通し番号 4087 分類番号 16-9C-33-01 (成果情報名)モノクローナル抗体を用いたアワビ稚貝検出法の開発 [要約] アワビ類の浮遊幼生及び着底変態直後の稚貝の同定は殻の形態的な特徴を観察することに よって行なわれている。しかし、その大きさが 250μm∼400μm と非常に小さく、また、野外で採 取した試料には、アワビ類以外の巻貝、二枚貝、プランクトン、砂、珪藻などが大量に混ざってお り、試料中から目的とするアワビ類を同定するには、多くの時間が必要であり、かつ観察者に高度 な能力が求められる。そのため、誰もが容易かつ効率的に試料の同定ができる新たな方法の開発が 望まれている。 そこで、アワビ類の浮遊幼生及び着底変態直後の稚貝に対し特異的に反応するモノクローナル抗 体を用いて、容易かつ効率的なアワビ類の同定方法を考案した。 (実施機関・部名) 神奈川県水産総合研究所 栽培技術部 連絡先 046-882-2314 [背 景 ・ ね ら い ] 本県アワビ漁業は、主要漁場で水揚げされるアワビの殆どが放流種苗に依存しており、天然アワビ資源の 回復が望まれている。しかしながら、アワビ類の浮遊幼生及び着底変態直後の稚貝は、その大きさが 250μ m∼400μm と非常に小さく、また、天然海域においてプランクトンネットやコレクタなどの方法で採取した野 外試料には、アワビ類以外の巻貝、二枚貝、プランクトン、砂、珪藻などが大量に混ざっており、試料中から アワビ類を検出するには、多くの時間が必要であると同時に観察者に高度な能力が求められ、多数の試料 を調べることは困難である。そのため、資源量に大きな影響を与える浮遊幼生期から着底変態直後の稚貝 期における生態の解明が十分に行われていない。 アワビ類の浮遊幼生や微小な稚貝の検出を容易かつ効率的に行うために、それらに対し特異的に反応す るモノクローナル抗体を用いたサンプル処理の手法を確立する。 [成 果 の 内 容 ・ 特 徴 ] ・ アワビ類浮遊幼生および稚貝(殻長 2-3mm)に特異的なモノクロ−ナル抗体をそれぞれ 7 及び 11 種 類を作成した。これらの培養上清を、人工生産し凍結保存していたマダカアワビの浮遊幼生および稚貝 に反応させ、次いで市販の FITC 標識抗体を反応させた後、抗体の反応性を蛍光顕微鏡で観察した。 このうち、強い反応性が確認された抗体を用いて、人工生産したトコブシ種苗および三浦市沖に設置し たアワビ稚貝採集用の付着板に実際に付着していたアワビを含む採集生物に対する反応性を観察し た。 ・ マダカアワビの浮遊幼生および稚貝に対し、それぞれ 1 および 3 種類の抗体が強い蛍光像を示すこと が判った。これらの抗体は、トコブシの浮遊幼生や稚貝には反応せず、また野外に設置した付着板から 得られたアワビ類以外の付着物に対し、貝殻片などに若干波長の異なる蛍光反応が見られる程度でほ とんど反応しなかった。これらの抗体は、他のアワビ類3種に対しても強い反応を示し、アワビ類全般に わたって検出が可能であった。しかし、それぞれの種の判別が必要な場合は別途 PCR などの方法を併 用する必要がある。 [成 果 の 活 用 面 ・ 留 意 点 ] ・ 平成17 年3月に、本県は「アワビ資源回復計画」の策定に向けて着手した。今後漁業者との協議を経 て資源回復の為の様々な措置が実施されることになる。それらの効果(アワビ天然資源の加入)を検証 する上で、本技術開発の成果は定性的な評価に留まらず、定量的な評価の実施が容易になる。 [具 体 的 デ ー タ ] アワビ類の卵黄タンパクに反応する抗体を用いた場合の、マダ カアワビトロコフォアラ幼生の反応 べラム基部の卵黄球で強い蛍光が認められる。卵、浮遊幼生 期ならびに着底変態直後の稚貝に有効と考えられる アワビ類の筋肉タンパクに反応する抗体を用いた場合の、マダ カアワビ稚貝の反応 筋肉全体が強く光り、口の下近くの足筋肉の反応が特に強い 平成 15 年 12 月に城ヶ島沖海域で採集したサンプルの一部を自 然光下で撮影したもの 平成 15 年 12 月に城ヶ島沖海域で採集したサンプルの一部を蛍 光顕微鏡で撮影したもの アワビのベリジャー幼生が特異的に蛍光していることが認め られる。 [資 料 名 ] 平成 16 年度アワビ類資源再生産過程解明事業報告書 2005(平成 17)年日本水産学会大会講演要旨集 [研 究 課 題 名 ] 栽培漁業放流技術開発 アワビ類資源再生産過程解明事業 [研 究 期 間 ] 平成 14 年から平成16年 [研究担当者名] 滝口 直之、浜口 昌巳(瀬戸内海水研) 、堀井 豊充(中央水研)
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