食餌の塩分を制限しないと肝硬変患者の腹水に影響するか(※PDF)

食餌の塩分を制限しないと肝硬変患者の腹水に影響するか Effect of a Diet with Unrestricted Sodium on Ascites in Patients with Hepatic Cirrhosis Gut Liver. 2012 ; 6: 355–361. 【研究の背景と目的】 近年,中国では,腹水を有する肝硬変患者の食餌の塩分
を制限すべきかどうか,議論がある.本研究の目的は,肝
硬変患者の食餌の塩分を制限する場合とそうでない場合
に,血漿レニン活性,腎血流量(RBF),腹水に与える影響
を比較することである. 【方法】 腹水を有する肝硬変患者 200 名を,塩分制限食群 102 名
と塩分非制限群 98 名の 2 群に無作為に分けた. 塩分非制
限群の 95 例(96.9%),塩分制限群の 97 例(95.1%)が, B
型肝硬変であった. 【結果】 食餌療法を開始して 10 日後,血清 Na 濃度と腎血流量
は,塩分非制限群の方が塩分制限群に比べで有意に高かっ
た(P <0.001).血漿レニン活性は逆に,塩分非制限群の方
が塩分制限群より有意に低かった(P <0.001).低 Na 血症
による腎機能障害は,塩分制限群の方が塩分非制限群に比
べてより高度であった(P <0.01).腹水は,塩分非制限群の
方が,塩分制限群に比べ高率に消失した(P <0.001). 【結論】 食餌の塩分を制限しない方が,血清 Na 濃度と腎血流量
を増加させ,利尿効果,腹水の減少,消失に有益である可
能性がある. 1
食餌療法前後における 2 群の,血清 Na と Cl,尿中 Na と Cl,尿量(±標準偏差)
群
人数
血清 Na
血清 Cl
尿中 Na
尿中 Cl
尿量
塩分非制限群
治療前
10 日後
塩分制限群
治療前
10 日後
食餌療法前後における 2 群の,血漿レニン活性,アンギオテンシンⅡ,アルドステロン,腎血流量(±標準偏差)
アルドス
アンギオテ
群
人数
レニン
腎血流量
テロン
ンシンⅡ
塩分非制限群
治療前
日後
10
塩分制限群
治療前
10
日後
正常コントロール
腹水を有する肝硬変患者の血中 Na 濃度は低い.利尿薬の使用と
塩分制限食によって血中 Na 濃度がさらに減少し,そのためかえっ
て利尿効果が弱くなり,腹水の消失が遅れる.血中 Na 濃度が低い
と腎血流量は減少し,血漿レニン活性,アンギオテンシンⅡ,アル
ドステロンが増加する.すると腎機能は障害されて,尿量が減少
し,腹水の消失が遅れる.重症患者では腎機能障害は致命的になり
得る.
逆に,適切な塩分摂取は,利尿剤の効果を高め,低 Na 血症に起
よる腎機能障害を防ぐ.塩分を制限しない食事は,カロリー摂取,
アルブミンの上昇,腹水消失に有益である.
しかしこの結論は,より長期にフォローアップして,またより大
きなサンプルサイズによる調査で確認する必要がある.本研究の患
者のほとんどは B 型肝硬変の症例であり(> 90%),他の研究結果
との違いに影響した可能性がある.本研究では B 型肝硬変の他に合
併症のない被験者を使用した.従って他の原因による肝硬変や,合
併症を認める肝硬変症で,改めて検討する必要がある.
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