胚盤胞補完法による多能性幹細胞からの臓器作出(中内啓光東京大学

資料1
動物性集合胚の取り扱いに関する作業部会@文部科学省(150925)
胚盤胞補完法による
多能性幹細胞からの臓器作出
東京大学 医科学研究所
幹細胞治療研究センター・幹細胞治療分野
スタンフォード大学
幹細胞生物学・再生医療研究所
1
iPS細胞から臓器を作る
移植に関わる問題点
1.
2.
3.
4.
絶対的なドナー不足
免疫拒絶
倫理的な問題(脳死患者からの臓器提供など)
高額な医療費
国民総医療費32兆円のうち人工透析のみで
1兆4千億円を使用。33万人の患者は毎年1万
人ずつ増加している。待ち時間は平均14年。免
疫抑制剤の使用が生涯必要。
人工心臓の利用増加によりドナー心臓待ちの
患者も増加。
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iPS細胞から臓器を作る
臓器を販売するブラックマーケットも存在
2010年だけでも1万個以上の臓器が売買されたと推
定されている
http://www.hks.harvard.edu/cchrp/isht/events/TranspTourism_20090325.php
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iPS細胞から臓器を作る
移植に関わる問題点
1.
2.
3.
4.
絶対的なドナー不足
免疫拒絶
倫理的な問題(脳死患者からの臓器提供など)
高額な医療費(人工透析に1兆4千億円)
自分自身の幹細胞から臓器を作ることができれば
全ての問題を解決することができる!
ドナー臓器の圧倒的不足を解消することは再生医療の最重要課題の一つ
4
現在の再生医療が目指しているのは細胞治療
分化細胞を用いた
細胞療法
固形臓器
?
受精卵
受精
網膜細胞
神経細胞
心筋細胞
in vitro で
分化誘導
体細胞の初期化
= 多能性の獲得
ES細胞
iPS細胞
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現在の再生医療が目指しているのは細胞治療
分化細胞を用いた
細胞療法
固形臓器
網膜細胞
神経細胞
心筋細胞
種々の細胞が複雑な相互作用をしなが
ら立体構造を作り上げていく過程を試
vitro で
験管の中で再現することは難しい! in分化誘導
?
受精卵
受精
体細胞の初期化
= 多能性の獲得
ES細胞
iPS細胞
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多能性幹細胞を利用したin vivoでの臓器の再生
分化細胞を用いた
細胞療法
固形臓器
動物の体内ならば臓器を作出
することは可能では?
キメラ動物を利用する
?
受精卵
受精
in vitro で
分化誘導
体細胞の初期化
= 多能性の獲得
ES細胞
iPS細胞
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キメラ動物とは
交配では精子と卵子が受精することによりそれぞれが持つ遺伝子が交ざり
あう。
これに対し、キメラ動物とは(ゲノムが異なる)細胞が混じりあった状態
の個体を 意味する。キメラは部分キメラと全身性キメラに区別できる。
部分キメラ: 輸血や骨髄移植、臓器移植を受けた人。二卵性双生児のペ
アの8%が血液キメラであるし、母親の血液中に子供の血液が長年にわ
たって存在する場合があることが知られている。また研究分野でもマウス、
ラット等の動物に各種ヒト細胞を移植することは日常的に行われていて、
ヒト神経細胞を持つマウスなども作成されている。これらは全て部分キメ
ラである。
全身性キメラ:発生の極めて早期にゲノムが異なる胚細胞が混じると体全
体に両方の細胞が入り混じった個体が生まれてくる。異種間の胚を混ぜて
キメラ個体作出まで至った例として羊とヤギのキメラ(Geep)が 1984
年に生まれているが、ラット・マウス間で個体作出の成功例はない。
8
キメラマウスの作製
黒いマウス
8 細胞期の胚
仮親の子宮へ移植
凝集
生まれてきたキメラマウス
(毛色はまだら。灰色にはならない)
白いマウス
8 細胞期の胚
早期の胚(受精卵)を混ぜてから仮親の
子宮に移植すると全身でそれぞれのマウス由来の
細胞が入り交じったキメラマウスが生まれる
キメラマウス同士を交配しても子供は通常のマウス。
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(キメラは遺伝しない。)
ES細胞やiPS細胞を利用してのキメラ作製
ES細胞やiPS細胞を受精後間もない胚(胚盤胞)に移入してキメラマウスを作る
ES/iPS 細胞10-15個を
胚盤胞に注入
仮親の子宮に移植
ES/iPS cells
(受精後3-4 日)
Blastocyst
after
of
Injection
of the
ES injection
cells into
DsRED blastocyst
-marked ES cells
キメラマウスの産生
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臓器ニッチの概念と胚盤胞補完によるiPS細胞からの臓器作出
臓器ニッチを用意
腎臓を欠損する遺伝
子改変マウス
Pdx1KOマウス個体内でドナー
iPS細胞由来臓器が
再生されるのではないか?
Sall1 KO マウス
発生過程での補完
胎仔
胚
受精
正常多能性幹細胞を
胚盤胞へ注入
遺伝子改変により膵臓が発生できない
マウスの胚盤胞に正常な多能性幹細胞
を注入することによって欠損を補完する。
(胚盤胞補完法)
多能性幹細胞
(ESCs, iPSCs)
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実現に向けてのステップ -1
• マウスモデルでのProof-of-Conceptの証明:
“臓器ニッチ” と “発生補完”という概念
臓器欠損
マウス
胚盤胞
Sall1-/- mouse
マウス PSC
多能性幹細胞
(PSC)
PSC由来の臓器を
持つマウスの作出
GFP-marked iPS (GT3.2) → Sall1-/-
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実現に向けてのステップ –2
• 異種キメラの作出
多能性幹細胞
(PSC)
Mouse
Rat
Rat
Mouse
マウスサイズのキメラ
ラットサイズのキメラ
心臓
肝臓
膵臓
腎臓
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実現に向けてのステップ –3
・ ラットの膵臓を持つマウスの作出
Pdx1 KO
mouse
Rat
Mouse with rat PSCderived pancreas
マウスサイズのラット膵臓
・ マウスの膵臓を持つラットの作出
Pdx1 KO
rat
mouse iPSC
Rat with mouse PSCderived pancreas
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ラットサイズのマウス膵臓
実現に向けてのステップ –4
大型動物における胚盤胞補
完法による臓器作出
• 膵臓を発生することができない遺伝子改変ブタを作製
Pdx1-Hes1 遺伝子
未受精卵
精子
膵臓の無いブタ
• ブタにおいても胚盤胞補完の原理が作動することを確認
膵臓を作
れないブタ
Morula
蛍光遺伝子導入ブタ
胚細胞
Blastomere
外来性の膵臓を持つキ
メラブタの作出に成功
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膵臓欠損ブタを利用して胚細胞由来の
膵臓の作出に成功。キメラブタは成体に!
すい臓欠損ブタは通常生後直ぐに死亡するが、胚盤胞補
完法で作出された外来性のすい臓によって成体まで生育
し、交配も可能である。
このブタから得られた精子を用いることによりすい臓が無
いブタ胎仔(胚)を大量に得ることが容易となった。
当初予想された困難な課題を乗り越えてブタ胎仔
体内でヒトのすい臓を作出する準備ができた。
成功すれば移植ドナーを待っている重症糖尿病患
に膵島を供給する道が開かれる。
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ヒト臓器作出の実現に向けた課題
1.キメラ形成能を持つヒトiPS細胞の樹立
→ ヒトiPS細胞のアッセイ系としても重要
2.特定の臓器だけにiPS細胞を分化させる技術の確立
→ 倫理的な懸念に対する対応(脳、生殖系への分化)
3.ヒトと家畜の間での異種キメラの作出
→ 進化的な距離の遠い種間での異種キメラを作る
4.異種動物固体内で出来た臓器の安全性
→ 感染や腫瘍発生の可能性、異種免疫応答など
5.医療上のニーズと社会のコンセンサスのバランス
→ 研究の内容と医学的有用性に対する理解を得る
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ヒト・マウス動物性集合胚の実験結果から
• In vitroで胚を培養して着床後まで発生させられるのはマ
ウスのみ。
• マウス胚とキメラ形成出来ない場合、移植細胞の多能性に
問題があるのか、ヒトとホスト動物胚の進化的な距離が問
題なのか不明。
• In vivoで試験できれば、ブタ等ヒトにより近い種で検証で
きるため、結論が出せるようになる。
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特定の臓器だけにiPS細胞を分化させる技術の確立
Kobayashi et al. Stem Cells and Development 2014
ヒトの脳細胞、生殖細胞などを持つブタの作成に対する倫理的な
懸念に対応
Mixl1
off
Whole body chimera
with PSC-derived
pancreas
Mixl1 inducible
iPSC
Mixl1
on
Pdx1 KO
mouse
blastocyst
Endodermal chimera
with PSC-derived
pancreas
内臓臓器の発生に必要な転写因子Mixl1を強制発現させることに
よりiPS細胞由来の細胞を内臓系に誘導し、脳や生殖細胞へのヒ
ト細胞の分化を阻害 --- Targeted Organ Generation
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特定の臓器だけにiPS細胞を分化させる技術の確立
Kobayashi et al. Stem Cells and Development 2014
ヒトの脳細胞、生殖細胞などを持つブタの作成に対する倫理的な
懸念に対応
Dox (+)
(Mixl1
off)
Dox (-)
(Mixl1
on)
内臓臓器の発生に必要な転写因子Mixl1を強制発現させることに
よりiPS細胞由来の細胞を内臓系に誘導し、脳や生殖細胞へのヒ
ト細胞の分化を阻害 --- Targeted Organ Generation
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異種動物の個体内でヒトの臓器を作る可能性が見えてきた
現在の課題
1. キメラ形性能を持つヒトiPS細胞の樹立
2. 動物性集合胚のヒトまたは動物の胎内への移植は、現在のガイドライ
ンでは不可。(米英国では承認を得ることにより動物体内への移植は
可能)
キメラ形成能を持つヒ
トiPS/ES細胞の樹立
膵臓欠損ブタ
ヒトES/iPS細胞
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膵島移植
ヒトの膵臓を持つブタ
現在の日本のガイドラインではヒ
ト多能性幹細胞を注入した動物胚
(動物性集合胚)を体内に戻すこ
とは禁じられている。