郎氏は、和傘の骨の技術を活用して照明の傘を開 伝統産業/老舗企業では、長期的に需要が減少 発、上海のスターバックスに採用されるなど、国 している。そんな市場規模縮小への対応として多 際展開を進めている。そして、国際展示会への参 くの老舗企業が取り組んでいる革新は、ふたつの 加を他の企業にもすすめ説明会などを積極的に開 タイプに分けられる。ひとつは、元々実用品だっ 催している。 たものに、新たな意味を追加して文化的な製品に また同志社大学大学院の村山裕三教授が主宰す しようという試みである 。Go-On の各社の革新が る「伝統産業グローバル革新塾」から派生し 2012 これのケースに当たる。 年 3 月に創業した COS KYOTO 株式会社もさまざ 図3 文化性を高める試み 14) 図3 文化性を高める試み まな伝統工芸企業を束ねて、そこから新しいもの 文化性 を生みだそうとしている。 商業性 3.伝統産業の製品と文化性・実用性 むすびにかえて 伝統文化を経済学の視点から考察した中島、 2006 や中島、2013 では、元々実用性をもっていた 実用性 伝統文化が科学技術の進歩により実用性を喪失し、 存続のためには、格調高い文化性や競争性、ある 出所:筆者作成 いは商業性のどれを重視するかがポイントである もうひとつは、文化性は維持しつつ実用性を高 と論じている。これは伝統産業/老舗企業にも当 め、限られた市場から一般的市場へ進出しようと てはめられる考え方であろう。伝統産業/老舗企 する試みである。履物から和風小物に進出した伊 業の場合には、実用性と商業性と文化性という 3 と忠や、絵の具の材料である胡粉からマニキュア つの要素を考えることで、それぞれの商品の位置 を開発した上羽絵惣の場合がこれに当たる。 づけができる。実用性とは日常で使う頻度を示し、 図4 文化性を保ちつつ実用性を高める試み 商業性は市場の大きさ、そして文化性はいわば感 性的な価値である。たとえば和装産業は、かつて 図4 文化性を保ちつつ実用性を高める試み 文化性 は実用性も商業性も高かったが、現在は日常で着 商業性 る機会が減り実用性は低下し、市場も縮小し商業 性も低下したが、感性的な価値は高くなり文化性 は高まっている。 図2 伝統産業/老舗企業と実用性・商業性・文化性 図2 伝統産業/老舗企業と実用性・商業性・文化性 文化性 実用性 商業性 出所:筆者作成 ここで重要な点は、どちらの場合も伝統技術に よる手作りや老舗という歴史が重要な役割を果た 実用性 出所:筆者作成 10 していることである。文化性という要素は、一日 で築き上げることはできない。老舗という「稀少」
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