得られる場合は −1、偶置 換ならば +1 の符号をつけることにする。これを正規積 (normal product) と言って : ABC . . . Z : または N (ABC . . . Z) (3.1) で表す。二つの演算子 A、B が両方とも生成演算子(または消滅演算子の場合は)、演算子の 積に反交換関係 AB = −BA (3.2) があるので、: AB := − : BA : が成り立つ。生成演算子と消滅演算子の順序を変える時は、状 態の指標を α、α′ として c†α cα′ = δαα′ − cα′ c†α (3.3) の δαα′ の部分を無視して、単に並び替えをして − を付ければ良い。つまり、全ての組み合わせ において、正規積の中の隣り合う演算子の順序を交換するときは : ABC . . . Z := − : BAC . . . Z : (3.4) の性質がある。 ところで、生成 · 消滅演算子はどのような真空を考えるかで変わりうる。本来の真空 |0⟩ の時 は、全ての状態 α に対して aα が消滅演算子である。従って、たとえば、p を粒子状態 (フェル ミエネルギーより上の一粒子状態)、h をホール状態(フェルミエネルギーより下の位置粒子状 態)として : a†p a†h ah′ ap′ := a†p a†h ah′ ap′ (3.5) である。一方ハートリーフォック (HF) 基底状態 |⟩ を真空として採用した場合は、ホール状態 † に対しては “ホールを作る演算子”bh は粒子を消滅させる演算子 ah であり、 b†h = ah , bh = a†h (3.6) b†p = a†p , bp = ap (3.7) 一方粒子状態に対しては となる b† 、b を用いると b† が生成演算子、b が消滅演算子になるので : a†p a†h ah′ ap′ :=: b†p bh b†h′ bp′ := −b†p b†h′ bh bp′ = −a†p ah′ a†h ap′ (3.8) である。 一般に真空を |vac⟩、消滅演算子を c とする時、正規積が消滅演算子を 1 つでも含むならば . . . c|vac⟩ = 0 である。また全く含まない場合は ⟨vac|c† = 0 である。いずれにしろ、 正規積の真空期待値は 0 (3.9) AB =: AB : + AB (3.10) である。 次に縮約 (contraction)AB を で定義する。AB と : AB : の差は定数であるから縮約は c 数である。上式の真空期待値を取 ると < AB >=<: AB :> + AB⟨vac|vac⟩ = AB (3.11) 縮約は真空期待値と等しい (3.12) となるので、 10 ことがわかる。 ウィックの定理 任意の生成 · 消滅演算子の積 ABC . . . Z は、可能な全ての縮約を含む正規積の 和に展開できる。すなわち ABC . . . Z = : AB . . . Z : + : AB C . . . Z : + : ABC . . . Z : + . . . + : AB CD E . . . Z : + : ABCDE . . . Z : + . . . + : AB CD EF G . . . Z : + . . . (3.13) となる。縮約は c 数であるから正規積から取り出すことができるが、縮約する 2 つの演算子の 間に奇数個の演算子がある場合は − の符号を付けると約束する。たとえば : ABC . . . Z := − AC : B . . . Z := − < AC >: B . . . Z :, : ABCD . . . Z := AD : BC . . . Z :=< AD >: BC . . . Z : : ABCD E . . . Z := − AC BD : E . . . Z := − < AC >< BD >: E . . . Z : (3.14) 等となる。 ウィックの定理の証明 2 つの積の場合は縮約の定義であるから、3 つの積を考える。 ABC = : ABC : + : ABC : + : ABC : + : ABC : = : ABC : + < AB > C− < AC > B+ < BC > A (3.15) が成り立つことを言えれば良い。そこで 2 つの演算子の積に消滅演算子 c を乗ずる場合、任意 の演算子 A に対して < Ac >= 0 であるから、 ABc = (: AB : + < AB >) c =: ABc : + < AB > c = : ABc : + < AB > c− < Ac > B+ < Bc > A (3.16) ただし最後の二項はいずれもゼロである。従って (3.15) 式は成り立つ。次に c† を乗ずる場合は Ac† = : Ac† : + < Ac† >= −c† A+ < Ac† > Bc† = : Bc† : + < Bc† >= −c† B+ < Bc† > (3.17) であるから(これは A、B が生成演算子でも消滅演算子でも成り立つ)、 ( ) ABc† = −Ac† B + A < Bc† >= − −c† A+ < Ac† > B + A < Bc† > = c† AB− < Ac† > B + A < Bc† > (3.18) これに AB =: AB : + < AB >、c† : AB :=: ABc† : を代入すると、c† AB =: ABc† : + < AB > c† なので ABc† =: ABc† : + < AB > c† − < Ac† > B + A < Bc† > (3.19) となって、(3.15) 式が成り立つ。以下同様にして n 個の積の場合も Wick の定理が成り立つこ とを示せる。 ウィックの定理を使うとき、最初から同一の正規積にある演算子の縮約は寄与しないので考 慮しなくて良い。例えば A : BC : = A(BC− < BC >) = : ABC : + : ABC : + : ABC : + : ABC : −A < BC > = : ABC : + < AB > C− < AC > B + A < BC > −A < BC > = : ABC : + < AB > C− < AC > B 11 (3.20) であり、BC は寄与しない。また、この全体の真空期待値を取る場合は、正規積が残っている 項はゼロになるため、全ての因子の縮約の組み合わせを取った項の和となる。 4 ハミルトニアンの変形 ウィックの定理を使ってハミルトニアンを変形する。真空として HF 基底状態 |⟩ を考える。 ウィックの定理によって a†α a†β aβ ′ aα′ = : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : + : a†α a†β aβ ′ aα′ : † (4.1) † † ただし a†α aβ =< |aα aβ |⟩ = 0、aα aβ =< |aα aβ |⟩ = 0 なので、上で生き残るのは生成演算子と 消滅演算子の縮約を取る部分だけであり、 a†α a†β aβ ′ aα′ =: a†α a†β aβ ′ aα′ : − ⟨|a†α aβ ′ |⟩ : a†β aα′ : +⟨|a†α aα′ |⟩ : a†β aβ ′ : + ⟨|a†β aβ ′ |⟩ : a†α aα′ : −⟨|a†β aα′ |⟩ : a†α aβ ′ : − ⟨|a†α aβ ′ |⟩⟨|a†β aα′ |⟩ + ⟨|a†α aα′ |⟩⟨|a†β aβ ′ |⟩ † † (4.2) † となる。ただし ⟨|aα aα′ |⟩ は α = α′ 以外はゼロであり、その時は ⟨|aα aα |⟩ = ⟨|1 − aα aα |⟩、ま † た、aα |⟩ がゼロになるのは α がホール状態の時だけなので、 ⟨|a†α aα′ |⟩ = δαα′ δαh 、(h はホール状態のいずれか) (4.3) である。 ポテンシャル v̄αβα′ β ′ の反対称性 v̄αβα′ β ′ = −v̄βαα′ β ′ = −v̄αββ ′ α′ = v̄βαβ ′ α′ を用いると、 1 ∑ v̄αβα′ β ′ a†α a†β aβ ′ aα′ 4 ′ ′ αβα β (4.4) 1 ∑ v̄αβα′ β ′ 4 αβα′ β ′ ( × : a†α a†β aβ ′ aα′ : −⟨|a†α aβ ′ |⟩ : a†β aα′ : +⟨|a†α aα′ |⟩ : a†β aβ ′ : = + ⟨|a†β aβ ′ |⟩ : a†α aα′ : −⟨|a†β aα′ |⟩ : a†α aβ ′ : ) − ⟨|a†α aβ ′ |⟩⟨|a†β aα′ |⟩ + ⟨|a†α aα′ |⟩⟨|a†β aβ ′ |⟩ ) ( ∑ 1 = v̄αβα′ β ′ ⟨|a†β aβ ′ |⟩ : a†α aα′ : + ⟨|a†β aβ ′ |⟩⟨|a†α aα′ |⟩ + Vres 2 αβα′ β ′ ( ) ∑ 1 = v̄αβα′ β ′ ⟨|a†β aβ ′ |⟩a†α aα′ − ⟨|a†β aβ ′ |⟩⟨|a†α aα′ |⟩ + Vres 2 ′ ′ αβα β = ∑ v̄αhα′ h a†α aα′ − αα′ h 1∑ v̄hh′ hh′ + Vres 2 ′ (4.5) hh となる。ただし Vres ≡ 1 ∑ v̄αβα′ β ′ : a†α a†β aβ ′ aα′ : 4 ′ ′ αβα β 12 (4.6) を残留相互作用と呼ぶ。 全ハミルトニアンはこれに運動エネルギーの項を加えて H = ∑ tαα′ a†α aα′ + αα′ = ∑ 1 ∑ v̄αβα′ β ′ a†α a†β aβ ′ aα′ 4 ′ ′ αβα β 1∑ v̄hh′ hh′ + Vres 2 ′ hh 1∑ − v̄hh′ hh′ + Vres 2 ′ (tαα′ + v̄αhα′ h ) a†α aα′ − αα′ ∑ = ⟨α|hHF |α′ ⟩a†α aα′ αα′ (4.7) hh ただし ⟨α|hHF |α′ ⟩ ≡ tαα′ + v̄αhα′ h (4.8) はハートリーフォックの 1 粒子ハミルトニアンの行列要素である。1 粒子状態を hHF の固有状 態に取ると、⟨α|hHF |α′ ⟩ = ϵα δαα′ なので、 ∑ 1∑ v̄hh′ hh′ + Vres 2 ′ α hh ) 1∑ ∑ ( = ϵα : a†α aα′ : +⟨|a†α aα′ |⟩ − v̄hh′ hh′ + Vres 2 ′ α hh ∑ ∑ 1∑ † v̄hh′ hh′ + Vres = ϵα : aα aα′ : + ϵh − 2 ′ α h hh ∑ † = ϵα : aα aα′ : +Vres + EHF H = ϵα a†α aα′ − (4.9) α ただし EHF = ∑ ϵh − h 1∑ v̄hh′ hh′ 2 ′ (4.10) hh となる。また (4.3) 式を用いた。(3.6)、(3.7) 式の b を使うと、 ∑ ∑ † ∑ ∑ ∑ ϵh bh bh ϵ: hbh b†h := ϵp b†p bp − ϵα : a†α aα′ := ϵp : b†p bp : + α p p h なので、 ∑ (4.11) h ϵα : a†α aα′ : |⟩ = 0 (4.12) α † † † † † † となる。一方、Vres には : ap ap′ ah ah′ := bp bp′ bh bh′ という項があるため Vres |⟩ ̸= 0 である。ハー トリーフォック法は、残留相互作用 Vres を無視して H0 |⟩ = EHF |⟩ ∑ 1∑ v̄hh′ hh′ H0 ≡ ϵα a†α aα′ − 2 ′ α (4.13) (4.14) hh を解く方法である。 4.1 基底状態相関 HF 基底状態 |⟩ に対する Vres の効果を摂動論で扱う。全ハミルトニアンは H = H0 + Vres , H0 ≡ ∑ α 13 ϵα a†α aα′ − 1∑ v̄hh′ hh′ 2 ′ hh (4.15) である。|⟩ は H0 |⟩ = E|⟩ (4.16) (H0 + Vres )|a⟩ = E|a⟩ (4.17) を満たす。Vres を加え、 となる解は、形式的に |a⟩ = |⟩ + 1 Vres |a⟩ E − H0 (4.18) と書くことができる。実際、上式の両辺に E − H0 を作用させると (E − H0 )|a⟩ = Vres |a⟩ (4.19) となる。これは (4.17) 式と等価である。 (4.18) 式を摂動展開により求めると ( ) 1 1 |a⟩ = |⟩ + Vres |⟩ + Vres |a⟩ E − H0 E − H0 1 1 1 = |⟩ + Vres |⟩ + Vres Vres |⟩ + . . . E − H0 E − H0 E − H0 ) ( 1 Vres + . . . |⟩ = 1+ E − H0 (4.20) となる。 この Vres を含む (...) 内の第二項以降が基底状態に対する残留相互作用の効果(基底 状態相関)を表していて、真の基底状態のハートリーフォック状態からのずれをもたらす。 5 密度行列の方法 多体系の状態を |Ψ⟩ として、 ρµν = ⟨µ|ρ̂|ν⟩ ≡ ⟨Ψ|c†ν cµ |Ψ⟩ (5.1) を密度行列 (density matrix) と言う。ここで |µ⟩、|ν⟩ は適当な 1 粒子状態の完全系、c† は対応 する生成演算子である。密度行列を用いると、一体演算子 ∑ F = fµν c†µ cν (5.2) µν の期待値は ∑ fµν ⟨Ψ|c†µ cν |Ψ⟩ = µν ∑ fµν ρν µ = Tr(f ρ) (5.3) µν と表せる。Tr は行列の対角要素の和、トレースである。 |Ψ⟩ として HF の基底状態 |⟩ を考える。ここでは HF 基底系の 1 粒子状態を α、β 、特に粒子 状態は p, p′ 、空孔状態は h, h′ で表し、HF 基底系以外の一般の状態は µ、ν で示すことにする。 HF 基底系は完全系を作るので ∑ |µ⟩ = |α⟩⟨α|µ⟩ (5.4) α であり、 c†µ = ∑ ⟨α|µ⟩a†α (5.5) α である。HF 基底系に対しては、任意の h に対して ⟨|a†α aβ |⟩ = δαβ δαh 14 (5.6) なので、 ⟨µ|ρ̂|ν⟩ = ∑ ⟨α|ν⟩⟨µ|β⟩⟨|a†α aβ |⟩ = αβ ∑ ⟨µ|h⟩⟨h|ν⟩ (5.7) h となる。つまり ρ̂ = ∑ |h⟩⟨h| (5.8) h と書ける。これより ρ̂2 = ∑ hh′ |h⟩⟨h|h′ ⟩⟨h′ | = ∑ hh′ |h⟩δhh′ ⟨h′ | = ∑ |h⟩⟨h| = ρ̂ (5.9) h を満たす。従って ρ̂ の固有値は 0 か 1 である。また ρ̂ は射影演算子としての性質を有する。た だしこれは状態 |Ψ⟩ が HF 状態の時にのみ成り立つ。固有値を確かめると 1, αが空孔状態の時 ∑ ρ̂|α⟩ = |h⟩⟨h|α⟩ = θα |α⟩, θα = (5.10) 0, αが粒子状態の時 h であり、HF 基底系の 1 粒子状態は ρ̂ の固有状態であることがわかる。 ハミルトニアンを c† 、c で表してウィックの定理を使うと ∑ H = tµν c†µ cν µν + ∑ ( v̄µνµ′ ν ′ µνµ′ ν ′ ) 1 † † 1 † † † † : c c cν ′ cµ′ : +⟨|cν cν ′ |⟩ : cµ cµ′ : + ⟨|cν cν ′ |⟩⟨|cµ cµ′ |⟩ (5.11) 4 µ ν 2 である。従って EHF = ⟨|H|⟩ = = ∑ µν ∑ tµν ⟨|c†µ cν |⟩ + µν 1 ∑ v̄µνµ′ ν ′ ⟨|c†ν cν ′ |⟩⟨|c†µ cµ′ |⟩ 2 ′ ′ µνµ ν 1 ∑ tµν ρνµ + v̄µνµ′ ν ′ ρν ′ ν ρµ′ µ 2 ′ ′ µνµ ν 1 = Tr(tρ) + Tr1 Tr2 (v̄ρ(1)ρ(2)) 2 (5.12) と書ける。最後の項の意味は、粒子 1、2 の添え字についてそれぞれトレースを取ることを意 味する。この結果は 1 粒子状態の基底系の取り方によらない。基底として HF 基底系を用いる と、ραβ = θα δαβ から、 ∑ 1∑ v̄hh′ hh′ EHF = thh + (5.13) 2 ′ h hh が成り立つ。 HF 方程式を密度汎関数法的に求める。そのために HF 基底状態を、エネルギー (5.12) 式を 最小にする ρ̂ を与える状態として定義する。|⟩ を変分すれば ρ̂ も変化する。そこで、ρ̂ が ρ̂ = ρˆ0 から ρ̂ = ρˆ0 + δ ρ̂ になった時の EHF の変化を求める。以下では基底系として HF 基底系を用い る。まず、ρˆ0 + δ ρ̂ も密度演算子であるから (ρˆ0 + δ ρ̂)2 = ρˆ0 + δ ρ̂ (5.14) が成り立つ。左辺を展開して δ ρ̂ の 1 次まで取ると、 δ ρ̂ = ρˆ0 δ ρ̂ + δ ρ̂ρˆ0 15 (5.15) あるいは δραβ = ⟨α|δ ρ̂|β⟩ = (θα + θβ )δραβ (5.16) となる。これは δαβ ̸= 0 であるためには θα + θβ = 1、すなわち、θα = 1(α = h) かつ θβ = 0(β = p) であるか、θα = 0(α = p) かつ θβ = 1(β = h) でなければいけないことを意味する。 つまり、δ ρ̂ は、粒子-空孔成分 δρph 、δρhp 以外はゼロである。これを用いると δE = EHF (ρ̂0 + δ ρ̂) − EHF (ρ̂0 ) = ∑ ∂EHF αβ ∂ρβα δρβα + . . . (5.17) となる。ここで ∂EHF ∂ρβα ∑ = tαβ + v̂αα′ ββ ′ ρβ ′ α′ h[ρ̂]αβ ≡ (5.18) (5.19) α′ β ′ である。(5.18) 式を用いて (5.17) 式を書き直すと、δρ に (ph) または (hp) 成分しかないことを 考慮して、 ∑ ∑ δE = h[ρ̂]αβ δρβα + · · · + · · · = (h[ρ̂]ph δρhp + h[ρ̂]hp δρph ) + . . . (5.20) ph αβ=(ph)or(hp) であり、ρ̂ = ρ̂0 の時 ρβα = θα δαβ だから h[ρ̂0 ]αβ = tαβ + ∑ v̂αhβh ρβ ′ α′ =< α|hHF |β⟩ (5.21) h となる。任意の δρhp 、δρph に対して δE = 0 になるためには、 h[ρ̂]ph = h[ρ̂]hp = 0 (5.22) ⟨p|hHF |h⟩ = ⟨h|hHF |p >= 0 (5.23) でなければならない。すなわち が要求される。これが成り立つ時、 ⟨α|[hHF , ρ̂0 ]|β⟩ = ⟨α|hHF ρ̂0 − ρ̂0 hHF |β⟩ = (θβ − θα )⟨α|hHF |β⟩ (5.24) なので、(5.23) が成り立てば、任意の |α⟩、|β⟩ に対して ⟨α|[hHF , ρ̂0 ]|β⟩ = 0 である。従って (5.23) の条件は [hHF , ρ̂0 ] = 0 (5.25) と同等である。 ところで、(5.23) 式は、hHF の (pp) 成分と (hh) 成分には何の条件も与えないから、これだ けでは 1 粒子状態の基底系を一意に決定できない。そこでこれに矛盾しない条件として、 ⟨α|hHF |β⟩ = ϵα δαβ を要請する。これはハートリー · フォック方程式に他ならない。 16 (5.26) 6 残留相互作用 (4.6) 式で表される残留相互作用は正規積を含んでいる。これは HF 基底状態を真空とした場 合であるから、(3.6)、(3.7) 式で表される b† が生成演算子になる。これを用いて Vres を表して 分類を行う。v̄αβα′ β ′ の添え字を粒子と空孔に分け、空孔を k 個 (k = 0 ∼ 4) 個含む部分にまと めると 5 項の和となる。 Vres = V0 + V1 + V2 + V3 + V4 (6.1) ただし V0 = 1 4 ∑ p1 p2 p′1 p′2 v̄p1 p2 p′1 p′2 : a†p1 a†p2 ap′2 ap′1 := 1 4 ∑ p1 p2 p′1 p′2 v̄p1 p2 p′1 p′2 b†p1 b†p2 bp′2 bp′1 ≡ Vpp V4 = 1 4 (6.2) ∑ h1 h2 h′1 h′2 v̄h1 h2 h′1 h′2 : a†h1 a†h2 ah′2 a′1 := 1 4 ∑ h1 h2 h′1 h′2 v̄h1 h2 h′1 h′2 b†h′ b†h′ bh1 bh2 2 1 ≡ Vhh (6.3) 等である。 7 タム · ダンコフ近似(TDA)と乱雑位相近似(RPA) ハートリーフォック (HF) 法は残留相互作用 Vres を無視して系の基底状態を求める方法であ る。残留相互作用の効果を取り入れて励起状態を求める方法としてタム · ダンコフ近似(TDA) と乱雑位相近似(RPA、Random Phase Approximation)の方法がある。前者は基底状態とし ては HF 状態を用いるが、後者では基底状態に対する残留相互作用の効果を考慮する。ここで はそれらを一緒に説明する。 多粒子系のハミルトニアン H の正確な基底状態を |gs⟩、これから求める励起状態を |λ⟩ とす る。これらは H|gs⟩ = E0 |gs⟩, H|λ⟩ = E|λ⟩ (7.1) を満たす。この時次の性質 |λ⟩ = Oλ† |gs⟩, Oλ |gs⟩ = 0 (7.2) † を満たす演算子 Oλ 、Oλ を定義する。形式的には Oλ† = |λ⟩⟨gs| (7.3) [H, Oλ† ]|gs⟩ = (HOλ† − Oλ† H)|gs⟩ = (E − E0 )Oλ† |gs⟩ ≡ h̄ωOλ† |gs⟩ (7.4) である。(7.1) 式は と書き直すことができる。これに任意の状態 ⟨gs|δO を作用させると [ ] ⟨gs| δO, [H, Oλ† ] |gs⟩ = h̄ω⟨gs|[δO, Oλ† ]|gs⟩ † † † (7.5) となる。ただし ⟨gs|Oλ = 0、⟨gs|HOλ = E0 ⟨gs|Oλ = 0 を用いた。今後、シュレーディンガー 方程式 (7.1) 式そのものではなく、(7.5) 式を元に考えていく。 17 7.1 タム · ダンコフ近似 基底状態を HF 真空 |⟩ で近似し、O† を ph 励起だけに近似する。すなわち ∑ Xph a†p ah , δO† = a†p ah Oλ† = (7.6) ph として (7.5) 式に代入すると、 ] ∑ † ∑ [ † ⟨| ah ap , [H, a†p′ , ah′ ] |⟩Xp′ h′ = h̄ω ⟨|[ah ap a†p′ , ah′ ]|⟩Xp′ h′ p′ h′ (7.7) p′ h′ となる。ハミルトニアン (4.9) 式のうち、定数項 EHF は交換関係には寄与しないから、上式の H はそれを除いた部分である。ところで a†h ap a†p′ ah′ = δpp′ a†h ah′ − a†p′ a†h ah′ ap = δpp′ δhh′ − δpp′ ah′ a†h − a†p′ a†h ah′ ap (7.8) † であるが、⟨|ah = ⟨|ap′ = 0 より ⟨|a†h ap a†p′ ah′ = δpp′ δhh′ ⟨| (7.9) この結果と ap |⟩ = 0 より、 [ ] ⟨| a†h ap , [H, a†p′ ah′ ] |⟩ = ⟨|a†h ap [H, a†p′ , ah′ ]|⟩ = ⟨|a†h ap Ha†p′ ah′ |⟩ − ⟨|a†h ap a†p′ ah′ H|⟩ = ⟨|a†h ap Ha†p′ ah′ |⟩ − δpp′ δhh′ ⟨|H|⟩ (7.10) となる。ところで H は正規積のみ含むからその真空期待値は 0 である ((3.9) 式)。従って [ ] ⟨| a†h ap , [H, a†p′ , ah′ ] |⟩ = ⟨|a†h ap Ha†p′ ah′ |⟩ (7.11) である。これと ⟨|[a†h ap , a†p′ ah′ ]|⟩ = δhh′ δpp′ (7.12) より、(7.7) 式は ∑ Aphp′ h′ Xp′ h′ = h̄ωXph (7.13) ≡ ⟨|a†h ap Ha†p′ ah′ | (7.14) p′ h′ Aphp′ h′ となる。これがタム · ダンコフ方程式である。 今の場合、H は (4.9) 式のうち EHF を除いた部分であるから H= ∑ α ϵα : a†α aα′ : +Vres = ∑ ϵα : a†α aα′ : + α 1 ∑ v̄αβα′ β ′ : a†α a†β aβ ′ aα′ : 4 ′ ′ (7.15) αβα β である。これを用いて Aphp′ h′ を計算する。 簡単のために HF 基底状態での期待値 ⟨| . . . |⟩ を ⟨. . . ⟩ で表すと、生成消滅演算子の性質から ⟨a†α a†β ⟩ = ⟨aα aβ ⟩ = 0, (α, β は任意), ⟨a†h ap ⟩ = 0, (p は粒子状態、h はホール状態) (7.16) であるから、ウィックの定理を使うと ⟨a†h ap a†p′ ah′ ⟩ =< a†h ap a†p′ ah′ >=< a†h′ ah >< ap a†p′ >= δhh′ δpp′ 18 (7.17) である。 正規積の真空期待値はゼロなので全ての項の縮約を取った項のみが残る。また正規積中の演 算子の縮約は寄与しない ((3.20 式) から、 < a†h ap : a†α aα : a†p′ ah′ > = < a†h ap :a†α aα :a†p′ ah′ > + < a†h ap :a†α aα :a†p′ ah′ > = −δhα δpp′ δh′ α + δhh′ δpα δp′ α = δhh′ δpp′ (δαp − δαh ) 従って ⟨|a†h ap H0 a†p′ ah′ |⟩ = δhh′ δpp′ ϵph , ϵph ≡ ϵp − ϵh (7.18) (7.19) 同様にして < a†h ap : a†α a†β aβ ′ aα′ : a†p′ ah′ > = < a†h ap :a†α a†β aβ ′ aα′ :a†p′ ah′ > + < a†h ap :a†α a†β aβ ′ aα′ :a†p′ ah′ > + < a†h ap :a†α a†β aβ ′ aα′ :a†p′ ah′ > + < a†h ap :a†α a†β aβ ′ aα′ :a†p′ ah′ > = (δαp δβh′ − δαh′ δβp )(δα′ h δβ ′ p′ − δβ ′ h δα′ p′ ) (7.20) であるが、v̄ の反対称性を考慮すると、上は 4 になる。従って ⟨|a†h ap Vres a†p′ ah′ |⟩ = v̄ph′ hp′ (7.21) Aphp′ h′ ≡ ⟨|a†h ap Ha†p′ ah′ |⟩ = ϵph δhh′ δpp′ + v̄ph′ hp′ (7.22) (7.19) および (7.21) 式より、 これはエルミート行列である。これを用いて (7.14) 式を解くことによりタム · ダンコフ解 Xph が得られる。タム · ダンコフ方程式は形式的には AX = h̄ωX と書けるが、これはエルミート 行列の固有値問題である。 タム · ダンコフ近似は、励起状態を記述するために 1 粒子 1 空孔状態を含めるように拡張し た模型である。 7.1.1 簡単な模型 相互作用の行列要素が一体のエルミート演算子 f を用いて v̄αβα′ β ′ = κfαα′ fββ ′ , fαβ =< α|f |β⟩ のように分離できるとする。この時タム · ダンコフ方程式は ∑ ∑ Aphp′ h′ Xp′ h′ = ϵph Xph + κfph fp∗′ h′ Xp′ h′ = h̄ωXph p′ h′ である。C ≡ κ ∑ p′ h′ (7.23) (7.24) p′ h′ fp∗′ h′ Xp′ h′ とすると、上式は ϵph Xph + fph C = h̄ωXph となり、これを解くと Xph = C fph h̄ω − ϵph 19 (7.25) (7.26) D(~ω) 1 >0 κ O ~ω 1 <0 κ 図 2: (7.27) 式の図形による解法 となるが、これを C の定義式に入れると 1 ∑ |fph |2 = ≡ D(h̄ω) κ h̄ω − ϵph ′ ′ (7.27) ph となる。この条件から固有値 ω が決まる。グラフィカルに解くには、D(h̄ω) を h̄ω の関数とし て描いて、この関数と直線 y = 1/κ の交点を求めれば良い。 解としては、図 2 のように、ϵph に挟まれたものとそうでないものがある。挟まれた解は特 定の ϵph に近いから Xph はその成分が大きくなり、近似的に |λ⟩ ≈ a†p ah |⟩ (7.28) である。これは相互作用により生じた、励起した 1 粒子 1 空孔状態である。一方、挟まれない 解は、κ > 0 の場合は ϵph よりも高いところに現れる。この状態は多数の ph 状態の重ね合わせ になる。このような状態を集団状態 (collective state) と言う。集団状態に対しては、傾き dD(h̄ω) dh̄ω (7.29) の絶対値が小さいことが分かる。 ∑ F = αβ fαβ a†α aβ の遷移行列要素は < λ|F |⟩ = ∑∑ ∗ Xph fαβ < |a†h ap a†α aβ | >= ph αβ = ∑∑ ∑∑ ∗ Xph fαβ <: a†h ap a†α aβ :> ph αβ ∗ Xph fαβ δαp δβh = ph αβ ∑ ph ∗ Xph fph = C ∗ ∑ |fph |2 C∗ = h̄ω − ϵph κ ph で与えられる。C は、規格化条件 ∑ ∑ ∗ ⟨λ|λ⟩ = Xph Xp′ h′ < |a†h ap a†p′ ah′ | >= |Xph |2 = 1 php′ h′ ph 20 (7.30) (7.31) から、 |C|−2 = ∑ ph |fph |2 dD(h̄ω) =− 2 (h̄ω − ϵph ) dh̄ω である。従って |C|2 |⟨λ|F |⟩|2 = 2 = κ となる。集団状態は 7.2 dD(h̄ω) dh̄ω ( 1 (7.32) )2 (7.33) κ dD(h̄ω) dh̄ω の絶対値が小さいから、特に遷移強度が強いことが分かる。 RPA タム · ダンコフ近似 (TDA) では、HF 近似で無視した残留相互作用の効果を励起状態について は一部取り入れた。しかし HF 基底状態を用いているので、基底状態に対する残留相互作用の影 響(基底状態相関)は考慮していない。この効果を取り入れて TDA を改善した RPA(Random Phase Approximation: 乱雑位相近似)を導出する。 † 真の基底状態 |gs > は基底状態相関のため HF 真空とは異なるである。従って ah ap | >= 0 で † あるが、ah ap |gs ≯= 0 である。これから (7.6) 式を拡張して ) ∑( Oλ† = Xph a†p ah − Yph a†h ap , δO† = a†p ah , a†h ap (7.34) ph とする。これが RPA である。 RPA における真空 |0⟩ は Oλ |0⟩ = 0 (7.35) で定義される。(7.5) 式は(|gs⟩ を |0⟩ と書き直して)、2 通りの δO† に対応して [ ] ⟨0| a†h ap , [H, Oλ† ] |0⟩ = h̄ω⟨0|[a†h ap , Oλ† ]|0⟩ [ ] ⟨0| a†p ah , [H, Oλ† ] |0⟩ = h̄ω⟨0|[a†p ah , Oλ† ]|0⟩ (7.36) となる。 RPA の真空 |0⟩ は未知であるため、上のような交換子の行列要素の計算を行うことはできな い。そこでこの計算において、RPA 真空は HF 真空と大きくは変わらないと仮定して HF 真空 |⟩ を用いて近似的に計算する。例えば [ ] [ ] ⟨0|[ a†h ap , a†p′ ah′ |0⟩ ≈ ⟨|[ a†h ap , a†p′ ah′ |⟩ = ⟨|(a†h ap a†p′ ah′ − a†p′ ah′ a†h ap )|⟩ = ⟨|a†h ap a†p′ ah′ | >= δpp′ δhh′ (7.37) (ただし ap |⟩ = 0 を用いた)。である。この置き換えを行うと、(7.36) の二式は ] [ ] ) ∑( [ † ⟨| ah ap , [H, a†p′ ah′ ] |⟩Xp′ h′ − ⟨| a†h ap , [H, a†h′ ap′ ] |⟩Yp′ h′ = h̄ωXph p′ h′ ] [ ] ) ∑( [ ⟨| a†p ah , [H, a†p′ ah′ ] |⟩Xp′ h′ − ⟨| a†p ah , [H, a†h′ ap′ ] |⟩Yp′ h′ = h̄ωYph (7.38) p′ h′ † † となる。ap′ |⟩ = ap |⟩ = 0, ⟨|ap = ⟨|ap′ = 0 を考慮して ) ∑( ∑ ⟨|[a†h ap , Oλ† ]|⟩ = ⟨|[a†h ap , Xp′ h′ a†p′ ah′ − Yp′ h′ a†h′ ap′ ]|⟩ = ⟨|a†h ap Xp′ h′ a†p′ ah′ |⟩ = ∑ p′ h′ p′ h′ Xp′ h′ δpp′ δhh′ = Xph p′ h′ 21 (7.39) 同様に ⟨|[a†p ah , Oλ† ]|⟩ = ⟨|[a†p ah , = ∑ ∑( ) ∑ Xp′ h′ a†p′ ah′ − Yp′ h′ a†h′ ap′ ]|⟩ = ⟨| Yp′ h′ a†h′ ap′ a†p ah |⟩ p′ h′ p′ h′ Yp′ h′ δpp′ δhh′ = Yph (7.40) p′ h′ を用いた。さらに Aphp′ h′ Bphp′ h′ [ ] ≡ ⟨| a†h ap , [H, a†p′ ah′ ] |⟩ = ⟨|a†h ap Ha†p′ ah′ |⟩ ] [ ≡ −⟨| a†h ap , [H, a†h′ ap′ ] |⟩ = ⟨|a†h ap a†h′ ap′ H|⟩ (7.41) と定義すると、[P, Q]† = [Q† , P † ] なので [ ] [ ] [ ]† ∗ ⟨| a†p ah , [H, a†p′ ah′ ] |⟩ = ⟨| [a†p′ ah′ , H], a†p ah |⟩ = ⟨| a†h ap , [H, a†h′ ap′ ] |⟩ = Bphp ′ h′ (7.42) [ ] [ ] [ ]† ⟨| a†p ah , [H, a†h′ ap′ ] |⟩ = ⟨| [a†h′ ap′ , H], a†p ah |⟩ = ⟨| a†h ap , [H, a†p′ ah′ ] |⟩ = A∗php′ h′ (7.43) である。従って (7.38) 式は ∑ Aphp′ h′ Xp′ h′ + Bphp′ h′ Yp′ h′ = h̄ωXph ∗ ∗ Bphp ′ h′ Xp′ h′ + Aphp′ h′ Yp′ h′ = −h̄ωYph p′ h′ ∑ (7.44) p′ h′ になる。これを RPA 方程式と言う。この方程式は行列形式で表すと ( )( ) ( ) A B X X = h̄ω B ∗ A∗ Y −Y (7.45) と書ける。A、B は正方行列、X 、Y は縦ベクトルである。 RPA 方程式に現れる A、B のうち、A は TDA の時に (7.22) 式で計算したとおり、 Aphp′ h′ ≡ ⟨|a†h ap Ha†p′ ah′ |⟩ = ϵph δhh′ δpp′ + v̄ph′ hp′ である。 一方、Bphp′ h′ は TDA には無い項なので、ここで計算する。 [ ] Bphp′ h′ ≡ −⟨| a†h ap , [H, a†h′ ap′ ] |⟩ = ⟨|a†h ap a†h′ ap′ H|⟩ (7.46) (7.47) H は (4.9) 式で与えられるが、交換子に定数項は寄与しないので EHF は無視すると、 ∑ ⟨|a†h ap a†h′ ap′ H0 |⟩ = ϵα ⟨|a†h ap a†h′ ap : a†α aα : |⟩ = 0 (7.48) α である。また Vres の演算子部分は ⟨|a†h ap a†h′ ap′ : a†α a†β aβ ′ aα′ : |⟩ = < a†h ap a†h′ ap′ :a†α a†β aβ ′ aα′ : > + < a†h ap a†h′ ap′ :a†α a†β aβ ′ aα′ : > + < a†h ap a†h′ ap′ :a†α a†β aβ ′ aα′ : > + < a†h ap a†h′ ap′ :a†α a†β aβ ′ aα′ : > = (δαp δβp′ − δαp′ δβp )(δα′ h δβ ′ h′ − δβ ′ h δα′ h′ ) 22 (7.49) になるので Bphp′ h′ = ⟨|a†h ap a†h′ ap′ 1 ∑ v̄αβα′ β ′ : a†α a†β aβ ′ aα′ : |⟩ = v̄pp′ hh′ 4 ′ ′ (7.50) αβα β である。Bphp′ h′ は残留相互作用のうち 2p-2h 状態を励起する。同様に計算すると、 † † ∗ ∗ ∗ Bphp ′ h′ = ⟨|ah ap a ′ ap′ H|⟩ = v̄pp′ hh′ = v̄hh′ pp′ h (7.51) † となる。これらを用いて RPA 方程式を解いて X 、Y を求めれば Oλ 、Oλ が決まり、RPA の基 † 底状態は Oλ |0 >= 0 を満たす状態として、励起状態は Oλ を作用させることにより求まる。 † 展開係数 X 、Y は、⟨0|Oλ = 0 を用いると ⟨0|a†h ap |λ⟩ = ⟨0|[a†h ap , Oλ† ]|0⟩ ≈ ⟨|[a†h ap , Oλ† ]|⟩ = Xph ⟨0|a†p ah |λ⟩ = ⟨0|[a†p ah , Oλ† ]|0⟩ ≈ ⟨|[a†p ah , Oλ† ]|⟩ = Yph (7.52) † であるから、X 、Y は ρλαβ =< 0|aβ aα |λ⟩ で定義される遷移密度行列の粒子 · 空孔成分である。 RPA では、遷移密度行列 ρλαβ の粒子 · 粒子成分および空孔 · 空孔成分は0である。 7.3 RPA の性質 λ 、Y λ のように表す。 複数の RPA 解を区別するために固有値と係数に λ を付けて h̄ωλ 、Xph ph この時以下の性質が成り立つ。 1. 一体演算子 F = ∑ αβ fαβ a†α aβ の遷移行列要素は ⟨λ|F |0⟩ = ⟨0|Oλ F |0⟩ = ⟨0|[Oλ , F ]|0⟩ ≈ ⟨|[Oλ , F ]|⟩ (7.53) である。 [a†α′ aβ ′ , a†α aβ ] = a†α′ aβ ′ a†α aβ − a†α aβ a†α′ aβ ′ = a†α′ (δβ ′ α − a†α aβ ′ )aβ − a†α (δβα′ − a†α′ aβ )aβ ′ = δβ ′ α a†α′ aβ − δβα′ a†α aβ ′ − a†α′ a†α aβ ′ aβ + a†α a†α′ aβ aβ ′ = δβ ′ α a†α′ aβ − δβα′ a†α aβ ′ (7.54) より ⟨|[Oλ, F ]|⟩ = ∑∑ ( ) λ∗ λ∗ fαβ Xph ⟨|[a†h ap , a†α aβ ]|⟩ − Yph ⟨|[a†p ah , a†α aβ ]|⟩ ph αβ = ∑ λ∗ (Xph fph + λ∗ Yph fhp ) = (X λ∗ ph Y λ∗ ( ) f ) ¯ f (7.55) ただし f¯ph ≡ fhp である。従って λ∗ ⟨λ|F |0⟩ ≈ ⟨|[Oλ , F ]|⟩ = (Xph ( ) f λ∗ Yph ) ¯ f RPA では一体演算子の空孔-空孔、粒子-粒子成分はゼロになるから、結局 F は ∑ ∑ F = fαβ a†α aβ = (fph a†p ah + fhp a†h ap ) αβ ph と等価である。 23 (7.56) (7.57) 2. 負の固有値 : ωλ は実数であると仮定する。(7.45) の複素共役を取ると A∗ X λ + B ∗ Y λ ∗ ∗ = h̄ωX λ ∗ ∗ = −h̄ωY λ BX λ + AY λ であるから、 ( A B B ∗ A∗ )( Y λ∗ X λ∗ ) ∗ ( ∗ Y λ∗ = −h̄ω −X λ∗ (7.58) ) (7.59) † になる。Oλ が正の固有値 ωλ を与える時、 −Oλ = ) ∑( λ∗ † λ∗ † Yph ap ah − Xph ah ap (7.60) ph が負の固有値 −h̄ω の解になることを示している。 3. 規格直交性 (7.45) から ( (X λ∗ A B Y λ∗ ) B ∗ A∗ )( Xρ Yρ ) ( = h̄ωρ (X λ∗ Xρ Y λ∗ ) −Y ρ ) λ と ρ を入れ替えてエルミート共役を取ると ( )( ) ( ) A† B ∗† Xρ Xρ λ∗ λ∗ λ∗ λ∗ (X Y ) = h̄ωλ (X Y ) B † A∗† Yρ −Y ρ (7.61) (7.62) ところで (A† )php′ h′ = A∗p′ h′ ph = (ϵp − ϵh )δpp′ δhh′ + v̄p∗′ hh′ p = (ϵp − ϵh )δpp′ δhh′ + v̄h′ pp′ h = Aphp′ h′ (B † )php′ h′ ∗ ∗ = Bp∗′ h′ ph = v̄p∗′ ph′ h = v̄pp ′ hh′ = Bphp′ h′ (7.63) つまり A† = A, B † = B ∗ (7.64) であるから、(7.62) は ( A B (X λ∗ Y λ∗ ) B ∗ A∗ )( Xρ Yρ ) これと (7.61) より ( Xρ = h̄ωρ (X λ∗ Y λ∗ ) −Y ρ ( Xρ (h̄ωλ − h̄ωρ )(X λ∗ Y λ∗ ) −Y ρ ) (7.65) ) =0 (7.66) が成り立つので、ωλ ̸= ωρ ならば ) ( ρ ∑ X λ∗ ρ λ∗ ρ λ∗ ρ λ∗ ρ = X X − Y Y = (Xph Xph − Yph (X λ∗ Y λ∗ ) Yph ) = 0 (λ ̸= ω) (7.67) −Y ρ ph RPA の固有状態は ⟨λ|ρ⟩ = ⟨0|Oλ O† ρ |0⟩ = ⟨0|[Oλ , O† ρ ]|0⟩ ≈ ⟨|[Oλ , O† ρ ]|⟩ ) ∑( λ∗ ρ λ∗ ρ = Xph Xph − Yph Yph ph 24 (7.68) 従って ωλ ̸= ωρ ならば ⟨λ|ρ⟩ = 0 になり直交する。一方、規格化は ⟨λ|λ⟩ = 1 であるから、 規格直交条件を ) ∑( † λ∗ ρ λ∗ ρ ⟨λ|ρ⟩ = ⟨|[Oλ , Oρ ]|⟩ = Xph Xph − Yph Yph = X λ X ρ − Y λ Y ρ = δλρ (7.69) ph のように決める。 次に (7.7) のエルミート共役を取ると、 ( ) A B (Y λ X λ ) = −h̄ωλ (Y λ − X λ ) B ∗ A∗ (7.70) であるから ( (Y λ A B X ) B ∗ A∗ )( λ Xρ Yρ ) = −h̄ωλ (Y λ = −h̄ωλ (Y λ ( ) Xρ −X ) Yρ ( ) Xρ λ X ) −Y ρ λ (7.71) 一方、RPA 方程式より ( (Y λ A B X λ) B ∗ A∗ )( Xρ Yρ ) ( = h̄ωρ (Y λ∗ Xρ X λ∗ ) −Y ρ ) (7.72) であるから、この 2 式より ( Xρ (h̄ωλ + h̄ωω )(Y X ) −Y ρ λ ) λ =0 従って、h̄ωλ + h̄ωω > 0 ̸= 0 より ( ) ) ρ ∑( X ρ ρ λ λ (Y λ X λ ) = Y X − X Y ph ph ph ph = 0 −Y ρ (7.73) (7.74) ph になる。これは ⟨|[Oλ , Oρ ]|0⟩ = ⟨|[Oλ† , Oρ† ]|0⟩ = 0 (7.75) を意味する。(7.69) と (7.75) より、O と O† は、期待値としてボゾンの交換関係を満たす ことが分かる。 4. 完備性 RPA での一体演算子 F = ) ∑( fph a†p ah + fhp a†h ap (7.76) ph † を Oλ と Oλ を用いて、 F = ∑( uλ Oλ† − vλ Oλ ) (7.77) λ † と表すと、Oλ と Oλ の規格直交性 (7.69), (7.75) 式より uλ = ⟨|[Oλ , F ]|⟩, vλ = ⟨|[Oλ† , F ]|⟩ = −⟨|[Oλ , F † ]|⟩∗ 25 (7.78) (7.56) を用いると、 uλ = (X λ∗ ( ) f Y λ∗ ) ¯ f (7.79) ( ) ( ) ( ) ∗ ¯ ( † )∗ f f f また、 f αβ = fβα だから vλ = −(X λ Y λ ) ¯∗ = −(X λ Y λ ) = −(Y λ X λ ) ¯ (7.80)(7.77) f f f に ) ∑( λ † λ † Oλ† = Xph ap ah − Yph ah ap (7.81) ph を代入すると F = ) ∑∑( λ λ∗ λ λ∗ (Xph uλ + Yph vλ )a†p ah − (Yph uλ + Xph vλ )a†h ap λ (7.82) ph であるから fph = ∑ λ λ∗ (Xph uλ + Yph vλ ) λ fhp = − ∑ λ λ∗ (Yph uλ + Xph vλ ) = f¯ph (7.83) λ これより (( ( ) ) ( ) ) ∑ Xλ f Y λ∗ = uλ + vλ −Y λ f¯ −X λ∗ λ (( ) ( ) )( ) ∑ Xλ Y λ∗ f λ∗ λ∗ λ λ = (X Y ) − (Y X ) λ λ∗ −Y −X f¯ λ 従って、次の関係式 (( ) ( ) ) ( ) ∑ Xλ Y λ∗ 1 0 λ∗ λ∗ λ∗ λ∗ (X Y ) − (Y X ) = =1 −Y λ −X λ∗ 0 1 (7.84) (7.85) λ を得る。これを RPA の完備性と言う。成分で表せば ∑ λ λ∗ λ (Xph Xpλ′ h′ − Yph Yp′ h′ ) = δpp′ δhh′ λ ∑ λ λ∗ λ (Xph Ypλ∗ = 0 ′ h′ − Yph Xp′ h′ ) (7.86) λ になる。 8 8.1 線形応答と RPA 時間依存の摂動論 系のハミルトニアンに時間に依存するポテンシャルが加わって H + V (t) となったとする。た だし ( ) ∑ V (t) = eϵt F exp(−iωt) + F † exp(iωt) , F = fαβ a†α aβ , ϵ → +0 (8.1) αβ 26 で与えられるとする。時刻 t = −∞ で系が H|0⟩ = E0 |0⟨ である H の固有状態 |0⟨ にある時、 時刻 t における状態 |ψ(t)⟨ を求める。断熱因子 eϵt は 1 t が有限の場合 eϵt = (8.2) 0 t → −∞ なので t → −∞ で系が H の固有状態であることを示す。 |ψ(t)⟩ = e−iHt/h̄ |ϕ(t)⟩ (8.3) として時間に依存するシュレーディンガー方程式 ih̄ ∂ |ψ(t)⟩ = (H + V (t)) |ψ(t)⟩ ∂t (8.4) に代入すると、 ∂ |ϕ(t)⟩ = VI (t), VI (t) = eiHt/h̄ V (T )e−iHt/h̄ ∂t である。上式を形式的に積分すると、 ∫ 1 t |ϕ(t)⟩ = |0⟩ + dt1 VI (t1 )|ϕ(t1 )⟩ ih̄ −∞ ih̄ (8.5) (8.6) となるが、これを逐次展開すると ∫ t ∫ t1 ∫ 1 t 1 |ϕ(t)⟨ = |0⟨+ dt dt1 VI (t1 )|0⟨+ dt2 VI (t1 )VI (t2 )|ϕ(t2 )⟩ + · · · 1 ih̄ −∞ (ih̄)2 −∞ −∞ ≡ (1 + U (t)) |0⟩ (8.7) ただし 1 U (t) = ih̄ ∫ t 1 dt1 VI (t1 ) + · · · + (ih̄)n −∞ ∫ ∫ t −∞ dt1 · · · tn−1 −∞ dtn VI (t1 ) · · · VI (tn ) + · · · (8.8) である。1 次の摂動では U (t)|0⟩ = 1 ih̄ ∫ t −∞ ∫ t dt1 eiHt1 /h̄ V (t1 )e−iHt1 /h̄ |0⟩ ( ) dt1 ei(H−E0 −iϵt1 )/h̄ F exp(−iωt1 ) + F † exp(iωt1 ) |0⟩ −∞ ( ) e−iωt eiωt i(H−E0 )/h̄ † = e F− F |0⟩ h̄ω − (H − E0 ) + iϵ h̄ω + H − E0 − iϵ = 1 ih̄ ≡ ei(H−E0 )/h̄ W (t)|0⟩ eiωt e−iωt F− F† W (t) ≡ h̄ω − (H − E0 ) + iϵ h̄ω + H − E0 − iϵ (8.9) であるから、 |ψ(t)⟩ = e−iHt/h̄ |ϕ(t)⟩ = e−iHt/h̄ (1 + U (t)) |0⟩ = e−iE0 t/h̄ (1 + W (t)) |0⟩ (8.10) となる。この近似と、W (t) の一次までの範囲で、密度行列は ⟨ψ(t)|a†β aα |ψ(t)⟩ = ⟨0|a†β aα |0⟩ + ⟨0|a†β aα W + W † a†β aα |0⟩ = ⟨0|a†β aα |0⟩ + ρ1αβ e−iωt + ρ∗1βα eiωt 27 (8.11) ただし ( ρ1αβ ≡ ⟨0| a†β aα h̄ω ) 1 1 † F −F a aα |0⟩ − (H − E0 ) + iϵ h̄ω + (H − E0 ) + iϵ β (8.12) である。 ( Rαβα′ β ′ (ω) ≡ ⟨0| a†β aα ) 1 1 † † † a ′ aβ ′ − aα′ aβ ′ a aα |0⟩ h̄ω − (H − E0 ) + iϵ α h̄ω + (H − E0 ) + iϵ β (8.13) とすると、 ρ1αβ = ∑ Rαβα′ β ′ (ω)fα′ β ′ (8.14) α′ β ′ と表せる。この Rαβα′ β ′ (ω) を応答関数 (response function) と言う。 H をハミルトニアン、|λ⟩ をその固有関数(H|λ⟩ = (E0 + h̄ωλ )|λ⟩)として、|λ⟩ の完全系を 用いて展開すると、 ( ) † † † † 1 ∑ ⟨0|aβ aα |λ⟩⟨λ|aα′ aβ ′ |0⟩ ⟨0|aα′ aβ ′ |λ⟩⟨λ|aβ aα |0⟩ Rαβα′ β ′ (ω) = − (8.15) h̄ ω − ωλ + iϵ h̄ω + ωλ + iϵ λ になる。λ = 0 の項は第一項と第二項がキャンセルするから寄与しない。また、H を RPA のハ ミルトニアン、|λ⟩ を固有関数(H|λ⟩ = (E0 + h̄ωλ )|λ⟩)とすると、RPA の固有値 ωλ は RPA の応答関数 R の極であることがわかる。 HF の応答関数は、真空状態を HF 真空 |⟩ として、 ∑ H= ϵα a†α aα (8.16) α としたものである。そうすると (8.15) は 0 Rαβα ′ β ′ (ω) 1∑ = h̄ ( ⟨|a†β aα |ph−1 ⟩⟨ph−1 |a†α′ aβ ′ |⟩ ω − ϵph + iϵ ph − ⟨|a†α′ aβ ′ |ph−1 ⟩⟨ph−1 |a†β aα |⟩ h̄ω + ϵph + iϵ ) (8.17) † ただし |ph−1 ⟩ = ap ah |⟩ である。 ⟨|a†β aα |ph−1 ⟩ = ⟨|a†β aα a†p ah |⟩ = ⟨| : a†β aα a†p ah : |⟩ = δαp δβh ⟨ph−1 |a†α′ aβ ′ |⟩ = ⟨|a†h ap a†α′ aβ ′ |⟩ = ⟨| : a†h ap a†α′ aβ ′ : |⟩ = δβ ′ h δα′ p (8.18) 等より 0 Rαβα ′ β ′ (ω) = δαα′ δββ ′ ∑( ph = = δαh δβp δαp δβh − ω − ϵph + iϵ h̄ω + ϵph + iϵ δ δββ ′ (1 − θα )θβ − θα (1 − θβ )) h̄ω − ϵαβ + iϵ δαα′ δββ ′ (θβ − θα ) h̄ω − ϵαβ + iϵ ) αα′ と簡単な構造をしている。 28 (8.19) 8.2 強度関数 実験との比較において、遷移確率の分布を表す量 Sf (ω) = ∑ 1∑ |⟨n|F |0⟩|2 δ(ω − ωn ), ω > 0 h̄ n |⟨n|F |0⟩|2 δ(h̄ω − h̄ωn ) = n (8.20) がよく登場する。これが強度関数 (strength function) である。|0⟩ は基底状態である。 ∑ ∗ Rf = f ∗ Rf = fαβ Rαβα′ β ′ fα′ β ′ ( ) 1 ∑ ⟨0|F † |n⟩⟨n|F |0⟩ ⟨0|F |n⟩⟨n|F † |0⟩ = − h̄ n ω − ωn + iϵ ω + ωn + iϵ ( ) 1 ∑ |⟨n|F |0⟩|2 |⟨n|F † |0⟩|2 = (8.21) − h̄ n ω − ωn + iϵ ω + ωn + iϵ とすると、ϵ → 0 の時、Weierstrasse の公式 1 1 = P ∓ iπδ(x) x ± iϵ x (8.22) を用いて、 ImRf (ω) = − ) π ∑( |⟨n|F |0⟩|2 δ(ω − ωn ) − |⟨n|F † |0⟩|2 δ(ω + ωn ) h̄ n (8.23) |0⟩ は基底状態なので ω > 0 ならば ω + ωn > 0 になり、δ(ω + ωn ) = 0 である。従って強度関 数を 1 Sf (ω) = − ImRf (ω) (8.24) π のように、応答関数を用いて計算することができる。 8.3 Bethe-Salpeter 方程式 RPA 方程式 ((7.44) 及び (7.52) 式から ∑ λ h̄ωλ Xph = Aphp′ h′ Xpλ′ h′ + Bphp′ h′ Ypλ′ h′ p′ h′ λ = ϵph Xph + ∑( p′ h′ λ = ϵph Xph + ∑( ṽph′ hp′ Xpλ′ h′ + ṽpp′ hh′ Ypλ′ h′ ) ) ṽph′ hp′ < 0|a†h′ ap′ |λ⟩ + ṽpp′ hh′ < 0|a†p′ ah′ |λ⟩ (8.25) p′ h′ (7.52) 式の後で述べたように、RPA では 2 粒子、または 2 空孔の行列要素はゼロ、すなわち ⟨0|a†p ap′ |λ⟩ = ⟨0|a†h ah′ |λ⟩ = 0 であるから、上式は λ λ h̄ωλ Xph = ϵph Xph + ⟨0| ∑ ṽpα′ hβ ′ a†h′ ap′ |λ⟩ (8.26) α′ β ′ † λ = ⟨0|a a |λ̸ を用いて と書ける。従って Xph h p ⟨0| ∑ ṽpα′ hβ ′ a†h′ ap′ |λ⟩ = (h̄ωλ − ϵph )⟨0|a†h ap |λ⟩ α′ β ′ 29 (8.27) となる。同様にしてもう一つの RPA 方程式 B ∗ X λ + A∗ Y λ = −h̄ωλ Y λ より ∑ ṽhα′ pβ ′ a†α′ aβ ′ |λ⟩ = (h̄ωλ − ϵph )⟨0|a†p ah |λ⟩ −⟨0| (8.28) α′ β ′ 上の 2 式をまとめると (θβ − θα )⟨0| ∑ ṽαα′ ββ ′ a†α′ aβ ′ |λ⟩ = (h̄ωλ − ϵαβ )⟨0|a†β aα |λ⟩ (8.29) α′ β ′ となる。これの複素共役を取り添え字を入れ替えれば、ϵβα = −ϵαβ に注意して ∑ (θβ − θα )⟨0| ṽαα′ ββ ′ a†α′ aβ ′ |λ⟩ = −(h̄ωλ + ϵαβ )⟨0|a†β aα |λ⟩ (8.30) α′ β ′ である。これらを用いて以下の量を計算する: ∑ 0 Rαβµν ṽµν ′ νµ′ Rµ′ ν ′ α′ β ′ µνµ′ ν ′ = = = = ( ) ∑ ⟨0|a†ν ′ aµ′ |λ⟩⟨λ|a†α′ aβ ′ |0⟩ ⟨0|a†α′ aβ ′ |λ⟩⟨λ|a†ν ′ aµ′ |0⟩ θβ − θα ṽαν ′ βµ′ − h̄ω − ϵαβ + iϵ ′ ′ h̄ω − h̄ωλ + iϵ h̄ω + h̄ωλ + iϵ µν λ ∑( h̄ωλ − ϵαβ 1 ⟨0|a†β aα |λ⟩⟨λ|a†α′ β ′ |0⟩ h̄ω − ϵαβ + iϵ h̄ω + h̄ωλ + iϵ λ ) h̄ωλ + ϵαβ † † + ⟨0|aα′ aβ ′ |λ⟩⟨λ|aβ aα |0⟩ h̄ω + h̄ωλ + iϵ ( ) ∑[ 1 1 † † ′ ⟨0|aβ aα |λ⟩⟨λ|aα′ aβ |0⟩ − + iϵ h̄ω − h̄ωλ + iϵ h̄ω − ϵαβ λ ( )] 1 1 † † − ⟨0|aα′ aβ ′ |λ⟩⟨λ|aβ aα |0⟩ − h̄ω + h̄ωλ + iϵ h̄ω − ϵαβ + iϵ Sαβα′ β ′ Rαβα′ β ′ − (8.31) h̄ω − ϵαβ + iϵ ただし Sαβα′ β ′ = ∑( ) ⟨0|a†β aα |λ⟩⟨λ|a†α′ aβ ′ |0⟩ − ⟨0|a†α′ aβ ′ |λ⟩⟨λ|a†β aα |0⟩ (8.32) λ であるが、RPA の完備性より Sphp′ h′ = ∑ λ λ∗ λ (Xph Xpλ∗ ′ h′ − Yph Yp′ h′ ) = δpp′ δhh′ λ Sphh′ p′ = ∑ λ λ∗ λ (Xph Ypλ∗ ′ h′ − Yph Xp′ h′ ) = 0 (8.33) λ であり、また S の定義から ∗ Sαβα ′β′ = ∑ (⟨0|a†β ′ aα′ |λ⟩⟨λ|a†α aβ |0⟩ − ⟨0|a†α aβ |λ⟩⟨λ|a†β ′ aα′ |0⟩) λ = −Sβαβ ′ α′ (8.34) となるから、まとめると である。これから Sαβα′ β ′ = δαα′ δββ ′ (θβ − θα ) (8.35) Sαβα′ β ′ 0 = Rαβα ′β′ h̄ω − ϵαβ + iϵ (8.36) 30 となることがわかるので、結局 R は ∑ 0 Rαβα′ β ′ = Rαβα ′β′ + 0 Rαβµν ṽµν ′ νµ′ Rµ′ ν ′ α′ β ′ (8.37) µνµ′ ν ′ を満たす。この方程式をベーテ · サルピーター方程式 (Bethe-Salpeter equation) と言う。これ を使えば RPA 方程式を解かずに応答関数 R を決定でき、さらにそれを用いて強度関数を決定 できる。 Ṽµνµ′ ν ′ = ṽµν ′ νµ′ とすると、上式は形式的には R = R0 + R0 Ṽ R = (1 − R0 V )−1 R0 = R0 + R0 Ṽ R0 + R0 Ṽ R0 Ṽ R0 + · · · (8.38) と書ける。RPA の固有値は R の極であるから、 det(1 − R0 (ω)Ṽ ) = 0 (8.39) ṽαβα′ β ′ = κfαα′ fββ ′ = Ṽαα′ ββ ′ (8.40) から求まる。 8.3.1 簡単な模型 の場合にベーテ · サルピーター方程式を解いて RPA の励起エネルギーを求める。ベーテ · サル ピーター方程式の両側を f で挟んで ∑ ∗ 0 Rf0 (ω) = fαβ Rαβα ′ β ′ (ω)fα′ β ′ αβα′ β ′ ∑ Rf (ω) = ∗ fαβ Rαβα′ β ′ (ω)fα′ β ′ (8.41) αβα′ β ′ とすると、ベーテ · サルピーター方程式より Rf (ω) = Rf0 (ω) + κRf0 (ω)Rf (ω) となる。R0 の定義より Rf0 (ω) = ∑ αβ ∑ θβ − θα |fαβ | = |fph |2 h̄ω − ϵαβ + iϵ 2 ph ( = Rf0 (ω) (8.42) 1 − κRf0 (ω) 1 1 − h̄ω − ϵph + iϵ h̄ω + ϵph + iϵ ) (8.43) h̄ω ̸= ±ϵph なら ϵ = 0 としてよいから、 Rf0 (ω) = ∑ 2ϵph |fph |2 (h̄ω)2 − ϵ2ph (8.44) ph RPA 方程式の固有値は 1 − κRf0 (ω) = 0 である。これは Rf0 (ω) = ∑ 2ϵph |fph |2 1 = 2 2 κ (h̄ω) − ϵph (8.45) ph この方程式を満たす ω が RPA の固有値である。また、R の定義より ( ) 1 ∑ |⟨λ|F |0⟩|2 |⟨λ|F |0⟩|2 Rf (ω) = − h̄ ω − ωλ + iϵ ω + ωλ + iϵ λ>0 31 (8.46) なので、 lim (h̄ω − h̄ωλ )Rf (ω) = |⟨λ|F |0⟩|2 (8.47) ω→ωλ のように遷移強度が求められる。1 − κRf0 (ωλ ) = 0 を満たす ω = ωλ の近傍では 1 − κRf0 (ω) = 1 − κRf0 (ωλ + (ω − ωλ ) = −κ dRf0 (ωλ ) dωλ (ω − ωλ ) + · · · (8.48) と展開できる。従って |⟨λ|F |0⟩|2 = lim (h̄ω − h̄ωλ )Rf (ω) = lim (h̄ω − h̄ωλ ) ω→ωλ = lim ω→ωλ (h̄ω − h̄ωλ )Rf0 dRf0 (ωλ ) ω→ωλ −κ dω (ω λ − ωλ ) + · · · =− Rf0 1 − κRf0 1 dRf0 (ωλ ) κ2 dω λ (8.49) となり、やはり交点における傾きが小さいほど遷移強度が大きくなることがわかる。これが集 団状態への遷移であり、TDA と同じ性質である。 8.4 線形応答と RPA 時間的な変化をする一体の外場 F (t) = f e−iωt + f † eiωt (8.50) を考える。ただし f は時間に依存しないものとする。ここで外場 F は弱いとして、その一次の 効果までを考える。これを線形応答の理論と呼ぶ。 一粒子状態 |i(t)⟩ の時間発展は、時間依存のハートリー · フォック方程式 (TDHF) に従うと する: ∂ ih̄ |i(t)⟩ = (hHF + F (t))|i(t)⟩ (8.51) ∂t ∑ この時、密度行列 ρ(t) = N i=1 |i(t)⟩⟨i(t)| の時間発展は N N ∑ ∑ ∂⟨i(t)| ∂⟨i(t)| ∂ ih̄ ⟨i(t)| + |i(t)⟩ih̄ ih̄ ρ(t) = ∂t ∂t ∂t = i=1 N ∑ i=1 (hHF + F (t)) |i(t)⟩⟨i(t)| − i=1 N ∑ |i(t)⟩⟨i(t)| (hHF + F (t)) i=1 = [hHF + F (t), ρ(t)] (8.52) である。F (t) = 0 の時の密度行列を ρ0 とする。HF 条件 (5.25) 式より [h0 , ρ0 ] = 0, ただし h0 ≡ hHF [ρ0 ] (8.53) 外場 F が小さい場合は、ρ は ρ0 とそれほど変わらないとして ρ = ρ0 + δρ (8.54) として δρ を求めることにする。また、ここでは h0 と ρ0 が対角的になる HF 基底で考える。つ まり一粒子状態は ⟨α|h0 |β⟩ = ϵα δαβ ⟨α|ρ0 |β⟩ = θα δαβ 1 空孔状態 (ϵ ≤ ϵ ) α F θα = 0 粒子状態 (ϵα > ϵF ) 32 (8.55) を満たす。密度演算子の性質として ρ2 = ρ であるから (ρ0 + δρ)2 = ρ20 + ρ0 δρ + δρ + (δρ)2 ≈ ρ0 + ρ0 δρ + δρρ0 = ρ0 + δρ (8.56) δρ = ρ0 δρ + δρρ0 (8.57) 従って これの空孔 ·、粒子 · 粒子行列要素はゼロになる: ⟨h|δρ|h⟩ = ⟨h|ρ0 δρ + δρρ0 |h⟩ = 2⟨h|δρ|h⟩ → ⟨h|δρ|h⟩ = 0 ⟨p|δρ|p⟩ = ⟨p|ρ0 δρ + δρρ0 |p⟩ = 0 (8.58) したがって δρ の ph(または hp)成分のみを考えればよい。 hHF を ρ = ρ0 の周りで展開すると ただし hHF [ρ] = h0 + δh + · · · (8.59) ) ∑ ∂hHF ∑ ( ∂hHF ∂hHF δh = δρp′ h′ + δρh′ p′ = δραβ rho=ρ0 ∂ρp′ h′ ∂ρh′ p′ ′ ′ (8.60) αβ ph また (8.53)、(8.59) から (8.52) は一次の範囲で ih̄ ∂ δρ = [h0 , δρ] + [δh + F, ρ0 ] ∂t (8.61) となる。これの ph 成分は、ρ0 |p⟩ = 0、ρ0 |h⟩ = |h⟩ などに注意すると ih̄ ∂ δρph = ϵph δρph + δhph + Fph ∂t (8.62) となる。 δρ も F (t) と同じ時間依存性を持つと仮定し δρ(t) = ρ1 e−iωt + ρ†1 eiωt (8.63) δραβ = ρ1αβ e−iωt + ρ∗1βα eiωt (8.64) とする。この時 だから、(8.62) の右辺の ϵph δρph + δhph は ∑( ) ϵph δρph + δhph = Aphp′ h′ ρ1p′ h′ + Bphp′ h′ ρ1h′ p′ e−iωt p′ h′ + ∑( ) Aphp′ h′ ρ∗1h′ p′ + Bphp′ h′ ρ∗1p′ h′ eiωt (8.65) p′ h′ ただし Aphp′ h′ Bphp′ h′ ∂(hHF )ph = ϵph + δρp′ h′ rho=ρ0 ∂(hHF )ph = δρ ′ ′ hp (8.66) rho=ρ0 である。(8.62) において e±iωt の係数は両辺で一致すべきであるから ∑( ) h̄ωρ1ph = Aphp′ h′ ρ1p′ h′ + Bphp′ h′ ρ1h′ p′ + fph p′ h′ −h̄ωρ∗1hp = ∑( ) Aphp′ h′ ρ∗1h′ p′ + Bphp′ h′ ρ∗1p′ h′ + fhp p′ h′ 33 (8.67) つまり [( A B B∗ A ) ( 1 0 − h̄ω 0 1 )] ( ) ( ) ρ1 f =− ¯ ρ̄1 f (8.68) † である。これを解いて ρ1 を求めて、ρ = ρ0 + δρ = ρ0 + ρ1 e−iωt + ρ1 eiωt に代入すれば、任意 の時間における密度行列と固有値 ω を求めることができる。 外場が無限小の極限では、上式の右辺がゼロになるため、方程式は [( ) ( )] ( ) A B 1 0 ρ1 =0 (8.69) − h̄ω B∗ A 0 1 ρ̄1 となる。この方程式には ρ1 = ρ̄1 = 0 という解があるが、これは系が何も応答せず HF の基底 状態にあることを意味する。しかし、外場の周波数 ω が RPA の固有振動数 ωλ に等しい時は ρ1 = X λ 、ρ̄1 = Y λ という、ゼロでない解が存在する。つまり、ω = ωλ である無限小の外場に 対しては系は共鳴し、RPA 状態が励起される。言い換えると RPA は微小振動という近似の元 で系の固有振動数を求めることと等価である。つまり、我々は RPA 方程式 (7.45) を別の方法 で導いたことなる。 ここで行った RPA 方程式の導出は以前の方法よりも一般的である。 (hHF )αβ = であるから ṽαα′ ββ ′ = ∂EHF ∂ρβα ∂(hHF )αβ ∂ 2 EHF = ∂ρβ ′ α′ ∂ρβα ∂ρbeta′ α′ (8.70) (8.71) とすると,(8.66) で与えられる A と B は Aphp′ h′ = ϵph δpp′ δhh′ + v̄ph′ hp′ , Bphp′ h′ = v̄pp′ hh′ (8.72) となる。v̄ が ρ に依存しないならば v̄ = ṽ であり、A と B は (7.46)、(7.47) に一致する。一方、 v̄ が ρ に依存する場合、v̄ ̸= ṽ であり、RPA においては ṽ を用いなければならない。 以前、(7.52) 式で導いた通り、交換子の期待値を HF 真空の期待値で置き換え、その複素共 役まで考えると ∗ Xph = ⟨0|a†h ap |λ⟩ → Xph = ⟨λ|a†p ah |0⟩ ∗ Yph = ⟨0|a†p ah |λ⟩ → Yph = ⟨λ|a†h ap |0⟩ (8.73) 以前、(8.12) で定義した ρ1αβ が、(8.13) 式で定義した応答関数 ( ) 1 1 Rαβα′ β ′ (ω) ≡< 0| a†β aα a†α′ aβ ′ − a†α′ aβ ′ a†β aα |0⟩ h̄ω − (H − E0 ) + iϵ h̄ω + (H − E0 ) + iϵ (8.74) を用いて、(8.14) 式のように書かれることを導いた。ここでは、F を外場と考えて RPA の元 で ρ1 を計算する。 RPA では p − p、h − h の行列要素はゼロなので、 ∑ ∑( ) ρ1αβ = Rαβα′ β ′ (ω)fα′ β ′ = Rαβp′ h′ (ω)fp′ h′ + Rαβh′ p′ (ω)fh′ p′ (8.75) α′ β ′ p′ h′ 34 従って ρ1ph = − ∑ λ Xph λ h̄ω − h̄ωλ + iϵ ∑ λ∗ Yph ) ∑( λ∗ ′ ′ ′ ′ f + Y f Xpλ∗ ′ h′ p h p′ h′ h p p′ h′ ∑∑( Ypλ′ h′ fp′ h′ + Xp′ h′ fh′ p′ ) h̄ω + h̄ωλ + iϵ ′ ′ ′ ′ ph ph ( ) ∑ Z1λ Z2λ λ λ = X − Y h̄ω − h̄ωλ + iϵ ph h̄ω + h̄ωλ + iϵ ph λ (8.76) λ ただし ( ) ) ∑( f λ∗ λ∗ Xph fph + Yph fhp = (X λ∗ Y λ∗ ) ¯ = f ph ( ) ) ∑( f λ λ Yph fph + Yph fhp = (Y λ X λ ) ¯ = f ph Z1λ Z2λ 同様にして ρ1hp = ∑( λ Z1λ Z2λ Yλ − X λ∗ h̄ω − h̄ωλ + iϵ ph h̄ω + h̄ωλ + iϵ ph (8.77) ) これらをまとめると ( ) ( ( ) ( )) ∑ Z1λ Z2λ ρ1 Xλ Y λ∗ = − h̄ω − h̄ωλ + iϵ Y λ h̄ω + h̄ωλ + iϵ X λ∗ ρ¯1 (8.78) (8.79) λ である。RPA 方程式より ( M= A B B ∗ A∗ ) ( 1 0 − h̄ω 0 1 ) (8.80) とおくと ( ) ( ) Xλ Xλ M = (h̄ωλ − h̄ω) , Yλ −Y λ ( ) ( ) Y λ∗ Y λ∗ M = −(h̄ωλ + h̄ω) X λ∗ X λ∗ (8.81) であるから )) ( ) ( ( ( ) ∑ Z2λ Z1λ Xλ Y λ∗ ρ1 − M M = M h̄ω − h̄ωλ + iϵ h̄ω + h̄ωλ + iϵ Yλ X λ∗ ρ¯1 λ ] ) ) ( [( ∑ Y λ∗ Xλ Z2λ Z − = − 1λ −X λ∗ −Y λ λ ( ) ) ]( ) ) ( [( ∑ f f Y λ∗ Xλ λ λ λ∗ λ∗ = − ¯ (8.82) (Y X ) (X Y − = − f f¯ −X λ∗ −Y λ λ ただし最後に完備性 (7.85) を使った。従って、ここで定義した ρ1 、ρ̄1 が外場のある場合の密度 行列のずれ (8.68) 式を満たすことがわかった。 35 ρ1ph = ∑( Rphp′ h′ (ω)fp′ h′ + Rphh′ p′ (ω)fh′ p′ p′ h′ ∑1∑ = h̄ ′ ′ ph 8.5 ( ) ⟨0|a†h ap |λ⟩⟨λ|a†p′ ah′ fp′ h′ |0⟩ ω − ωλ + iϵ λ − ⟨0|a†p′ ah′ |λ⟩⟨λ|a†h ap |0⟩ h̄ω + ωλ + iϵ ) fp′ h′ +(8.83) Sum Rule Energy-weighted sum rule: S≡ ∑ n h̄ωn |⟨n|F |0⟩|2 = h̄2 2m 36 ∫ d3 rρ(r) (∇f (r))2 (8.84)
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