Document

2015 年 9 月 18 日
せり上げ入札(プロキシ、二位価格入札)を
ゲーム理論でモデル化しよう
ゲーム理論とは?
「戦略的相互依存(Strategic Interdependence)」の数理科学
各プレーヤーの利得は
各プレーヤーの選択は
ex.
左側通行?右側通行?
一位価格入札などにて:
他のプレーヤーの選択にも依存
他のプレーヤーの選択(についての予想)に依存
相手が高い指値ならば
私も高い指値
あるいはせりに不参加
参考文献:とりあえず神取ミクロ 6,7 節
1
ゲーム理論のモデルはどのように定式化される?
ゲーム理論における代表的な表現形式
標準形ゲーム(Normal form game, 戦略形ゲーム, Strategic form game)
G  ( N , S , u)
「三種の神器」でことたりる:
誰がプレーヤー?
各プレーヤーの戦略は?
各プレーヤーの利得は?
プレーヤー集合
戦略プロファイル集合
N  {1,..., n}
S   Si
各プレーヤー i  N の戦略集合
Si
iN
各プレーヤー i は、戦略集合 Si から戦略 si  Si を選択する
u  (ui )iN
各プレーヤー i  N の利得関数
ui : S  R
戦略プロファイル s  ( si )iN  ui ( s1 ,..., sn )  S が選択される場合、各プレーヤー i  N の利得は
ui ( s )  ui ( s1 ,..., sn )  R
自身の戦略 si のみならず他のプレーヤーの戦略プロファイル
s i  ( s j ) jN \{i}  ( s1 ,..., si1 , si1 ,..., sn ) にも依存
利得関数プロファイル
2
標準形ゲームにおいてプレーヤーはどのように戦略を決定する?
均衡概念
どの戦略を選べばいい?: 自身の利得が一番高くなるように選べばいい
そのためには相手の行動について予想を立てる必要があるかもしれない
ex.
右側通行?左側通行?
相手は高い指値?低い指値?
相手がどのような戦略を選択しようとも(相手について予想を立てなくても)
つねにベストになるような戦略があれば
それにこしたことはない~!
⇒ 優位戦略
3
優位戦略(Dominant Strategy、支配戦略)とは?
A strategy for a player i  N , si*  Si is said to be a dominant strategy for player i if
for every s i  S  i ,
ui ( si* , s i )  ui ( si , s i ) for all si  Si .
「他のプレーヤーの戦略プロファイル s i  S  i がなんであろうとも
*
私には si を選択するのがベスト!」
優位戦略があれば、相手プレーヤーの戦略も利得関数も知らなくても、ベストな選択が可能である
しかし優位戦略が存在するようなゲームはとても稀である
囚人のジレンマでは優位戦略が存在する:Defection!
「左側通行?右側通行?」では優位戦略は存在しない
神取ミクロ 6 節
4
二位価格入札(プロキシ、二位価格入札)を標準形ゲームとして定式化してみよう
そして、優位戦略があることを確認しよう
二位価格入札の標準形ゲーム G  ( N , S , u )
入札者間のゲームとしてモデル化される(売り手は?)
プレーヤー(=入札者)集合
N  {1,..., n}
戦略(=「指値上限」
)集合
Si  [0, )
各入札者 i  N の利得関数
ui : S  R
ui は以下のように特定される
ui ( s)  wi  max s j
if si  max s j つまり「落札した場合」
ui ( s )  0
if si  max s j つまり「非落札の場合」
jN \{i}
jN \{i}
jN \{i}
5
si  max s j の場合
jN \{i}
(他の入札者と同時に最後にせりから降りる場合)は?
たとえば、最後まで残った入札者同士じゃんけんさせてきめる
あるいは、以下のように、
「番号の若い方が勝ち」とする
ui ( s)  wi  max s j
jN \{i}
if
si  max s j , and
jN \{i}
si  s j for all j {1,..., i  1}
ui ( s )  0
if
si  max s j , and
jN \{i}
si  s j for some j {1,..., i  1}
6
この標準形ゲームは、せり上げのみならず
プロキシ、二位価格入札としても解釈できる
プロキシせり上げ入札
各入札者 i  N は「せり上げに応じていい上限」として si  [0, ) を入力
自動せり上げ開始
指値が二位価格 min[ max s j ] に到達した時点で終了
iN
jN \{i}
一位価格 si*  max si を入力した入札者 i が二位価格 min[ max s j ] で落札
*
iN
iN
jN \{i}
二位価格入札
各入札者 i  N は指値 si  [0, ) を封印入札
もっとも高い指値(一位価格)を提示した入札者が二位価格で落札
7
脱線(上級): せり上げ入札における戦略の別の定式化の仕方について
他の入札者 j  N \{i} が既に p j 円にてせりから降りているとしよう。
(まだせりからおりていない入札者については「 p j   」としておこう)
入札者 i 自身がまだせりからおりていない場合、いくらまでせりに応じるかを
si ( p1 , p2 ,..., pi 1 , pi1 ,..., pn )  [ max p j , )
jN \{i}
p j 
と表わす。
もし si ( p1 , p2 ,..., pi 1 , pi 1 ,..., pn ) 円に到達する前に( p  max p j 円にて)
jN \{i }
p j 
新たに他の入札者 k がせりから降りた場合には、今度は
si ( p1 , p 2 ,..., p i 1 , p i 1 ,..., p n )  [ max p j ,  )
jN \{i }
p j 
にしたがってせりに応じる。ここで
p j  p j for all j {i, k}
pk   and p k  p
入札者 i の戦略は、行動そのものではなく
行動の「計画」として定義されることになる!
8
例: 入札者 3 人
「入札者2が 100 円で脱落した場合には、入札者1は s1 (100,  ) 円までせりに応じる」
と計画する
「入札者2が 3000 円で脱落した場合には、入札者1は s1 (3000, ) 円までせりに応じる」 と計画する
100 円と 3000 円の違いを気にしないのなら
∴
s1 (100, )  s1 (3000, )
せり上げ入札は、プロキシや二位価格入札と同じモデルで分析してよし
では、この違いが気になるのはどのようなケースか?
「入札者2はメロンの品質について私的情報をもっているらしい。
」
「100 円でおりたということは、かなり悪い情報にちがいない。ならば早めにせりから降りよう。
」
「3000 円でおりたということは、良い情報を持っていたってことだ。ならばもっと粘ろう。」
⇒
s1 (3000, )  s1 (100, )
9
品質について情報を私的にもっているケース:
Interdependent Values
Common Values
アカロフのレモン
(後述)
Winner’s Curse (勝者の呪い):
ローマ帝国帝位競売、油田採掘権
品質でなくあくまで個人的選好について私的情報をもっているケース:
Private Values
以降、断りのない限り「Private Values」を仮定する!
Private Values では
せり上げは二位価格入札、プロキシと
同じ戦略集合(おなじ標準形ゲーム)としてよし!
10
せり上げ入札(二位価格入札、プロキシ)において、各入札者にとって
「正直戦略」が優位戦略であり
正直戦略以外には優位戦略はないことを確かめよう
正直戦略(Truthful Strategy) si*  wi
正直戦略プロファイル
「自身の財評価 wi を指値の上限とする」
s*  ( si* )iN  ( wi )iN
11
定理2-1:せり上げ入札において、各入札者にとって正直戦略は優位戦略である。
証明:任意の入札者 i  N について考えよう。
他の入札者が任意の戦略プロファイル s i  S  i を選択すると(予想)しよう。
入札者 i の戦略 si  Si が
si  max s j ならば入札者は max s j 円で落札
利得は
wi  max s j
si  max s j ならば入札者は落札できない
利得は
0
si  max s j ならば
利得は
0 か wi  max s j のどちらか
jN \{i}
jN \{i}
jN \{i}
jN \{i}
jN \{i }
jN \{i}
よって、利得は常に 0 か wi  max s j のどちらかになる。ならば正直戦略が利得 max[0, wi  max s j ] を実
jN \{i }
jN \{i }
現させることを示せばよい。正直戦略 si  si  wi を考えると
*
wi  max s j ならば落札
jN \{i }
利得は
wi  max s j  0
jN \{i }
(落札しないよりもよい利得)
wi  max s j ならば落札できない
jN \{i }
利得は
0  wi  max s j
jN \{i}
(落札するよりもよい利得)
wi  max s j ならば、
jN \{i }
利得は
0  wi  max s j
jN \{i}
よって、他の入札者の戦略プロファイル s i  S  i のいずれに対しても、正直戦略は利得を最大にすること
が証明された。
Q.E.D.
12
定理2-2:せり上げ入札において、正直戦略以外には優位戦略は存在しない。
証明:「正直でない」戦略 si  wi について考えよう。
・ si  wi (より高く指値する場合):
( si ) wi  max s j ならば落札
利得は
wi  max s j
jN \{i }
jN \{i }
正直戦略同様ベスト
( wi ) si  max s j ならば落札できない 利得は
0
si  max s j  wi ならば落札
利得は
wi  max s j  0
落札しない方が得
利得は
wi  max s j
正直戦略同様ベスト
( si ) wi  max s j ならば落札できない 利得は
0
正直戦略同様ベスト
wi  max s j  si ならば落札できない
0  wi  max s j
jN \{i}
jN \{i}
・ si  wi (より低く指値する場合):
( wi ) si  max s j ならば落札
jN \{i }
jN \{i}
jN \{i }
利得は
正直戦略同様ベスト
jN \{i }
jN \{i }
jN \{i}
落札した方が得
Q.E.D.
13
入札者は他の入札者についてよく知らない
「どう指値するのか?どのくらいほしがっているのか?」わからない
正直でない指値をすると( si  wi )
他の入札者の最高指値が si と wi の中間に位置する場合が考えられる
この場合には、正直戦略よりも損をする
逆に、もし si と wi の中間に位置しないことが事前に分かった場合には
たとえ二位価格入札(せり上げ、プロキシ)といえども
不正直な指値戦略をすることがあるかも ..........
カルテル、談合(後述)
次回は
「メカニズムデザイン」によってせり上げ入札をモデル化する
14