地域と農業を守るために家族農業・都市型農業を生かす(PDF)

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地域と農業を守るために
家族農業・都市型農業を生かす
德永邦雄
広島県JA広島中央 代表理事組合長
家族農業の役割を明確に位置づけて営農を支援。都市
化による環境の変化に対応した多様なJA事業展開と、
職員の人材育成に力を入れています。
◆米の買い取り・直売を拡大
栽培し、年々増加しています。しかし、経営
――管内農業の特徴と農業振興の方向を聞か
形態は家族経営がほとんどで、面積でいえば、
せてください。
約80%を占めています。
ここは広島県中央の賀茂台地で、標高は
平成26年産米価格の大幅下落による農家の
160~500m。気候温暖な米地帯です。空港に
生産意欲低下が懸念され、緊急支援対策とし
近く、新幹線、高速道路も通っており、交通
て、肥料、農薬、農機への助成などを行いま
の便に恵まれたところです。広島大学、近畿
したが、長期的な対策も必要です。
大学、広島国際大学もあって、若い人が多く、
そのひとつが買い取りによる米の直売です。
東広島市は、全国でも数少ない人口が増加し
付加価値を高め、農家の所得を増やすためで
ている地方都市のひとつです。
す。売り先は直売所を中心にインショップや
また、日本で唯一のお酒に関する国の研究
学校給食などです。平成23年は5,000袋でし
機関「酒類総合研究所」が置かれている酒ど
たが、平成27年は 3 万袋と、全体の約 1 割に
ころで、
「山田錦」を中心とする酒米を72ha
拡大する計画です。
2 つ目はコストの引き下げです。そのため
には稲作の「低コスト米栽培ごよみ」を個人
向けと法人向けに作っています。
3 つ目に、減農薬、減化学肥料による特栽
米、
「にこまる」の拡大です。
そして 4 つ目に、管内の全地区を対象に土
壌診断を行い、土壌マップを作りました。肥
料設計に基づいて栽培するとともに、肥料の
JA広島中央本店(写真は全てJA広島中央提供)
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効率使用・コスト低減につなげようというも
とくなが・くにお
昭和42年広島県経済連入会。平
成11年代表理事常務を退任し、
14年から17年までJA全農の常
勤監事。その後、自家の農業に従
事。22年JA広島中央理事に。
23年代表理事組合長、24年JA
広島中央会副会長に就任し、現
在に至る。
のです。
つを軸にして取り組んでいます。具体的施策
としては、
「農家所得の増大」
「農業を担う人
◆「 4 柱 8 策」で多様な農業
づくり」
「将来農業の基盤づくり」
「直販交流
――JAの経営面ではどのような取り組みを
拠点づくり」の4つがあります。
していますか。
大型農家、中核農家、農業法人等による市
平成24~27年度の経営刷新中期計画で「 4
場をにらんだ経営も必要ですが、兼業農家や
柱 8 策」
、つまり4 つの柱と8 つの重点課題を
副業的農家による都市型農業も欠かせません。
掲げました。基本とする考えは、組合員の生
それが直売、インショップ等の小口販売で、
活を守ることと、組合員・利用者から喜ばれ
管内には直売所「おいしい旬館 となりの農
ることを喜びとする組織を目指そうというこ
家」が3か所あります。
とです。
売り上げは、平成24年度 2 億4,500万円、
4 つの柱とは、①多様軸の農業振興、②J
平成26年度 3 億8,000万円でした。そして平
Aのフロントラインである支店の強化と、地
成27年度は4億2,000万円を目標にしています。
域貢献、③JAの財務の健全化と経営収支構
造の変革、④JAの役職員の資質向上、です。
◆実験農場で経営モデル
地域農業振興では、管内農業の再生と成長
都市農業戦略に対応して、ミニトマトの生
に向け、戦略型品目振興と都市型農業戦略 2
産拡大を図っています。
「賀茂のしずく」と名
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地域農業の拠点としても期待が高まる「おいしい旬館 となりの農家(西条店)」
小農家育成基本プランの一環、初級者コースとして開設
された「ふれあい農園」
付け、さらに拡大するために、昨年実験農場
元出身の理事を会長に、支店の運営について
を造りました。ミニトマトは水稲の育苗後の
話し合ってもらおうというものです。平成26
ハウスで比較的簡単に栽培できますが、問題
年度から11の全支店に広げています。
はいかにコストを下げるかです。これを研究
葬祭事業については、葬儀の後、お返しや
して、経営モデルを確立し、普及したいと思っ
墓石、仏壇、さらには共済、相続問題など、
ています。
対処しなければならないさまざまな問題があ
もうひとつ、
「小農家育成基本プラン」を実
ります。それをJAの各部署が個別に組合員
施しています。30m2ほどのミニ菜園で新規の
に対応していては、組合員が大変です。そこ
就農希望者を募集し、初級・中級・上級の 3
で窓口の一本化に取り組んでいます。これは
ランクを設けて、栽培技術を学んでもらいま
総合事業を営むJAの役目です。
あっせん
す。上級の人には、希望に応じて農地の斡旋、
墓掃除も含めて、七回忌くらいまではお世
農機具の貸与などで支援し、ひとりでも多く
話するべきだと思っています。そこで今年度
自立農家を発掘できればと思っています。
から、葬儀をもとに利用者のカルテ作りに取
りかかりました。長期のデータを集積するこ
◆全支店にふれあい委員会
とで、利用者のさまざまなニーズが分かり、
――小規模以外の農家、また地域への対応で
それをもとに新たな事業を展開するのです。
はどのような取り組みをしていますか。
事業はやみくもに推進しても効果は期待で
管内には40ほどの営農集団があります。J
きません。必要な人に必要な情報・サービス
Aに対してどんな要望があるのかを知るため、
を提供することが新しいビジネススタイルで
定期的に意見交換会等を行い、営農集団向け
はないでしょうか。
の資材価格、ライスセンターの施設利用料な
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どの要望を聞いて対応するなどで、支援して
◆後継者づくりはトップの責任
います。こうした協力関係をつくることがJ
――そうした事業を担うのは職員ですが、人
Aにとって重要だと考えています。
材の育成にはどのように取り組んでいますか。
地域貢献は支店が拠点です。支店を強化す
人づくりは、まず管理職の資質を高めるこ
るため、平成25年度に 2 つのモデル支店にお
とだと考えています。組合長就任直後に『ア
いて「ふれあい委員会」をつくりました。地
メーバ経営』
(稲盛和夫著)と『鈴木敏文 経
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昨年開所した、休閑期の水稲育苗ハウスを活用したミニ
トマトの実験農場
「支店ふれあい委員会」による教育文化活動として、子
どもたちにみそづくり体験
営の不易』
(緒方知行編著)を、部長、課長、
企業品質(組織風土)を高めることが大事だ
係長全員に読んでもらい、レポートの提出を
と思います。「世間に恥じることはしていな
求めました。それをもとに 6 、 7 人のグルー
い」という職場の風土、それが企業品質です。
プで勉強会を開き、意見交換をしました。 2
最後に今の国の農業政策について思うこと
年かかりましたが、全て出席しました。組合
ですが、食料、農業、農村のそれぞれの政策
長である自分の考えを知ってもらいたいとい
のバランスが欠けているのではないでしょうか。
う思いもありました。人を育てるには、いく
食料問題は輸入、農業政策は規模の拡大で対
つかのポイントがあります。第 1 に採用の時
応できるかもしれません。しかし農村政策は
点でいい人を見つける、第 2 に人を育てる、
家族農業がないと成り立ちません。ところが
第 3 に人を生かす、つまり活躍の場を用意す
その時々の都合でこの重点が変わる。これが
ることです。トップの最大の責任は後継者づ
問題だと思います。
くりにあると思っています。
当JA管内の農業の80%は家族経営農業で
す。これが衰退すると農村は崩壊します。農
◆企業品質(組織風土)の向上を心がける
業の政策においても、ここを政府はよく考え
――普段心がけていること、あるいは職員に
ていただきたいと思います。
伝えたいことを教えてください。
座右の銘は、と聞かれれば「天地には万古
あれど、この身再び得られず」を挙げていま
す。全力を挙げて今を精いっぱい生きるとい
う意味ですが、職員には、
「質素と正直に生き
(撮影・JA広島中央総務部総合企画課 黒川佳織)
◎JA広島中央の概況
平成9年、東広島市の2JAと賀茂郡の5JAが合併して誕生。
広島県
ろ」と常に言っています。質素と正直であれ
ば、仕事や人生で大きく道を踏み外すことは
ないでしょう。
自分のこれまでの人生に反省を込めての思
いでもありますが、コンプライアンス(法令
順守)はこれに凝縮されていると思います。
不祥事は管理体制の強化だけでは防げません。
JA広島中央
▽組合員数
3万937人
(うち正組合員1万9,174人)
▽貯金残高
1,536億2,240万円
▽長期共済保有高
5,850億6,061万円
▽購買品供給高
22億6,496万円
▽販売品取扱高
21億5,133万円
▽職員数
390人(うち正職員229人)
(平成26年度末現在)
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