大学院医学研究科 生体機能形態科学 (旧第 2解剖

医学フォーラム
631
医学フォーラム
<部 門 紹 介>
大学院医学研究科 生体機能形態科学
(旧第 2解剖学教室)
教
室
沿
革
生体機能形態科学の母体は解剖学教室です.
本学における解剖学の講義は,京都府立医科大
学の前身である寮病院が明治年に開設されたと
同時に始まりました.その後 1947年に現在の 2
講座制に移行し,山田博先生が第 2解剖学教室
(当時)の教授をされておりました.1975年に
山田先生が退官された後,当時第 1解剖学教室
の助教授であった井端泰彦先生が教授となり教
室運営を担当されました.1999年に井端先生
が学長就任時に教授職を勇退され,後任として
2002年に現教授の横山尚彦が着任し,現在に
至っております.2003年には第 1および第 2解
剖学教室から解剖学教室への統一と大学院重点
化に伴い,第 2解剖学教室の名称が無くなり,
現在の大学院医学研究科 生体機能形態科学
(医学部解剖学教室 生体機能形態科学部門)と
なりました.
前回の本誌 119巻(7号)2010年にご報告し
た以降の教室員の転入出は,2009年 4月着任の
福井一助教が 2012年 6月に国立循環器病研究セ
ンター研究員として,2004年 4月着任の杉山紀
之講師が 2013年 5月に大阪医科大学の講師とし
て,同じく 2004年 5月着任の芝大講師が 2013
年 4月より年宇宙航空研究開発機構(J
AXA)主
図 1 2015年度の研究室メンバー.後列左より,石川技師,茂田助教,小林講師
(学内)
,陳プロジェクト研究員,松尾助教,中島助教,前列左より,有元秘
書,田中(楠原)技師,横山教授.
632
医学フォーラム
任研究員として,また,2013年 6月に着任した
辻琢磨助教が 2014年 4月に名古屋大学医学部助
教として,それぞれ転出しいたしました.更
に,杉山講師と芝講師の後任として 2013年 4月
からは中島由郎博士が産業技術総合研究所か
ら,同 5月には理化学研究所 発生・再生科学
総合研究センター(CDB)より茂田昌樹博士が
着任し,2014年には辻助教の後任として松尾和
彦博士が平成帝京大学より,2015年 4月には陳
林氏がプロジェクト研究員として神戸大学より
着任しております.またこの間,プロジェクト
研究員として中田香奈氏が 2009年 4月から2012年 3月まで在籍したほか,腎臓内科より足
立考臣医師が大学院生として在籍し,学位を取
得いたしました.また解剖学教室の技官として
長らく業務に関わってきた田中(楠原)一男技
師が 2011年 3月に定年を迎えましたが,引き続
き副主査(再雇用)として石川剛技師(主任)
と共に引き続き解剖業務に携わっております.
また研究を支える秘書として有元由美子氏が
2012年の 4月より勤務しております.
研
究
本講座の研究のメインテーマは一次繊毛の機
能解析です.一次繊毛自体の発見は古く,19世
紀終わりまで遡ることが出来ます.繊毛は,ヒ
トを含む動物の多種多様な細胞の表面上に観察
される細胞小器官ですが,その機能は長い間不
明のままでした.繊毛の生物学的な意義が明ら
かになり始めたのは,発見から約 100年後の近
年になってからですが,その後急速に発展し現
在では大きな分野となっています.
我々の研究室の繊毛研究の始まりは,横山教
授がアメリカ留学中に内臓逆位と嚢胞腎を併発
するミュータントマウス(i
nvマウス)を作出し,
その責任遺伝子(I
nv
)を同定したのがきっかけ
となっています.現在では,内臓逆位は発生の
一時期に存在する器官である「原始結節(ノー
ド)
」の繊毛が関係することが知られており,I
nv
蛋白質が繊毛に局在することから,i
nvマウス
図 2 繊毛の微細構造の模式図.繊毛はいくつかの領域に区分される.
2009年に芝らが I
nvが局在する領域として「I
nvコンパートメン
ト」を発見・命名し,現在では他のいくつかの繊毛タンパク質が
局在する領域として広く受け入れられている.
医学フォーラム
における内臓逆位は原始結節(ノード)におけ
る繊毛の機能異常によると考えられています.
またその後,I
nv遺伝子のヒトホモログが I
I型
ネフロン癆の責任遺伝子(NPHP2
)であること
が明らかになり,更に他のネフロン癆の責任遺
伝子が同定されるにつれ,これらの疾患が繊毛
機能の破綻に起因するものであることが明らか
になりました.更に現在では,ネフロン癆にと
どまらず,多発性嚢胞腎,内臓逆位,腎臓,眼
を含む多くの器官に異常を示すバルデー・ビー
ドル症候群,ジョベルト症候群,メッケル症候
群なども繊毛の異常に起因することが明らかに
され,総称して「繊毛病」と呼ばれています
(本誌 Vo
l
.
122,No
.
6
,p371379
,2013
)
.本研究
室では,前述の I
nv
/
Nphp2に注目した解析を続
け,2009年には I
nv
/
Nphp2タンパク質が局在す
る繊毛内の領域として「I
nvコンパートメント」
というものを提唱しました(Shi
b
ae
ta
l
.
,J
.Ce
l
l
Sc
i
.
,122,p4454,2009
)
.この I
nvコンパートメ
ントは,現在は I
nv
/
Nphp2を含めたいくつかの
繊毛タンパク質が局在する繊毛内の位置(機能)
領域として広く受け入れられています.
近年の本研究室の研究テーマとしては,中島
がI
nvコンパートメントに局在するネフロン癆
原因遺伝子の 1つ Nphp3の機能解析を行ってい
ます.Nphp3タンパク質が一次繊毛に局在でき
なくなる変異マウスを理化学研究所との共同研
究によって作製し解析したところ,この変異マ
ウスが嚢胞腎を発症することを確認しました.
この結果から,生体内での腎臓の形態維持には
Nphp3タンパク質の一次繊毛への局在が重要で
あることが明らかとなりました.また繊毛は細
胞小器官として非常に美しく組織化された 9回
対称性構造を持ちます.前述の I
nvコンパート
メントは繊毛の基部領域に存在していますが,
I
nvがどの様にこの領域に局在しているのかは
良く分かっていません.現在,I
nvコンパート
メントの詳細な微細構造の解明と,i
nvマウス
におけるそれら構造の変化について検討するた
めに,松尾と陳が電子顕微鏡を用いた解析を
行っています.また繊毛の機能は細胞周期とも
大きく関わっていると考えられていますが,未
633
だ多くのことがわかっておりません,この点に
関して茂田が主として培養細胞を用いた解析を
行っています.
上記以外の研究テーマとしては小林が,
「モ
デル疾患動物」として近年注目されているメダ
カを用いて,カルタゲナー症候群(運動性繊毛
障害症候群)や先天性腸管閉鎖症の解析を行っ
ております.
教
育
講義並びに実習に関しては,発生生物学・骨
学実習を生体機能形態科学が,神経科学・脳実
習を生体構造科学(旧第 1解剖学教室)が担当
し,残りの解剖学講義とマクロ解剖学,組織学
実習を生体構造科学と生体機能形態科学で 3年
毎に項目を入れ替え,共同して解剖学の講義と
実習を担当しております.2005年度以降これ
らに変更はありませんが,2015年度からは,全
学のカリキュラムの変更に伴い,従来第 2学年
の後期から行われていた上記の講義・実習が第 2
学年の前期から行われることになりました.こ
れまでと異なり暖かい(暑い)時期に実習が行
われることもあり,解剖実習室におけるホルマ
リン対策は近々の課題です.また講義や実習が
夏休みで一部分断されることになり,教育の効
果を上げるために,如何に講義と実習の連続性
を保てるかに腐心しております.ともすれば全
てを丸暗記しようとする学生に対し,講義や実
習においても単なる専門用語の羅列にならない
よう,解剖学も体系を持った学問であり,それ
を理解することは次に控えているより専門的な
講義の基礎になることを理解してもらうべく
日々努力しております.
前回(本誌 v
o
l
.119,No
.7,p489492,2010
)の
本稿で述べたことの繰り返しになりますが,実
習は座学において得た知識を自分が観察した本
物(人体や組織標本)と一致させる非常に重要
な訓練です.また肉眼解剖実習では,初めてご
遺体と触れた学生がほとんどだと思います.長
寿社会の現代では,まだ肉親の死を知らない学
生も多くいることから,死というものに向き
合ったことのない学生も多くおります.医学の
634
医学フォーラム
発展のためにご自身の体を献体された方々に敬
意を持ち,解剖させていただくことを通して,
自身が選んだ将来医師になるという決意を再確
認してほしいと思っています.教養教育の充実
が言われますが,教養教育は教養教育部門にの
みにゆだねるべきではなく,専門教育において
も行っていくべきと考えて講義・実習を行って
おります.
終
わ
り
に
本学開学以来の歴史を持つ解剖学教室の一端
を担う生体機能形態科学は基礎医学の分野にお
いて更なる研究の発展に取り組むと共に,教育
においては専門教育の始まりを担うということ
を念頭に,優れた医師・医学研究者となること
が期待される学部学生たちの教育に勤しんでい
きたいと思います.
(文責:小林 大介)