目標の到達度および達成度の計測評価(I) 吉 田武 尚(技術教室) Measurement Evaluation on Goal Attainment Degree ( I ) Takehisa Yoshida (Department of Technology) Abstract The present study begins on the development of evaluation method with the measurement of the teaching-learning process, the development of which may contribute to the upbringing of self-feedback recognized in it's process. On the supposition that a learner's reaction may be represented by the character of a goal attainment situation and a learner s level, the measurement evaluation method was made with an attainment degree index. As a result that this measurement evaluation method is applied to junior high school pupils. the following effects are recognized. i) The goal attainment process of the learneris figured. ii) The connection between the goal attainment degree and the reaction in learners, and also the reason for appearance of the singularity reaction in learners are determined. iii) The goal attainment degree is evaluated by using the definition of its index. iv) The behavior of the attainment situation on the structional and functional learning is shown with a figure. Key word: 1. Measurement evaluation method. 2. Goal attainment degree. I.研究目的 本研究は教授・学習過程に認められる教授・学習者それぞれの自己フィードバックの過程の 育成をねらいとし,その両過程の計測による評価法の開発を目的としている。現在までに,学 習者の成績に関するデータは数多く取られているが,それに加え,教授・学習者それぞれの自 己フイ-ドバックループに関するデータを取り,それらを評価することは,教授・学習過程を 全体的に捉える上でたいへん重要であると考える。筆者らは,これまでに,教授者(指導者) の指導方法の改善を行い,学習者の学習目標到達に関するデータを取り,評価を行なってき た。i), il), =)本稿では,学習者の目標到達状況の計測による評価方法を取り扱う。授業が, 37 吉 田 武 尚 学習者にとって,達成感や満足感を味わうためにも,目標を明確に捉えることは重要である。 そのために,授業にガイダンスが位置ずけられ,そこで,指導者から学習目標が伝えられる。 しかし指導者が伝えたということと,学習者がそれを正確に捉えたということとは別であると 考える。ここにおいては,学習者個々の,授業における目標の到達状況(ここでは,目標到達 の過程を,導入,活動,総括の3段階に分け,これらそれぞれの到達度状況)をテスト(質問) により計測し,評価する方法を示し,その実践結果を分析する。分析は,質問の項目に関係す る情報を注出し,それをもとに学習者の目標到達度を評価するための到達度指数を定義し,そ れに基づいて評価を行なう。教授・学習の制御ループおよびシステムは図1,2に示す。 図1 学習者・教授者の制御ループ 図2 教授・学習システム また,本研究は,コンピュータによる情報処理を前提に,教授・学習のデータを出力情報と して提供し,教授・学習者が目から読みとれることを目標に,表や図による出力を念頭に置い ている。 Ⅱ.研究方法 教授・学習者の教授・学習目標のそれぞれの到達と達成の度合を計測する方法としてテスト 法を用いている。ここでは学習目標到達の度合をあつかう。 (1)学習目標の到達度テスト このテストは目標到達の度合を感覚的習得(選択法),内容記述的習得(記述法),一般化へ の活動目標の習得(選択法)の3習得レベルを質問1,2,3で回答を求める。 質問1.本時の授業は何を目標として学習するかわかりますか。 質問2.本時の授業で,何を目標として勉強しましたか。 38 目標の到達度および達成度の計測評価(1) 質問3.授業を終えて,次の授業には何を学びたいですか。 の3習得とする質問テストである。 実際に行なったテスト例は図3に示す。テストの実施時期としては,感覚的習得テストを授業 のガイダンス後に実施し,内容記述的習得テストは内容学習後に,一般化的習得テストは本時 の授業終了時に実施した。実施例としては市立中学校1学年「板材木製品」:技術を主体として いる。 年 月 日. 学年 組 番氏名 質問3.次の授業時間には何を学習したい ですか。下にかかげてある語句の 中から○印をつけてえらびなさい0 年 月 日. 学年 組 番 氏名 質問2.この授業で学んだ木組の名まえを 5っかきなさい。 年 月 日. 学年 組 番 氏名 質問1,これからの授業は、板材木製品の構造 学習をします。そこでどのような学習を するかわかりますか。 次のスケールの適当な番号に○印をつ けなさい。 まったくわからない。 ひじょうによくわかる。 図3.目標到達度テスト例 (2)3計測の反応状況 学習者のそれぞれの習得テストによる反応を表1に示す。感覚的習得は0から6までの尺度 スケールとなっている。記述的習得の場合は目標語としての言葉があり,完全なキー・ワード で記述せねばならない。また,一般化的習得は次の学習における目標語を選択し文章中に記入 せねばならず学習内容の記述よりも困難である。 39 吉 田 武 尚 表1 反応一一一覧表 習得 レベルテス トI 習 得 レ ベ 感 ル 内 容 記 述 的 か 枚 組 み つ ぎ 釘 打 ち 反 応 患 番 号 覚 7 −8 2 ○ 7 −9 5 ○ −1 3 7 −11 4 ○ −1 3 ○ ○ 7 −13 4 ○ ○ 7 −14 3 7 −15 3 ○ ○ ○ 7 −16 4 ○ ○ ○ 7 −17 4 8 −4 5 8 −12 4 8 −19 4 的 ( 構造) ○ ○ ぎ つ ぎ す り あ わ せ は ぎ つ ぎ 評 価 記 号 あ い か き は ぎ 般 感 内 容 化 覚 記 的 述 的 2 0 −1 0 的 般 化 的 ○ ○ ○ 3 1 1 0 ○ ○ ○ 3 0 0 0 ○ ○ 3 1 0 0 3 0 0 0 3 1 0 0 1 1 −1 −1 2 0 0 0 ○ 1 1 1 −1 ○ ○ 3 1 0 0 ○ ○ 5 1 1 0 0 1 0 −1 4 1 1 0 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 注.反応者番号に○印のついてあるのは同番でも上位を示す。 表1横の列について集計・比較すれば,各質問項目情報が得られる。図4には各質問項目に 対する学習者の反応状況を示す。これより,これらを簡潔明軌こ進行させるために,各習得反 応を表にしたがって「不可反応:−1(0,1)」,「良反応:0(2,3)工「優反応:1(4, 5)」に3分する。この分類にしたがうと,3習得のそれぞれ優反応については,感覚的.09%, 内容記述的.071%,一般化的.03%となっている。このことは学習者にとって回答が上記の順 に難しくなっているということであり,客観的と経験的なものと一致している。各習得の反応 差に着目すると,内容記述的∼一般化的の方が感覚的∼内容記述的より差が著しい。このこと は外の授業結果からも同様の結果である。 40 目標の到達度および達成度の計測評価(I) 表2 理 解 反 応 感 覚 的 習 得 内 容 記 述 的 習得 一般 化的習得 0 理 解 ・− 1 (不 可 )‘ 1 *3 ワ ー ド数 0 − 1 不選択 *2 2 ,③ *3 ワ ー ド数 2 − 3 誤選択 *2 4 ,⑤ *3 ワ ー ド数 4 − 5 正選択 0 , 1 2 苧 詔 :J l 3 理 解 言 ( 優 ) 4 1 5 *1,2上位の者は記号に○印を付す。たとえば反応記号①。 *3′ 誤ワードを記入の場合、ワード数に入れない。 感覚的習得 (質問1) ひ じ ょ うに よ くわ か る ま った くわ か らな い / 内容記述的習得 (質問2) ワー ド数 完 全 ワ ー ド不 足 キ ー ・ワ ー ドな し // 一般化的習得 (質問3) 不 運 誤 択 m 3 m 2 m l l l n l 】 選 n 2 l 択 正 選 択 l n 3 l 1 1 】 0 .3,.7 図4 3習得における反応者の出現率 Ⅲ.学習目標の計測 (1)到達度と計測モデル 学習者の反応は,目標到達度と習得レベルの性質によって規定するとみなし,図5に示すよ うな学習者の到達度と反応を示すモデルを考案する。到達度は0を境界とし,「一1」が不可反 応状態,「1」が優反応状態を示し,指数としてその間の値をとるとする。3習得のそれぞれの 尺度は前章の結果に対応させてある。たとえば,反応老番号(7−10)の到達度状況は感覚, 記述,一般化の順に(0,0,0)の反応を示し,(8−4)であれば,(1,1,1)反応と なる。 41 吉 田 武 尚 度 U 9 10 \\\\ 的 − 1 Ⅹ≠ Ⅹ i的 1 \ 際主 \! 王室 Ⅹ 的 1 ) ノゝ m ロ ( 0 , −1 , −1 ) ( 0 , 0 ∴ 1) l 汀1 2 m 3 ( 1 , 0 , 0 ) rl , 1 , 0 ) ( 0 , 仇 0 )n 1 n Z ( 1, 1 , 1) n 3 0 1.0 図5 計測モデル O ml Dl・・・一一・.15 図7 ウェイトづけの決定 この計測モデルからの反応は(−1,−1,−1),(0,−1,−1),(0,0,−1),(0,0, 0),(1,0,0),(1,1,0),(1,1,1)の7種であるが,実際には33=27種の組合せ反 応となる。この内,16種が実践例で現われている(表3)。そこで,7種を正反応とすれば,9 種が特異性を表わすものと考え,特異性反応(老)と呼ぶ「たとえば,(−1,−1,1),(0, 0,1),(0,1,1)など」。この特異性反応の原因は,反応者の出現数をもとにして「−1」, 「0」,「1」の3比率に分けていることから,これらの3つは確率的に現われるためである。また,学 習者のなれからくる解答がえられ,それに,反応者各個人の因子が含まれているためである。 (2)到達度指数 「−1」から「1」への反応が,指数0→1へ最もなめらかな変化を考慮するために,図6の モデルに沿い,次のような指数式および条件を設ける。 指数(G)式は G=(A+Dl)zl+(B+D2)Z2+(C+D。)Z。+D. ここで,A,B,Cはそれぞれ3習得の定数で,Z は3習得レベルそれぞれの変数である。 Z−(−1)→D一,2−(0)→0,Z.(1)→Aとなり,第2項,第3項も同様である。 D=Dl+D2+D,は,下位目標に相当する。下位目標をもうけてあるのは,学習効果性を確立 させるためのプログラムをねらいとしてある。 これらのことを考慮した上で,下位目標「−1」と優良「0」,「1」を含む目標領域に3習得 それぞれのウェイトずけを行なう。 図5,6のモデルより設ける条件は,下位目標領域において, (D o<D】<D2<D。く3 ⑧.3−m,<Dl<.3−m2〔(−1,−1,一1)を示す。〕 42 目標の到達度および達成度の計測評価(I) @.3−m2<Dl+D2<.3−m,〔(0,,1,−1)を示す。〕 ④ D.+D2<D。〔(0,0,一1)を示す。〕 ⑤ Dl+D2+D。=.3〔(0,0,0)を示す。〕 ⑥ D。=.3−(Dl+D2). 優良領域に関しても同様に, ⑦ 0<A<B<C<.7 ⑧.7−nl<A<.7−n2〔(0,0,0)を示す。〕 ⑨.7−n2<A+B<.7−n。〔(1,0,0)を示す。〕 ⑲ A十B<C〔(1,1,0)を示す。〕 ⑪ A十B十C=.7〔(1,1,1)を示す。〕 ⑫ C=.7−(A十B). したがって,式①∼⑫からのそれぞれは次に示す数値となる。 Dl=.049, 表3 27種の反応と反応老番号の分布状況および到達度指数 D2=.057, (テストI−構造) D3=.176 A=.125, B=.175, C=.4 反 番 感 内 一 応 号 覚 記 般 反 1 応 者 番 到 指 度 数 号 達 − 1− 1− 1 0 .0 人 数 0 2 0 − 1 − 1 6 − 2 ,7 − 7 ,7 −14 ,1 1 − 7 ,1 2 − 1 ,1 2 − 5 ,12 」 . 2 .0 4 9 7 3 − 1 0 − 1 5 − 1 ,5 − 8 ,6 − 9 ,6 −1 5 ,0 7 5 4 4 0 0 − 1 8 −18 .1 2 − 7 ,1 2 −1 0 ,12 − 1 1 .1 2 4 4 5 1 1 1− 3 .1 7 4 1 6 − 1 − 1 0 .1 7 6 0 7 0 − 1 0 8 − 1 ,8 − 5 ,1 2 − 6 ,7 ・ −8 .2 2 5 4 8 1 0 − 1 6 −13 ,8 −12 ,1 2 − 4 .2 4 9 3 と学習者のとりうる反応のそ 9 −1 1 − 1 .2 5 0 れぞれの分布状況は表3に示 10 .2 5 1 2 これらをG式に代入すること により,各反応者の到達度の 位置を示す指数が得られる。 (3)学習者の到達度評価 前節で定義した到達度指数 す。この表からは各反応者の 反応分布状況や到達度指数が − 1− 1 1 0 0 11 0 1 12 0 0 0 − 1 0 5 − 2 ,8 − 7 −1 昌二 鋸 13 1 すぐ読みとれる。また各個人 14 1 1 − 1 7− 1 の分布を示すと同時に全体的 15 1 0 0 缶 を分布を形成するようなデー 16 1 1 0 17 0 1 0 1 − 1 1 タ処理といえる。このような 18 データ処理は,教育現場にお 19 いては特に重要である。 20 次に,学習者の学習目標に おける到達度の関連性はテス トI(構造)とテスト‡(機 1 1 0 − 1 描 韻 ぷ 4 ㌢ 尉 ㍍ 控 議 清 吉 に 狛 戸 吾 0 ▼7 1 2 ,7 」 5 8  ̄ 6 帯 封  ̄ り▼8 」 0 5・ −7 ,6 −1 6 1卜 1 ,1 1 − 9 ,12 − 8 .2 9 9 0 .3 14 .3 5 0 .4 2 4 1 .4 2 5 16 .4 2 6 0 .4 7 5 5 .5 7 6 0 0 b  ̄ 6 ,6 1 u5 .6 − 7 ,6 − 8 ,6 −1 1 6 1 2 ,7 − 5 ,7 − 9 ,7 1 9 ,8 − 2 8 − 4 .8 − 9 ,8 −1 6 、1 ト 4 .6 1 61 1 .6 2 5 1 .6 5 1 0 2 1 − 1 0 1 22 0 0 1 23 1 − 1 1 1−1 3 14 .7 1 1 .7 5 0 24 1 0 1 ・8 2 年 0 能)から判断することができ 25 − 1 1 1 .8 2 6 0 る。このテストIとテストⅡ 26 0 1 1 6 −14 ,8 −13 .8 7 5 2 27 1 1 1 7 −4 ,8 ・ 一3 誹 1 7 .1 卜 12 ,12 − 3 の結果の到達度指数を平面グ ラフに示したのが図8である。 43 1 .0 5 吉 田 武 尚 図8から,構造学習のプログラムの不十分さがわかる。この原因は筆者から指導者への伝達が 十分でなかったためにあらわれている。 ・ 1 1 到 達 度 2 1 0 .1 .2 ,3 .4 .5 .6 .7 、8 .9 1.0 到達度− 図8学習者の学習目標到達度の評価 機能 (注.点の下の数字は人数) Ⅳ.結びと今後の課題 以上のことから,授業における教授・学習過程のシステム化と教育評価につながるそれぞれ の目標到達および達成について,多いに役立つことが判明した。また,学習者の学習過程の構 造や推移の関係づけをよくとらえることができる。学習者の到達度と反応の関係づけおよび正 反応者と特異性反応者の状況の把握,教授者(指導者)と学習者とのかかわり合う教育評価を 行なうことができることは,本研究の大きな成果といえる。 このデータの信頼性を高めること。教授者の達成度の計測評価の開発が,今後の,重要な課 題であり,本研究をより一層深く進める計画である。 本研究を進めるに際し,ご協力をいただき,実践データをご提供下さった市立三笠中学校数 44 目標の到達度および達成度の計測評価(1) 論・和智正治,松永享二,樫岡健史の諸先生に深く感謝します。 参 考 文 献 日吉田他:漬示実験による教育方法の改善,奈教大数研紀要,No.8,1972。 ii)吉田:ラジオ受信機のガイダンスプログラム,奈教大教工報,No.1,1978−3。 Iii)吉田:電気学習の授業法の改善,1978未報告。 iv)坂本:教育工学による授業の改善,信学技報ET77−8,1977−11。 ∨)成瀬:教授学習システム評価の事例研究,信学技報ET74−8,1974−11。 Vi)藤田他訳:教育評価法ハンドブック,第1法規,1977。 Vli)西本編:教育工学用語事典,学習研究社,1975。 45
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