オランダにおけるワーク・ライフ・バランス政策の概念整理

オランダにおけるワーク・ライフ・バランス政策の概念整理
久保隆光
明治大学商学部
本報告の目的は、オランダにおけるワーク・ライフ・バランス政策の概念の整理と現状の把握である。オ
ランダのワーク・ライフ・バランスの概念を、法律を根拠としながら理論付けするとともに、その政策が現
状でどのように機能しているのか、そしてワーク・ライフ・バランスにかかわるフレキシキュリティーの問
題点を議論することが本報告の目的である。
オランダにおけるワーク・ライフ・バランス政策は大別すると3つの法律によって実現されている。パー
トタイム労働が正規労働化されている根拠がつぎの2つである。第1が、労働時間の違いによって労働者間
の労働契約に差別を禁じている労働時間差別禁止法である。この法律によって、同一価値労働・同一賃金が
オランダ社会では貫徹されている。第2が、労働時間調整法である。この法律を概略すれば、同一企業に1
年以上勤務しているものは4ヶ月前までに労働時間の変更を要求することができるという権利が、労働者に
付与されている法律である。この法律によって、労働時間の短縮ならびに延長を行うことができ、労働時間
のフレキシビリティーが可能となる。したがって、この2つの法律によって、パートタイム労働の短時間正
規労働化が法的に確約されている。その結果、正規労働のもとで自己都合に合わせ労働時間を可変できるた
め、ワーク・ライフ・バランスの実現が可能となっている。
第3が、
「柔軟と保障」法(フレキシキュリティー法)である。労働者の解雇を柔軟(Flexibility)にする
反面、非正規労働の法的地位を保障(Security)するフレキシキュリティー(Flexicurity)の中心概念であ
る。厳格であった解雇規制を緩和し企業の雇用負担を軽減する一方で、解雇された失業者の所得保障と職業
訓練を手厚く保障する。また同時に、有期雇用、オン・コール労働、派遣労働者の雇用保護を保証する法律
である。
したがって、第1~3の要素によってオランダでは、
「フレキシブルな仕事を普通にする!」ことが可能と
なり、ワーク・ライフ・バランスが定着した社会となっている。オランダにおける労働市場は、①正規労働、
②パートタイム短時間正規労働、③非正規労働という3つの層からなり、②の層の存在がワーク・ライフ・
バランスの実現に寄与している。これに対し日本では、正規か非正規という選択肢しかなく、しかも正規が
縮小し非正規が拡大しているのが現状である。
「日本では、企業内のフレキシブル(配置転換、労働時間の柔
軟性)は確保できているが、企業外に出るとそれがない。職の安定はあるが、仕事の安定」
(Tom Wilthagen
教授)はなく、内部労働市場を中心としたこれまでのあり方に問題が生じている。