平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ

平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
論文題目
PDT に用いられる光増感剤の物理化学的性質
Physical and chemical properties of PDT medicines
薬品物理化学研究室 4 年
09P035 小飯塚 舞
(指導教員:星名賢之助)
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要 旨
光増感剤とは光照射によって一重項酸素を生成し、取り込んだ細胞や組織へ酸化的ス
トレスを与えることができる化合物であり、医療現場でも光線力学療法(PDT)の薬
剤としてがん治療などにしようされている。
光増感剤を投与し、光増感剤が細胞表面に吸着または細胞内に取り込まれたあとに光
を照射すると、光毒性を示すことにより、ターゲット細胞を死滅させる。光毒性の作用
機構は基底状態 So が光吸収によって励起され一重項状態となり、項間交差により励起
三重項状態となる。励起三重項状態からの機構は TypeⅠと TypeⅡに大別されている。
TypeⅠは三重項状態から直接的に生体組織と反応してラジカルまたはラジカルイオン
を生成し、それが溶存酸素と反応して傷害を与える機構である。そして直接ターゲット
に作用して酸化還元反応する。一方、TypeⅡは三重項状態から組織中の溶存酸素への
エネルギー移動により一重項酸素を生成し、この一重項酸素が生体組織に反応して傷害
を与える機構である。PDT では、この一重項酸素が細胞に作用することで毒性が起き
ることが主機構と考えられる。
いくつかの光増感剤は、カスパーゼといった活性を有するプロテアーゼ産生能により
細胞の自己分解を誘導する。一方、他の光増感剤は、ミトコンドリアにおいて局在して
作られるため、アポトーシスを誘導するようである。疎水性光増感剤は、腫瘍細胞への
増大された親和性を示す。親水性光増感剤と同様に集合体はピノサイトーシス及び/又
はエンドサイトーシスにより取り込まれるようであり、リソソーム及びエンドソームに
局在する。活性化されると、小胞が透過性となり、光増感剤及び加水分解酵素は、細胞
質に放出される。細胞質における増感色素はチューブリンにダメージ与え、有糸分裂に
おける細胞の集積、その後の細胞死を引き起こす。
PDT に用いられる光増感剤としての必須条件は、純度が高い化合物・光増感効果が
高い・標的組織への選択性がある・長波長での光吸収効率が高い・人体への毒性がなく、
排泄が速い・人体への変異性がないなどである。より効果的な PDT を実施するにあた
り、望ましい条件は、水溶性がある・製剤化しやすい・薬物投与から光照射までの時間
が短い・合成しやすく、大量生産しやすいなどである。
光増感剤の発見や開発経路は従来の開発経路によく似ているが、これに光に対する性
質の試験や一重項酸素の測定が加わるのが大きな違いである。
光増感剤の開発例としてマラカイトグリーン誘導体を挙げた。メチレンブルーとトル
イジンブルーは古くから知られており、どちらも光増感活性をもっている。これらの誘
導体は環状、アルキル鎖付加、ヒドロキシル基付加、あるいはヘテロ環付加により、溶
解性やタンパク質への相互作用を抑制し、薬剤として用いられる。
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キーワード
1.光線力学的療法
2.光毒性
3.項間交差
4.光増感剤
5.三重項状態
6.一重項酸素
7.カスパーゼ
8.ミトコンドリア
9.アポトーシス
10.マラカイトグリーン
11.メチレンブルー
12.
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PDTに用いられる光増感剤の
物理化学的性質
薬品物理化学研究室
09P035 小飯塚 舞
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光線力学的治療法(PDT)の機構は腫瘍内に取り込まれた光増感剤に
光を照射することによって一重項酸素を生成する。この一重項酸素が
腫瘍組織を破壊する。
ここで、より効果的にPDTを実施するために光増感剤に必要な条件は
選択的に腫瘍組織に集積されること、そして光照射によって一重項酸
素を十分に生成できることなどである。
したがって、光増感剤の開発には一重項酸素の測定が必要となる。
光増感剤の開発例としてマラカイトグリーン誘導体とメチレンブルー
誘導体を挙げる。
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感光性を与える物質(光増感剤)の投
与
細胞表面に吸着
細胞内に取り込む
光照射
光を照射することで光毒性を示す。
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項間交差により励起三
重項T1となる
直接ターゲットに作用して酸
化還元反応する
基底状態S0
が光吸収に
よって一重
項状態S1と
なる
酸素分子と衝突して一重項酸素の
生成する
一重項酸素が細胞に作用することで毒性が起きることが
主機構と考えられている。
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光増感剤により生成した一重項酸素によ
る細胞への攻撃サイト
リソソーム
カテプシン
細胞表面
ミトコンドリア
小胞体
カスパーゼ活性化
アポトーシス誘導
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必須条件
・純度が高い化合物
・in situでの光増感効果が高い
・標的物質への選択性がある
・長波長の光吸収効率が高い
・人体への毒性がなく、排泄が速い
・人体への変異性がない
望ましい条件
・水溶性がある
・製剤化しやすい
・薬物投与から光照射までの時間が短い
・合成しやすく、大量生産しやすい
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No
細胞試験
天然物
リード化合物
新規合成
Yes
生物学的
試験
No
Yes
ヒト臨床試
験
製剤
Yes
合成物
No
光増感剤
の性質
Yes
毒性変異原性試験
一重項酸素の
測定
・光増感剤の発見や開発の経路は従来の開発の経路に非常によく似ている
・大きな違いとして開発経路に光に対する性質の試験(吸収波長や吸収強度な
ど)がある
・開発経路のさまざまなフィードバックは化合物を合成するのに利用される
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一重項酸素生成の確認
PDTに適した薬剤
=
一重項酸素をたくさん生成する
・1270 nm の一重項酸素の発光の直接測定は
可能だが、感度が低い
・一般的には、有機溶媒または水性溶媒中ニ
トロソアミン誘導体の含まれるジフェニルイ
ソベンゾフランまたはテトラフェニルシクロ
ペンタンなどがもちいられ、分光光度計によ
り測定
・この指示薬の染料反応によって分光光度計
を使用し、作用物質がクエンチされて生成す
る一重項酸素の量を調べることができる
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PDT薬剤
RNAを染
色
PDT薬剤
既知の増感剤の代表的なマラカイトグリーンから誘導される光
増感剤
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光反応によって一重項酸素を発生させる光増感作用を持つために、光増感剤と
しても用いられるトルイジンブルーも同様に光増感活性を持っている。
これらは様々な誘導体として、薬剤として用いられる。
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“Photosensitisers in Biomedicine”
Mark Wainwright, Wiley-Blackwell(2009)
Chapter3 “Photosensitisers and Photosensitisation”
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